生前整理とは?基礎知識や基本的な流れと注意点・同時に検討しておくべきことを解説

公開日:2022年6月30日|更新日:2023年1月4日

自分が死んだ後、自分の持ち物や財産はどうなるか想像したことはあるでしょうか。亡くなった後、それらモノは家族などの相続人に引き継がれます。しかし、引き継いだモノの対応や処分で家族に大きな負担がかかってしまうケースも珍しくありません。そのような家族の負担を減らすために「生前整理」を検討している方も多いでしょう。生きているうちに、生前整理でしっかりと準備しておくことで家族の負担を減らし、また、自分の希望を叶えられます。この記事では、生前整理の基本から流れ、プロに依頼する場合の費用の目安などを分かりやすく解説していきます。

生前整理の基礎知識

「終活」への注目が高まり、生きているうちに死後に向けた準備を進めている方も多いでしょう。その準備の一つとして「生前整理」があります。

生前整理とは

生前整理とは、その名の通り「生きているうちに身の回りを整理すること」です。家の中を片付けることをイメージされる方も多いでしょう。断捨離のように不要なものを処分していくことも生前整理の一つです。しかし、単にモノを片付けるだけが生前整理ではありません。

  • 相続財産の整理と遺言書の作成
  • デジタル製品の整理
  • エンディングノートで介護や医療・葬儀の希望をまとめる

財産を整理していくことや、葬儀や医療の希望をまとめていくことも生前整理です。また、近年は死後のデジタル製品の問題も多くあります。

パソコンやスマホのパスワードやSNSのアカウントなら、本人以外では対応できずに残された家族が対応できないというケースが増えているのです。このような事態に対応するためにも生前整理を進めておくことが必要になるのです。

生前整理の大きな目的としては次のようなことが挙げられます。

  • 家族の負担を減らす
  • 死後に自分の希望を叶える
  • 老後の生活を快適にする

家族の負担を減らす

自分の死んだ後、自分の財産や持ち物は相続人が引き継ぐものです。しかし、財産や持ち物が多い場合や処分の仕方がわかないものなどがあると、それらの対応が複雑になることで、相続する家族が大きな負担を抱えるケースがあります。また、遺産がある場合では相続時にトラブルに発展し、家族や親族の関係性が悪化することも珍しくありません

モノを減らし自分の身の回りをすっきりさせ、対応方法を指示しておくことで、家族の負担を減らせられるでしょう。

死後に自分の希望を叶える

死後に自分のモノや財産がどのように扱われるかは自分で把握できるものではありません。また、生前中にそれらを伝えておかなければ、自分の希望通りに扱ってもらえない可能性も高くなるでしょう。

遺言書やエンディングノートで死後の希望について意志表示しておくことで、死後であっても自分の希望を叶えることが可能です。

老後の生活を快適にする

生前整理で、身の回りの不要なものを処分していくと家の中がすっきりとして生活しやすくなります。高齢になって不要なものが多いと、処分するにも体力がなくなるものです。体力のあるうちに処分を進めることで、老後の生活もしやすくなるでしょう。

また、処分していくうちに持ち物や思い出・今後の生活について向き合えるものです。人生を振り返って今後の人生を考える機会にでき、老後の生活も充実させられるでしょう。

生前整理はいくつからでも始められます。人間はいつどんな理由で亡くなるのかは予測がつきませんが、必ずいつかはその時が訪れるものです。体力も気力も余裕があるうちに、死後のことを考えて準備を進めることは重要なことでもあります。「死後の準備」というと一見すると暗い印象がありますが、「自分の希望を叶えるため」に必要なことが生前整理と言えるでしょう。

生前整理をおこなうメリットとデメリット

生前整理のメリットとしては、次のようなことが挙げられます。

  • 万が一に備えられる
  • 相続トラブルの回避
  • 自分の人生に向き合える

生前整理して遺産の場所や取り扱いなどを明確に示しておくことで、遺された家族でもスムーズに対応できます。また、相続財産を巡ってトラブルになることが予測される場合、財産の分割方法を指定しておくことでトラブル回避にもつながるでしょう。生前整理を通して自分のそれまでの人生と今後の人生に向き合え、その後の人生を充実させることにもつながります。

反対に、デメリットとしては次のようなことがあります。

  • 手間や時間・コストが掛かる

不要なモノを処分しようにも、すべてのモノをひとつずつ片付けていくには、かなりの時間と手間がかかるものです。プロの手を借りることも可能ですが、もちろん費用が必要です。高齢になってから生前整理を進めようとしても、思うように進められない可能性があるでしょう。元気なうちから少しずつ生前整理を進めておくことが重要です。

生前整理・老前整理・遺品整理は何が違う?

