生前贈与加算とは?相続税に持ち戻される対象や税制改正の内容を徹底解説

公開日:2024年11月15日

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生前贈与のタイミングによっては、相続財産に贈与額を加算して相続税を計算することをご存じでしょうか。これを生前贈与加算(持ち戻し)と呼びます。本記事では、令和5年に行われた税制改正の生前贈与加算による影響や相続税の計算方法について解説します。税負担を軽減するための対処法もご紹介しているため、これから相続税対策をお考えの方は参考にしてください。

税制改正があり、生前贈与加算(持ち戻し)の期間が3年から7年に

令和5年に行われた税制改正によって、生前贈与加算の期間が相続開始前3年から相続開始前7年に延長されました。すでに期間の変更は、令和6年1月1日から施行されています。

具体的にどのような影響があるのか、下記の順番にポイントを確認しましょう。

  • 生前贈与加算(持ち戻し)とは
  • 令和5年の税制改正で持ち戻しの期間が3年から7年に延長された

相続税対策のために生前贈与を行おうと考えている方にとって、重要な内容です。詳しく確認しましょう。

生前贈与加算(持ち戻し)とは

そもそも生前贈与加算とは、相続開始前の一定期間内に被相続人から生前贈与された財産について、その贈与額を相続財産に持ち戻して相続税を計算する制度です。そのため、相続税の持ち戻し制度とも呼ばれています。

生前贈与加算(持ち戻し)の目的は、被相続人が亡くなる直前に生前贈与を行って相続税を回避することを防止するためです。無税で財産が次世代の手に渡ることは租税回避にあたると考えられており、実際に生前贈与加算がなければ国の税収は大幅に減ってしまうでしょう。

ただし、生前贈与加算の対象は、被相続人から生前贈与を受けた人全員ではありません。また、生前贈与によって取得した財産すべてが対象というわけでもありません。

より詳しく生前贈与加算についての理解を深めるために、下記の2つについて順番に解説します。

  • 生前贈与加算(持ち戻し)の対象者・対象にならない者
  • 生前贈与加算(持ち戻し)の対象となる財産

詳しく確認し、対象者と対象にならない者の違いを理解しておきましょう。

生前贈与加算(持ち戻し)の対象者

生前贈与加算の対象者は、相続発生前3年以内(改正後は7年以内)に贈与を受けた人のうち下記のいずれかに該当する人です。

  • 法定相続人や代襲相続人で相続財産を取得した人
  • 遺言の指定によって財産を遺贈された人
  • 生命保険金や死亡退職金などのみなし財産を取得した人

一方、持ち戻しの期間に被相続人から生前贈与によって財産を取得していたとしても、下記に当てはまる方は生前贈与加算の対象から外れます。

  • 相続放棄をした法定相続人
  • 法定相続人や受遺者以外の親族・知人

相続放棄をすると財産を相続する権利を失うため、生前贈与を受けていたとしても相続することはなくなるため生前贈与加算の対象から外れます。相続放棄をすると代襲相続も発生しないため、相続放棄をした人の子どもが代襲相続人になることもありません。

また、法定相続人や遺言による遺贈を受けていない人も生前贈与加算の対象から外れます。

ただし、上記に当てはまる場合であっても、みなし財産を受け取った場合には生前贈与加算の対象となるため注意しましょう。

生前贈与加算(持ち戻し)の対象となる財産

生前贈与加算の対象となる財産は、下記の通りです。

  • 持ち戻しの期間内に行った暦年課税における生前贈与
  • 被相続人が死亡した年に行った暦年課税における生前贈与

ここでの注意点は、暦年贈与における贈与税の基礎控除110万円についても相続財産に持ち戻されることです。贈与税の課税を免れたとしても、期間内の贈与財産は相続財産に持ち戻されて相続税の課税対象となります。

