おしどり贈与とは?贈与税の配偶者控除のメリット・デメリットを徹底解説

公開日:2024年8月14日

おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間にしか使えない贈与税の配偶者控除の通称です。さまざまな要件がありますが、節税につながる場合があります。本記事では、おしどり贈与の概要や注意点について詳しく解説します。おすすめのケース・おすすめでないケースもご紹介しているため、ご自身の状況と照らし合わせながら読んでください。

おしどり贈与とは

おしどり贈与とは、贈与税の配偶者控除の通称です。婚姻期間が20年以上の夫婦間にしか使えない控除であることから、「おしどり」と呼ばれています。

おしどり贈与は、居住用不動産もしくは居住用不動産を取得するための金銭の贈与に対して2000万円まで控除できる特例です。暦年贈与の基礎控除である110万円と合わせて使うことができるため、贈与額2110万円まで非課税で贈与できます。

現在所有している財産を生前に減らすことで相続財産を減らし、結果的に相続税を下げられるため、おしどり贈与は相続税対策の1つとして広く知られています。

ただし、贈与された配偶者が先に亡くなると相続財産として扱われるため、生前に贈与した分にかかる贈与税と相続時にかかる相続税を二重で納税しなければなりません。そもそも節税効果でいうと、相続税の配偶者控除のほうが高いため、おしどり贈与をわざわざ行う必要がない場合もあります。

「おしどり贈与を活用すれば節税できる」とは限らないため、おしどり贈与を活用すべきかどうかは慎重に判断しましょう。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)の要件

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)は夫婦だからといって、誰でも利用できるわけではありません。以下の3つの要件すべてに当てはまらなければ、2000万円の控除が使えないため注意しましょう。

  • 婚姻関係が20年以上ある夫婦間で行われる贈与であること
  • 贈与された財産が居住用不動産、または居住用不動産取得のための資金であること
  • 贈与された年の翌年3月15日までにその居住用不動産に住んでおり、そのあとも住み続ける見込みがあること

1つずつ詳しく解説します。

婚姻関係が20年以上ある夫婦間で行われる贈与であること

まず、婚姻関係が20年以上ある夫婦の間で行われる贈与であることが第1の要件です。1年未満の端数は切り捨てられます。たとえば、婚姻期間が19年10か月の場合、「19年」とみなされて要件に当てはまりません。

婚姻期間は通算でも認められ、途中離婚している期間があったとしても、同じ相手と再婚すれば婚姻期間を合算できます。たとえば、結婚して8年で離婚したあと、しばらくして12年婚姻期間が経過すれば合算して「婚姻関係20年以上」の要件を満たします。

ただし、婚姻届を出してない内縁関係や事実婚の2人には適用されません。法律上の夫婦と変わらない関係であっても、婚姻関係がなければおしどり贈与を使えないため注意しましょう。

贈与された財産が居住用不動産、または居住用不動産取得のための資金であること

贈与された財産が居住用不動産であるか、居住用不動産を取得するための資金であるかのどちらかでなければなりません。

ここでの居住用不動産とは、国内にある自宅を指します。つまり、生活の拠点とするための土地・あるいは家屋である必要があります。

また、自宅で個人事業を営んでいる店舗兼住宅も、住居用部分についてはおしどり贈与の対象です。たとえば、1階を飲食店、2階・3階を住居用として利用している建物を配偶者に贈与したとき、2階・3階の住居用部分だけがおしどり贈与を適用できます。

住居用部分の面積がおおむね90%以上である場合は、すべて居住用不動産として建物全体が控除の対象とみなされます。

贈与された年の翌年3月15日までにその居住用不動産に住んでおり、そのあとも住み続ける見込みがあること

おしどり贈与には、居住要件もあります。「贈与された年の翌年3月15日までに贈与によって取得した不動産に住んでいて、そのあとも住み続ける見込みがある」必要があります。

この要件は、住むつもりのない不動産を贈与して相続税を引き下げるような、おしどり贈与の特例を利用した税金逃れを防ぐために設けられています。

ただし、実際には住み続けるつもりで贈与を受けたものの、数年後に手放すことになったというケースもあるでしょう。たとえば、健康状態や環境の変化によって介護施設に入居することとなり、息子夫婦に譲る場合や売却する場合が出てきても不自然ではありません。

