不動産の生前贈与は相続より有利になる?メリット・デメリットを徹底解説!

公開日:2023年9月12日

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不動産を確実に特定の人へ譲り渡したいときに、役立つのが生前贈与という手段です。土地や建物は利用範囲が限られていたり、物理的な分割が難しかったりするため、生前に名義変更しておけば所有者をはっきり示せます。本記事では不動産を生前贈与するメリット・デメリットや手続きの流れ、注意点についてわかりやすく解説します。生前贈与すべきかどうかの検討要素として参考にしてください。

不動産の生前贈与とは

不動産の生前贈与とは、生きているうちに所有している不動産を別の人に譲り渡すことです。個人から個人へ財産を無償で譲り渡す行為を「生前贈与」と呼びます。

譲り渡す側である「贈与者」と譲り受ける側の「受贈者」の双方の合意をもって贈与は成立します。つまり、一方的に贈与者が「息子に不動産を譲る」と主張しても、贈与は成立しません。

一般的に、生前贈与は相続税対策のために行われます。生きているうちに遺産の対象となる財産を他の人に譲り渡しておくことで、遺産が減り、結果的に相続税も減るという仕組みです。

しかし、贈与と相続のルールをしっかりと理解しておかなければ、贈与税と相続税が二重に課税されてしまったり、贈与の方が費用がかかってしまったりと損してしまうかもしれません。そのため、制度の内容を理解したうえで、贈与すべきかどうかを判断すべきです。

また、近年では贈与における税制改正が進んでおり、生前贈与のメリットが感じにくくなってしまいます。令和6年1月1日以降から施行されるため、税制面のメリットを多く享受するには早めの生前贈与をおすすめします。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

不動産を生前贈与するメリット

不動産を生前贈与するメリットは、主に5つあります。

  • 確実に指定の人へ不動産を譲り渡せる
  • 相続税対策になる場合がある
  • 配偶者控除が使える
  • 賃料収入を受贈者に渡せる
  • 認知症対策になる

順番に確認しましょう。

確実に指定の人へ不動産を譲り渡せる

生前贈与は贈与者と受贈者で贈与契約を締結して成立させるため、確実に指定の人へ不動産を譲り渡すことができます。

もし、生前贈与をしないまま亡くなってしまった場合、遺言書で相続する人を指定することは可能です。しかし、不動産の価値が大きく、ほかの遺産しかもらえない相続人たちが不公平に感じて、相続人同士で揉める原因になりかねません。

また、遺言書がなかった場合には、遺産分割協議によって遺産の分け方が話し合われます。不動産は物理的に分割できないことから相続人同士の争いに発展しやすく、トラブルの元です。

このように、不動産を遺産として残さないためにも生前贈与は役立ちます。

相続税対策になる場合がある

不動産を生前贈与すれば、相続税対策ができる可能性があります。

たとえば、将来値上がりしそうな不動産を値上がり前に生前贈与すれば評価額が低い状態で税額が算出されます。もちろん、相続税と贈与税では税額が異なりますが、大きな値上がりが期待できるのであれば、値上がる前に贈与税を支払う方が安く済む場合があります。

また、不動産以外にも多くの財産を所有していると、相続人に大きな相続税の負担がかかるかもしれません。一部の不動産を生きているうちに贈与することで、相続税を少なくできるでしょう。

ただし、不動産の生前贈与が相続税対策に有効かどうかは、法定相続人の数や財産の状況によって判断が異なります。専門家に相談し、個別に判断してもらいましょう。

生前贈与についてお困りの方へ_専門家をさがす

配偶者控除が使える

以下の要件すべてに該当する場合、贈与税の配偶者控除としてその年の課税価格から2000万円が控除されます。

  • 婚姻期間が20年以上の配偶者である
  • 居住用不動産またはその購入資金の贈与である
  • 贈与を受けた翌年3月15日までに贈与された住居に住んでおり、引き続き住む見込みがある