ただし、すでに贈与税を納めている財産が持ち戻される場合もあるでしょう。この場合、贈与税額控除が設けられているため、相続税と贈与税の二重課税を回避できます。

また、生前贈与加算の対象となる贈与財産は、贈与を受けた時点における評価額で計算します。相続発生日における評価額ではない点に注意しましょう。

参照:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

「暦年贈与 とは」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

令和5年の税制改正で持ち戻しの期間が3年から7年に延長された

令和5年に行われた税制改正によって、令和6年1月1日以降に行われる暦年贈与から、持ち戻しの期間が「相続発生前3年」から「相続発生前7年」に延長されることとなりました。

相続税回避を抑制する観点から、もともと相続税と比べて贈与税は高い税率が設定されています。税率の違いによって財産が少ない家庭では生前贈与をしないでおこうという意識が芽生えるものの、財産の多い家庭では相続税を回避しながら次世代へ多額の財産を移転させることが可能です。

そもそも相続税や贈与税の目的は、社会における富の再分配です。裕福な家庭は末代まで裕福でいられるといった社会制度を回避するために、次世代へ財産を譲り渡す際に国が税金を徴収しています。

このように負担が軽減されてしまうと、経済格差の固定化を助長させてしまいます。そこで、生前贈与によって生まれる税負担の不公平を正すために、持ち戻しの期間が延長されることとなったのです。

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期間の延長が完全に移行するまでの経過措置がある

すでに期間延長となった改・税制が施行されているものの、いきなり持ち戻しの期間が7年に延長されるわけではありません。令和9年1月1日以降に発生した相続に対して段階的に期間が延長され、完全移行は令和13年1月1日以降となります。

また、延長の対象は令和6年1月1日以降に行われた暦年贈与に限られます。従来・経過措置・完全移行後で持ち戻しの期間の考え方が異なるため注意しなければなりません。

ここでは、持ち戻しの期間の変動について下記の順番に解説します。

  • 令和5年以前の贈与は期間延長としての課税額に算入されない
  • 移行のスケジュール
  • 相続開始前4~7年以内のものは100万円を控除できる

詳しく確認しましょう。

令和5年以前の贈与は期間延長としての課税額には参入されない

期間の延長の対象は、令和6年1月1日以降に生前贈与によって取得された財産です。そのため、令和5年以前の生前贈与については現行通り3年以内の持ち戻しとなります。

2つの例を比べてみましょう。

【1】令和5年10月20日に生前贈与され、被相続人が令和10年3月20日亡くなった
→令和5年以前の生前贈与については現行通り3年以内の持ち戻しとなるため、生前加算する必要はない。

【2】令和6年1月20日に生前贈与され、被相続人が令和10年3月20日亡くなった
→令和6年1月1日以降に行われた生前贈与のため、期間延長としての生前加算の対象となる。

このように、相続発生日が同じであっても、生前贈与のタイミングによって生前加算の対象になるかならないかが異なります。

移行のスケジュール

持ち戻しの期間はいきなり7年に延長されるわけではなく、しばらくは経過措置が設けられています。持ち戻しの期間は随時延長されることとなっており、生前贈与と相続開始の時期によって持ち戻し期間が変動します。

具体的には、下記のように令和9年1月1日以降に発生した相続から段階的に延長される予定です。

相続発生日持ち戻し期間
令和8年以前従来通りの「3年」
令和9年1月1日以降〜令和12年以前経過措置「3年超〜7年以内」
令和13年1月1日以降完全移行「7年」

令和9年1月1日以降〜令和12年以前における持ち戻し期間の延長のスケジュールは、下記の通りです。

  • 令和9年相続開始:最長4年
  • 令和10年相続開始:最長5年
  • 令和11年相続開始:最長6年
  • 令和12年相続開始:最長7年

あくまでも、期間延長となる財産の対象は、令和6年1月1日分以降に行われた生前贈与です。令和5年以前に生前贈与された分は、期間延長としての持ち戻しは行われません。

相続開始前4~7年以内のものは100万円を控除できる

今回の税制改正によって延長された持ち戻し期間、つまり相続開始前4〜7年以内に行われた生前贈与については、生前贈与財産の総額から100万円を控除した金額を持ち戻します。

