自分で相続税の申告はできる?手続きの流れや個人で行う注意点などを解説

公開日:2024年11月7日

自分で相続税の申告はできる?準備から提出までの流れや注意点を徹底解説_サムネイル

「税理士に任せなくても、自分で相続税の申告ができるのだろうか」とお悩みではありませんか。結論からいうと、自分で相続税の申告を行うことは可能です。しかし、複雑な計算や記入が必要なため、申告漏れや不備が発生するリスクが伴います。本記事では、自分で相続税の申告をする方法や注意点について詳しく解説します。

相続税の申告は自分で行うことも可能だが

相続税の申告は、相続した方が自分自身で行うことが可能です。申告書の書式には、相続税の計算方法や記入方法が記載されているため、1つずつ丁寧に計算して記入していけば申告書を作成できます。

しかし、実際には85%程度の方は税理士に依頼して相続税の申告をおこなっています。それほど相続税の計算方法や書類作成には手間がかかると考えておきましょう。

ここでは相続税の申告を自分で行う前に知っておきたい基礎知識について、下記のポイントを順番に解説します。

  • 相続税申告を自分で行うには
  • 自分で申告を行っている人はかなり少ない
  • 控除・特例の適用や組み合わせで税額が大きく変わる場合も

自分で相続税の申告をしようか悩んでいる方は、ぜひ確認してください。

相続税申告を自分で行うには

相続税の申告は、「自分自身に相続があったことを知った日」の翌日から10か月以内に被相続人の住所地を管轄する税務署に申請書などを提出すれば完了します。税理士が行うイメージかもしれませんが、相続した本人が自分で書類を提出して申告することが可能です。

しかし、遺産が多く、不動産や有価証券などが含まれている場合や相続人が多い場合には、相続税の計算が複雑になってしまいます。たとえば、子どもや孫の名義で預金をしていた「名義預金」を相続財産に含めず申告していなければ、あとから税務調査や課税される恐れがあります。

申告に少しでも誤りがあると税務調査や追徴課税のペナルティが課されるため、結局税理士に頼ることになるでしょう。一般的に相続税の申告は複雑で難しいものと考えられているため、遺産総額が基礎控除額を超える際には税理士の力を借りることをおすすめします。

自分で申告を行っている人はかなり少ない

そもそも、相続税の申告が必要ない相続もあります。相続税には基礎控除が設定されており、遺産総額が基礎控除の額を超えていなければ相続税の申告は不要です。

基礎控除の額は法定相続人の数によって変動し、下記のように算出します。

    基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

遺産総額が基礎控除額を上回るケースは少なく、相続によって申告が必要となる方の割合は全体の約10%です。さらに、その中で自分で申告をおこなっている方の割合は、国税庁の調査では14%程度とわかっています。自分で申告を行う方は少数派となっています。

「基礎控除」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

控除・特例の適用や組み合わせで税額が大きく変わる場合も

相続税はさまざまな控除・特例の適用や組み合わせによって遺産の評価額を大幅に減額することが可能です。

しかし、控除や特例にはそれぞれ適用させるための条件が細かく設定されています。また、評価額を減額するための計算式も複雑なため、専門知識がないと間違えた評価額を算出してしまう恐れがあります。税理士であっても相続税を専門とする方でなければ、間違った評価額を算出してしまうケースもあるほど難しいです。

たしかに税理士に依頼すると費用がかかります。しかし、正しく申告しなければペナルティが発生し、かえって費用がかかる場合もあります。

早い段階で相続税を専門としている税理士に相談し、控除・特例を活用して適切な相続税の申告・納税を行うようにしましょう。

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自分での相続税申告を検討してもよいケース

ここまで解説したように、相続税申告が必要な場合には専門家に相談することをおすすめします。しかし、10人に1〜2人程度の割合で、自分で相続税の申告を行なっている方がいることも事実です。

自分での相続税申告を検討してもよいケースは、下記の通りです。

  • 相続する財産総額が比較的少ない
  • 相続する財産の種類が少ない
  • 相続人が少ない(自分ひとり)
  • 相続する財産に評価が難しいものが無い
  • 時間に余裕がある

ご自身が上記のケースに当てはまるかどうか、詳しく確認していきましょう。

相続する財産総額が比較的少ない

相続する遺産総額が少ない場合は、自分で相続税を申告することを検討してもよいでしょう。計算方法や記入方法を間違っていたとしても、追徴課税される額も少なくてダメージが小さいからです。

