相続放棄を検討している方の中には、「手続きをしても却下されてしまうのではないか」と不安に感じている方もいるでしょう。相続放棄が認められなければ、親族同士の相続争いに巻き込まれたり、多額の負債を抱えてしまったりする可能性があるためです。
しかし、結論として相続放棄が認められない可能性は低いといえます。もっとも、遺産の取り扱いや誤った手続きにより、相続放棄ができなくなってしまう場合もあるため、手続きの正確さが重要です。
本記事では、相続放棄が認められない事例や、認められなかった場合の対処法について詳しく解説しています。相続放棄の手続きを適切に行い、債務の負担や相続トラブルを円滑に回避したい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
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相続放棄は認められることが多い
相続放棄とは、被相続人の財産や借金を一切引き継がないための手続きであり、家庭裁判所へ申述を行うことで成立します。申述すればかならず相続放棄が認められるというわけではなく、要件を満たしていない場合には申述が却下されることもあります。
もっとも、2024年(令和6年)の司法統計によれば、相続放棄の申述が受理された総数309,375件のうちで、却下された件数は402件にとどまります。つまり、却下率は約0.13%であり、この数値から見ても相続放棄は多くの場合認められることがわかるでしょう。
つまり、実務上は相続放棄が却下される割合は事例は低いと言えます。
なお、実務においては、3か月以内に相続放棄の申述をしなかったことについて相当の理由がないと明らかに判断できる場合に限って申述が却下され、それ以外の場合は申述を受理する取扱いが定着しています。
ただし、家庭裁判所で申述が受理されたからといって、相続放棄の有効性が確定するわけではありません。例えば、訴訟の中で相続放棄の効力が争われ、結果として相続放棄が無効とされる場合もあります。
そのため、申述が受理されたことと相続放棄が有効になることは、かならずしも一致しないことにも留意が必要です。
相続放棄が認められない主な事例は?
相続放棄の申述の却下率は約0.13%と述べましたが、当然却下される事例もあります。具体的には、法律の要件を満たしていない場合や手続き上の不備がある場合など、申述の受理要件を満たしていない事例が主になっています。
ここからは、実際にどのような事例において、相続放棄の申述が却下されるのかを解説します。
財産を処分してしまい単純承認とみなされた
民法では、相続人が相続財産を処分・隠匿・消費などした場合、法定単純承認が成立すると定められています。法定単純承認とは、一定の行為をしたことで相続を受け入れたものと法律上みなされ、自動的に単純承認が成立する制度です。
法定単純承認が成立するのは、相続財産を売却した場合に限らず、財産の価値や権利関係に影響を与える行為全般が該当します。例えば、財産を使う、隠す、債務の返済に充てるといった行為などによっても、法定単純承認が成立する場合があります。
ここからは、どのような行為によって法定単純承認が成立してしまうか、具体的な事例をもとに紹介します。
被相続人の財産を隠匿した
民法では、相続財産の全部または一部を隠匿したとき、単純承認が成立することが定められています。
ここでいう「隠匿」とは、単に占有しているだけではなく、被相続人の債権者などにとって財産の所在をわからなくする行為を指します。
実際の裁判例では、相続人が被相続人の遺品のほとんどを持ち帰り、その中に新品同様の洋服や毛皮など相当の財産的価値を有するものが含まれていた事例について、相続財産の隠匿にあたると判断されたものがあります。
この事例からわかる通り、たとえ形見分けのつもりであっても内容や量によっては隠匿と評価される可能性があるため、注意が必要です。
参考:判例タイムズ1054号 ※東京地判平成12年3月21日判決の事項
遺品整理で高価なものを処分した
遺品整理などで、相続財産を他人に贈与したり自ら受け取ったりする行為は、相続財産の処分に該当するため単純承認とみなされる可能性があります。ここでいう処分とは、相続財産を使ったり、減らしたり、自分のものとして扱うような行為のことです。処分に該当するかどうかの判断は、財産的価値の有無によって判断されます。
過去の裁判例では、和服15枚、洋服8着、ハンドバッグ4点、指輪2個を相続人のひとりに引き渡した行為について、「処分」にあたるとして単純承認とみなされた事例などがあります。
一方で、背広上下、冬オーバー、コート、椅子2脚を得た行為は、法定単純承認に当たらないと判断した事例もあります。
このように、遺品整理が単純承認に該当するかどうかは、財産の価値や量、全体の相続財産との関係などを踏まえて個別に判断されます。一般的には経済価値が乏しい範囲にとどまる場合は問題になりにくい一方、高価なものや多量の財産を処分した場合には処分とみなされやすい傾向にあります。
参考:判例時報878号 ※松山簡裁昭和52年4月25日判決の事項、判例タイムズ204号 ※山口地裁徳山支部昭和40年5月13日判決の事項
被相続人の借金の一部を相続財産から返済した
被相続人の借金を相続財産から返済する行為は、法定単純承認における処分に該当すると判断される可能性があります。