具体的に見てみましょう。

期間持ち戻される財産の金額
相続開始前4〜7年前総額から100万円を差し引いた金額を加算
相続開始前3年以内総額すべてを加算

あくまでも毎年100万円ずつ控除されるわけではなく、相続開始前4〜7年前の間に生前贈与された総額に対して100万円の控除が受けられる点に注意しましょう。

具体例別の生前贈与加算の考え方

具体例別に生前贈与加算の考え方を確認しましょう。

パターンごとに生前贈与加算がどう変わるかを解説します。

【1】令和5年1月1日に生前贈与され、令和8年5月1日に亡くなった
→持ち戻しの期間は相続発生から遡って令和5年5月1日までの3年間のため、令和5年1月1日の生前贈与は加算されない。

【2】令和6年1月2日に生前贈与され、令和9年5月1日に亡くなった
→持ち戻しの期間は令和6年1月1日以降から相続発生までの3年4か月間となり、令和6年1月2日の生前贈与は加算対象となる。また、令和6年1月1日から5月1日までの生前贈与額から100万円控除して持ち戻される。

【3】令和13年4月1日に生前贈与され、令和15年5月1日に亡くなった
→持ち戻しの期間は相続発生から遡って7年間のため、令和13年4月1日の生前贈与は加算対象となる。令和8年5月1日から令和12年5月1日までの生前贈与額から100万円控除されて持ち戻されるが、令和13年4月1日の生前贈与は全額持ち戻される。

このように、生前贈与と相続発生のタイミングによって持ち戻しの期間が変わる点に注意しましょう。

生前贈与加算の延長によりどのくらいの増税になるか

生前贈与加算の延長によりどのくらいの増税になるかのイメージ

ここからは、税制改正によって持ち戻し期間が長くなったことによって、どれほど増税するのか詳しくみていきましょう。

ここでは、下記の条件で比較していきます。

  • 被相続人の遺産総額:1億円
  • 相続人:子ども1人
  • 生前贈与額:相続発生から遡って10年の間に毎年100万円ずつ贈与

持ち戻し期間が3年のときの相続税額と7年のときの相続税額を比較してみましょう。

生前贈与加算が3年の場合

生前贈与加算が3年の場合、生前贈与加算は3年分の300万円です。相続税額は、下記のように計算します。

  1. 課税価格:1億円+生前贈与加算3年分(300万円)=1億300万円
  2. 課税遺産総額:1億300万円-基礎控除額(3600万円)=6700万円
  3. 相続税額:6700万円×税率30%-控除額(700万円)=1310万円

上記の条件で生前贈与加算が3年の場合、1310万円の相続税が発生します。もちろん、控除や特例を使って節税できる可能性もあるため、個々の事情に合わせて制度を活用しましょう。

生前贈与加算が7年の場合

同じ条件で生前贈与加算が7年の場合の相続税額も確認しましょう。

生前贈与加算が7年の場合、生前贈与加算は7年分の700万円です。

  1. 課税価格:1億円+生前贈与加算7年分(700万円)-控除(100万円)=1億600万円
  2. 課税遺産総額:1億600万円-基礎控除額(3600万円)=7000万円
  3. 相続税額:7000万円×税率30%-控除額(700万円)=1400万円

上記の条件で生前贈与加算が7年の場合、1400万円の相続税が発生します。持ち戻しの期間が3年のときと比べて90万円増税していることが分かります。

「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与加算の延長による増税の影響を抑えるためにできること

すでに生前贈与加算の延長が始まっているため、生前贈与加算の延長による増税の影響を受けやすくなっています。できるだけ税負担を軽減するには、下記のような対処法があります。

  • 早めの暦年贈与
  • 法定相続人以外への贈与
  • 生前贈与の非課税枠・控除の活用
  • 相続時精算課税制度の検討

4つの対処法について、詳しく確認しましょう。

早めの暦年贈与

相続発生のタイミングは誰にも分からないため、早めに暦年贈与を始めましょう。持ち戻しの期間が従来の3年から段階的に延長されるタイミングは、令和9年1月1日以降です。早くから暦年贈与をしておけば、持ち戻される可能性は低くなります。

ただし、毎年決まった金額を決まった時期に生前贈与すると、定期贈与とみなされる恐れがあります。定期贈与とは、もともと決まった額の贈与を行う契約を交わし、それを分割で渡す贈与方法です。

