相続した不動産を売却する流れや必要書類、発生する費用・税金を徹底解説

公開日:2024年10月16日

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相続によって取得した家や土地について、売却を検討していませんか。本記事では、相続から不動産売却までの流れや必要な書類、発生する費用・税金について分かりやすく解説します。不動産を相続したときに知っておくべき注意事項もご紹介しているため参考にしてください。これから不動産を相続して活用法が思いつかない方の参考になれば幸いです。

不動産の相続から売却までの流れ

相続が発生し、不動産を相続して売却するまでの流れと期間の目安は、下記の通りです。

やらなければならない手続き期間の目安
相続発生〜相続3か月
名義変更(相続登記)1か月
売却準備・依頼1か月
売買契約・手付金受取3か月
残金決済・名義変更等手続き〜引き渡し1か月

あくまでも目安ではあるものの、相続までに3か月、相続してから売却までに6か月と考えておきましょう。

それぞれのステップでどのような手続きを行うのか、詳しく解説します。

相続発生~相続~名義変更(相続登記)

被相続人が亡くなると、まず遺産分割を行う必要があります。遺産分割していない状態だと、被相続人の財産を相続人全員で共有している状態となっています。

遺産分割を行う期限は設けられていませんが、下記のような手続きの期限を考えると相続発生から3か月以内を目安に行うとよいでしょう。

手続き内容期限
相続放棄・限定承認相続開始を知った日から3か月以内
準確定申告相続開始を知った日の翌日から4か月以内
相続税の申告・納税相続開始を知った日の翌日から10か月以内

相続人が複数人いる場合の遺産分割の方法は、主に3つあります。

  • 遺言通りに分割する
  • 法定相続分通りに分割する
  • 遺産分割協議を行う

遺言書があれば、原則遺言内容に従って遺産分割を行います。そのため、遺言書が残されていないかをいち早く確認しなければなりません。ただし、遺産分割協議によって遺産分割の内容を決めることに相続人全員が同意すれば、遺産分割協議を行うことも可能です。

遺産分割協議では誰が不動産を引き継ぐかを決定します。不動産を引き継ぐ相続人は、遺産分割が終わると名義変更(相続登記)の手続きができるようになります。

名義変更にかかる期間は1か月程度と考えておきましょう。ただし、自分で書類を作成・収集する場合は、2〜3か月かかってしまう場合もあります。

名義変更は令和6年4月1日より義務化されており、不動産を相続したことを知ってから3年以内に法務局で行わなければなりません。もっとも、名義変更を行わなければ相続した不動産の売却はできないため、早めに手続きを済ませましょう。

売却準備・依頼

名義変更が終わったら、売却準備を進めましょう。売却準備や不動産業者への依頼にかかる期間は1か月程度です。

不動産売買の仲介をしてくれる不動産業者を探して媒介契約を交わします。仲介を依頼すると不動産情報が公開され、買主が見つかるまで待つ必要があります。

媒介契約を交わすと、不動産業者による物件調査が行われます。物件調査は不動産価格に大きく関わる大事な作業です。土地・建物の面積や使用状況などが確認され、築年数や立地などが加味されて不動産価格が決定します。

ちなみに、不動産業者の媒介契約には3つの種類があります。最適な契約を交わしましょう。

専属専任媒介契約

専属専任媒介契約とは、最大3か月の間に不動産業者が力を入れて買主を探してくれる契約です。不動産業者は、1週間に1度以上の頻度で依頼者に進捗報告を行わなければなりません。

専属専任媒介契約をしている間は他の不動産業者と契約を交わせず、自分で買主を見つけることも不可能です。

専任媒介契約

専任媒介契約は専属専任媒介契約とよく似ていますが、依頼者が自分で買主を見つけて不動産業者を介さずに不動産を売却できます。

専任媒介契約の有効期限は最大3か月で、不動産業者は2週間に1度以上の頻度で依頼者に進捗報告を行わなければなりません。

一般媒介契約

一般媒介契約とは、複数の不動産業者に仲介を依頼する契約です。不動産業者は依頼主に進捗報告する義務がありません。

また、依頼主は自分で買主を探すことができます。しかし、買主が見つかるまでに時間がかかってしまう可能性があります。

売買契約・手付金受取り

売却準備・依頼が終わってから売買契約を交わすまでの期間の目安は、3か月程度です。

不動産業者に査定・調査を行ってもらい、納得のいく条件で売却できる買主が見つかれば、売買契約を交わして手付金を受け取りましょう。不安点・疑問点がある場合は売買契約を交わす前に解消しておくことで、あとのトラブルを避けられます。

