遺産分割協議で相続放棄はできる?メリット・デメリットや手続き方法を解説

公開日:2023年7月6日

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「相続をしない」という選択をする法定相続人がいる場合、遺産分割協議はどうなるのか気になりませんか。

この記事では相続放棄の2種類の方法や、方法ごとに異なる遺産分割協議書の作成方法について解説します。相続放棄を考えている方や、一部の法定相続人に相続させたい考えをお持ちの方は必見です。

遺産を相続しない2種類の方法

相続の権利が法定相続人にあるとする一方で、遺産を相続しなければならない義務も同時に発生します。しかし、なかには相続を拒否したい法定相続人もいるでしょう。

遺産相続しないためには、以下の2つの方法があります。

  • 遺産分割協議で放棄
  • 家庭裁判所で放棄

いずれの方法も「相続放棄」と呼ぶ方がいますが、厳密には「家庭裁判所で放棄」した場合のみが「相続放棄」です。そもそも相続放棄とはどういう意味なのか、2つの放棄方法の違いについて解説します。

そもそも相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人が残した財産を相続する権利を放棄することです。相続放棄をすると、預貯金や現金、不動産、借金などの全ての遺産の承継を拒否できます。

相続放棄を選択すべきと考えられるケースは、以下の通りです。

  • マイナスの財産がプラスの財産を上回るとき
  • 家業を一人の相続人に引き継がせたいとき
  • 被相続人が連帯保証人になっているとき

相続放棄の手続きをすると法定相続人ではなくなります。そのため、遺産分割協議へ参加したり、相続税の申告・納税をしたりする義務もなくなります。

「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

家庭裁判所で放棄

相続放棄の手続きをするには、家庭裁判所での「相続放棄の申述」が必要です。家庭裁判所で認められれば、相続の放棄が可能です。

相続放棄した方は法定相続人ではなくなるため、遺産分割協議に参加したり遺産分割協議書に署名・捺印したりする必要はありません。

メリット

家庭裁判所で相続放棄するメリットは、ローンや借金などの負の遺産を引き継がずに済むことです。また、他の相続人と協議したり、合意を撮ったりする必要がなく、一人で手続きを完了させられます。

デメリット

相続放棄をするには、手続きの期限があります。「自分に相続が発生したと知ってから3か月以内」に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。

相続放棄をするかどうかを早く判断したうえで、家庭裁判所での面倒な手続きが必要です。

家庭裁判所で放棄すべきケース

家庭裁判所で相続放棄の手続きをすべきケースは、以下の通りです。

  • マイナスの財産を相続したくない
  • 他の相続人との協議なしで、一人で手続きを完結させたい

一方で、家屋や不動産など、遺産のうち1つでも相続したいものがあっても、相続放棄してしまうと相続する権利を失います。また、遺産に手をつけていると相続放棄が認められないため、注意しましょう。

遺産分割協議で放棄

遺産分割協議では、事実上の相続放棄が可能です。あくまでも相続放棄をするには家庭裁判所での手続きが不可欠ですが、遺産分割協議にて「相続分の放棄」ができます。

そもそも、遺産分割協議とは法定相続人全員で「どの遺産を誰が引き継ぐか」を決めるための話し合いです。この話し合いで「どの遺産も相続しない」と意思表示をし、法定相続人全員に認められれば相続分の放棄ができます。

どの遺産も相続しない旨を遺産分割協議書に記載して署名・捺印をすれば、どの遺産も引き継がないと明確となります。

「遺産分割」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

メリット

遺産分割協議で放棄するメリットは、期限の定めがなく、面倒な手続きが不要であることです。家庭裁判所で行う相続放棄では、スピーディーな手続きが求められるため、専門家に頼る方も少なくありません。費用面においてもメリットと感じるでしょう。

また、法定相続人の数が変わらないため、相続税の基礎控除額が減額されません。相続税の基礎控除学は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」と定められています。そのため、遺産を相続する他の法定相続人の負担を大きくすることなく遺産の承継を辞退できます。

デメリット

大きなデメリットは、借金やローンの債権者から法定相続分の弁済を求められたときに拒否できないことです。なぜなら、遺産分割協議での相続分放棄は、法定相続人同士での約束事にしか過ぎないからです。

その約束事は債権者にとって無関係で、債権は法定相続人が引き継ぐものであると判断します。遺産分割協議で相続分を放棄しても、債権者から財産を差し押さえられる可能性は否定できません。

また、他の法定相続人と話し合いをして合意をえなければ相続分の放棄はできず、一人で手続きを完結できないこともデメリットです。

遺産分割協議で放棄すべきケース

遺産分割協議で放棄すべきケースは、以下の通りです。

  • マイナスの財産が遺産に含まれていないとき
  • 他の相続人と話し合うことが困難でないとき
  • 基礎控除額が減ると相続税の負担が大きくなるとき

判断すべきポイントは、遺産にマイナスの財産があるかどうかです。マイナスの財産がないのであれば、遺産分割協議で放棄しても借金やローンを承継する心配はありません。家庭裁判所で手続きする必要性は低いと判断できます。

遺産分割協議のあとから相続放棄はできる?