目安として、遺産総額5000万円以下であれば少ないと判断してよいでしょう。ただし、しっかりと財産調査を行わなければ、あとから莫大な財産が見つかると膨大な課税をされる恐れがあります。

遺産総額に間違いがないよう、申告前に十分な財産調査を行いましょう。

相続する財産の種類が少ない

相続する財産の種類が少ない場合は、自分で相続税を申告することを検討してもよいでしょう。評価額を計算する作業や、控除・特例などの考えることが少ないため、負担も少なく感じます。

一方、不動産や有価証券、自動車、美術品・骨董品など多くの種類の財産が残されている場合には1つ1つ評価をしなければなりません。時間も労力もかかってしまうため、自分で行うには限界があるでしょう。

相続人が少ない(自分ひとり)

相続人が自分1人だけなのであれば、自分で相続税を申告することを検討してもよいでしょう。

1人だと複数人いるときと比べて、相続税の申告が難しくありません。理由は、下記の通りです。

  • 遺産分割協議の必要がない
  • 遺産分割に関して揉めることがない
  • 相続人ごとの納税額を計算する必要がない

相続税は、遺産総額から控除・特例などによって課税額を算出して全体の相続税を導いたあと、相続割合にあわせて相続人ごとの納税額を算出する必要があります。

相続人ごとの納税額を計算する作業はとても複雑ですが、相続人が1人だと全体の相続税を自分1人で納めるだけで完了します。相続人が複数人いるときと比べて1つ作業が減るため、自分で申告しても負担を感じにくいでしょう。

相続する財産に評価が難しいものが無い

相続する財産に評価が難しいものがないのであれば、自分で相続税を申告することを検討してもよいでしょう。預金や現金に限られる場合は、改めて財産を評価する必要がありません。

一方、土地や有価証券などの複雑な評価額の計算が必要な財産が遺産のなかに含まれているときは、専門家に頼ることを検討してください。とくに、土地の評価は非常に難しく、土地の場所や種類、状態にあわせて評価額を算出しなければなりません。

また、小規模宅地特例が適用となれば評価額を大幅に減額できますが、適用させるには細かな要件を満たす必要があります。安易に適用させた状態で申告すると、あとから追徴課税で大きな税金を納めることとなるでしょう。

有価証券についても、種類によって評価額の計算方法がさまざまあります。1つ1つ計算するには時間がかかり、専門知識も必要となるため、自分で申告するには負担が大きいと感じるでしょう。

さらに、被相続人から生前贈与があった際にも相続税の計算は複雑になりやすいです。

このように、相続する財産を評価する作業が発生すると、相続税の申告には大きな労力と時間がかかってしまうため、自分で申告することはあまりおすすめできません。

時間に余裕がある

仕事や家事、子育てなどをする必要がなく、時間に余裕のある方は、自分で相続税を申告することを検討してもよいでしょう。相続税申告には複数の書類を収集しなければならず、平日の日中に市区町村役場や法務局へ足を運ばなければなりません。

もちろん、相続財産1つ1つの評価をして相続税申告書の作成をする必要があります。すべてをスムーズに行なったとしても200時間以上はかかると考えておきましょう。

相続税の申告には期限が設けられています。被相続人が亡くなり、相続発生を知った事実を知ってから10か月以内と短い期間に手続きを完了させなければなりません。

時間に余裕のある方であれば、1つ1つ調べながら丁寧に申告準備を進められるため自分で行うことができるでしょう。

自分で相続税申告をする流れ

相続税の申告を自分で行う際に知っておきたいこと・注意点のイメージ

自分で相続税申告をする場合、下記の流れに沿って手続きを進めましょう。

  • 遺言の有無を確認
  • 法定相続人の確認・確定
  • 相続財産の調査・確定
  • 相続財産の評価額を算出
  • 遺産分割協議
  • 必要書類の収集・申告書の作成
  • 相続税申告書の提出