残金決済・名義変更等手続き~引き渡し

一般的に、売買契約時に手付金の支払いがあり、不動産の引き渡しは1か月後となります。引き渡しの日に残金決済や不動産の名義変更を行うことが一般的です。

残金決済とは、手付金を除いた残金を決済することです。残金決済では、不動産売買の残金はもちろん、登記費用や仲介手数料、固定資産税などの税金というさまざまな支払いが行われます。

売主と買主だけでなく、不動産業者や銀行の融資担当、司法書士などが立ち会って、内容を確認しながら決済が行われます。

売主は、引き渡し当日までに電気・水道・ガス代などの契約解除や片づけを済ませておきましょう。引き渡し当日は、設備関係の説明を行い、家の鍵を渡します。

名義変更や決済を行う関係上、法務局や銀行が動いている平日の午前中に引き渡しを行うことが多いようです。

譲渡所得税・住民税支払い

相続した不動産を売却した年の翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、譲渡所得税・住民税を納める必要があります。

譲渡所得や住民税は、不動産を売却して利益が出た場合に発生する税金です。確定申告の方法や譲渡所得・住民税の額については、次の章で詳しく解説します。

不動産の相続から売却までにかかる費用・税金

不動産の相続から売却までにかかる費用・税金のイメージ

相続した不動産を売却するとき、どれくらいの費用や税金がかかるのか不安に感じる方もいるでしょう。

不動産の相続から売却までにかかる費用や税金は、下記の通りです。

  • 相続税
  • 固定資産税
  • 登録免許税
  • 印紙税
  • 譲渡所得税・住民税
  • 仲介手数料

相続する財産の内容や不動産の評価額・売却額によって、必要な費用は大きく変動します。それぞれの費用や税金について、詳しく確認しましょう。

相続発生~相続手続き(相続税・固定資産税・登録免許税)

被相続人が亡くなり、相続が発生してから相続手続きにかかる税金は下記の通りです。

  • 相続税
  • 固定資産税
  • 登録免許税

順番に確認しましょう。

相続税

相続税とは、遺産総額が基礎控除額を上回ったときに支払わなければならない税金です。遺産総額が基礎控除額より少なければ相続税の申告・納税の必要はありません。

基礎控除額は、相続人の数によって下記のように算出されます。

相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×相続人の数)

また、遺産総額が基礎控除額を上回っている場合でも、小規模宅地等の特例や配偶者控除などによって、相続税の額が0円になる可能性があります。

ただし、小規模宅地等の特例や配偶者控除を使うには相続税の申告をしなければならないため、遺産総額が基礎控除額を上回っている場合は必ず申告を行いましょう。

「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

固定資産税

固定資産税とは、毎年1月1日時点で土地や建物などの固定資産を所有している方に課せられる税金です。不動産の所在地を管轄する自治体から、毎年4月〜6月頃に納税通知書が送付されます。

相続が発生した時点で被相続人が固定資産税を支払っていなければ、相続人全員が固定資産税を負担しなければなりません。遺産分割をした翌年1月1日以降は、相続した方が固定資産税に納税義務が生じます。

「固定資産税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の所有者を被相続人から相続人へ名義変更する手続きで必要な税金です。登録免許税の額は、下記のように算出します。

<法定相続人の場合>

  • 登録免許税の額=不動産の固定資産税評価額(課税価格)×0.4%

<法定相続人以外の場合>

  • 登録免許税の額=不動産の固定資産税評価額(課税価格)×2%

ただし、令和7年3月31日までに名義変更した場合、下記のいずれかの条件に当てはまると登録免許税が免税されます。

  • 相続により土地を得た人が相続登記前に死亡したときの相続
  • 相続により得た土地の課税標準価額が100万円以下の相続

被相続人が相続登記しないまま亡くなった場合、本来被相続人がしなければならなかった相続登記にかかる登録免許税は免税されます。ただし、新たに発生した被相続人から相続人への相続によって所有権を移動させるための相続登記では登録免許税が発生するため注意しましょう。

