死後離婚とは、死亡した配偶者の血族との関係性を断つ手続きです。義理の両親や親戚との関係性を断ちたいという場合の選択肢となりますが、関係性を断てるというメリットだけでなく子どもにも影響するなどデメリットもあります。この記事では、死後離婚の意味や相続との関連性、メリット・デメリット、手続きの方法などをわかりやすく解説します。
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死後離婚とは
死後離婚とは、配偶者の死後に配偶者の血族との姻族関係を終了させる手続きです。
婚姻による配偶者の血族(親や兄弟姉妹など)との姻族関係は、配偶者と死別した場合でも終了せず継続されます。たとえば、夫の両親・兄弟姉妹は妻にとって姻族であり、夫が死亡しても義理の親・兄弟姉妹との姻族関係は続きます。「義理の家族との姻族関係を終了させたい」となった場合に行うのが、死後離婚の手続きです。
なお、死後離婚は正式な法律上の呼称ではありません。正式には、「姻族関係終了届」と呼ばれる届出を自治体の役場に提出し、姻族関係を終了させる手続きです。配偶者の死後に姻族関係を終了させることから、死後離婚と呼ばれています。
近年、死後離婚を選択するケースは増加傾向にあります。政府統計の総合窓口「e-Stat」の戸籍統計による死後離婚(姻族関係終了)件数の推移は以下の通りです。
年度 | 届出数 |
---|---|
令和5年度 | 3929 |
令和4年度 | 3780 |
令和3年度 | 3595 |
令和2年度 | 3747 |
令和元年度 | 4344 |
平成30年度 | 5071 |
平成29年度 | 6042 |
平成28年度 | 4964 |
平成27年度 | 3493 |
平成26年度 | 2802 |
平成25年度 | 2743 |
参考:戸籍統計|e-Stat
平成29年をピークに令和3年まで減少していましたが、令和4年・5年と増加傾向です。一時期減少に転じたとはいえ、令和5年の姻族関係終了件数は3929件と10年前に比較し大幅に増加していることも分かります。
死後離婚の増加には、配偶者死亡後の義理の親の介護問題があると推測されます。夫が死亡後でも妻に夫の両親の介護が任されるケースは少なくなく、特に年配の世代は「嫁が義理の親の面倒をみる」という風潮がいまだに根強く残っているものです。
また、配偶者の死後も姻族と関係性を続けるのがストレス・関係性が悪化したなどのケースもあるでしょう。このような状況下での姻族関係継続への反発が少なからずあることが、死後離婚の増加につながっていると考えられます。
死後離婚(姻族関係の終了)をするメリット・デメリット
死後離婚では法的・経済的なメリット・デメリットはほとんど生じませんが、精神的なメリット・デメリットが生じやすいという特徴があります。メリット・デメリットや姻族との関係性・自身の性格などを踏まえて検討することが大切です。
死後離婚のメリット・デメリットをみていきましょう。
死後離婚のメリット
死後離婚のメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 義理の両親の介護に関わらずにすむ
- 義理の両親との同居を解消しやすい
- 仲の悪い姻族との関係を断ち切れる
- 祭祀継承者にならずにすむ
義理の両親の介護に関わらずにすむ
本来、配偶者には義理の両親や兄弟姉妹を扶養する義務はなく、介護する必要もありません。しかし、介護は嫁にという考えはまだ多く、夫の死後も配偶者が介護するケースは少なくありません。死後離婚することで姻族関係を終了できるので、介護の考えを押し付けられることもなくなるでしょう。
また、義理の親・兄弟姉妹の扶養は「特別な事情がある」と裁判所で判断されると、配偶者にも義務が生じます。そのため、義理の両親などが申し立てると扶養義務を負う可能性があるのです。姻族関係を終了させることで、扶養義務を負う可能性もゼロにできます。
同居を解消しやすい
配偶者の死後もその両親と同居関係が続くケースは少なくありません。現状では介護の必要がなくても、同居を続けることでいずれ介護に関わらなければならない状況になる可能性はあるでしょう。