順番に詳しく解説します。

遺言の有無を確認

被相続人が亡くなって真っ先に行うべきことは、遺言書の有無の確認です。遺言書があれば、原則遺言の内容通りの遺産分割を行います。

下記の方法で遺言書の存在を確認しましょう。

  • 公証役場の遺言検索システムを利用する
  • 遺言書保管所に交付請求を行う
  • 自宅の金庫やタンス、貸金庫などを捜索する

もし、自宅や貸金庫から自筆証書遺言を発見したら、すぐに開封せずに家庭裁判所で検認を受けましょう。

「遺言書の探し方」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

法定相続人の確認・確定

次に、法定相続人が誰なのかを確定させます。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を確認すると、法定相続人が分かります。

「法定相続人は配偶者と息子の2人きりだ」と思っていた場合でも、前妻(夫)の子どもや認知している子どもが存在する可能性は否定できません。かならず戸籍謄本から法定相続人が誰なのか確認するようにしましょう。

相続財産の調査・確定

つづいて、相続財産の調査と確定を行います。相続財産には、下記のようなものが含まれます。

  • 現金
  • 預貯金
  • 有価証券(株式・債券など)
  • 不動産(土地・建物・農地など)
  • 一般動産(自動車・骨董品・美術品など)

また、借入金やローン、未払金などのマイナスの財産についても調査を進めましょう。マイナスの財産が多い場合には、相続放棄の検討を行う必要があります。

「相続財産調査」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続財産の評価額を算出

相続財産が出てきたら、評価額を算出していく必要があります。不動産や有価証券、自動車などは、どれほどの金銭的価値があるのかを算出しなければ公平な遺産分割ができないからです。

それぞれの財産は、国税庁が発表している財産評価基本通達にもとづいて評価を行います。

参照:財産の評価|国税庁

遺産分割協議

すべての財産の評価額を算出したら、誰がどの財産を取得するかを決める遺産分割協議を行います。遺言書に従って遺産分割する場合や法定相続分通りに遺産分割する場合は、遺産分割協議を行う必要がありません。

遺産分割協議には法定相続人全員が参加し、話がまとまったら法定相続人全員の署名と捺印をした遺産分割協議書を作成しましょう。

「遺産分割」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

必要書類の収集・申告書の作成

相続税の申告には戸籍謄本や印鑑証明、不動産の登記簿謄本など必要書類がたくさんあります。相続する財産ごとに必要書類が変わるため、国税庁が発表している「相続の申告のしかた」を参考に書類を集めましょう。

また、相続税申告書は第1表から第15表まであり、付表を入れると60種類以上の書類が存在します。すべて記入する必要はなく、必要のある書類のみを作成すれば問題ありません。

相続税申告書の提出

必要書類の収集と申告書の作成が終わったら、期限内に税務署に提出しましょう。期限は、「自分自身に相続があったことを知った日」の翌日から10か月以内です。

また、提出先の税務署は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。直接窓口に持っていくほか、郵送やe-Taxでの提出もできます。

相続税の申告を自分で行う際に知っておきたいこと・注意点

相続税の申告を自分で行う際に知っておきたいこと・注意点は、下記の通り4つあります。

  • 時間に余裕をもって準備する
  • 生前贈与や名義預金に注意する
  • 二次相続も考慮して分割する
  • 自分で申告すると税務調査リスクが高まる

順番に確認し、不備や漏れのない相続税申告を目指しましょう。

時間に余裕をもって準備する

時間に余裕を持って申告の準備を進める必要があります。相続税申告の準備にかかる時間は200時間程度とお伝えしましたが、あくまでも目安と考えておきましょう。

相続財産の内容は被相続人によって多種多様なため、種類や量が多ければそれだけ財産調査や評価額の算出に時間がかかってしまいます。とくに不動産や非公開株があれば、評価額の計算に手が取られてしまうでしょう。

また、市区町村役場や法務局が遠方にあると必要書類取得のための移動に時間がかかります。「あの書類がないと次の作業ができない」といったことも多くあるため、計画的に準備を進めていく必要があります。

生前贈与や名義預金に注意する

生前贈与や名義預金は相続財産とみなして相続税額を計算しなければならない場合があるため、注意しましょう。

まず、生前贈与は、生前贈与加算の対象になると相続財産に持ち戻して相続税を計算しなければなりません。相続贈与加算の対象は、もともと相続開始前の3年以内に限られていました。しかし、令和5年度の税制改正によって3年から7年に延長されています。

もし、相続開始の5年前に200万円の贈与を受けていた場合、相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。

