申請者以外が相続登記の手続きをする際、委任状が必要です。しかし、委任状には決められたフォーマットがなく、何を記載すればよいのか悩む方もいます。本記事では、委任状の作成方法を見本付きでわかりやすく解説します。不動産から離れた場所に住んでいる場合や書類作成の時間がない場合に、誰かにお願いしたい方はぜひ参考にしてください。
目次
相続登記における委任状とは
相続登記における委任状は、申請者本人でなく代理人に申請を依頼する際に必要な書類です。
相続登記における申請者は、相続によって不動産を取得する相続人です。本来は本人が手続きをしなければなりませんが、「仕事が忙しい」「専門的でわからない」などの理由で、他人に相続登記の申請を依頼することは珍しくありません。
この際、他人に相続登記の申請に関する権限を預けることとなるため、その事実を証明するために申請書と一緒に法務局へ委任状を提出します。誰に委任するのかは、委任者である申請者が自由に決めることができます。
司法書士や弁護士などの専門家に依頼する際にも、委任状は必要です。委任状の作成は、申請者本人が行います。「誰が誰に何の権限を与えるのか」という必要事項を記載するだけです。
ただし、専門家に依頼する場合は、専門家側で委任状を用意してもらえるケースが多く、依頼者は署名・押印のみを行います。そのため委任書を作成する必要はありませんが、委任する内容を把握するためにも、この記事で詳細を確認しておくと安心です。
委任状が必要なケース・不要なケース
相続登記の手続きにおいて、委任状が必要なケースと不要なケースについて解説します。あなたがどちらのケースに当てはまるのか、確認しましょう。
委任状が必要なケース
申請者本人が相続登記の申請をせずに、他の人へ相続登記の申請を代理してもらう場合に委任状が必要です。具体的には、以下のような場合に委任状を用意しましょう。
- 司法書士や弁護士に相続登記の代理を依頼する
- 相続人の親族などが相続人の代理人として相続登記する
- 共同相続人の1人が他の相続人を代表して相続登記する
以上のようなケースでは、理由に関係なく委任状の提出が求められます。
委任状が不要なケース
申請者本人が申請をしない場合であっても、法定代理人が相続登記するケースにおいて委任状は不要です。具体的には、以下のような場合に委任状は必要ありません。
- 親権者が未成年者の代理で相続登記する
- 後見人が被後見人の代理で相続登記する
- 遺言執行者が相続登記する
それぞれ、委任状が不要となる条件があるため、確認しましょう。
親権者が未成年者の代理で相続登記する
未成年者の代わりに親権者が相続登記を行う際、委任状は不要です。このとき、親子関係を証明するために、戸籍謄本の提出が求められます。
また、子どもが成人すると親権はなくなり、子どもは自分で相続登記しなければなりません。もし、親や他の人に任せるのであれば委任状が必要です。
後見人が被後見人の代理で相続登記する
不動産や預貯金などの財産の管理ができず後見人制度を利用している場合、委任状なしで被後見人の代わりに後見人が相続登記を行えます。このとき、成年後見人であることを証明するために、成年後見登記事項証明書の提出が求められています。
ただし、家庭裁判所から保佐や補助であると判定された場合、保佐人や補助人に登記申請の代理は原則できません。
一方、親権者のいない未成年者の場合、委任状なしで未成年後見人が未成年者の代わりに相続登記することは可能です。
遺言執行者が相続登記する
遺言書で遺言執行者が指定されているとき、委任状なしで代理で相続登記の手続きが可能です。このとき、遺言執行者であることを証明するために遺言書の提出が求められます。
【見本あり】相続登記の委任状の作成方法
委任状の作成方法の前に、相続登記の委任状の見本をご紹介します。
委任状
(代理人)
住所 東京都文京区〇〇町〇丁目〇〇番地
氏名 法律 太郎
私は、上記の者を代理人として定め、下記の登記申請に関する一切の権限を委任します。
記
