「家族信託は危険ってきいたけど、大丈夫だろうか」と心配になっていませんか。結論からいうと、家族信託の制度自体は危険ではありません。しかし、制度の仕組みやリスクを十分に理解しておかなければ、トラブルに発展する可能性があります。本記事では、家族信託が危険と言われる理由・背景やトラブルに発展した事例とその対処法について詳しく解説します。
家族信託が危険と言われる理由や背景
家族信託は認知症対策として注目を集めている一方で、危険と言われることもあります。もちろん、家族信託の制度自体が危険というわけではありません。
しかし、相続・法律・税制を理解しないまま家族信託を安易に活用してしまうと、トラブルに発展してしまう危険性があることも事実です。
家族信託が危険と言われる理由や背景として、下記のようなことが挙げられます。
- 比較的新しい仕組みのため情報が少ない
- 家族や親族の理解が不足している
- 家族信託が最適とは限らない
順番に詳しく見ていきましょう。
比較的新しい仕組みのため情報が少ない
家族信託は、平成28年頃から普及し始めた新しい制度です。そのため、専門家や利用経験者が少なく、過去の事例も多くありません。
相続・法律・税制などの幅広い知識について深く理解しておかなければ適切なアドバイスができないため、今でも経験豊富な専門家が少ない状況です。このような状況から、家族信託について情報を得ようとしても確かな情報が掴みにくいと感じるでしょう。
安易に自分で家族信託をやってみようとすると、自分がやりたかったことが実現できなかったり、家族間のトラブルに発展したりする危険性があります。
十分に情報収集を行い、経験豊富な専門家へ相談すれば、これらの危険性は大きく回避できるでしょう。
家族や親族の理解が不足している
本人は情報収集や専門家へ相談をして十分に家族信託の制度について理解をしていたとしても、家族や親族の理解が不足していることから危険だと思われるケースもあるようです。
とくに、財産の管理・運用・処分などの権限が受託者に集中してしまう点が危険だと感じる親族は少なくありません。権力を悪用しようとする受託者の口車にのせられているのではないかと不信感を抱くこともあるようです。
また、利用者が制度を十分に理解していなければ、初期費用の高さや思わぬ税金によって疑念を抱かせてしまいます。
家族信託を検討する際には本人や受託者が制度の理解を深めることはもちろん、家族や親族にも目的や制度のメリット、発生しうる費用についてを詳しく伝えるようにしましょう。
家族信託が最適とは限らない
制度を十分理解したうえで活用すれば、家族信託は便利でメリットを大きく感じる制度です。しかし、万能な制度とも言い切れません。
そのため、他の制度を利用した方が大きなメリットが享受できるケースや、利用しない方がよいケースもあります。たとえば、そもそも所有している財産が少ない場合や本人が若くて健康な場合などには、家族信託は向きません。
次世代に資産を引き継ぐ方法は、生前贈与や遺言書作成などさまざまな方法があります。「なんとなくやったほうが良さそう」と安易に家族信託に決めずに、数多くの選択肢を比較検討すれば最適な方法を選び取れるでしょう。
「家族信託」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
家族信託の失敗例・トラブルにつながった事例
ここからは、家族信託の失敗例・トラブルにつながった事例についてご紹介します。
想定しておきたい失敗例・トラブル事例は下記の通りです。
- 信託する財産が適切でなかった
- 抵当権付きの不動産を信託してトラブルに発展した
- 家族や親族でよく話し合わなかった
- ルールによって強制終了してしまった
- 専門家に依頼せず自分で進めた
- 想定していない費用が発生した
- 認知症を発症してしまった
- 受託者が横領や不正を行った
- 本当は身上監護がしたかった
- 不動産所得の損益通算ができなかった
家族信託を始めたあとに後悔しないために、詳しく確認しましょう。
信託する財産が適切でなかった
信託しようと思っていた財産では家族信託ができなかったという失敗例があります。家族信託できる財産には制限が設けられており、下記のような財産を信託しても効果はありません。