また、免税措置の対象は土地に限られます。建物には登録免許税が発生する点に留意してください。

印紙税

印紙税とは、買主と売買契約を交わすための契約書作成に必要な税金です。印紙税の額は、不動産の売却価格によって変動します。

不動産の売却価格ごとの本則税率と軽減税率を表にまとめました。

売却価格本則税率軽減税率
10万~50万円400円200円
50万~100万円1000円500円
100万~500万円2000円1000円
500万~1000万円1万円5000円
1000万~5000万円2万円1万円
5000万~10億円6万円3万円
1億~5億円10万円6万円
5億~10億円20万円16万円
10億~50億円40万円32万円
50億円超え60万円48万円

参照:印紙税額(令和6年4月現在)|国税庁

平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成される不動産の売買契約書に関しては、印紙税額が軽減されます。

印紙税は郵便局やコンビニエンスストアなどで収入印紙を購入し、契約書へ貼り付け・消印すれば納税したことになります。

譲渡所得税・住民税

譲渡所得税・住民税は、不動産を売却して利益が出た際に発生する税金です。不動産を売却して出た利益を譲渡所得と呼びます。譲渡所得税と住民税の金額を算出するには、譲渡所得を算出する必要があります。

譲渡所得の算出方法は、下記の通りです。

譲渡所得=不動産売却価格-(取得費用+譲渡費用)

相続して手に入れた不動産に取得費用はかからないと考える方もいますが、取得費用には下記のような費用を含められます。

  • 被相続人が不動産の購入にかかった購入代金・購入手数料
  • 相続にかかった登記費用・登録免許税

相続した不動産の購入代金がわからない場合は、不動産売却価格の5%を取得費用とすることが可能です。

また、不動産売却価格から差し引ける譲渡費用には、不動産を売るために支払った仲介手数料や印紙税にかかった費用など、不動産を売却するために直接かかった費用を指します。

さらに、相続税の申告期限の翌日から3年以内に不動産を売却した場合、相続財産譲渡時の取得費加算特例を適用させられます。ただし、居住用財産の3000万円特別控除や相続空き家の3000万円特別控除などと重複して適用させることはできません。

譲渡所得の額がわかれば、譲渡所得税の税率や住民税の税率を乗じると譲渡所得税と住民税の金額を算出できます。

それぞれの税率は、売却した不動産を所有していた期間によって下記のように異なります。

所有していた期間所得税の税率住民税の税率
短期譲渡所得5年以下30.63%9%
長期譲渡所得5年越え15.315%5%
軽減税率10年越え10.21%4%

不動産を所有していた期間は、被相続人の所有期間も引き継がれます。

仲介手数料

不動産業社を介して買主と売買契約を交わす場合、不動産業社への報酬として仲介手数料が発生します。不動産会社は不動産情報を市場に公開して買主を探すために、物件情報のWebサイト掲載やチラシの配布、ポスター貼りなどを行います。

消費者保護の観点から仲介手数料には上限が定められており、それを超えることはありません。

不動産の売却価格が400万円を超える場合、仲介手数料の上限額は下記のように定められています。

仲介手数料の上限額=売却価格×3%+6万円+消費税(10%)

たとえば、不動産の売却価格が3000万円だったとき、仲介手数料の上限は下記の通りです。

3000万円×3%+6万円+消費税(10%)=105万6000円

一般的に、売買契約が成立したときのみに仲介手数料を支払います。ただし、手付解除や違約解除をする際、売買契約が成立しなくても仲介手数料の一部を支払うこととなる場合があるため注意しましょう。

不動産売却での必要書類

相続した不動産売却をする際、下記のような書類や準備物が必要です。

  • 売買契約書
  • 登記簿謄本または登記事項証明書
  • 登記済権利証または登記識別情報
  • 土地測量図・境界確認書
  • 固定資産税納税通知書や固定資産税評価証明書
  • 物件購入時の重要事項説明書
  • 物件の図面
  • 設備の仕様書
  • 建築確認済証および検査済証
  • マンションの管理規約や使用細則(マンションの場合)
  • マンション維持費関連書類(マンションの場合)
  • 売主の本人確認書類
  • 売主の実印
  • 売主の印鑑証明書(3か月以内に発行したもの)
  • 銀行口座の通帳(指定の振込先を提示するため)
  • ローン残高証明書やローン返済予定表(ローンがある場合)