この要件は、あくまでも贈与時点や贈与の翌年の3月15日時点における意向に対する要件です。おしどり贈与によって取得した不動産だからといって永久に住み続ける必要はないため安心しましょう。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)の手続きと必要書類

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)を行う際、下記の通りに手続きを進めましょう。

  1. 贈与契約を交わす
  2. 法務局で居住用不動産の名義変更を行う
  3. 贈与税の申告書を作成する
  4. 必要書類をそろえて税務署で贈与税の申告・納税を行う

贈与から税務署への申告・納税までの流れや必要書類について詳しく解説します。

1.贈与契約を交わす

まず、夫婦の間で贈与契約を交わしましょう。

贈与は口頭での約束でも法的に問題ありませんが、贈与契約の内容を証明するために贈与契約書を作成することをおすすめします。認知症になったときや相続発生時に備えておくと、安心です。

また、不動産の名義変更を行う際に贈与契約書があるとスムーズに手続きが進められるため、不動産の場合は作っておくようにしましょう。

贈与契約書に記載する内容は、下記の通りです。

  • 誰が誰に贈与を行うのか
  • 贈与契約を交わした日付
  • 贈与が行われる日付
  • 引き渡す不動産が特定できる情報(住所・不動産の種類など)
  • 資金を渡す場合、贈与される金額・資金の用途

作成した贈与契約書に夫婦それぞれが署名・捺印を行い、各自1枚ずつ保管しておきましょう。

2.法務局で居住用不動産の名義変更を行う

不動産を引き渡す場合、法務局で名義変更のために贈与登記申請を行います。贈与登記申請は、贈与者と贈与を受ける者の両者で協力して行いましょう。

贈与登記申請に必要な書類は、下記の通りです。

  • 登記申請書
  • 贈与契約書
  • 登記済権利証、または登記識別情報通知
  • 固定資産評価証明書(贈与登記する年度のもの)
  • 贈与者の印鑑証明書(発行から3か月以内)
  • 贈与を受ける者の住民票の写し

贈与登記申請は、法務局の窓口へ直接出向くか、郵送やオンラインでも受け付けられています。

一方、居住用不動産取得のための資金を贈与する場合は、贈与者の口座から贈与を受ける者の口座へ資金を振り込みましょう。

現金手渡しだと贈与した額や日付が証拠として残らないため、避けることをおすすめします。金融機関を通じたやりとりを行って、通帳に履歴を残しましょう。

3.贈与税の申告書を作成する

実際に贈与を行ったら、贈与税の申告書を作成しましょう。

おしどり贈与による控除を適用させるには、贈与を受けた配偶者が税務署に対して贈与税の申告をしなければなりません。おしどり贈与や基礎控除によって、納税する贈与税が0円の場合にも申告が必要です。

贈与税の申告書は、申告期限である贈与を受けた年の翌年の3月15日(土日祝の場合は翌日)までに作成しましょう。

最寄りの税務署で申告書を取得するか、e-Tax(電子申告)を利用して申告書を作成することが可能です。

参照:【事例3】贈与税の配偶者控除の特例を適用する場合|国税庁

4.必要書類をそろえて税務署で贈与税の申告・納税を行う

申告書の作成ができたら、必要書類をそろえて税務署で贈与税の申告・納税を行いましょう。

申告に必要な書類は、下記の通りです。

  • 本人確認書類
  • 贈与を受けた日から10日を経過した日以降に作成された戸籍謄本もしくは抄本
  • 贈与を受けた日から10日を経過した日以降に作成された戸籍附票の写し
  • 登記事項証明書など居住用不動産を取得したことを証明するもの
  • 居住用不動産の固定資産評価明細書(居住用不動産の贈与を受けたとき)

申請書や必要書類の提出先は、贈与を受けた者の住所地を管轄する税務署です。窓口・郵送・e-Tax(電子申告)の方法で申請・納税できます。

メリット・デメリットを理解して「おしどり贈与」の活用を検討しよう

ここでは、おしどり贈与を活用するメリット・デメリットをご紹介します。良い面と悪い面の両面を理解したうえで、おしどり贈与を活用するかどうかを決めましょう。

おしどり贈与を活用するメリット

おしどり贈与を活用するメリットは、主に4つあります。

  • 夫婦の財産を分散させて相続税をおさえられる
  • 生前贈与加算の対象でない
  • 共有名義にしておくと売却時の税金をおさえられる
  • 配偶者に居住不動産を残せる

