相続人申告登記と相続登記を比較!違いやメリット・デメリットを徹底解説

公開日:2023年11月9日

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相続人申告登記とは、不動産の相続人が自分であることを申し出るための制度です。相続人申告登記が新設された背景には、相続登記の義務化が大きく関係しています。本記事では、相続人申告登記の概要や新設された背景、手続き方法について分かりやすく解説します。どのような場合に相続人申告登記を選ぶべきかを理解しましょう。

相続登記の義務化と相続人申告登記制度の新設

令和6年4月1日より、相続登記が義務化されました。相続登記の義務化にともなって、相続人申告登記制度も新設される予定です。

相続や遺贈によって不動産を取得した相続人は、相続によって所有権を取得した事実を知ってから3年以内に相続登記をしなければなりません。期限を過ぎても申請をしなければ、10万円以下の過料が発生します。

相続登記の義務化は、施行日(令和6年4月1日)以前に開始された相続も対象です。そのため、いままで相続登記をせずに放置してきた相続人も、過料の支払いを避けるために相続登記をしなければなりません。

ただし、3年の申請義務履行期間の起算日は、施行日もしくは相続によって所有権を取得した事実を知ってから3年以内のいずれか遅い日です。施行日より前の日から申請義務履行期間が始まることはないため、安心してください。

このように、いままでは任意だった相続登記に期限と罰則を設け、放置されやすかった相続登記を強制的に行わせることが政府の狙いです。

「相続登記とは」「相続人申告登記とは」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続登記の義務化が始まった背景

相続登記の義務化が始まった背景には、空き家問題が挙げられます。土地や建物の相続が発生したときに相続登記されなかった場合、持ち主は亡くなった方のままです。さらに、繰り返し相続が発生していると、誰に相続されている不動産なのかがわからなくなってしまいます。

何かしらの理由で相続登記されなかった不動産もありますが、相続すると固定資産税が発生することを理由にわざと相続登記しなかった相続人もいるでしょう。たしかに人口減少傾向にある地方の土地や建物の所有権を持っても、不動産価格は下落していて上手な土地活用がしにくいです。

しかし、亡くなった方の名義の土地や建物は、国・市区町村が取得をしたり、取り壊したりできません。そのため、公共利用や土地開発をしたくても、持ち主がわからなければ実行できないのが実情です。

このような問題を解決するために、不動産の持ち主を明確にして行政が管理しやすいように、相続登記が義務化されました。

相続登記の義務化にともなって開始された相続人申告登記

相続登記の義務化にともなって、相続人申告登記制度が新設されました。

相続人申告登記制度とは、不動産の相続が開始した事実と自分が相続人であることを申し出るための制度です。相続人申告登記を行うと、相続人の氏名や住所などの情報が登記されます。

いままで相続登記を放置しつづけてしまっている場合、相続人が複雑化してすぐに相続登記できないことが想定されます。それでも申請義務履行期間を過ぎると、10万円以下の過料が発生しかねません。

そこで、相続人申告登記を行うと、相続登記申請義務を履行した(相続登記の義務を果たした)とみなされます。そのため、10万円以下の過料も発生しません。

しかし、相続人申告登記をしたからといって相続登記をしなくてよくなるわけではなく、最終的に相続登記をする必要があります。結局相続登記をするのであれば、相続人申告登記のために書類を収集したり、法務局で手続きしたりする分、二度手間になってしまいます。

そのため、特別な理由がないのであれば、初めから相続登記をしましょう。

あくまでも、相続人申告登記を行って自らが相続人であると期限内に申告することで、すぐに相続登記できない相続人が罰金を科されずに済む救済措置であると認識しましょう。

相続登記と相続人申告登記の違い

相続登記と相続人申告登記の違いのポイントイメージ

ここでは、相続登記と相続人申告登記の違いについて確認しましょう。

1番の大きな違いは、所有者が変わるか変わらないかです。相続登記では、亡くなった方から相続人へ相続・遺贈されて所有権が移ったことを登記します。一方、相続人申告登記では、相続人の氏名や住所が登記されるものの、持分に関しては変更されません。

そのほかの相続登記と相続人申告登記の違いを、以下にまとめました。

<相続登記>

  • 登記簿の記載内容:所有者の持分が変更される
  • 申請する人:対象の不動産を相続した相続人
  • 登記の条件:遺産分割協議が終わっていること(法定相続分通り・遺言書通りに遺産分割する場合は不要)
  • 登記方法:法務局で手続きをする
  • 必要書類:亡くなった方が生まれてから亡くなるまでの戸籍がすべて、遺産分割協議書あるいは遺言書、固定資産評価証明書、住民票、相続関係説明図など
  • かかる費用:登録免許税が発生

<相続人申告登記>

  • 登記簿の記載内容:申し出をした相続人の氏名や住所などが追記される
  • 申請する人:相続人単独で可能(一部の相続人が複数人まとめて申請することも可能)
  • 登記の条件:遺産分割が終わっていなくても良い
  • 登記方法:法務局で手続きをする
  • 必要書類:亡くなった方と申請する人の相続関係を証明する戸籍謄本、住民票
  • かかる費用:不要(必要書類の取得費用や交通費は実費で必要)

登記簿に記載される内容

相続登記では、相続によって所有権が移ったことが登記されます。したがって、相続によって新たに所有者となった相続人の名前や住所、持分が記載されます。

一方、相続人申告登記をしても持分の変更はありません。したがって申告した相続人の氏名や住所などのみが登記されます。

申請する人

相続登記をする場合、不動産を相続した相続人が申請します。

一方、相続人申告登記では現在の所有者(亡くなった方)の相続人が申請人です。相続人全員で申請する必要はなく、単独で申請できます。一部の相続人が複数人分まとめて申請することも可能です。