実際の裁判例でも、相続人が被相続人の遺産から債務を弁済した行為について、法定単純承認に該当すると判断された事例があります。
一方、相続財産の中から債務を返済したのではなく、相続人自身の財産から被相続人の債務を返済した場合は、相続財産の処分にはあたらず法定単純承認は成立しないと判断した裁判例もあります。
これらのことから、債務の返済資金がどこから出ているかによって取り扱いが異なるので、やむを得ず支払いを行う場合にはどの財産を原資とするかにも十分に注意が必要です。
また、そもそも相続放棄を検討している段階であれば、安易に返済を行うこと自体に慎重になる必要があります。返済をしてしまうことで単純承認とみなされるおそれがあるため、すぐに支払うのではなく、支払いの延期を相談したり、他の相続人と対応を協議したりすることも重要です。
参考:判例タイムズ1054号 ※富山家庭裁判所昭和53年10月23日判決の事項、家庭裁判月報51巻5号 ※福岡高裁宮崎支部昭和53年10月23日決定の事項
被相続人が受取人の保険金を受け取った
生命保険金は、原則として受取人固有の財産とされます。そのため、受取人に指定されていれば、相続放棄をしても受け取ることができます。なぜなら、保険金請求権は被相続人が亡くなったことで受取人に発生する権利であり、遺産分割を経ることなく受取人に直接帰属するからです。
ただし、すべての生命保険金が受け取れるわけではなく、その契約内容によって扱いは異なります。
前述の通り、生命保険金の受取人が特定の法定相続人に指定されている場合です。このような場合には、保険金は受取人固有の財産として帰属するため、相続放棄をしても受け取ることが可能です。
一方、保険金の受取人が被相続人自身となっている場合、その保険金は亡くなったあとで一度遺産に組み込まれることになります。そして、保険金は相続によって承継される財産として遺産分割の対象となるため、相続放棄をした人は受け取ることができません。
相続放棄の期限の3か月を過ぎてしまった
相続放棄には期限があり、原則として相続の開始を知ったときから3か月以内に手続きを行う必要があります。この期間のことを、熟慮期間といいます。
相続人は熟慮期間の中で、相続放棄をするのか限定承認するのかを判断し、家庭裁判所へ申述しなければなりません。何も手続きをしないまま3か月を経過すると、法律上は相続を受け入れたものとみなされ、法定単純承認が成立します。
もっとも、相続財産の内容が不明で調査に時間がかかる場合などは、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間の伸長が認められることもあります。実際に、どのような場合に熟慮期間の伸長が認められるか知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

熟慮期間3か月を過ぎても相続放棄が認められた事例
相続放棄は原則として3か月の熟慮期間内に行う必要がありますが、例外的に期限を過ぎたあとでも相続放棄が認められる場合があります。ただし、熟慮期間経過後の相続放棄は家庭裁判所の裁量による個別判断となるため、かならずしも認められるわけではありません。
例えば、相続財産が一切ないと信じて何も手続きをせずに熟慮期間が経過し、その後になって初めて借金の存在を知ったような場合には、熟慮期間経過後の相続放棄が認められる場合があります。具体的には、長年交流のなかった親が亡くなり、財産はないと思い込んでいたところ、後日債権者から返済を求められて初めて債務の存在を認識した場合などです。
しかし、こうした場合でも一律で相続放棄が認められるわけではなく、「相続財産がないと信じたことに相当な理由があるか」などの事情をもとに、個別の事例に応じて判断がなされます。
家庭裁判所への申述書類に不備があった
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。この際、必要書類に不備があると家庭裁判所から補正を求められたり、場合によっては申述が却下されたりすることもあります。
申述の際は主な書類に加え、相続人の立場によって必要書類が異なるため、自身の状況に応じて確認することが重要です。相続放棄に必要な主な書類とは、以下のことを指します。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
これらの書類の不備を指摘されたにも関わらず対応しない場合や、申述後に家庭裁判所から送付される照会書に回答しなかった場合、申述が却下される可能性があります。
照会書では、相続開始を知った時期や相続放棄の意思の有無などが確認されるため、受け取った場合は速やかに対応しなければなりません。
よくある申述書類の不備の例
家庭裁判所に申述書類を提出しても、内容に不備があると受理されない場合があります。特に多いのは、次のような場合です。
- 戸籍謄本や住民票の除票などの添付書類が不足している
- 住所や氏名の記入漏れや誤記があり、戸籍の表記と一致していない
- 申述書への押印漏れがある
もっとも、これらの不備があった場合でも、追加書類の提出や訂正によって補完することが可能です。そのため、不備を指摘されたら放置することなく、速やかに対応することが重要です。