詳しく確認しましょう。

夫婦の財産を分散させて相続税をおさえられる

夫婦の間で所有している財産に偏りがある場合、おしどり贈与で不動産や資金を譲渡しておけば、相続発生時に支払う相続税の負担が軽減される場合があります。

たとえば、夫の所有する財産が妻と比べて多いとき、そのまま対策をしないまま夫が亡くなってしまうと妻にかかる相続税の負担が大きいままです。

おしどり贈与と基礎控除を併用すれば、最大2110万円までの財産を非課税で譲り渡せます。ただし、居住不動産の所有権を譲り渡す場合、不動産取得税や登録免許税などの税金が発生するため、かならず節税になるとは限りません。

生前贈与加算の対象でない

おしどり贈与によって贈与された不動産や資金は、生前贈与加算の対象ではありません。生前贈与加算とは、亡くなった方から贈与された財産を相続財産に加算して相続税を計算することです。

令和6年1月以降の贈与から、生前贈与加算の対象期間が「相続開始から3年間」から「相続開始から7年間」に変更されています。そのため、亡くなる直前に行われた生前贈与は相続税節税の効果があまりありません。

しかし、おしどり贈与は生前贈与加算の対象でないため、一般的な贈与と比べて相続税節税の効果を発揮します。

共有名義にしておくと売却時の税金をおさえられる

おしどり贈与を活用して居住用不動産を共有名義にしておけば、自宅を売却したときにかかる税金をおさえられます。

自宅の持分の一部をおしどり贈与すれば夫婦共有名義にできます。住宅を売却すると売却益に対して所得税と住民税が発生しますが、住み替えのために売却をするときに「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」を利用すれば大幅に税額を軽減することが可能です。

共有名義にしておけば3000万円の特別控除を夫婦それぞれで活用できるため、合計6000万円の控除が受けられます。

配偶者に居住不動産を残せる

残された配偶者に居住不動産を残せることもメリットです。

夫名義の居住不動産に夫婦2人で住んでいた場合、夫が亡くなると居住不動産は相続人全員の共有物となります。

遺産分割協議で「住んでいた妻が取得すべき」と合意できればよいですが、なかには法定相続分の取得を主張する相続人がいるかもしれません。相続財産のほとんどが居住不動産である場合、金銭で解決できない可能性があります。

生前におしどり贈与しておけば居住不動産は相続財産に含まれないため、相続人同士で不動産について揉めることはないでしょう。残された配偶者の住む場所を心配せずに済みます。

おしどり贈与を活用するデメリット

おしどり贈与を活用するデメリットは、主に3つあります。

  • おしどり贈与を使わなくても相続税の配偶者控除によって税負担が軽くなる可能性がある
  • 不動産取得税や登録免許税などの費用が発生する
  • 贈与者よりも先に贈与を受けた者が亡くなる場合がある