自宅の評価額が2000万円に収まるのであれば、贈与税を払わずに生前贈与できます。

賃料収入を受贈者に渡せる

賃貸不動産がある場合、生前贈与することで賃料収入を受贈者に渡せます。

賃貸不動産を持ち続けていると収入が財産として蓄積し続けてしまい、結果的に相続税の対象となってしまいます。しかし、配偶者や子どもに生前贈与しておけば、賃料収入は受贈者の財産です。

賃料収入は、贈与にも相続にも該当しないため、贈与税も相続税もかかりません。このように節税対策にも大きなメリットがあります。

認知症対策になる

意思能力があるうちに不動産を譲り渡すことは、自身の認知症対策になります。

認知症が進行して意思能力が低下すると、不動産の管理・売却ができなくなってしまいます。成年後見制度を使えば財産を保護してくれますが、生活費捻出のための売却であっても家庭裁判所の許可が必要です。

また、遺言能力がない時点で作成された遺言書も無効とみなされてしまい、財産の相続先を指定できません。

このような事態に陥る前に同居している子どもや、信頼できる親族に自宅を譲り渡すことで、認知症対策をする人もいます。

不動産を生前贈与するデメリット

不動産を生前贈与すると、デメリットもあります。デメリットも十分に理解しておかなければ、損する可能性もあるでしょう。

不動産を生前贈与するデメリットは、以下の4つです。

  • 相続時よりも名義変更に費用がかかる
  • 贈与税の税率は相続税よりも高い
  • 小規模宅地等の特例は適用されない
  • 一度贈与をしたら取り消すことができない

順番に確認し、デメリットを理解したうえで生前贈与をするべきか判断しましょう。

相続時よりも名義変更に費用がかかる

不動産の名義を変更する際にかかる費用が相続時と比べて高くなります。法定相続人が不動産を取得する際には、不動産取得税は不要で、登録免許税も安く済みます。

一方、贈与の場合だと不動産取得税が発生し、登録免許税も相続と比べて高いことを理解しておきましょう。それぞれの税率は以下の通りです。

贈与相続
不動産取得税固定資産税評価額の2分の1に対して3%(※軽減措置を適用)発生しない
登録免許税固定資産税評価額に対して2%固定資産税評価額に対して0.4%

固定資産税評価額が1800万円の不動産を贈与したときと相続したときの費用の差は、以下の通りです。

<不動産取得税>

  • 1800万円×1/2×3%=27万円

<登録免許税>

  • 1800万円×(2-0.4%)=28万8000円

1800万円の不動産を贈与した場合、相続したときと比べて合計55万8000円も多く税金がかかることがわかります。

贈与税の税率は相続税よりも高い

贈与税の税率は相続税よりも高く設定されています。基礎控除を使えば税率を気にする必要はありませんが、基礎控除を超えた分にはそれぞれに税金がかかります。

相続した財産が1000万円以下であれば税率は10%ですが、暦年課税の贈与税の特例税率だと600万円超え・1000万円以下に対する税率は30%です。

このように、同じ評価額の不動産であれば、相続したときの方が発生する税金は少ないです。

小規模宅地等の特例は適用されない

当然ですが、小規模宅地等の特例は生前贈与において適用されません。あくまでも、小規模宅地等の特例は相続税における特例だからです。

小規模宅地等の特例を使えば、土地の評価額を最大80%下げられます。「被相続人と同居している家を引き継ぐ」「被相続人の事業を引き継ぐ」といった要件を満たすのであれば、相続した方が税金を抑えられます。

ただし、どちらが良いかはケースバイケースのため、税理士に相談して判断することを検討しましょう。

一度贈与をしたら取り消すことができない

一度生前贈与すると、あとから取り消すことができません。生前贈与はお互いの合意をもって成立するため、双方の関係が良好であることが前提です。しかし、数年経っても関係が良好のままであるとは限らないでしょう。

たとえば、同居してくれているからと同居している家を生前贈与をしたとします。なかには、高齢になったにもかかわらず介護も手伝ってくれない子どももいます。介護・療養の費用を捻出したくても名義が息子になっているため家の売却ができない、といったトラブルが起きるかもしれません。