生前整理と同様な言葉に「老前整理」「遺品整理」があります。これらは、すべて「終活」の一種ですが、意味合いは異なるものです。

老前整理は、老いる前に身辺の整理をして老後に備えることをいいます。自分の身の回りを整理する点は生前整理と同じですが、生前整理がどちらかというと「家族のため」であるのに対し、老前整理は「自分のため」という意味合いが強くなります。老前整理では、元気なうちに家の中のモノを整理し、老後に安全・快適に生活できる環境を整えていくものです。

対して、遺品整理は亡くなった後に遺族がモノを整理整頓することを言います。死後に行う整理のため、家族が処分の仕方を判断しなければならず、対応に悩むケースも多いものです。遺品整理は体力的にも経済的にも大きな負担となる可能性があるので注意しましょう。

生前整理をおこなう基本的な流れと注意点

生前整理の基本的な流れは以下の通りです。

  • ものの整理
  • 相続財産整理と目録作成
  • 遺言書作成
  • エンディングノートの作成

ものの整理

まずは、家財などの所有物を整理していきます。不要なものと必要なものを選別しながら、家の中を片付けていきましょう。選別のポイントには次のようなことがあります。

  • 1年以内に使ったものだけ残すといった基準を決めておく
  • 捨てるのが惜しい場合は誰かにあげることや売ることを選択肢に入れる
  • 判断が付かないものは保留スペースにまとめてから処分を判断する

相続財産整理と目録作成

身の回りのものが整理できたら、相続財産を整理していきます。現金や預貯金・有価証券・貴金属・不動産と言った相続財産の対象となるものを、把握して整理していきましょう。また、把握した財産は一覧にまとめて目録を作成しておくことをおすすめします

相続が発生した場合、財産目録がなければ相続人は相続財産の把握からしなければならず、多くの手間と時間が掛かります。財産目録を作成することで、相続人の負担を大きく減らせるでしょう。

財産目録を作成することで、財産がどれくらいあるのかを早い段階で理解でき、相続税対策を取ることも可能になります。
不動産の処分や生前贈与など、財産を整理していくことで相続税の大きな削減もできます。財産目録の作成や相続税対策は、調査の時間や法的な知識も必要になるので、専門家に相談することも検討するとよいでしょう。

遺言書の作成

相続財産を自分の希望通りに譲るには遺言書の作成が有効です。遺言書では「誰に」「どの財産を」「どれくらい」譲るのか指定できます。また、特定の人に財産を多く残すことや、特定の人を相続人から排除することも可能です。

相続財産を巡っては、相続人間でトラブルに発展するケースは珍しくありません。遺言書でどのように相続財産を分割するのかを指定することで、トラブルを避けられるでしょう。「平等に分けてくれればいい」「揉めるほどの財産はない」と言う場合でも、死後に何があるかは分からないものです。

一度相続でトラブルが起きてしまうと、兄弟関係や親子関係が悪化してしまう可能性もあります。遺される家族のためにも遺言書を作成しておくことをおすすめします。

ただし、遺言書は内容に不備があると、無効になる場合があります。また、遺留分を侵害してしまうと相続人間でトラブルになるケースもあるものです。トラブルなくスムーズに相続できるように、作成するうえでは弁護士などの専門家に相談することを検討するとよいでしょう。

エンディングノートの作成

遺言書は遺産の分割について示したものです。遺言書では記載していない、細かい希望や情報はエンディングノートに記載していきましょう。

  • 葬儀の方法
  • 訃報の連絡先
  • 介護や医療に関すること
  • 形見分けや財産の取り扱い

エンディングノートに自分の死後の希望を書いておくことで、家族も対応がスムーズにできるでしょう。ただし、財産についてはエンディングノートに記載しても法的な効力がないので注意が必要です。財産の分割方法を指定する場合は、遺言書で作成する必要があります。

生前整理の注意点

生前整理の注意点としては、次のようなことがあります。

  • 元気なうちにスタートする
  • 長期計画ですすめる
  • 自分の意志を反映できる方法を選ぶ

元気なうちにスタートする

生前整理は体力・気力・時間が必要です。家の中を片付けると言っても、ものを多く持っていればそれだけ選別に時間が掛かります。老人ホームなどの入所のため家具など家財道具まで処分することを視野に入れていれば、片付けはより大掛かりになるでしょう。高齢になってからこれらをスタートすると、体力面でも難しくなります。できるだけ元気なうちにスタートすると余裕を持って進められるでしょう。

また、1人では大変な場合など家族を巻き込むのも一つの手です。家族で一緒に進めることで、自分の希望や財産の場所などを共有するきっかけにもなります。

生前整理は20代・30代から検討する人も増えているように、生前整理はいつからでもスタートできます。一つのタイミングとして子どもの自立や会社の定年など、自分の時間が持てるようになった時期でスタートするのもよいでしょう。

長期計画ですすめる

生前整理は、短期間で整理しきれるものではありません。自分のものの管理や死後の希望などは時間を掛けてじっくり取り組むことも必要です。短期間で済ませようと思うと、気力が続かず途中で断念してしまいたくなることもあるでしょう。「今日は○○だけする」と小さな目標を立てて少しずつ確実にしていくことが大切です。