- 農地
- 預貯金口座
- 年金受給権
- 生活保護受給権など
農地を家族信託する場合には農地法に即した手続きが必要となりますが、ほとんど認められた事例がありません。そのため、農地は信託できないと考えておく方がよいでしょう。
また、預貯金口座は金融機関との契約における譲渡禁止特約で勝手に名義変更できないよう定められています。そのため、家族信託契約を交わしたことを理由に、受託者は委託者の口座から引き出し・振り込みなどの手続きをすることは金融機関から認められません。
一方、預貯金口座から現金を引き出したり、受託者の口座に送金したりすれば、その現金を家族信託することが可能です。家族信託できる財産は、下記のように定められています。
- 現金
- 農地以外の不動産
- 非上場株式
- 特許権・商標権など
このように家族信託できる財産とできない財産があるため、信託したい財産がどちらに該当するのかあらかじめ専門家に確認しておく必要があります。
抵当権付きの不動産を信託してトラブルに発展した
抵当権付きの不動産であっても家族信託できますが、トラブルに発展したという事例があるため注意しましょう。
信託財産が不動産の場合、信託登記を行って受託者に所有権に含まれる管理権限を移動させる手続きを行わなければなりません。しかし、金融機関の抵当権が設定されていると、金融機関の許可なく移転登記することができなくなっています。
金融機関の許可がないまま抵当権付きの不動産を信託すると、融資契約違反としてローンの残債を一括返済しなければならなくなったり、今後の融資が受けられなかったりとトラブルに発展する危険性があります。
家族や親族でよく話し合わなかった
家族や親族の間で十分な話し合いを行わなかったことで、トラブルに発展した事例があります。
たとえば、同居している子どもに認知症対策のために家族信託の受託者となってもらうことは有効です。しかし、他の兄弟姉妹に情報を共有しないまま手続きを進めていくと、不信感を抱かれても仕方ないでしょう。
また、「子どもが言うことなら」と子どもが作った家族信託契約書に親がサインしたものの、子どもに大きな権限を与えることになると理解しておらず、不動産の名義変更や預金の送金に疑念を抱くケースもあります。
このように当人における話し合いはもちろん、周りの家族や親族にもしっかり目的や信託内容を伝えなければ、家族や親族との関係が悪化する危険があります。
ルールによって強制終了してしまった
1年ルールや30年ルールをよく理解しないまま家族信託契約を交わしてしまうと、ルールによって強制終了してしまう失敗につながります。
まず、1年ルールとは、受託者が唯一の受益者となる状態が1年間継続すると、その信託が終了するといった決まりです。たとえば、複数世代にわたって財産を継承する人が決められる受益者連続型信託を利用していたときに、受託者が受益者となってしまうことで発生する場合があります。
次に、30年ルールとは、家族信託契約を交わしてから30年経過したあとに行われる受益権の継承は1度しか決められないルールです。
本来、受益連続型信託を設定していると受益権を子ども・孫・ひ孫と複数世代にわたって継承させられます。しかし、締結から30年経過してしまうと、1度しか受益権の継承ができません。もし、受益者連続型信託を設定した人が30年経ったときに存命していれば、その後に行われる受益権の継承は1度しかできないことになります。
このように、受益者連続型信託を活用したい場合には1年ルールや30年ルールがあることを理解しておかなければ、思った通りの財産の引き継ぎができなくなる危険性があります。
専門家に依頼せず自分で進めた
専門家に依頼せずに、当人だけで信託する契約内容の決定や契約書を作成したことで、トラブルに発展したという失敗例もあります。
不備のない契約書を作成するには、専門的な知識が不可欠です。なぜなら、家族信託は比較的新しい制度のため、十分な情報を得ることが難しいからです。
専門家であっても十分な経験・実績がなければ不備があるほど難しいと言われており、相談する専門家の選定も慎重に行わなければなりません。