一度贈与してしまった財産は、不動産に限らず取り戻すことは不可能です。本当に不動産を贈与してしまっても良いのか、よく検討しましょう。

不動産を生前贈与した方が良いケース・しない方が良いケース

メリット・デメリットを踏まえて、不動産を生前贈与した方が良いケースは以下の通りです。

  • 土地開発計画や市街化区域編入の予定があって大幅な値上がりが見込める場合
  • 賃貸収入によって高い利益を産み続けるマンションや土地の場合
  • 同居している子どもに実家の管理を任せたい場合
  • 事実婚のパートナーや婚外子などの法定相続人以外に家を与えたい場合
  • 工場や山林、農地などの事業用資産を特定の人に継がせたい場合

一方で、以下のようなケースでは相続した方が不動産を譲り受けた人の負担が少なく済みます。

  • 不動産の値上がりの見込みがない場合
  • 遺産総額が基礎控除額を下回る場合
  • 不動産が特定の人に渡らなくても良いと思っている場合

「少しでも負担を減らしたい」といった理由で生前贈与を考えているのであれば、税金の専門家である税理士に相談しましょう。贈与税も相続税も、ご家庭によって事情が異なるため一概に「こちらの方が安い」と言い切ることができません。

細かな計算や使える控除・特例を加味したうえで、結論を出しましょう。

不動産を生前贈与する際の手続きの流れ

不動産を生前贈与する際の手続きの流れのイメージ

不動産を生前贈与する際の流れは、以下の通りです。

  1. 必要書類を取得する
  2. 贈与契約書を締結する
  3. 所有権の移転登記を行う
  4. 税金の申告・納税をする

流れに沿って詳しく確認しましょう。

1.必要書類を取得する

まず、不動産の生前贈与のために必要な以下の書類を取得しましょう。

  • 登記事項証明書
  • 登記済証(不動産の権利書)
  • 固定資産評価証明書
  • 贈与者の印鑑証明書(発行から3か月以内)
  • 受贈者の住民票

これらの書類は、贈与契約書を作成する際や所有権の移転登記を行う際に必要です。法務局や市町村役場で取得できます。

2.贈与契約書を締結する

つづいて、贈与契約書を作成して締結しましょう。不動産の所有権の移転登記の際には登記原因証明情報を提出しなければなりません。贈与の事実を証明するために贈与契約書を登記原因証明情報として提出します。

贈与契約書には、以下の内容を記載しましょう。

  • 贈与者の氏名・住所
  • 受贈者の氏名・住所
  • 贈与日
  • 贈与財産の種目・内容・金額
  • 贈与の方法
  • 贈与者・受贈者の署名と実印による捺印
  • 200円の収入印紙の添付

作成方法は自由で、手書きでもパソコンでも問題ありません。

3.所有権の移転登記を行う

所有権の移転登記は法務局で行います。この際、所有権移転登記申請書を作成する必要があります。所有権移転登記申請書は、法務局の窓口やWebサイトから入手が可能です。

また、登記の際には登録免許税が発生します。計算は、以下の通りです。

登録免許税=固定資産税評価額×2%

税額相当分の収入印紙を申請書に貼って納めます。

4.税金の申告・納税をする

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2つの課税方式があります。

暦年課税方式を採用する際、贈与を受けた年の1月1日〜12月31日までに受け取った財産の合計額を申告しなければなりません。非課税枠110万円が設定されており、贈与総額から110万円を差し引いた部分に対して贈与税が発生します。税率は課税価格に対して10〜55%です。

暦年課税方式における贈与税の計算方法は、以下の通りです。

贈与税額=(贈与を受けた額−110万円)×税率−控除額

一方、相続時精算課税方式を採用する際、2500万円までの贈与は非課税です。2500万円を超えた部分に対して一律20%の贈与税が発生します。ただし、令和5年度の税制改正によって令和6年1月1日以降の贈与については、毎年110万円の基礎控除が設けられることが決定しました。