相続放棄が認められなかった場合の対応

もし相続放棄が家庭裁判所に認められなかったとしても、打つ手がまったくないわけではありません。却下の理由や状況によっては、再度認められる可能性があるほか、代替策によって負担を軽減できる場合もあります。
以下では、相続放棄が認められなかった場合に検討すべき具体的な対応策について、解説していきます。
専門家に相談する
相続放棄が認められるかどうかの判断には、民法や裁判例に基づく正確な知識が必要であるため、自分だけで判断すると適切な対応がとれない場合があります。
しかし、相続に詳しい専門家であれば、熟慮期間の起算点がどこになるのか、法定単純承認が成立しているのかといった点について、具体的な事情に即して対策を検討できます。
また、現状の事実関係を法的に整理したうえで、相続放棄が難しい場合の代替手段も含め、適切な解決策を相談できる点も専門家に依頼する大きな利点です。
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即時抗告の申立てをする
家庭裁判所が相続放棄の申述を却下した場合でも、その判断に対して不服があるときは即時抗告が可能です。即時抗告とは、裁判所の判断に対して一定期間内に不服を申し立て、上級裁判所に再度判断を求める手続きです。
相続放棄の却下に対する即時抗告は、原則として決定の告知を受けた日から2週間以内に行う必要があります。上級審で相続財産の存在を知った時期などを立証できれば、熟慮期間の起算点が後ろにずらされ、相続放棄が有効と認められる可能性もあります。
ただし、2週間の期限を過ぎると不服申立てができなくなるため、即時抗告を検討する場合には迅速な対応が求められます。
債務整理をする
仮に相続放棄が認められず、多額の債務を相続してしまった場合には、返済によって生活が立ち行かなくなってしまう可能性があります。このような状況に陥ってしまった場合には、債務整理という選択肢があります。
債務整理とは、借金の減額や支払い方法の見直し、免除などを通じて経済的な再建を図る手続きです。中でも自己破産は、一定の要件を満たせば借金の返済義務が免除される手続きであり、債務の返済が困難な場合の有力な選択肢となります。
債務の金額が多い場合、生活を犠牲にしながら無理に返済を続けるのではなく、債務整理も含めた現実的な対応を検討することが重要です。
遺産分割協議で調整する
相続人が複数いる場合には、相続放棄ができなかった場合でも、遺産分割協議で負担を調整できる可能性があります。例えば、特定の相続人が債務を多く引き受ける代わりに資産価値が高い不動産などを相続し、バランスを図るという方法です。
ただし、このような合意はあくまで相続人同士の内部的な取り決めにとどまります。そのため、債権者は各相続人に対して法定相続分に応じた請求を行うことができ、相続人はその請求を拒否することはできません。
このような点を理解したうえで、遺産分割で十分に話合い、相続人全員が納得できる形で合意をとることが重要です。
相続土地国庫帰属制度を利用する
資産価値の低い土地を相続してしまった場合、管理や費用の面で大きな負担となる可能性があります。このような土地は「負動産」と呼ばれ、社会問題になっています。
このような資産価値の低い土地を相続してしまった場合、相続土地国庫帰属制度の利用も選択肢となります。
相続土地国庫帰属制度とは、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらえる制度です。本制度の利用が認められれば、土地の管理責任や固定資産税の負担から解放されます。
相続土地国庫帰属制度の利用条件について
しかし、本制度を利用するには土地の上に建物が存在しないこと、担保権が設定されていないこと、境界が明確であることなどの条件を満たす必要があります。
また、申請時には手数料として1万4,000円が必要となるほか、土地の種類や面積に応じて定められた負担金の納付も必要です。
このように、相続土地国庫帰属制度は土地の管理負担から解放されるという大きなメリットがある一方、満たすべき条件や費用負担が生じるデメリットもあります。これらのメリット・デメリットを踏まえたうえで、自身の状況にとって本制度の利用が適切かどうかを比較検討することが重要です。
相続放棄が認められない場合は早めに専門家に相談をしよう
相続放棄は基本的に認められることが多い手続きですが、財産の処分や期限の経過、手続き上の不備などによって認められない場合もあります。特に、知らないうちに単純承認とみなされる行為をしてしまったり、熟慮期間を過ぎてしまったりすると、あとからの対応が難しくなるため注意が必要です。
もっとも、相続放棄が認められなかった場合でも、手段がなくなるわけではありません。例えば、即時抗告によって判断を争う方法や、債務整理によって負担を軽減する方法、遺産分割協議による調整など、状況に応じた選択肢があります。
重要なのは、自己判断で対応を進めるのではなく、現状を正確に把握し、適切な手段を選択することです。相続は一度の判断が大きな影響を及ぼすため、不安を感じている場合は早めに専門家へ相談し、円満な解決を目指すことが大切です。
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