当人だけで家族信託契約を締結した場合や、依頼した専門家の知識が十分でなかった場合には、下記のような問題を引き起こす危険性があります。
- 契約内容や手続きが無効になった
- 他の相続人の遺留分を考慮しておらず相続トラブルに発展した
- 契約書が公正証書でなかったせいで口座開設できなかった
家族信託を検討しているのであれば、家族信託の取り扱いの経験が豊富な弁護士や司法書士などの専門家に依頼してトラブルを防ぎましょう。
想定していない費用が発生した
家族信託にかかる費用を理解しないままだと、思わぬ高額な費用が発生して失敗したという事例もあります。
まず、専門家へ依頼したときに費用が発生します。専門家への費用相場は、下記の通りです。
項目 | 費用相場 |
---|---|
専門家への相談・コンサルティング料 | 信託財産の1%程度(最低30万円が多い) |
専門家への公正証書作成の代理費用 | 10万〜15万円程度 |
専門家への不動産の登記手続き代理費用 | 8万〜12万円程度 |
さらに、家族信託を行うと贈与税や相続税が発生する場合があります。
委託者と受益者が同一人物であれば、他人に財産を譲ったとみなされないため贈与税は発生しません。しかし、委託者と受益者が異なる場合には財産を贈与しているとみなされ、贈与税が発生します。
相続税は、財産所有権を持つ委託者が亡くなり、相続が発生すると信託している財産の権利を継承するときに受益者に対して発生します。
このように、いざ家族信託契約を交わすにはさまざまな費用がかかると理解したうえで、家族信託をすべきかどうか検討するようにしましょう。
認知症を発症してしまった
委託者が認知症を発症し、家族信託契約が締結できなかったという失敗例もあります。
家族信託は認知症に備えておく制度ですが、委託者の判断能力が十分でなければ契約の締結ができません。そのため、家族信託の利用を決めたあと、契約締結までにはスピード感を持って準備を進める必要があります。
下記のような場合、準備に時間がかかる可能性があるため注意しましょう。
- 信託内容が複雑な場合
- 信託財産が多い場合
- 抵当権付きの不動産が信託財産に含まれている場合
- 家族や親族との話し合いをする機会が少ない場合
家族信託の契約締結前に認知症が進んでしまい、契約能力がなくなってしまうと家族信託の活用ができなくなる危険性があると理解しておきましょう。
受託者が横領や不正を行った
受託者が横領や不正を行うトラブル事例もあります。家族信託における受託者の権限は大きく、財産の管理・運用・処分に関して自由度が高くなっています。
本来であれば、委託者の財産を適切に扱わなければなりません。しかし、残念ながら信託された財産の管理を受益者のためでなく、自分のために権限を悪用する受託者がいることも事実です。勝手な判断で無謀な資産運用をしたり、不動産を売却したりする危険性もあります。
そこで、信託監督人や受益者代理人を設定しておくことも検討しましょう。信託監督人とは、受託者が信託目的通りに業務を遂行しているかを監督する人です。一方、受益者代理人とは、受益者の代理で法律行為を行う人です。
信託監督人や受益者代理人は、受託者が適切に財産を管理・運用・処分しているかを確認してくれるため、危険なトラブルを回避することに役立ちます。
本当は身上監護がしたかった
本当は身上監護のために家族信託の契約を交わしたものの、契約後に身上監護権がないことに気づいたという失敗例があります。
身上監護権とは、受託者が本人に代わって医療や福祉サービスなどにおける法律行為を行うことです。身上監護権を持つ人は、治療・入院の手続きや、介護保険の申請などを代理で行えます。
受託者が家族であれば身上監護において支障は出てこないでしょう。しかし、血縁の遠い親戚や知人が受託者になる場合には法律行為に制限が出てきます。
身上監護を検討している場合は、成年後見制度の利用を検討しましょう。
不動産所得の損益通算ができなかった
不動産所得のある方が家族信託をした不動産において赤字が発生したときに、損益通算が使えなくなる失敗例があります。