1.登記の目的 所有権移転
1.原 因 令和〇年〇月〇日相続
1.相 続 人 (被相続人 相続 一郎)
東京都世田谷区〇〇町〇丁目〇〇番地
相続 花子
1.不動産の表示 不動産番号 xxxxxxxxxxxxx
所 在 東京都文京区〇〇町
地 番 〇〇番地
地 目 宅地
地 積 148・25平方メートル
不動産番号 xxxxxxxxxxxxx
所 在 東京都文京区〇〇町〇〇番地
家屋 番号 〇〇番
種 類 居宅
構 造 木造ストレート葦2階建
床 面 積 1階 45・00平方メートル
2階 38・55平方メートル
1.原本還付請求および、受領に関する一切の件
1.復代理人選任に関する一切の件
1.登記に係る登録免許税の還付金を受領する件
1.登記識別情報通知書の受領の件および、その受領について復代理人選任に関する一切の件
1.登記の補正、および取下げに関する一切の件
令和〇年〇月〇日
(委任者)
住所 東京都世田谷区〇〇町〇丁目〇〇番地
氏名 相続 花子 (実印)
項目ごとに、どのような内容を記載するのか詳しく確認しましょう。
代理人の情報
まず、相続登記の手続きを依頼する方の住所・氏名を記載します。見本では、相続花子さんが法律太郎さんに代理を依頼しているため、法律太郎さんの住所・氏名を記載します。
<記載例>
(代理人)
住所 東京都文京区〇〇町〇丁目〇〇番地
氏名 法律 太郎
登記申請を委任する旨
依頼者が登記申請の代理人を選定し、登記手続きを委任する旨を記載します。
<記載例>
私は、上記の者を代理人として定め、次の登記申請に関する一切の権限を委任します。
登記の目的
相続登記における登記の目的は、不動産が単独所有か共有持分かによって異なります。
亡くなった方の単独所有の不動産を相続する場合は「所有権移転」、不動産の共有持分を相続する場合は「〇〇(被相続人の名前)持分全部移転」と記載します。
単独所有か共有持分かが不明な場合は、登記事項証明書で確認が可能です。
<記載例>
登記の目的 所有権移転
登記の目的 相続一郎持分全部移転
登記の原因
登記の原因は、相続です。この欄には、被相続人の死亡日のあとに「相続」と記載します。
日付は、市区町村役場に提示した日付と同じである必要があります。死亡診断書や死体検案書を確認してから記載しましょう。
<記載例>
原因 令和5年11月28日相続
相続人の情報
相続人の情報の欄には、以下の情報を記載します。
- 被相続人の氏名
- 相続人の住所・名前
被相続人の氏名のあとに、相続人の住所・名前を記載します。
<記載例>
相続人 (被相続人 相続 一郎)
東京都世田谷区〇〇町〇丁目〇〇番地
相続 花子
2人以上の相続人で不動産を相続する場合、不動産の所有権を得た全員の相続人の住所と名前を記載しなければなりません。この際、持分割合も併記します。
<記載例>
相続人 (被相続人 相続 一郎)
東京都世田谷区〇〇町〇丁目〇〇番地
持分3分の2 相続 花子
東京都世田谷区〇〇町〇丁目〇〇番地
持分3分の1 相続 一太
不動産の表示
相続登記の対象である不動産の情報を記載します。土地か建物かによって、記載する項目が異なります。
<不動産の種類:土地>
- 記載する項目:不動産番号・所在・地番・地目・地積
<不動産の種類:建物>
- 不動産番号・所在・家屋番号・種類・構造・床面積
正しく不動産を特定するために、登記事項証明書を見ながら記載しましょう。
<記載例>
不動産の表示 不動産番号 xxxxxxxxxxxxx
所 在 東京都文京区〇〇町
地 番 〇〇番地
地 目 宅地
地 積 148・25平方メートル
不動産番号 xxxxxxxxxxxxx
所 在 東京都文京区〇〇町〇〇番地
家屋 番号 〇〇番
種 類 居宅
構 造 木造ストレート葦2階建
床 面 積 1階 45・00平方メートル
2階 38・55平方メートル
補足的な内容
相続登記の申請をしたあと、原本還付請求・受領や登記識別情報の受領などの手続きも発生する場合があります。