登記の条件

相続登記をするには、遺産分割協議を終わらせる必要があります。なぜなら、申請時に遺産分割協議書を提出しなければならないからです。法定相続分通りに遺産分割する場合や、遺言書通りに遺産分割する場合には、遺産分割協議の実施は不要です。

一方、相続人申告登記は、遺産分割協議が終わっていなくても申請できます。相続が発生した事実があり、相続人であれば申請が可能です。

登記方法

登記方法は、どちらの登記にしても不動産を管轄する法務局で行います。

相続登記は、以下の3つの方法で申請できます。

  • 窓口申請
  • 郵送申請
  • オンライン申請

現在、相続人申告登記の申請方法について発表されていません。しかし、不動産に関する登記は3つの方法で申請を受け付けているため、相続人申告登記も同様の方法で申請できるようになると予測できます。

登記に必要な書類

登記に必要な書類は、相続登記と相続人申告登記で大きく異なります。以下の表に必要書類をまとめました。

<相続登記>

  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員の死亡日以降に発行された戸籍謄本
  • 被相続人の住民票(除票)
  • 相続人全員の住民票
  • 固定資産評価証明書

遺言書通りに遺産分割したときに必要な書類

  • 遺言書

遺産分割協議を行った場合に必要な書類

  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人と法定相続人の相関関係説明図

法定相続分通りに遺産分割したときに必要な書類

  • 被相続人と法定相続人の相関関係説明図

<相続人申告登記>

  • 所有権の登記名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本のみ

必要になると予測されるもの

  • 亡くなった方(登記名義人)の除籍謄本
  • 申告する相続人本人の戸籍謄本
  • 申告する相続人本人の住民票

相続登記では複数の書類を集めなければなりませんが、相続人申告登記では「所有権の登記名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本のみ」でよいとされています。ただし、実際の手続きでは、上記に記載した3つの書類の提出も求められると予測されます。

登記にかかる費用

相続登記をする際、申請の際に登録免許税の支払いが必要です。固定資産税評価額に対して0.4%の税率をかけた額が登録免許税の額です。

一方、相続人申告登記の申請に費用はかかりません。

ただし、相続登記でも相続人申告登記でも、必要書類の取得手数料や法務局までの交通費・郵送費が実費で発生します。

相続登記を行わず相続人申告登記をするメリット・デメリット

相続登記を行わず相続人申告登記をするメリットとデメリットをまとめました。それぞれ詳しく確認しましょう。

相続人申告登記をするメリット

相続人申告登記をするメリットは、相続登記の義務を果たしたとみなされる点です。遺産分割で揉めていたり、重篤な病気にかかっていたりするなど、相続登記の期限に間に合わなそうな場合に過料を免れることができます。

また、相続人申告登記では所有権が移行されないため、相続人に固定資産税の納税義務が発生しません。ただし、相続登記ではなく相続人申告登記をする人が増加した場合、相続人申告登記した相続人に対して固定資産税を請求される可能性は将来的にあるかもしれません。

相続人申告登記をするデメリット

相続人申告登記をするデメリットは、相続登記をするまでの一時しのぎにしかならない点です。

相続人申告登記をすれば相続登記をしなくてもよいわけではありません。あとから相続人全員で遺産分割について話し合い、相続登記する必要があります。そのため、相続人申告登記と相続登記の2回の手続きが必要となり、二度手間です。

また、相続人申告登記をしても所有権は亡くなった方のままのため、相続人は不動産の売却や処分ができません。土地活用をするには、相続登記をして所有権を移行させる必要があります。

相続人申告登記か相続登記のどちらをすべき?

遺産分割について相続人全員で話し合える状況であるのであれば、初めから相続登記を選びましょう。なぜなら、相続人申告登記をしたとしても、最終的に相続登記が必要だからです。

相続人申告登記は、あくまでも相続登記ができない相続人のための応急措置に過ぎず、手間がかかるだけです。

通常の相続であれば、被相続人が亡くなってから3年以内に遺産分割協議を行うことは難しくありません。罰金逃れのために相続人申告登記をしても、メリットは少ないです。

ただし、以下のような場合にはとりあえず相続人申告登記をして、罰金を回避する選択肢を考えてもいいでしょう。

  • 相続について争いが起きている
  • 相続が複数回起きていて、所有権を持っている人の把握が難しい
  • 相続人が病気や行方不明となっている

このように3年以内に相続登記ができない場合には、相続人申告登記を活用しましょう。

安易に相続人申告登記を選ばず相続登記をしよう

相続登記と相続人申告登記の大きな違いは、所有権の移行がされるかされないかです。相続人申告登記は、あくまでも3年以内に相続登記の義務を履行できない人の救済措置です。

たしかに相続争いや相続人の複雑化によって、すぐに相続登記できないケースはあります。しかし、通常の相続であれば3年以内に相続登記することは可能です。

罰金逃れのために相続人申告登記をしたとしても、最終的には相続登記をしなければなりません。結果的に申請の二度手間となってしまうでしょう。そのため、不動産を相続したら速やかに相続登記しなければならないと認識すべきです。

相続登記する際、遺産分割協議書の作成や必要書類の収集などの準備が大変です。相続人が多かったり、手続きが手間に感じたりする場合は、専門家に相談してサポートを受けましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年11月9日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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