「相続するはずだった預貯金が使い込まれていた」「相続財産に含まれていた不動産を無断で名義変更していた」などの場合、不当利得返還請求ができる可能性があります。不当利得返還請求とは、正当な理由なく他人の財産の損失によって得た利益を、損失した人が返還を求める行為です。本記事では、要件や時効、手続きの流れについて詳しく解説します。
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不当利得・不当利得返還請求とは?
相続が発生して相続財産を確認すると、被相続人と同居していた相続人などの一部の相続人による使い込みが発覚する場合があります。他の相続人が残った相続財産だけで遺産分割をするとなると、不公平な遺産分割となって不満が出てくるでしょう。
このような場合に、使い込みをした相続人以外の相続人が使い込まれた相続財産を取り戻すための権利が、不当利得返還請求権です。
不当利得とは
そもそも不当利得とは、正当な理由なく他人の財産の損失や労務によって得た利益のことです。本来、利益を得るはずでない人が利益を受けることや利益そのものを指します。
相続において、遺産分割するはずだった預金を勝手に使い込んだり、同意なく不動産を売って利益を得たりしていると、不当利得だとみなされる場合があります。本来、他の相続人と公平に遺産分割するはずの財産の一部が使い込まれることで、他の相続人が受け取るはずだった財産を損失させているためです。
不当利得返還請求とは
不当利得変換請求とは、損失を被った人が不当利得を得た人に対して返還を求めるための手続きです。例えば、子どもが親の預金を許可なく引き出して私的に使い込んだ場合、親は子どもに対して不当利得返還請求を行えます。
相続において、相続発生時に一部の相続人による遺産の使い込みが発覚する場合は珍しくありません。例えば、被相続人と同居していた相続人による預貯金の引き出しがあり、自身の買い物のために使い込んでいたのであれば、他の相続人は使い込んでいた相続人に対して不当利得返還請求ができます。
不当利得返還請求の4つの要件
不当利得返還請求をするには、以下の4つの要件を満たしている必要があります。
- 使い込んだ人に利益が生じていること
- 使い込みによって損失を被った人がいること
- 利益と損失の間に因果関係があること
- 使い込みに法律上の原因がないこと
使い込んだ人に利益が生じていること
まず、使い込んだ人が利益を受けていることが要件に挙げられます。例えば、親の預金を自分の口座に移して車やパソコンなどの購入費として使った場合、自分の財産を減らさずに済んでいるため受益性があるとみなされて不当利得に該当します。
一方、被相続人の預金を引き出して被相続人本人の入院費や日用品の購入費に充てているのであれば、使い込んだとされる人の利益にはなっていません。そのため、不当利得には該当せず、不当利得返還請求はできません。
使い込みによって損失を被った人がいること
次に、財産の使い込みがされたことで損失を被った人がいることが要件に挙げられます。なぜなら、損失がなければ請求する理由がないからです。
そのため、財産の使い込みをされたことで、本来相続できたはずの財産が減少して損失が出ている事実を証明する必要があります。また、請求をする際には損失した具体的な金額も提示しなければなりません。
利益と損失の間に因果関係があること
相手方の利益と請求者側の損失の間に因果関係がなければ、不当利得返還請求はできません。例えば、相続人が被相続人の預貯金を勝手に引き出したことで遺産総額が減った場合、因果関係があるといえます。
相手方が利益を得ている場合でも、請求者側の損失との関係がなければ不当利得返還請求はできません。
使い込みに法律上の原因がないこと
法律上の原因とは、譲渡契約や生前贈与などの被相続人と利益を得た人との間における契約を指します。つまり、両者の間に契約がなければ、不当利得返還請求ができます。
もし、他の相続人からは「被相続人の口座から他の口座に勝手に預金を移動させた」と見えたとしても、贈与する人と贈与を受ける人との間で贈与契約があるのであれば、不当利得に該当しません。
実際には無断で使い込みをしていたとしても、口約束で贈与契約を交わしたと主張される場合があります。
不当利得返還請求権の消滅時効
不当利得返還請求権の消滅時効には2つの期間が存在し、いずれかの期間を過ぎると時効消滅します。