これらの権限も代理人に委託しなければ、代理人が相続登記に関する手続きを完了できません。そのため、委任状に以下の手続きも委任する旨を補足的な内容として記載しておきましょう。
委任する手続き内容 | 内容の詳細 |
---|---|
原本還付請求・受領 | 戸籍謄本や住民票などの原本を返却してもらうための手続きとその受け取り。 |
復代理人選任 | 代理人がさらに他の人に委任する場合の選任。 |
登記に係る登録免許税の還付金の受領 | 申請を取下げたり却下されたりした場合に行う登録免許税の返還請求の手続きとその受け取り。 |
登記識別情報通知書の受領とその復代理人選任 | 登記識別情報通知書の受け取りと、その受け取りを代理人がさらに他の人に委任する場合の選任。 代理人以外に登記識別情報通知書の受け取りを認めない場合は不要。 |
登記の補正・取下げ | 申請後に修正点を修正する「補正」や、申請の撤回をする「取下げ」をする手続き。 |
記載が漏れていると、相続登記の申請は代理人ができても、関連する手続きをする権限を付与できていない状態です。申請者本人が手続きをするか、再度委任状を提出する必要が出てくるため注意しましょう。
<記載例>
- 原本還付請求および、受領に関する一切の件
- 復代理人選任に関する一切の件
- 登記に係る登録免許税の還付金を受領する件
- 登記識別情報通知書の受領の件および、その受領について復代理人選任に関する一切の件
- 登記の取下げに関する一切の件
「相続登記の原本還付」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
日付・委任者の住所・署名・捺印
最後に、以下の内容を記載しましょう。
- 委任状の作成日
- 委任者の住所
さらに、委任者の署名と捺印をしたら、委任状は完成です。
相続登記の委任状作成のポイント
相続登記の委任状を作成する際、以下の5つのポイントをおさえておきましょう。
- 印鑑は認印でもよい
- 委任状が複数枚にわたる場合は契印する
- 白紙委任状は作成しない
- 二重線と訂正印で修正できる
- 住所・氏名は住民票と同様の記載をする
作成前に確認しておくと、スムーズに委任状の作成を進められます。
印鑑は認印でもよい
公的な手続きには実印が必要だと思う方がいますが、委任状に押印する印鑑は認印でも問題ありません。
専門家に依頼する際や、他の相続人に代理で申請をお願いする際も、認印で大丈夫です。
委任状が複数枚にわたる場合は契印する
複数枚にわたる委任状はホッチキスで綴じ、契印することを忘れないでおきましょう。
契印とは、2枚以上の文書が1つの連続した文書であると証明するために、両ページにまたがって押すハンコのことです。契印を押すことで、偽造・改ざんを防ぎます。
契印に使う印鑑は、委任状の署名の隣に捺印した印鑑と同じものでなければなりません。
できるだけ委任状は1枚にまとめ、ホッチキス綴じや契印などの作業をなくすことをおすすめします。
白紙委任状は作成しない
白紙委任状は作成しないようにしましょう。
白紙委任状とは、委任状に記載されるべき事項や代理人の情報が記載されず、一部が空欄のまま委任者が署名・捺印している委任状のことです。白紙委任状を代理人に渡してしまうと、空欄部分が濫用されてしまい、権利を侵される場合があります。
申請者本人の意思とは異なる内容を記載されるとトラブルに発展しかねません。そのため、すべての項目が埋まった状態の書面に署名・捺印をするようにしましょう。
二重線と訂正印で修正できる
誤字脱字や記載内容を間違えた際には、二重線と訂正印で修正できます。
修正したい場合、間違えた箇所に二重線を引き、上から委任状の署名の隣に捺印した印鑑で訂正印を押しましょう。間違えた箇所の付近に正しい文言を記載すれば正しく修正できます。
住所・氏名は住民票と同様の記載をする
記載する住所は、住民票と同様の記載をしましょう。アパートやマンションなどの集合住宅の建物名の表記方法や部屋番号も住民票に合わせます。