相続した不動産の場合、書類の保管場所がわからなかったり、紛失していたりするケースは珍しくありません。

なかには境界線が確定していない土地もあります。売却前に測量を行う必要があるため、早くから準備を始めることをおすすめします。

具体的な必要書類は、契約先の不動産業社が提示してくれるため安心してください。

相続した不動産の売却で利用できる特別控除

相続した不動産を売却したときに利用できる特別控除は、下記の通りです。

  • 居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
  • 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
  • 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
  • 小規模宅地等の特例

それぞれの控除内容や適用できる要件について、詳しく確認しましょう。

居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例

所有者が住んでいる不動産を売却した場合に譲渡所得から3000万円を控除できる制度を居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例と呼びます。

譲渡所得があったとしても、この特例を適用できれば譲渡所得税や住民税が0円になる可能性があります。特別控除の適用条件は、下記のすべてを満たすことです。

  • 所有者が住んでいる家屋で、家屋とともに敷地や借地権を売却すること
  • 家屋を取り壊した場合、売却まで住居以外に使用していないこと
  • 取り壊した日から1年以内に契約をすること
  • 居住しなくなってから3年目の12月末までに売却すること
  • 売主と買主の関係が親子や夫婦などでないこと
  • 売却した年に住宅ローン控除を受けていないこと

別荘や事業で使うための建物には適用されないため、注意しましょう。

また、あとで説明する「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」との併用はできません。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

相続後、居住せずに空き家となった不動産を売却する場合、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を適用すると譲渡所得から3000万円が控除されます。

場合によっては譲渡所得税や住民税が0円になる可能性があるため、積極的に活用しましょう。特別控除の適用条件は、下記のすべてを満たすことです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • マンションでないこと
  • 売却時の耐震基準に適合した家屋であること
  • 相続開始直前まで被相続人が居住していた家屋であること
  • 相続開始直前に被相続人以外で居住していた者がいないこと
  • これまで不動産を貸していないこと
  • 相続日から3年目の12月末日までに売却すること
  • 平成28年4月1日〜令和5年12月31日の間に売却すること
  • 不動産の売却価格が1億円以下であること

耐震基準をクリアしていない場合、耐震リフォームを行ったり、解体によって更地で売却したりすると条件を満たしているとみなされます。

また、あとで説明する「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」との併用はできません。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例とは、相続税申告・納税の期日の翌日から3年以内に相続した不動産を売却した場合に、譲渡所得税から一定額を控除できる制度です。

特別控除の適用条件は、下記のすべてを満たすことです。

  • 相続または遺贈によって取得した財産であること
  • 相続時に相続税が課されていて納税していること
  • 相続税申告・納税の期限の翌日から3年以内に売却していること

相続税申告・納税の期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。一般的には、被相続人が死亡した翌日から3年10か月以内に売却をしていなければ適用されないと考えておきましょう。

特例を適用させた場合に控除できる詳細額を導き出すには、複雑な計算をしなければなりません。税金に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

ただし、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」や「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」との併用はできません。

参照:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、面積が330㎡までの宅地を相続し、相続税を算出するときに土地の評価額を最大80%減額できる特例です。相続した方によって適用条件が定められており、条件に当てはまるのであれば相続税を大幅に減額できます。

小規模宅地等の特例には、以下の3つの特例が設けられています。

<特定居住用宅地等の特例>
自宅の敷地330㎡までの部分についての評価額を80%減額できる
<特定事業用宅地等の特例>
事業用の敷地400㎡までの部分についての評価額を80%減額できる
<貸付事業用宅地等の特例>
貸家の敷地200㎡までの部分についての評価額を50%減額できる

特例を受けるための要件は、不動産を相続した方が被相続人との関係性によって異なります。下記の表を確認しましょう。

<配偶者>
無条件に適用
<同居していた親族(子や親など)>
相続税申告・納税の期限まで所有し、居住しつづけていること
<同居していない親族(子や親など)>
下記のすべての条件を満たすこと