- 権利を行使できることを知ったときから5年(例:遺産の使い込みが発覚してから5年)
- 権利を行使できるときから10年(例:遺産が使い込まれてから10年)
つまり、遺産の使い込みが発覚した時点で遺産の使い込みから10年以上経過している場合、不当利得返還請求権が時効消滅しているため不当利得返還請求ができません。
相続が発生したらいち早く相続財産の内容を確認し、他の相続人による使い込みがないかを確認しましょう。
相続で不当利得返還請求の対象となる事例

相続で不当利得返還請求の対象となる事例を5つご紹介します。
- 相続財産を使い込む
- 賃料などを無断で受領する
- 預貯金を勝手に引き出す
- 株式・証券を無断で売却する
- 被相続人の生命保険を無断で解約する
相続財産を使い込む
相続財産を勝手に使い込んでいた場合、不当利得返還請求の対象となる可能性があります。なぜなら、相続財産は相続人全員での共有状態となり、遺産分割が終わるまで勝手に使ってはならないとされているからです。
もちろん、葬儀代や入院代などに充てるために、相続人全員の了承を得て相続財産から支払いをしているのであれば、不当利得返還請求の対象になりません。
一部の相続人が勝手に相続財産を使い込んでいる場合は、不当利得返還請求を検討しましょう。
賃料などを無断で受領する
相続財産のなかに賃貸債権のある不動産が含まれているとき、相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料債権は相続財産としてみなされます。賃料債権は相続分に応じてそれぞれが取得することが一般的です。
しかし、一部の相続人が賃料債権を独占し、そのまま自分の懐に入れて自分の財産を増やした場合、不当利得返還請求ができる可能性があります。
預貯金を勝手に引き出す
被相続人の生前、被相続人の預貯金を勝手に引き出して私的に使っていた場合、不当利得返還請求できる可能性があります。被相続人が介護状態や認知症だった場合、同居している家族に通帳やキャッシュカードを預けていることは珍しくありません。
その状況を利用して、私的に被相続人の預貯金を引き出し、結果的に相続財産を減少させたのであれば他の相続人が取得するはずだった財産も減っているため不当利得返還請求の対象となるでしょう。
介護費や入院費などに使っていたと主張された場合は、介護記録や通院記録、領収書などを提示してもらい使い込みがなかったことを確認する必要があります。
株式・証券を無断で売却する
被相続人に無断で株式・証券を売却していると、不当利得返還請求の対象になる場合があります。株式・証券はインターネット上で取引ができるため、ログインに必要なIDやパスワードを知っていれば、家族が勝手にアクセスして取引を完了させることが可能です。
被相続人が入院をしていた時期や介護施設に入っていた時期、認知症を患ってからの時期などに取引があった場合、本人に無断で株式・証券を売却している可能性があります。
被相続人の生命保険を無断で解約する
無断で被相続人の生命保険を解約し、解約返戻金を受け取っている場合、不当利得返還請求の対象になる場合があります。勝手に生命保険を解約して解約返戻金を着服していた場合、本来受取人だった人に損失を与えることになるからです。
被相続人の実印を使って委任状を偽造すると、生命保険の解約ができてしまう場合があります。もちろん、保険会社から契約者本人の意思確認を行いますが、同居家族から無理に同意させられている可能性もあります。
不当利得返還請求の手続きの流れ
不当利得返還請求権を行使するには、以下の4つの流れに沿って手続きを進めましょう。
- 不当利得の証拠を集めて金額を計算する
- 内容証明郵便による不当利得返還請求を行う
- 直接協議を行って合意書を締結する
- 不当利得返還請求訴訟を起こす
1. 不当利得の証拠を集めて金額を計算する
まず、不当利得の証拠を集めて不当利得の金額がいくらになるのか計算しましょう。不当利得の証拠となりうるものの例は、以下の通りです。
- 被相続人の口座の入出金履歴と使い込みが疑われる相続人の口座の入出金履歴
- 賃料が振り込まれていた相続人の口座の入出金履歴
- 株式の取引明細書と入院期間がわかる病院の領収書
使い込まれていた財産の内容によって、必要な証拠は異なります。しかし、できるだけ関連するものを集めることで、不当利得であることを証明できる可能性が高まります。