たとえば100万円を10年かけて生前贈与した場合、本来暦年贈与の基礎控除内のため贈与税は発生しません。しかし、定期贈与だと1年目に1000万円の贈与契約を交わしたとみなされるため、基礎控除を差し引いた890万円に対して贈与税が課税されます。

暦年贈与を行うたびに贈与契約書を交わし、贈与の金額や時期を変えるなどの工夫が必要です。

法定相続人以外への贈与

生前贈与加算の対象は、原則的に法定相続人や代襲相続人への贈与です。そのため、法定相続人以外への贈与であれば持ち戻されることはありません。

子どもがいるのであれば、通常通りに考えると配偶者と子どもが法定相続人になります。そのため、孫や甥・姪、お世話になった知人、家政婦さんへ生前贈与してもよいでしょう。

ただし、遺言で法定相続人以外に遺産の取得を指定する場合や、みなし財産の受取人が法定相続人以外の場合には注意してください。受贈者やみなし財産の受取人への生前贈与は、生前贈与加算の対象となるからです。

また、「兄弟姉妹なら対象外だろう」と思っていても、子ども全員・両親2人ともが相続放棄すると兄弟姉妹が法定相続人となることにも留意が必要です。

誰への生前贈与であれば生前贈与加算の対象外になるかを考慮して、生前贈与を行いましょう。

「法定相続人以外への贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与の非課税枠・控除の活用

生前贈与の非課税枠や控除制度を賢く活用しましょう。よく使われている生前贈与の非課税枠・控除制度は、下記の通りです。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で住居用不動産の贈与・住居用不動産の購入資金の贈与を受けたときに最大2000万円までが控除される制度

住宅取得等資金の贈与の非課税枠
子どもや孫のマイホームの新築などに必要な資金を贈与したときに、最大1000万円までが非課税になる制度

教育資金の一括贈与の非課税枠
子どもや孫に教育費を一括で贈与したときに、最大1500万円までが非課税になる制度

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠
子どもや孫に結婚・子育てに必要な資金を一括で贈与したときに、最大1000万円までが非課になる制度

それぞれ活用する際には細かな要件を満たさなければなりません。また、期限が設けられている非課税枠もあるため十分に注意して活用しましょう。

「生前贈与の非課税枠と控除枠」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続時精算課税制度の検討

相続時精算課税制度を適用させた生前贈与は生前贈与加算の対象外のため、節税対策に役立ちます。

相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子ども・孫に生前贈与をした場合に選択できる贈与税の課税制度です。

累計2500万円までの特別控除を適用させられるうえに、令和6年1月1日以降の生前贈与に対して毎年110万円の基礎控除が設けられています。累計2500万円までであれば贈与税はかからない一方で、相続発生時に毎年基礎控除額110万円を超えた価額を相続財産に加算して相続税に加算します。

つまり、相続時精算課税制度を選択したうえで、毎年基礎控除内におさまるよう生前贈与すれば相続税に持ち戻す必要はありません。暦年課税であれば基礎控除分も加算しなければならないため、贈与額によっては相続時精算課税制度を選択した方が節税になるでしょう。

ただし、相続時精算課税制度を選ぶには税務署へ届出を提出しなければなりません。また、一度選択すると暦年課税に戻すことができないため、適切な判断ができるよう専門家に相談することをおすすめします。

「相続時精算課税制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与加算(持ち戻し)を考慮した相続税対策を始めよう

相続税の額が大きくなりそうだという理由で生前贈与をしても、生前贈与加算によって相続財産に持ち戻される可能性があります。さらに、税制改正によって令和6年1月1日以降に行われた生前贈与から順次持ち戻し期間が延長されています。

しかし、制度の内容を正しく理解すれば、相続税対策が可能です。家族構成や現在の資産状況によって適切な節税方法が変わるため、積極的に専門家へ相談することをおすすめします。

安易に生前贈与をするのではなく、早期から専門家のアドバイスをもらって今後の相続税対策の方向性を決めましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年11月15日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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