詳しく確認しましょう。

おしどり贈与を使わなくても相続税の配偶者控除によって税負担が軽くなる可能性がある

おしどり贈与よりも相続税の配偶者控除の額が多いため、税負担がかからない場合があります。

おしどり贈与をしたときの控除額は、基礎控除額とあわせて2110万円です。一方、相続税の配偶者控除を活用すれば、下記のいずれか高い金額まで非課税です。

  • 1億6000万円
  • 配偶者の法定相続分までの金額

上記の金額を超えると、相続税が発生します。つまり、配偶者が取得する財産の金額が上記の金額を超えると予想される場合はおしどり贈与が有効です。

それ以外の場合は、おしどり贈与にかかる費用が余分にかかる恐れがあります。

不動産取得税や登録免許税などの費用が発生する

おしどり贈与によって得られる非課税枠は大きいですが、不動産の名義変更をすると不動産取得税や登録免許税などの費用が発生します。

不動産取得税とは、不動産を新たに取得した方が必ず払わなければならない税金です。相続によって不動産を取得した場合には不動産取得税は発生しません。

また、登録免許税は法務局で贈与登記をするときに払わなければならない税金です。贈与で取得した不動産に関しては、不動産価値の2%の登録免許税を支払う必要があります。

相続時に行う相続登記の際にも登録免許税が発生しますが、税率は0.4%と贈与時と比べて5分の1と低く設定されています。

場合によっては、おしどり贈与をせずに相続したほうが費用がおさえられる場合があるため、贈与と相続のどちらで財産を譲り渡すべきかよく検討しましょう。

贈与者よりも先に贈与を受けた者が亡くなる場合がある

おしどり贈与を行ったにもかかわらず、贈与者よりも先に贈与を受けた者が亡くなる場合があります。このとき、贈与を受けた者の相続財産となるため、相続税の課税対象となってしまいます。

せっかく高い不動産取得税や登録免許税を支払って贈与したにもかかわらず、相続税を支払って贈与者が相続しなければなりません。

人の亡くなる順番は予測できるものではないため、贈与した相手が先に亡くなってしまう可能性もあると理解したうえで生前贈与をすべきかどうか判断しましょう。

おしどり贈与を活用した方がよいケース・しない方がよいケース

おしどり贈与のメリット・デメリットを踏まえて、おしどり贈与を活用した方がよいケース・しない方がよいケースについてご紹介します。

おしどり贈与を活用した方がよいケース

おしどり贈与を活用した方がよいケースは、以下の3つです。

  • 相続税の配偶者控除の非課税枠を超えた財産があるケース
  • 自宅の住み替えを検討しているケース
  • 財産のほとんどが居住用不動産で配偶者の住処を守りたいケース

詳しく確認しましょう。

相続税の配偶者控除の非課税枠を超えた財産があるケース

想定される相続財産が相続税の配偶者控除の非課税枠を超えるのであれば、おしどり贈与によって相続税節税につながる可能性があります。

相続税の配偶者控除の非課税枠は、下記の通りです。

  • 1億6000万円
  • 配偶者の法定相続分までの金額

たとえば、想定される相続財産が5億円、相続人が配偶者である妻と息子2人だと仮定しましょう。このとき、配偶者の法定相続分である2億5000万円までは非課税です。

しかし、息子2人が母の老後を心配し、3億円分を取り分とすると差額の5000万円に対して相続税が課されます。

このようなとき、被相続人が生前におしどり贈与で5000万円に相当する居住不動産を妻の名義にしていれば、相続税は発生しません。また、贈与税も基礎控除とあわせて2110万円までは非課税で、控除された2890万円に対する贈与税の支払いで済みます。

ただし、実際には基礎控除や小規模宅地等の特例などを使えば、相続税が0円になるケースもあります。

自宅の住み替えを検討しているケース

いずれ自宅の住み替えを考えている夫婦にとっては、おしどり贈与によって夫婦共有名義にしておくと大きな恩恵が受けられます。

住み替えによって居住不動産を売却する場合、所得税に対して3000万円の特別控除の特例が活用できます。共有名義であれば、夫婦それぞれに3000万円ずつの特別控除が適用されるため、合計6000万円の控除を受けることが可能です。

たとえば、居住不動産の売却によって譲渡益5000万円を得た場合、夫1人の名義だったときと夫婦共有名義だったときの所得税額を比較してみましょう。

<夫1人の名義だったとき>

  • 所得税額=譲渡益5000万円−控除額3000万円×税率15%=300万円

<夫婦共有名義だったとき>

  • 所得税額=譲渡益5000万円−控除額3000万円×2人分×税率15%=0円

このように、300万円もの差が生まれます。ただし、おしどり贈与にかかるコストもあります。どちらの方が売却時にお得かを計算してから、おしどり贈与をすべきかどうか決めましょう。

財産のほとんどが居住用不動産で配偶者の住処を守りたいケース

生前におしどり贈与していれば残された配偶者が住処に困ることはありません。とくに、居住用不動産が想定される相続財産の割合の多くを占める場合や、相続人と揉めることが想定される場合に有効です。

相続トラブルの原因の1つとして、財産が居住用不動産だけでほかの相続人に法定相続分を渡せないことが挙げられます。他の財産がなければ家を売ってお金にする方法でしか法定相続分を渡せず、長年住んでいた家を手放さなければならない羽目になりかねません。