また、配偶者という立場上、同居を解消したくても解消できないケースもあります。姻族関係を終了させることで同居する理由もなく、同居解消を切り出しやすくなります。
仲の悪い姻族との関係を断ち切れる
姻族間関係を終了させることで、それ以降仲の悪い姻族と関わる必要はなくなります。たとえ、配偶者の生前中は姻族との関係が良くても、仲介となる配偶者が死亡すると関係性が悪くなるケースは珍しくありません。
配偶者のいないなか、いつまでも姻族と関係性が続くことにストレスを感じる人もいるでしょう。姻族との今後の関係性に悩む場合は、死後離婚を選ぶのも1つの手となります。
祭祀継承者にならずにすむ
祭祀継承者とは、お墓や仏壇を管理し法要などを取り仕切る人です。夫婦のどちらかが死亡した場合、残された配偶者が祭祀継承者になるのが一般的ですが、夫婦の関係性が悪い・墓が遠方にあるなどで祭祀継承者になるのが負担な人もいます。
死後離婚すると、基本的には祭祀継承者になることはなくなります。また、自分が亡くなった場合でも義理の両親のお墓に入る必要もありません。
ただし、配偶者が祭祀継承者にならない場合、新たに祭祀継承者を決める協議が必要になる可能性がある点には注意しましょう。
死後離婚のデメリット
死後離婚のデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 死後離婚は取り消せない
- 姻族に頼れなくなる
- 自分の子どもに悪影響が出る恐れがある
それぞれ見ていきましょう。
死後離婚は取り消せない
姻族関係終了届が一度受理されると取り消しはできません。義理の両親と姻族関係を復活させたい場合は、養子縁組が必要になります。取り消しできない点は意識し、慎重に手続きするかを判断しましょう。
姻族に頼れなくなる
姻族の扶養義務がゼロになる反面、姻族側の助けを得ることもできなくなります。一方的に姻族関係を終了させた場合、義理の両親としても心象は良くないものです。仮に、自分が介護や援助・日常的なサポートが必要な状況になっても、義理の両親の助けは期待できなくなります。
また、配偶者の墓参りや法要・親族の集まりに参加しにくくなる点もデメリットです。関係性が良好・子どもがいるといったケースでは、デメリットの影響も大きいので注意しましょう。
自分の子どもに悪影響が出る恐れがある
姻族関係を終了させても、自分の子どもと配偶者の血族との関係性は終了しません。しかし、死後離婚後に子どもと祖父母などとの関係が疎遠になるケースは多いでしょう。祖父母や叔父叔母と子どもとの関係性が良好な場合、疎遠になることに子どもが不信感や不満を抱く可能性があります。反対に、祖父母側が子どもに対してまで印象を悪くしてしまい関係性が悪化する恐れもあるでしょう。
子どもにとっては大人の事情に巻き込まれ「親が亡くなったのにわざわざ離婚する」「祖父母などとの関係性が断たれる」という状況になってしまいます。子どもと姻族の関係性も考慮して死後離婚を選択するかは慎重に判断することが大切です。
死後離婚(姻族関係の終了)が相続や遺族年金などに与える影響
死後離婚しても基本的に相続・遺族年金への影響はありませんが、相続の場合は代襲相続などが関わってくるので影響を理解しておくことが大切です。以下で、「相続」「遺族年金」「死亡保険金」への影響を詳しくみていきましょう。
死後離婚と相続の関係
死後離婚しても配偶者の財産は相続でき、仮に相続後に死後離婚する場合であっても返す必要もありません。仮に配偶者の血族から「死後離婚したなら財産を返せ」と請求された場合でも応じる必要はありません。
また、子どもがいるケースでは配偶者の両親が死亡した場合は、子どもが代襲相続で祖父母の財産を相続することも可能です。なお、配偶者の両親の財産を他方の配偶者は相続できませんが、他方の配偶者にはもともと相続権がないため、死後離婚の影響ではありません。
ただし、相続放棄・特別寄与料の請求を検討している場合は以下の点に注意しましょう。
死後離婚しても相続放棄にはならない
死後離婚しても配偶者の財産の相続権には影響ないため、マイナスの財産も相続することになります。死後離婚したからマイナスの財産を背負わなくていいわけではないので、マイナスの財産が多い場合は別途相続放棄の検討が必要です。