損益通算とは、同じ人が所有する不動産における損失であれば、他の所得から差し引いて課税額を計算できる制度です。しかし、信託した不動産に損益があったとしても当該損益はゼロだとみなされてしまい、信託していない黒字の不動産の利益と損益通算ができません。
とくに、大規模な修繕を予定している場合、損益通算ができないと想定している節税対策ができなくなってしまう点に注意する必要があります。
危険な家族信託にならないために出来ること
家族信託は制度の内容をしっかり理解して活用すれば、役に立つ制度です。しかし、理解が不十分なまま家族信託契約を締結してしまうと、トラブルに発展する危険性があります。
危険な家族信託にならないために出来ることは、下記の通りです。
- 家族信託の知識や経験豊富な専門家に相談
- まず自分が仕組みを理解し、家族や親族へも情報を共有
- 家族信託以外の方法も含めて検討
- 委託者の判断能力があるうちに契約
- 信託監督人や受益者代理人の設置
ここでご紹介する出来ることをしっかり行い、家族信託を有効活用しましょう。
家族信託の知識や経験豊富な専門家に相談
家族信託を検討する際は、知識や経験が豊富な家族信託の専門家に相談しましょう。
信託内容や契約書の作成はもちろん、家族や親族への情報共有の仕方までアドバイスしてくれます。また、税務面で起こりうることも教えてもらえるため、リスクを理解したうえで信託内容を決定できます。
そもそも家族信託が適切な選択なのかも含め、専門家に相談しましょう。
まず自分が仕組みを理解し、家族や親族へも情報を共有
まずは家族信託契約を交わす自分が制度の仕組みを理解し、家族や親族にも情報共有をしましょう。
財産の扱いに関することのため、何も知らされないまま受託者が決定していることに家族や親族からネガティブな感情をもたれる可能性があります。とくに、財産を自由に扱えることから、不正や横領を疑われる危険性もあります。
家族信託の制度の仕組みを理解してもらうことはもちろん、家族信託をしたい目的や相続についてもしっかり話し合って同意を得ましょう。
家族信託以外の方法も含めて検討
家族信託は認知症対策の1つですが、家族信託だけでは問題が発生する場合があります。そのため、遺言書の作成や生前贈与、任意後見制度の利用など、他の対策方法も検討しましょう。
家族関係や資産状況によって、家族信託以外の選択をしたほうがよい場合もあります。どの方法がよいか判断できない場合は、生前対策や相続に詳しい専門家からアドバイスをもらうことをおすすめします。
委託者の判断能力があるうちに契約
委託者の判断能力があるうちに家族信託の契約が交わせるよう、スピーディーに準備を進めましょう。委託者に認知症が発症し、判断能力が低下すると家族信託の契約は交わせません。
もちろん、認知症の程度が軽度であり、判断能力が十分だと判断されれば、契約は交わせます。しかし、数年経ってから家族信託契約の有効性についてトラブルに発展してしまう危険性は否定できません。
できるだけ委託者が元気なうちに家族信託契約を締結し、必要であれば成年後見制度を利用することも検討しましょう。
信託監督人や受益者代理人の設置
信託監督人や受益者代理人を設置して、トラブルを未然に防ぎましょう。
もちろん、大前提として家族信託の受託者には信頼できる家族を選ぶことが重要です。しかし、信託監督人や受益者代理人がしっかり監視している状況を作ることで、周りの家族や親族の信頼を得られやすくなります。
家族信託のリスクをできるだけ軽減するためにも、信託監督人や受益者代理人を設置しましょう。
家族信託の危険を回避するには専門家に相談しよう
家族信託が危険と言われる理由は、本人や家族が制度やリスクを十分に理解しないまま契約を交わしてしまうことにあります。家族信託の制度自体が危険というわけではありませんが、制度を理解しないまま安易にサインしてしまうと予期せぬトラブルに発展しかねません。
家族信託の危険を回避するためには経験や実績が豊富な専門家に相談することをおすすめします。しかし、比較的新しい制度である家族信託は、十分な専門知識を持つ専門家は少ないことが現状です。
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