このように、亡くなったあとにも配偶者が変わらず日常生活が送れるように、おしどり贈与をして対策しておくことも選択肢の1つです。

ただし、平成30年の民法改正によって新たに配偶者居住権が創設されて、配偶者居住権によって自宅に住み続けられるようになりました。

配偶者居住権とは、残された配偶者が生涯自宅に住み続けられる権利です。被相続者が遺言で居住権について記載しておくと、残された配偶者は配偶者居住権を得られます。

配偶者居住権」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

どちらの方法で配偶者の住処を守るべきか悩む場合は、弁護士などの専門家に相談して個別にアドバイスしてもらうことも検討しましょう。

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おしどり贈与をしなくてもよいケース

おしどり贈与をしなくてもよいケースは、以下の2つです。

  • 財産が相続税の配偶者控除の非課税枠におさまるケース
  • 贈与者よりも贈与を受ける者の方が先に亡くなる可能性があるケース

詳しく確認しましょう。

財産が相続税の配偶者控除の非課税枠におさまるケース

財産が相続税の配偶者控除の非課税枠におさまるのであれば、相続税がかかりません。おしどり贈与をしたときに発生する不動産取得税や登録免許税のほうが高くなる可能性があります。

相続税の配偶者控除の非課税枠は、下記の通りです。

  • 1億6000万円
  • 配偶者の法定相続分までの金額

たとえば、不動産を含めた財産が1億6000万円におさまるのであれば、配偶者にかかる相続税は0円です。

相続税対策のためにおしどり贈与をしようか考えているのであれば、相続税の配偶者控除の非課税枠を活用するほうが節税に有効かもしれません。

贈与者よりも贈与を受ける者の方が先に亡くなる可能性があるケース

贈与者よりも贈与を受ける者の方が高齢だったり、健康状態がよくなかったりすると、先に亡くなる可能性は否定できません。

万が一、贈与者よりも贈与を受けた者の方が先に亡くなってしまうと、おしどり贈与で与えた資産は相続財産となってしまいます。配偶者は必ず相続人となるため、贈与した不動産や資金が贈与者に返ってくることとなります。もちろん、相続時には相続税が発生します。

せっかく贈与税や不動産取得税、登録免許税を支払っておしどり贈与したにもかかわらず、さらに相続税がかかってしまうと二重で税金を支払うことになりかねません。相続の際にも登録免許税が発生するため、おしどり贈与したことを後悔するでしょう。

おしどり贈与についての注意点・知っておきたいこと

おしどり贈与についての注意点・知っておきたいことノイメージ

おしどり贈与についての注意点や事前に知っておきたいことは、以下の3つです。

  • 同一の配偶者からは1度しか使えない
  • 申告書を提出しないと控除が受けられない
  • 二次相続まで見据えた対策の検討が重要

想定している控除が受けられるよう、詳しく確認しましょう。

同一の配偶者からは1度しか使えない

おしどり贈与は、同一の夫婦の間では1度しか使えません。しかし、同一でない相手からであれば2回以上使うことが可能です。

たとえば、1人目の妻におしどり贈与をしたあとに離婚し、2人目の再婚相手にもおしどり贈与ができます。もちろん、1人目の夫からおしどり贈与を受けた方が相手と離婚し、2人目の再婚相手から2度目のおしどり贈与を受けることも可能です。

ただし、婚姻関係が20年以上であることが要件に含まれるため、人生で何度もおしどり贈与を使うことはなかなか難しいでしょう。

申告書を提出しないと控除が受けられない

おしどり贈与の控除を活用するには、贈与税の申告書の提出をしなければなりません。

おしどり贈与によって贈与税が発生しなかった場合でも、申告書の提出が必要です。「うっかり忘れていた」という場合でも、2000万円の非課税枠が使えなくなり贈与税の負担が大きくなってしまいます。

贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの申告期間に、住所地を管轄する税務署に申告書を提出することを忘れないようにしましょう。

二次相続まで見据えた対策の検討が重要

おしどり贈与をする際は、二次相続を見据えた対策・検討を行いましょう。

二次相続とは、夫婦のうち1人が亡くなり、さらにその配偶者が亡くなったときの相続のことです。たとえば、まず夫が亡くなったら一次相続、続いて配偶者の妻が亡くなったら二次相続と呼びます。