特別寄与料の請求はできない
特別寄与料とは、長年介護に無償で携わっていたなど相続人の財産の維持・増加に貢献した人が相続人に請求できる金銭のことです。特別寄与料は、相続人でない親族(相続人の配偶者など)が、被相続人に貢献した場合に相続人に対して請求できます。
ただし、死後離婚すると義両親の親族ではなくなるため、特別寄与料の請求ができなくなるのです。
【例】
- 死後離婚前:被相続人Aに生前に寄与していた場合、息子Bの配偶者Cから息子Bやその他の相続人に対して特別寄与料を請求できる
- 死後離婚後:離婚してしまうと特別寄与料を請求する権利を失うため、寄与していたとしても特別寄与料を請求することはできない
特別寄与料の請求を検討している場合は、死後離婚に注意する必要があります。
死後離婚と遺族年金の関係
死後離婚しても遺族年金は受け取れます。遺族年金とは、国民年金・厚生年金に加入している人がなくなった際に、その人に生計を維持されていた遺族に支給される年金です。支給対象者には被相続人に生計を維持されていた以下のような人が該当します。
年金の種類 | 支給対象者 |
---|---|
遺族基礎年金 | 子のある配偶者 子 |
遺族厚生年金 | 「子のある配偶者・子」「子のない配偶者」「父母」「孫」「祖父母」の順で最も順位の高い人 |
死後離婚しても配偶者としての地位は変わらないため、要件を満たせば受給可能です。
また、以下のようなケースでは遺族年金の受給資格の失権や支給停止となりますが、死後離婚は失権要因に該当しません。
- 受給権者の死亡
- 受給権者の婚姻
- 直系血族・直系姻族以外の人の養子になった
- 夫の死亡時に30歳未満で子どものいない妻は受給権取得日から5年経過後に失権
- 支給を受けている人の所在が1年以上明らかではない
- 子どもが受給権を取得したとき
そのため、死後離婚した場合でも問題なく遺族年金を受け取れ、受け取った遺族年金を死後離婚後に返す必要もありません。
なお、遺族年金には国民年金からの遺族基礎年金、厚生年金からの遺族厚生年金がありますが、どちらも死後離婚に関わらず受給資格を満たしていれば両方とも問題なく受け取れます。
死後離婚と死亡保険金の関係
死後離婚したとしても配偶者としての地位は変わらないため、受取人に指定されていれば死亡保険金を受け取ることが可能です。
死後離婚の手続き方法(姻族関係終了届の提出)
死後離婚は、婚姻関係終了届を自治体の役場に提出して手続きします。以下では、手続きの流れや必要書類・費用について解説します。
手続きの流れ・方法
死後離婚は必要書類を、届出人の本籍地か住所地の役場に提出することで手続きできます。また、配偶者の死亡届提出後であれば提出の期限はなく、どのタイミングでも手続き可能です。
届出には配偶者の血族の許可も必要なく、単独で申請できます。本人以外が届出する場合でも委任状は必要なく、郵送での提出も可能です。
届出が受理されれば戸籍に「姻族関係終了」と記載され、手続きが完了します。なお、手続き終了に伴い、姻族にその旨が通知されることはありません。
必要書類・費用
必要書類は以下の通りです。
- 姻族関係終了届
- 本人確認書類
- (本籍地以外で届出する場合)届出人の戸籍謄本
- 届出人の印鑑
姻族関係終了届は役場の窓口やホームページで取得できます。提出する自治体によっては必要書類が異なる場合もあるので、事前に確認するようにしましょう。
また、手続き自体は無料でできます。ただし、戸籍謄本などが必要になった場合は別途、書類取得費が必要です。
死後離婚(姻族関係の終了)の注意点・知っておきたいこと
死後離婚の注意点・知っておきたいことは、以下のとおりです。
- 手続きすると戸籍に記載される
- 旧姓に戻す場合は復氏届が必要
- 自分の子どもと配偶者親族との関係は継続する
- もともと同じお墓に入る義務や扶養義務はない
- 死後離婚しなくても再婚はできる
- 死後離婚の取消はできない
- トラブルを回避するためのポイント
手続きすると戸籍に記載される
姻族関係終了手続きが完了すると戸籍に「姻族関係終了」と記載されます。