また、名前に旧漢字が含まれている場合、旧漢字のまま記載が必要です。日常生活においては常用漢字を用いている方も、相続登記の委任状では住民票と同様の記載をするようにしましょう。
相続登記の委任状を作成する際の注意点
相続登記の委任状を作成するとき、以下の4つの注意点に留意が必要です。
- 勝手に委任状を作成する行為は犯罪になる
- 委任状の代筆は無効になる場合がある
- 司法書士・弁護士以外の者が業務として相続登記を代理申請できない
- 法定相続分で相続登記するときにも委任状を提出するほうがよい
4つの注意点について、詳しく確認しましょう。
勝手に委任状を作成する行為は犯罪になる
勝手に委任状を作成して相続登記を進めると、犯罪行為とされています。何らかの目的のために署名や押印のある委任状を偽造すると、私文書偽造罪によって3か月〜5年以下の懲役に科される場合があります。偽装した委任状は、当然無効です。
委任状には実印でなく認印を押印すればよいため、書類がすべて揃っていれば相続登記の手続きを進められてしまいます。たとえ、親子・兄弟姉妹の関係であっても、委任状を勝手に作成すると私文書偽造罪に該当するため注意しましょう。
委任状の代筆は無効になる場合がある
委任状の署名部分を代筆すると、無効になる場合があります。委任する相手が遠方に住んでいたり、相続人が高齢で説明が大変だったりすると、「署名は代筆でいい」と考える方もいるでしょう。
たしかに、委任状の代筆は認められています。しかし、その場合、病気や怪我などの理由によって字が書けない旨を委任状に記載しなければなりません。やむを得ない理由でないにもかかわらず代筆をすると、委任状の効力が疑われます。
委任状の効力に疑問があると裁判で争われるケースもあり、委任状が無効とされてしまうと相続登記の手続きも無効となってしまいます。
司法書士・弁護士以外の者が業務として相続登記を代理申請できない
司法書士・弁護士以外の方が手数料を取って相続登記の代理申請をすることは処分の対象となるため注意しましょう。たとえば、資格を持たない家族や友人が「代わりに申請してあげるから、1000円ちょうだい」と金銭の受け渡しがあると「業務・事業として依頼を受けている」とみなされる可能性があります。
たしかに相続登記の手続きを行うためには、登記申請書の作成や必要書類の収集など手間がかかって大変です。しかし、専門家でない方に代理を依頼すると「業務として行った」とみなされ、処罰される恐れがあります。
誤解を招かないためにも、相続登記は申請者本人が行うか司法書士や弁護士に依頼するかのどちらかにすると安心です。
法定相続分で相続登記するときにも委任状を提出するほうがよい
法定相続分で相続登記するときにも、委任状を提出するようにしましょう。
たしかに法定相続分で相続登記するのであれば、委任状なしでも特定の相続人が他の相続人の代わりに申請することが可能です。しかし、申請者以外には登記識別情報通知書が発行されません。
登記識別情報通知書とは、従来の利権書や利検証と呼ばれる書類です。不動産の売買や贈与の際に必要な番号が記載されており、持っていないと手続きが複雑化することを覚悟しておかなければなりません。そのため、不動産を相続し、所有する方には持っておくべき書類です。
委任状を提出していれば申請者のうちの1人としてみなされるため、登記識別情報通知書が発行されます。法定相続分通りに相続する場合でも、面倒くさがらずに委任状を提出しましょう。
相続登記の委任状は慎重に作成しよう
相続登記を代理人に依頼するとき、原則的に委任状が必要です。フォーマットのない委任状は、さまざまなポイントに気をつけながら申請者の意思を表明する内容に仕上げなければなりません。
相続登記をする際、膨大な必要書類の取得や申請書の作成が必要です。申請者以外に代理を依頼するのであれば、相続登記の専門家である司法書士や弁護士に依頼しましょう。
委任状はもちろん、他の書類の作成や収集もお任せできます。相続登記を正しく円滑に進めるために、ぜひ専門家への依頼を検討しましょう。