一見、有利に思えますが、贈与額は相続税の課税対象に含まれるため、節税対策には向きません。相続時精算課税を使うための要件もあるため、注意しましょう。

また、不動産取得税は登記から4〜6か月程度で納税通知書が届きます。不動産取得税の税率は、以下のように定められています。

宅地・土地住宅
原則評価額×4%評価額×4%
軽減措置評価額×1/2×3%評価額×1/2×3%

軽減措置は、平成8年から令和6年3月31日までに取得した場合に要件を満たしていると適用されます。

「不動産を生前贈与するときの費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

不動産を生前贈与する際の注意点

不動産を生前贈与する際には、以下のような注意点があります。

  • 持ち戻しが適用されると相続税対策にならない
  • 贈与された側に贈与税が発生する
  • 相続時精算課税だと贈与時点の不動産評価が固定されてリスクになりうる

3つの注意点について理解したうえで生前贈与をしましょう。

持ち戻しが適用されると相続税対策にならない

相続開始から遡って3年の間に、暦年課税で生前贈与された財産は持ち戻しが行われ、「もともと相続財産だったもの」として相続税が計算されます。実際に返却する必要はありませんが、相続税の対象となるため相続税対策になりません。

ただし、配偶者控除の非課税枠に該当する財産に関しての持ち戻しは免除されます。

ちなみに、令和5年度の税制改正によって、持ち戻しの期間が3年から7年に変更されることが決まりました。令和6年1月1日以降の贈与から適用され、令和9年1月1日以降に発生した相続から持ち戻し期間が徐々に延長されます。

贈与された側に贈与税が発生する

贈与された側に贈与税が発生することを理解しておきましょう。贈与を受けた事実を申告していなければ、脱税の疑いがかかります。

年間110万円の基礎控除の範囲内であれば申告は不要ですが、不動産の贈与において110万円で収まるケースは稀です。また、特例を適用させたい場合にも申告が必要です。贈与された年の翌年2月16日〜3月15日までに税務署で手続きをしましょう。

相続時精算課税だと不動産評価は贈与時点で固定されてリスクになりうる

相続時精算課税で生前贈与された不動産は、相続発生時に相続税の対象の財産だとみなされます。このとき、遺産としての評価額は「贈与時の評価額」で固定されるため注意しましょう。

たとえば、生前贈与をした不動産の評価額が5000万円だったにもかかわらず、相続したときには地価が下落して評価額が3000万円に下がっている可能性は十分に考えられます。しかし、遺産としての評価額は5000万円のままです。生前贈与をしなければ課税額が下げられたと後悔するかもしれません。

一方で、相続時に不動産の評価額が高まっている場合であっても、生前贈与時点での評価額が採用されます。このように相続時の評価額によってはリスクが生まれると理解しておく必要があります。

ちなみに、令和5年度の税制改正によって、評価方法についての変更がされました。土地・建物が災害によって被害を被った場合には、贈与時ではなく相続時に評価をし直すこととなっています。これは令和6年1月1日以降の贈与に適用されます。

税制改正前の駆け込み贈与なら専門家に相談しよう

不動産を生前贈与するメリットはたくさんあるものの、相続を選んだ方が税負担が軽減されるケースも少なくありません。

しかし、令和5年度における税制改正を理由に駆け込み贈与が増加しています。令和6年1月1日以降の贈与から持ち出し期間が延長されるため、長期的な税金対策が必要となるためです。

一方で、相続時精算課税に毎年基礎控除110万円が設定されたり、災害を受けた不動産の評価額の見直しの特例が作られたりと、有利になる内容も税制改正に含まれます。

税負担軽減のために不動産を生前贈与するべきかどうかは、税金の専門家である税理士の意見も参考にすることをおすすめします。ご家庭の事情や資産状況に合わせて適切なアドバイスをしてもらえるからです。

ぜひ、生前贈与を活用して、配偶者や子どもの安定した生活を守りましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年9月12日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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