また、名義預金とは実際のお金の所有者と名義人が異なる預金のことです。たとえば、祖父母が孫名義の口座を作ったり、専業主婦の配偶者のために夫が配偶者名義で口座を作ったりして、そこに預金することを指します。

被相続人が配偶者や子ども、孫のために名義預金をしていた場合でも、これらは被相続人の財産とみなされます。つまり、相続税の課税対象です。

被相続人名義の預金でないからといって申告しなければ、追徴課税をされてしまいます。かならず申告漏れがないように注意しましょう。

参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

「生前贈与の加算」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

二次相続も考慮して分割する

二次相続とは、1度目の相続における相続人が死亡して、2度目の相続が発生することです。たとえば、両親と息子の3人家族のとき、父が死亡したときを一次相続、次に母が死亡した時を二次相続と呼びます。

たとえば、配偶者は1億6000万円までなら配偶者控除によって相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。たとえば、遺産総額1億5000万円を母がすべて相続すると、配偶者控除を適用させれば一次相続における相続税は0円です。

しかし、2次相続では息子1人が大きな遺産額を相続することになり、負担する相続税額が高くなってしまいます。

いずれ起きる二次相続のことも考慮して、遺産分割の内容を決めるようにしましょう。

「二次相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

自分で申告すると税務調査リスクが高まる

自分で申告すると、財産の抜け漏れや評価額の間違い、申告の記入漏れなどの可能性が疑われやすく、税務調査リスクが高まると理解しておきましょう。

税理士に依頼して申告をすると申告書に税理士や連絡先を記載することができますが、その欄への記入があるかどうかだけで申告書への信頼度が変わることは事実です。「税理士がサポートしていない申告には漏れがあるはずだ」と見られやすいからです。

税理士がサポートした申告書に不備・漏れがあった場合、まず国税庁から税理士に確認の連絡が入ります。質問に対して納得のいく答えがあれば、電話だけで確認が済むケースも少なくありません。

しかし、自分で申告すると、当然申告した自分自身に連絡が入ります。スムーズに受け答えができなければ改めて税務調査が入り、追徴課税が発生する可能性が高まるでしょう。

税務署からより厳しい目でチェックされても問題ないと自信の持てる申告書を作成できないのであれば、税理士に相談することをおすすめします。

自分で相続税を申告する場合の主な相談先

自分で相続税を申告する場合、正しく申告できるか不安に思うことがあるはずです。不安点・疑問点が出てきた場合は、ぜひ税務署の無料相談を活用しましょう。

税務署に無料相談するには、電話相談と直接窓口で職員に相談する方法の2つがあります。簡単な質問であれば電話相談を使うと納得のいく答えがもらえるでしょう。

しかし、複雑な質問や申告書を見ながら出ないと確認できない内容であれば、直接窓口に相談することをおすすめします。直接相談へ行く際は、事前に相談日時を予約する必要があるため、予約を忘れないようにしましょう。申告書や必要書類などを持参すれば、丁寧に教えてもらえます。

また、よくある質問は国税庁の「タックスアンサー(よくある税の質問)」からも確認が可能です。

ただし、税務署の無料相談でアドバイスしてもらえる内容と税理士に相談して教えてもらえる内容は大きく異なります。あくまでも税務署では必要書類や申告書の記入方法について漏れがないかを確認してくれるに過ぎません。ミスや間違いがあっても税務署に責任を追及することは不可能です。

一方、税理士に相談すれば、適切な申告をするサポートはもちろん、個別の事情に合わせた節税のアドバイスや税務調査への対応をしてもらえます。

たしかに税理士の力を借りると費用がかかりますが、安心感を手に入れられるでしょう。

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相続税の申告は自分でできるが慎重に行う必要がある

自分で相続税の申告を済ませることはできます。しかし、正しく申告するためには、一定以上の税知識と準備にかかる時間を持ち合わせている必要があります。

なかでも、遺産総額が大きい場合や評価額を算出しなければならない財産がある場合は、ミスや漏れが起きやすいです。

もし、少しでも不安があるなら、早めに税理士へ相談しましょう。正しい申告をするサポートはもちろん、控除や特例を適用させて節税するためのアドバイスももらえます。

税務署で無料相談もできますが、多くの税理士事務所でも無料相談をおこなっています。上手に無料相談を活用して、申告を自分で行うか、税理士に任せるか判断しましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年11月7日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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