手続き時に姻族に通知はされませんが、戸籍を見れば一目で死後離婚したことはバレてしまうでしょう。特に、姻族に何も言わずに手続きしたことがバレると、姻族側の印象が悪くなりトラブルに発展する恐れもあるので注意が必要です。
旧姓に戻す場合は復氏届が必要
死後離婚しても配偶者の戸籍に入った状態には変わらないため、姓は変わりません。旧姓に戻したい場合は、別途役場で「復氏届」を提出する必要があります。復氏届を提出することで、婚姻前の戸籍か新しい戸籍に入ることが可能です。
ただし、復氏届で旧姓に戻せるのは届出した本人だけであり、子どもの姓・戸籍は変更されないので注意しましょう。子どもの姓を変更し自分の戸籍に入れたい場合は、家庭裁判所で許可を得たうえで「入籍届」の手続きが必要になります。
自分の子どもと配偶者親族との関係は継続する
前述のとおり、死後離婚では自分と姻族の関係は終了しますが、姻族と子どもの関係は終了しません。仮に配偶者側の両親(子の祖父母)が死亡すれば、子は代襲相続で財産を相続できます。一方、子どもと姻族の関係は続くので、子どもが祖父母の面倒を見るように頼まれる可能性はあるでしょう。
自分と姻族の関係は終了しても祖父母などと子どもとの関係は続いているという状況に、子どもが悪影響を受ける恐れがある点も考慮することが大切です。
もともと同じお墓に入る義務や扶養義務はない
死後離婚を選択する大きな理由に「介護をしたくない」「同じお墓に入りたくない」があります。
しかし、そもそも配偶者には義理の両親を扶養する義務もなく、同じお墓に入る必要性もありません。そのため、上記の理由だけであれば死後離婚する必要がないケースもあるでしょう。とはいえ、地域の習慣や姻族の考えに従わざるを得ない状況もあるため、説得材料の1つとして死後離婚は有効といえます。
死後離婚しなくても再婚はできる
死後離婚を選択する理由には、再婚というケースもあります。死別後の再婚の場合、死後離婚しなければ再婚相手の血族との姻族関係と死亡した配偶者の姻族関係が両方あるため複雑な状況にもなりかねません。そのため、再婚を機に死亡した配偶者の血族との関係性を断ち、新たに再婚者との姻族関係をスタートさせたいと考える人も少なくないのです。
ただし、再婚に伴い死後離婚する必要はありません。姻族関係が2つになることにデメリットを感じないのであれば、そのまま再婚しても問題ないでしょう。
死後離婚の取消はできない
死後離婚は手続き後に取り消しできません。子どもがいるケースでは死後離婚することでデメリットも生じやすいため、本当に手続きしても問題ないかは慎重に判断する必要があります。
トラブルを回避するためのポイント
死後離婚でトラブルにならないためには、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 配偶者の死亡後一定期間空けてから手続きする
- 子どもに事前に説明する
- 姻族に事前に説明する
- 専門家に相談する
配偶者の死亡後すぐに死後離婚すると角が立ちやすくなります。1周忌くらいまで空けてから手続きするのを検討するとよいでしょう。また、死後離婚は子どもに影響が出やすく、姻族との関係性の悪化にもつながりやすいものです。
事前に子どもや姻族に説明してから手続きすることでトラブルを避けやすくなるでしょう。死後離婚を希望する理由によっては死後離婚せずに解消できるケースもあります。死後離婚すべきか、トラブルにならないか心配なら専門家に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。
死後離婚を検討するなら専門家に相談を
配偶者の血族との姻族関係を終了させる死後離婚(姻族関係の終了)をすることで、姻族との関係を断つことができます。一方、配偶者との関係性は変わらないため、死後離婚が相続や遺族年金などに影響することはありません。介護やお墓の不安・関係性の悪い姻族と関係を断ちたいという場合に死後離婚を検討するとよいでしょう。
ただし、死後離婚は子どもに悪影響が出る恐れがあります。また、理由によっては死後離婚が必要のないケースもあるので、事前に専門家に相談して適切な選択ができるようにしましょう。