自分の意志を反映できる方法を選ぶ

生前整理の大きな目的の一つが「死後に自分の希望を叶えること」です。そのための手段は慎重に選ぶ必要があります。

エンディングノートに記載することも重要ですが、エンディングノートでは法的な効力がないため希望に沿ってもらえない可能性もあります。遺言書にしても、書き方次第では無効になってしまい意志を反映できない可能性があるものです。きちんと自分の意志を反映させる方法としては、公正証書遺言書を書くことや専門家に相談することをおすすめします。

生前整理をおこなう際に同時に検討しておくべきこと

生前整理をする際には、将来の認知症対策や相続税対策も検討しておくことが重要です。次のようなことも一緒に検討しておくとよいでしょう。

  • 家族信託
  • 生前贈与
  • 任意後見契約

家族信託

家族信託とは、老後や介護に備えて家族に財産の管理や処分を依頼する契約のことです。例えば、不動産の場合、所有者には不動産を自由に所有できる権利があります。この所有権を信頼できる家族に委託することで、家族は不動産の管理を所有者に代わってできるようになるのです。

家族信託は、遺言書や後見制度と併せて利用することで、より柔軟で自由度の高い財産管理ができるというメリットがあります。

生前贈与

相続税対策として生前贈与があります。生前贈与では、生きているうちに特定の人に財産を譲れるため、自分の希望する人に確実に財産を譲ることが可能です。また、自分の財産を生前贈与で減らすことで、相続時に相続財産が減少し相続税を抑えることも期待できます

ただし、生前贈与の場合贈与を受けた側に贈与税が発生する点には注意が必要です。「暦年贈与の基礎控除」や「相続時精算課税制度」、また贈与税の特例などを上手に活用することで、贈与税を抑えられるので検討するとよいでしょう。

生前贈与は、贈与の仕方を間違えると贈られる側に高額な贈与税の負担がかかってしまいます。生前贈与を検討している場合、専門家に相談して適切な方法で贈与することが重要です。

任意後見契約

任意後見契約とは、将来認知症などで判断能力が低下した場合に備え、財産管理してくれる後見人を指定しておく契約のことです。

任意後見人に指定された人は、契約者に代わって財産を適切に管理してくれるので、使い込みや手続きができないなどの事態を防げます。任意後見人は家族以外にも弁士などの専門家も指定できるので、検討してみるとよいでしょう。

生前整理をプロに依頼する場合は?

生前整理が一人ではなかなか進まないという場合は、プロに依頼することも可能です。特に高齢の場合は、自分で生前整理を進めていくことは困難になるため、プロへの依頼を検討することも大切です。

生前整理の場合、項目によって次のようなプロに依頼できます。

  • ものの片付け:遺品整理業者(生前整理業者)や整理収納アドバイザーなど
  • 不用品の処理や整理:不用品処理業者
  • 法的手続き:弁護士や司法書士・税理士

プロに依頼するときにかかる費用相場

プロに依頼する場合の費用の目安は以下の通りです。

  • ものの片付け:日額1万円程
  • 不用品の処理や整理:数千円~数十万円
  • 法的手続き:3万円~30万円以上

プロに依頼する場合、何をどこまで依頼するのかによって大きく費用が異なります。また、依頼する業者によっても費用が異なるので注意が必要です。複数の業者を比較して慎重に検討するようにしましょう。

プロに依頼するメリット

プロに依頼するメリットとしては、次のようなことがあります。

  • スムーズに生前整理を進められる
  • 作業の手間と時間を減らせられる
  • 法的な手続きなどを間違いなくできる

プロに依頼することで、1人では難しい生前整理も手間や時間を掛けずにスムーズに進められます。また、自分では判断の難しいことでも適切なアドバイスを受けながら進められるでしょう。

生前整理の中でも財産や遺言書に関わることは法律が絡んでくるため、法律の知識が必要になります。特に遺言書などは法に沿っていなければ無効になるため注意が必要です。弁護士に依頼することで、法的に無効にならない遺言書を作成でき相続時のトラブル回避にもつながるでしょう。

プロに依頼するデメリット

プロに依頼するデメリットには以下のようなことがあります。

  • 費用がかかる
  • 悪徳業者もいる

プロに依頼する場合、費用が発生します。家の不用品丸ごと整理のように大掛かりになると費用も高額になるものです。できる範囲は自分で進めておくと費用を抑えられるでしょう。

また、不用品回収業者や遺品整理業者などの中には、悪質な業者もいるので注意しなければなりません。低い見積額を提示して契約後にオプションとして料金を加算するケースや、引き取った不用品を勝手に売却や不法投棄するケースもあるのです。

依頼する場合は、複数の業者を比較して信頼できる業者を選ぶようにしましょう。

まとめ

生前整理の基本や流れ、プロに依頼した場合の相場などをお伝えしました。生前整理で身の回りをすっきりさせ死後の備えをすることは、決してネガティブなことではありません。

自分の希望を叶え、残される家族の負担を軽減するための前向きな準備でもあるのです。生前整理は多くの時間や手間が必要になり、気力・体力のある早い段階からスタートすることが大切です。自分一人で進めるのが難しい場合や法的な手続きが必要な場合は、専門家に相談しながら進めることでスムーズに生前整理を進められるでしょう。

著者紹介

相続プラス編集部

相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年6月30日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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