  • 被相続人に配偶者や同居親族がいないこと
  • 過去3年以内に自己や自己の配偶者、3親等身以内の親族が所有する家に住んでいないこと
  • 相続発生時に居住していた家を過去に所有していないこと
  • 相続税の申告期限まで所有し続けること

小規模宅地等の特例を受けると大幅に相続税を減額できますが、売却した際の譲渡所得から差し引ける取得費用は少なくなってしまいます。

そのため、譲渡所得が高くなってしまう場合もあるでしょう。小規模宅地等の特例を適用させるべきか、特例を受けずに取得費用を多くすべきか、十分に検討する必要があります。

相続した不動産を売却する際の注意点

相続した不動産を売却するときの注意点は、下記の通りです。

  • 共有者全員の同意がなければ売却できない
  • 売却金が贈与税の課税対象になる場合もある
  • 相続登記の義務化
  • 売れない場合は相続土地国庫帰属制度も検討する

4つの注意点について、詳しく確認しましょう。

共有者全員の同意がなければ売却できない

他の相続人などと共有名義となっている不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。この同意には、「売却することへの同意」と「売却価格への同意」の2つの同意が含まれます。

スムーズに売却手続きを進めるためには、あらかじめ共有者全員で最低売却価格を決めておきましょう。複数の不動産会社に査定してもらい、最低売却価格以上で売却できる不動産会社に注意してもらうと効率的です。

また、そもそも不動産を共有状態を解消することも考えましょう。複数人の相続人で法定相続分通りに持分で所有権を持つことは避け、相続人のうち誰か1人が所有できるように遺産分割することをおすすめします。

売却金が贈与税の課税対象になる場合もある

相続した不動産を相続人の代表者名義で売却して利益を他の相続人に分配すると、贈与と見做されて贈与税の課税対象となる場合があるため注意しましょう。

遺産分割のために売却をするのであれば、遺産分割協議書に「誰が取得して、売却後に遺産分割をどのように行うのか」まで記載する必要があります。たとえば、「長男が取得し、売却後に利益を相続人3人で3分の1ずつ分配する」などと記載しておくと安心です。

万が一、贈与税の指摘を受けたとしても、遺産分割協議書にもとづいて行われた遺産分割であると主張できます。

相続登記の義務化

令和4年度の税制改正により、令和6年4月から相続登記が義務化されました。これにより、相続登記の期限が設けられ、下記のいずれかまでに相続登記をしなければなりません。

  • 相続もしくは遺言によって不動産を取得した者は、所有権取得を知った日から3年以内
  • 遺産分割協議によって不動産を取得した者は、遺産分割が成立した日から3年以内

期限内に相続登記の申請を済ませていなければ、ペナルティとして10万円の過料が課される場合があります。

売れない場合は相続土地国庫帰属制度も検討する

相続した土地や建物は、必ずしも売却できるとは限りません。土地が売れない場合は、相続土地国庫帰属制度を活用することも検討しましょう。

相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地の所有権を国に返す手続きです。令和5年4月27日から始まった制度で、法務大臣の承認を受けられれば土地を国庫に帰属させることができます。

長期間建物が売却できず、誰も住んでいない状況が続くと、特定空き家や管理不全空き家に認定される恐れがあります。

特定空き家や管理不全空き家に認定されると、下記のようなリスクが生じます。

  • 固定資産税の特例措置が適用されない
  • 行政からの指導・勧告・命令を受ける
  • 行政からの命令に反すると50万円以下の過料が課される

さらに、特定空き家は行政代執行の対象です。行政が所有者に代わって解体を行い、解体費用が所有者に請求されます。

このような事態を招く前に、誰も居住していない不動産について相続土地国庫帰属制度を利用することを検討しましょう。

相続した不動産を売却する際は賢く税金や費用を抑えよう

相続した不動産を売却すると、必ず手続きに費用が発生します。譲渡所得の状況によっては、譲渡所得税や住民税がかかる場合もあるでしょう。

今回ご紹介した特例を活用すれば大幅に税金を抑えることが可能です。しかし、特例を適用させるには、細かな条件が設定されています。

税金や手続きについて不安がある場合は相続や不動産売却に詳しい専門家に相談し、適切なアドバイスをもらいましょう。

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記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年10月16日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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