不当利得の証拠が揃ったら、証拠からわかる不当利得の金額を計算しましょう。
ですが、不当利得の証拠収集を個人で行うことは、非常に困難です。遺産の使い込みの可能性がある場合、早めに弁護士に相談して協力を得ましょう。
2.内容証明郵便による不当利得返還請求を行う
つづいて、遺産の使い込みの疑いのある相続人に対して不当利得返還請求を行いましょう。不当利得返還請求をおこなうことで、消滅時効の完成を6か月間猶予する効果もあります。
一般的には、不当利得返還請求は内容証明郵便で行われます。内容証明郵便であれば、相手方が受け取った文書を郵便局が証明してくれるためです。
内容証明郵便を送付するには、原本とあわせて謄本2通を作成する必要があります。謄本には書式のルールがあるため、郵便局のWebサイトから確認して作成しましょう。
作成が困難だと感じる方は、弁護士や行政書士などの専門家に依頼することも可能です。
3.直接協議を行って合意書を締結する
内容証明郵便で行った不当利得返還請求に対して、相手方から何かしらのアクションがあれば直接協議を行って解決を目指しましょう。
該当する不当利得の金額や返還の方法について協議を行い、合意に至ればその内容を記した合意書を作成します。合意書を締結したら、使い込まれた遺産を返還してもらいます。
返還されたあと、あらためて相続人全員で遺産分割協議を行って、相続手続きを進めましょう。
4.不当利得返還請求訴訟を起こす
内容証明郵便に対する返信がない場合や、遺産の返還を拒否された場合、協議で合意に至らなかった場合は、民事訴訟における解決を目指しましょう。これを不当利得返還請求訴訟といいます。
不当利得返還請求訴訟は裁判所の公開法廷で行われ、証拠の提出や法廷における主張・反論を行います。
民事訴訟を行うと、期日のたびに裁判所へ出廷しなければなりません。長期化すると、最終的な判断までに1年以上かかる場合もあります。
また、民事訴訟を起こす場合、一般的に弁護士のサポートをうけることができます。民事訴訟に持ち込んでまで争うべきかどうかも含め、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
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不当利得返還請求ができない・難しい条件
実際には不当利得があったとしても、下記の条件に該当してしまうと、不当利得返還請求ができない場合や難しい場合があります。
- 現物返還ができない
- 時効が過ぎている
- 相手方の悪意の立証が難しい
- 不当利得の証拠が入手できない
現物返還ができない
不当利得の返還は、現物返還が原則です。しかし、第三者に売却されている場合や相手方に消費されている場合には現物返還ができません。そのため、現物返還ではなく、価格賠償となります。
万が一、相手方が不動産を高値で売却していたとしても、客観的な相当価格の賠償でよいとされているため、売値を請求することはできません。
時効が過ぎている
以下のいずれかの時効を過ぎている場合、不当利得返還請求権は消滅するため返還請求できません。
- 権利を行使できることを知ったときから5年
- 権利を行使できるときから10年
ただし、不当利得返還請求権が消滅していたとしても、損害賠償請求などのほかの方法で解決策が見つかる場合もあります。時効消滅していたとしても、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
相手方の悪意の立証が難しい
不当利得返還請求をする際、相手方の悪意を立証しなければなりません。「生前贈与を受けたと思っていた」「代理権が与えられていると思い込んでいた」などと主張されると、悪意の立証は難しくなります。
もしも、相手方に悪意があったことを証明できない場合、すでに使い込まれている分についての返還は難しくなります。
不当利得の証拠が入手できない
不当利得の証拠がなければ、請求は難しいです。特に、同居家族が被相続人の財産を使い込んでいた場合、重要な証拠を隠滅させる可能性が考えられます。証拠がない状態では訴訟で勝つことは難しく、泣き寝入りになってしまうかもしれません。