原則として、遺産分割協議が終わってから相続放棄はできません。遺産分割協議で遺産は相続しないと他の法定相続人と合意していたとしても、家庭裁判所で認められないため注意しましょう。

なぜなら、遺産分割協議は法定相続人だけが参加する話し合いだからです。遺産分割協議書に署名・捺印をすることは、「自分が法定相続人である」と認めたと判断されます。

ほかにも、以下のようなケースに該当するとすべての財産を相続することを認めた(単純承認)となってしまい、相続放棄ができません。

  • 遺産を処分したり、使ったりした
  • 熟慮期間(相続があったことを知ってから3か月間)内に限定承認・相続放棄をしなかった
  • 遺産を隠匿し、悪意で相続財産目録に記載しなかった

ただし、遺産分割協議のあとになって多額の借金が発覚するケースもあるでしょう。このような場合、遺産分割協議をする要素が不十分であるとして無効、法定単純承認の効果も無効として相続放棄が認められた判例もあります。

参照:民法 903条| e-Gov法令検索

相続放棄の手続きと費用

ここからは、家庭裁判所で行う相続放棄の手続きについて詳しく確認しましょう。

相続放棄手続き方法

相続放棄をする場合、家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。相続放棄の申述は、自分に相続があったことを知ってから3か月以内です。

相続放棄手続きの流れは、以下の通りです。

  • 相続放棄申述書を作成する
  • 被相続人の住民票除票や申述人の戸籍謄本などの必要書類を取得する
  • 家庭裁判所に相続放棄申述書と必要書類を提出する
  • 照会書に回答して返信する
  • 相続放棄申述受理通知書が届く

相続放棄申述書と必要書類の提出は、郵送でも受け付けてもらえます。申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。裁判所の公式サイトから確認しましょう。

「相続放棄の手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続放棄費用

相続放棄にかかる費用は、自分で行う場合と専門家に任せる場合とで異なります。

自分で行う場合

まず、自分で行う場合にかかる費用は、3000〜5000円です。内訳は、以下の通りです。

  • 家庭裁判所の申述で必要な収入印紙:800円
  • 郵便切手:400円〜
  • 必要書類の発行手数料:1800円〜

被相続人との関係によって必要書類の種類が変わったり、管轄家庭裁判所によって郵便切手代が変わったりするため、いくらかかると言い切ることはできません。3000〜5000円の相場だと覚えておきましょう。

専門家に任せる場合

一方、専門家に任せる場合の費用は、5〜10万円です。弁護士に依頼した場合の内訳を見てみましょう。

  • 相談費:〜1万円
  • 書類作成代行費:5000〜1万円
  • 代理手数料:2〜10万円
  • 書類取得費用(実費):3000〜5000円

一定の費用がかかるものの、以下のような方は専門家に依頼することをおすすめします。

  • 仕事や家事などで手続きにかける時間のない方
  • 相続放棄の期限が迫っている方
  • 正しく手続きできるか不安のある方

ほとんどの手続きを専門家に任せられるため、確実に相続放棄の手続きを完了させてくれます。

「相続放棄の費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺産分割協議書の書き方

書類を書く人のイメージ

相続放棄の意志を持つ相続人がいる場合の遺産分割協議書の書き方を確認しましょう。

ここでは、以下の2つのパターンに分けて解説します。

  • 相続放棄をした人がいる場合の遺産分割協議書
  • 相続分の放棄を希望する場合の遺産分割協議書

注意すべきポイントと雛形を確認しましょう。

相続放棄をした人がいる場合の遺産分割協議書の書き方と雛形

遺産分割協議書には、相続放棄をした人の署名・捺印は必要ありません。

つまり、相続放棄した人を除いた法定相続人で遺産分割協議を実施し、合意した内容を遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議に参加した法定相続人全員で署名・捺印して完成です。

たとえば法定相続人が妻・長男・次男の三人で、次男のみ相続放棄したとします。この場合、次男を除いた二人で遺産分割協議書を作成し、次男についての言及は不要です。

以下の雛形を参考に作成しましょう。

遺産分割協議書

 

被相続人名:相続太郎(昭和〇年〇月〇〇日生まれ)
死亡日:令和〇年〇月〇〇日
本籍地:東京都世田谷区××町〇丁目〇番地
最終の住所地:東京都文京区××町〇丁目〇番地

 

被相続人・相続太郎の遺産相続について、相続人全員で遺産分割協議を行い、以下の通り分割すると合意した。

 

1.被相続人の妻・相続花子は以下の遺産を取得する
(1)土地
所在:東京都文京区××町〇丁目
地番:〇〇番〇
地目:宅地
地積:〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
所在:東京都文京区××町〇丁目
家屋番号:〇〇番〇
種類:居宅
構造:木造瓦葺1階建
床面積:〇〇.〇〇平方メートル
(3)預貯金
××銀行▲▲支店 普通預金 口座番号1234567
名義人:相続太郎

 