夫が妻におしどり贈与をおこなって相続財産を減らしたとしても、妻が亡くなったときの相続人たちにかかる相続税が増えてしまう可能性があります。妻の税負担は軽減できても、二次相続における相続人の子どもたちの税負担が大きくなるかもしれません。

目先の相続税だけでなく、二次相続における相続税に関しても考慮して、おしどり贈与が最適かどうか判断しましょう。

おしどり贈与についてよくある質問

最後に、おしどり贈与についてよくある質問についてQ&A形式でお答えしていきます。

おしどり贈与に関するよくある質問は、以下の通りです。

  • 住宅ローンが残っている場合はどうなる?
  • 贈与された配偶者が申告前に死亡した場合はどうすればいい?
  • おしどり贈与は別居していても利用できる?
  • おしどり贈与のあとに離婚したらどうなる?

4つの疑問を解決し、おしどり贈与を行うべきかどうかの検討を進めましょう。

住宅ローンが残っている場合はどうなる?

おしどり贈与で譲り渡す不動産に住宅ローンが残っている場合、税負担が重くなる可能性があります。

贈与税は、おしどり贈与する不動産の時価から住宅ローンを控除した金額をもとに算出されます。通常、時価のほうが路線価や固定資産税の評価額よりも高くなるため、贈与税算出における不動産評価額は高くなる傾向です。

そのため、不動産の時価や住宅ローンの額によって、贈与税の負担が大きくなってしまいます。

また、住宅ローンの返済を条件に不動産をおしどり贈与した場合、住宅ローンの金額で不動産を売却したとみなされるため注意しましょう。つまり、譲渡益が発生するため、贈与者に対して所得税や住民税が発生する場合があります。

住宅ローンが残っている不動産をおしどり贈与しようと考えている場合は、どれくらいの住宅ローンが残っているのかを確認し、贈与税や所得税、住民税がどのように変化するか事前に確認しておきましょう。

さらに、住宅ローンが残っている不動産には抵当権が設定されているため、金融機関への確認が必要です。抵当権設定されている不動産の所有者が変わった場合、新たに所有者となった人から抵当権解除を求めたところ、訴訟問題に発展したケースがあります。

そのため、借入先の金融機関に所有権を夫、あるいは妻へ移転させようとしている旨を伝え、問題ないか確認するようにしましょう。

贈与された配偶者が申告前に死亡した場合はどうすればいい?

贈与された配偶者が贈与税の申告前に亡くなった場合、亡くなった方の相続人が代わりに申告を行います。

このとき、贈与された配偶者が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告しなければなりません。期限内に申告すれば、おしどり贈与の控除が適用されます。

おしどり贈与は別居していても利用できる?

おしどり贈与は、別居している夫婦も利用できます。同居しているかどうかが要件に含まれていないからです。

また、おしどり贈与によって取得した居住不動産にも夫婦2人が同居しなければならない決まりはありません。

おしどり贈与のあとに離婚したらどうなる?

おしどり贈与をしたあとに離婚をしたとしても、贈与が無効になることはありません。ただし、口頭で贈与契約を交わした場合、贈与が完了していなければ撤回される可能性があります。

贈与契約は書面で交わすと撤回できないと民法で定められているため、第三者から見ても契約内容がわかるように贈与契約書を作成することをおすすめします。

おしどり贈与が夫婦に必要かどうかしっかり判断しよう

おしどり贈与とは、婚姻関係が20年以上経過している夫婦間で使える2000万円までの控除制度のことです。長年連れ添った配偶者に対して安心した暮らしをしてもらうために活用を検討する方は少なくありません。

しかし、相続税の配偶者控除の非課税枠が大きいため、おしどり贈与による税金対策の効果が得られるケースは限られます。おしどり贈与をした場合としなかった場合のシミュレーションをするには、さまざまな税対策の知識が必要です。

また、相続税対策や相続トラブル回避のためにできる生前対策はおしどり贈与に限りません。相続に詳しい専門家であれば、さまざまな選択肢を提示してくれます。家族構成や資金状況に合わせて最適な方法を選び、家族に資産を残しましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年8月14日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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