しかし、相手が情報開示に応じてくれない場合、弁護士に弁護士照会制度を利用してもらえば証拠や資料を収集できます。弁護士照会制度とは弁護士の職務活動をスムーズに行うために設けられている法律上の制度です。弁護士会を通じて官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会できます。
また、不当利得返還請求訴訟において職権調査嘱託の申立てを行えば、相手の預金口座についての調査も可能です。
不当利得返還請求について知っておきたいこと・注意点
これから不当利得返還請求をしようとお考えの方に向けて、あらかじめ知っておきたいことと注意点について解説します。
事前に知っておくべきことと注意点は、以下の通りです。
- 不当利得返還請求には金額上限がある
- 不当利得返還請求をせずに公平な遺産分割ができる場合がある
- 相続税申告期限までに一度仮申告を行う
- 弁護士に相談すると早期解決しやすい
順番に確認し、大きなトラブルに発展しないよう注意しましょう。
不当利得返還請求には金額上限がある
不当利得返還請求には金額に上限があるため、注意しましょう。上限額は、民法によって定められた法定相続分の割合です。
被相続人Aが亡くなったとき、配偶者・長男・次男が法定相続人だったと仮定します。このときの法定相続分は以下の通りです。
- 配偶者:1/2
- 長男:1/4
- 次男:1/4
被相続人Aが残した相続財産の総額が4,000万円だったとき、長男の法定相続分は1,000万円です。仮に次男が不当利得を得ていたとしても、法定相続分である1,000万円を超える分についての不当利得返還請求はできません。
不当利得返還請求をせずに公平な遺産分割ができる場合がある
不当利得返還請求をしなくても、相続人全員にとって公平な遺産分割ができる場合があります。
2018年(平成30年)に行われた民法改正によって、2019年(令和元年)7月1日以降に死亡した場合において、被相続人の死亡後に預金を勝手に引き出した者以外の法定相続人全員の同意があれば、勝手に引き出された預金を遺産に含まれるものとして、遺産分割を実施することが可能となりました。
そのため、死亡発覚後の勝手な使い込みに対しては不当利得返還請求をせずに、不当利得で得た利益を「使い込みをした人が相続した遺産である」とみなして、公平な遺産分割ができます。
ただし、被相続人の死亡後の使い込みに限られることには、注意しましょう。
相続税申告期限までに一度仮申告を行う
不当利得返還請求を行ってから解決に至るまでに時間がかかってしまうと、相続税申告・納税の期限を迎えてしまうかもしれません。相続税申告・納税の期限は、相続開始を知った翌日から10か月以内です。間に合わなければ、特例や控除が使えなくなってしまいます。
たしかに正しく相続税の申告・納税をするためには遺産分割をしなければなりませんが、不当利得返還請求で争っている間は遺産分割協議を進められません。
もし、申告期限までに遺産分割が終わらなかった場合、法定相続分通りの相続をすると仮定して仮申告を行いましょう。仮申告をした場合、不当利得が返還されて遺産分割を行ったら、改めて実際に分割した通りの内容で相続税の申告を修正する必要があります。
相続税申告期限までに不当利得返還請求が完了しないと想定されるのであれば、早めに税理士に相談して適切なアドバイスを受けましょう。
弁護士に相談すると早期解決しやすい
弁護士に相談し、適切なアドバイスをもらうことで早期解決につながりやすいです。民事訴訟に発展してから弁護士に相談する方は多くいますが、使い込みが発覚した時点で相談することをおすすめします。
弁護士は相続人の代理として内容証明郵便による請求をしたり、協議に立ち会ってくれます。その結果として、相手は冷静になって対応してくれる可能性が高まります。また、相手方と和解できた際には合意書や遺産分割協議書も作成してもらえます。
不当利得返還請求を検討しているなら弁護士に相談しよう
相続が発生していざ遺産分割をしようとすると、予想以上に財産がない場合は珍しくありません。他の相続人の使い込みが疑われる場合、不当利得返還請求を行って公平に遺産を譲り受けましょう。
しかし、不当利得返還請求には消滅時効が存在します。
弁護士であれば請求要件を満たしているか、民事訴訟を起こすべきかなどの判断をしてもらえます。証拠収集や相手方との交渉も依頼できるため、心強いと感じるはずです。
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