2.被相続人の長男・相続一郎は以下の遺産を取得する
(1)預貯金
◇◇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
名義人:相続太郎
(2)有価証券
株式会社〇〇 株式1000株
株式会社◎◎ 株式2000株
いずれも▲▲証券〇〇支店保護預かり
(3)車両
自動車登録番号:練馬〇〇〇あ〇〇ー〇〇
車体番号:第〇〇〇〇号
名義人:相続太郎

 

3.相続花子は、平成〇年〇月〇〇日に被相続人が◇◇銀行から借り入れた元本200万円とその利子を負担する。

 

以上の通り、相続人全員による遺産分割協議が成立したと証明するために本協議書を2通作成し、相続人全員が署名押印のうえ各1通ずつ所持する。

 

令和〇年〇月〇〇日作成

相続人(配偶者)
住所:東京都文京区××町〇丁目〇番地

(署名) 実印

 

相続人(配偶者)
住所:東京都文京区××町⚪︎丁目⚪︎番地
(署名)  実印

 

相続人(長男)
住所:東京都渋谷区××町〇丁目〇番地
(署名) 実印

 

相続人(長男)
住所:東京都渋谷区××町〇丁目〇番地
(署名) 実印

このように、相続放棄をした次男は法定相続人ではないものと考えられるため、署名・捺印が不要です。

相続分の放棄を希望する場合の遺産分割協議書の書き方と雛形

遺産分割協議において「相続分を相続しない」と希望する法定相続人の主張が認められた場合、何も相続しない相続人がいると分かるように作成する必要があります。

また、相続分を放棄した法定相続人の署名捺印も忘れないよう注意しましょう。

たとえば法定相続人が妻・長男・次男の三人で、被相続人と同居していた妻と長男に全ての財産を相続すると合意したとします。このとき、次男と長女は相続分を放棄していますが、法定相続人であるため署名捺印が必要です。

以下の雛形を参考に作成しましょう。

遺産分割協議書

 

被相続人名:相続太郎(昭和⚪︎年⚪︎月⚪︎⚪︎日生まれ)
死亡日:令和⚪︎年⚪︎月⚪︎⚪︎日
本籍地:東京都世田谷区××町⚪︎丁目⚪︎番地
最終の住所地:東京都文京区××町⚪︎丁目⚪︎番地

 

被相続人・相続太郎の遺産相続について、相続人全員で遺産分割協議を行い、以下の通り分割すると合意した。

 

1.被相続人の妻・相続花子は以下の遺産を取得する。
(1)土地
所在:東京都文京区××町⚪︎丁目
地番:⚪︎⚪︎番⚪︎
地目:宅地
地積:⚪︎⚪︎.⚪︎⚪︎平方メートル
(2)建物
所在:東京都文京区××町⚪︎丁目
家屋番号:⚪︎⚪︎番⚪︎
種類:居宅
構造:木造瓦葺1階建
床面積:⚪︎⚪︎.⚪︎⚪︎平方メートル
(3)預貯金
××銀行▲▲支店 普通預金 口座番号1234567
名義人:相続太郎

 

2.被相続人の長男・相続一郎は以下の遺産を取得する。
(1)預貯金
◇◇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
名義人:相続太郎
(2)有価証券
株式会社〇〇 株式1000株
株式会社◎◎ 株式2000株
いずれも▲▲証券〇〇支店保護預かり
(3)車両
自動車登録番号:練馬〇〇〇あ〇〇ー〇〇
車体番号:第〇〇〇〇号
名義人:相続太郎

 

3.相続人全員は、本協議書に記載していない遺産を相続花子が取得することに合意した。

 

以上の通り、相続人全員による遺産分割協議が成立したと証明するために本協議書を3通作成し、相続人全員が署名押印のうえ各1通ずつ所持する。

 

令和⚪︎年⚪︎月⚪︎⚪︎日作成

相続人(配偶者)
住所:東京都文京区××町⚪︎丁目⚪︎番地
(署名) 実印

 

相続人(長男)
住所:東京都渋谷区××町⚪︎丁目⚪︎番地
(署名) 実印

 

相続人(次男)
住所:大阪府大阪市××町⚪︎丁目⚪︎番地
(署名) 実印

遺産分割協議時点で発覚していない遺産が見つかった場合、相続分を放棄した法定相続人以外が承継すると明記しておきましょう。

まとめ

相続を拒否する法定相続人がいるとき、どのような方法で相続を拒否したかによって遺産分割協議の内容が変わります。

相続放棄の手続きを家庭裁判所で行った人がいれば、その人は法定相続人ではなかったとされます。遺産分割協議に参加する必要はなく、遺産分割協議書の署名・捺印は不要です。

一方、遺産分割協議を経て相続分を放棄する人がいる場合、遺産分割協議に参加しなければなりません。相続分を放棄する旨を他の法定相続人に伝え、合意を得たうえで遺産分割協議書に明記します。この際、相続分を放棄する人の署名・捺印が必要です。

相続を拒否するときの方法の違いに気をつけて、遺産分割を進めましょう。

 

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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