認知症になっても相続放棄できる?手続きの方法や注意点、対処法をご紹介

公開日:2024年3月7日

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相続人に認知症の方がいる場合、どのように相続放棄をすればよいのかお悩みではありませんか。結論から言うと、認知症の方は意思能力がないとされているため、自分で相続放棄することができません。本記事では、認知症の方が相続放棄をする方法や期限の考え方について解説します。注意点も説明しているため、相続人に認知症の方がいる場合は参考にしてください。

相続人に認知症の方がいる場合の相続放棄

認知症の相続人の方は、自分で相続放棄をすることができません。そもそも相続放棄は相続人自らの意思で行うべき行為であり、自分以外の第三者に強制されてはならないことが大前提です。

しかし、認知症を発症している方は意思能力がないとされるため、自らの意志で相続放棄をする・しないを判断できません。万が一、相続放棄をしてしまうと不利益を被ってしまう可能性が高いと法律上考えられています。たとえば、他の相続人が財産をより多く相続したいがために、認知症の相続人に嘘をついて相続放棄させてしまう可能性があります。

また、相続放棄だけでなく、遺産分割協議へ参加して遺産の分け方について話し合うことも不可能です。

認知症の方が相続放棄をする方法

認知症の方が相続放棄をするには、成年後見制度を利用する必要があります。選任された成年後見人が相続放棄をしたほうがよいと判断した場合に、認知症の相続人に代わって手続きを行います。

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって1人では十分な判断ができない方の財産管理や身上監護をするための制度です。

日常生活における詐欺被害や本人以外の家族による金銭の使い込みなどを成年後見人が防ぎます。相続においては、遺産分割協議や相続放棄などによって不利益を被らないように成年後見人が認知症の相続人に代わって判断と手続きを行います。

家族や親族が後見人になることも可能ですが、弁護士や司法書士など法律に詳しい専門家が選任されるケースも少なくありません。

「成年後見制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

後見人選任の手続き

成年後見制度の利用を開始するためには、家庭裁判所にて申し立て手続きをおこなって成年後見人を選任します。申し立ての際、以下のような書類が必要です。

  • 医師による成年後見制度用診断書
  • 後見登記されていないことの証明書
  • 本人の戸籍謄本
  • 本人と後見人候補の住民票

申し立てを行う家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に限られます。

また、申し立てには、以下の費用が必要です。

  • 申し立て費用:800円(収入印紙)
  • 登記費用:2600円
  • 郵便切手代:3200〜3500円程度(家庭裁判所によって異なる)
  • 医師の診断書:5000〜1万円程度

家庭裁判所における審理・審判を経て後見人が選出され、後見の登記を行うと後見が開始します。親族への照会作業や本人調査、認知症の度合いを調べるための医師による鑑定などが行われるため、後見人選任の審判が下りるまでに2〜5か月程度かかると考えておきましょう。さらに、審判が下りて審判確定までには2週間程度かかります。

このように、申し立てから後見制度の利用開始までに長期間かかるため、覚えておきましょう。

後見人を選出する場合の熟慮期間の考え方

通常、相続放棄ができる熟慮期間は、自分に相続があったことを知ったときから3か月間です。しかし、認知症の相続人は、そもそも自分が相続人であることを理解できない状態だと判断されるため、相続放棄の期間が開始されません。

相続人に代わって成年後見人が相続放棄を行う場合の熟慮期間は、成年後見人が選任されて、後見人が相続人になったことを知ってから3か月間です。

つまり、成年後見人の選任をするための手続き期間中に相続放棄の期限を迎えることはありません。心配せず、成年後見人の選任後、手続きを進めましょう。

後見人が相続放棄する方法

成年後見人が相続放棄をする方法は、認知症の相続人に代わって相続放棄の申請を行います。手続きの流れは相続人本人が行うときと同様です。

異なる点は、相続放棄の申述書の書き方です。法定代理人等の項目の「2 後見人」に丸を付け、法定代理人(成年後見人)の住所・電話番号・氏名(フリガナ)の記入をします。申述人の記名押印には相続人本人ではなく、法定代理人(成年後見人)の記名押印をするため注意しましょう。

申述書や必要書類の準備ができたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出して手続きを行います。

認知症の相続人が相続放棄をする際の注意点

認知症の相続人が相続放棄をする際の注意点は、主に4つあります。

  • 成年後見人が相続放棄をするとは限らない
  • 利益相反の場合は相続放棄ができない
  • 「成年後見人=相続人」のケースでは相続放棄の順番に注意する
  • 成年後見人への報酬が発生する

あらかじめ確認し、注意点に留意して手続きを進めましょう。

成年後見人が相続放棄をするとは限らない

相続放棄のために成年後見人を選任したとしても、成年後見人が相続放棄を積極的に選択するかどうかはわかりません。

成年後見人は、本人の財産を守る役目を持っています。本来受け取れるはずの相続財産を拒否することは役目に反する行為といえます。そのため、基本的に成年後見人を選任しても相続放棄はできないと考えておきましょう。

もちろん、親族が成年後見人になっている場合も同じです。家庭裁判所の管理下にある以上、本人の利益を奪う相続放棄は認められません。

そのため、「長男が事業を継ぐから財産を集約させたい」「複数人名義にする不動産の登記手続きが面倒だから」といった理由で、認知症の相続人を相続放棄させることはできないと考えておきましょう。

もちろん、借金やローンなどの負債がプラスの財産を上回っているケースでは、相続人の財産が脅かされることとなるため相続放棄が認められます。

利益相反の場合は相続放棄ができない

認知症の相続人本人と成年後見人が利益相反の関係にある場合、成年後見人による相続放棄の手続きができません。

一般的に、成年後見人になるための資格は不要で、以下に該当しない人物であれば誰でも成年後見人になれます。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所から法定代理人などを解任された経験のある人
  • 破産者
  • 本人に対して裁判をしたことのある人や、その配偶者、直系血族
  • 不正な行為・著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある人
  • 行方不明者

そのため、認知症の相続人の兄弟姉妹や息子・娘が成年後見人になることも可能です。しかし、家族が成年後見人として相続放棄の手続きをする場合、後見人も相続人だと利益相反になってしまいます。

たとえば、父が亡くなり、法定相続人が母と息子の2人だったとき、母が認知症で息子が成年後見人となっていると、先に認知症の相続人の相続放棄を手続きすることはできません。なぜなら、母に相続放棄をさせることで息子が財産を独り占めする可能性があるからです。

認知症の相続人が相続放棄をしたほうがよい場合、成年後見人には弁護士や司法書士などの法律の専門家に依頼した方がスムーズに手続きを進められます。

「成年後見人=相続人」のケースでは相続放棄の順番に注意する

成年後見人も同じ被相続人の相続人の場合、利益相反の関係を解消した状態でなければ相続放棄の手続きが進められません。

たとえば、父が多額の借金を残して死亡し、認知症の母と息子が相続人だった場合を仮定しましょう。このとき、息子が母と同時または先に相続放棄をしていない限り利益相反となって、息子が母の後見人として相続放棄することができません。

そのため、息子自身が母よりも先に相続放棄を済ませておくと、利益相反の関係が解消されます。先に後見人が自分自身の相続放棄の手続きを済ませ、そのあと後見人の立場で認知症の相続人の相続放棄手続きを進めましょう。

成年後見人への報酬が発生する

成年後見人を選任すると、本人が亡くなるまで報酬が発生しつづけます。

専門家に依頼する場合、司法書士に依頼すると月8万円〜、弁護士に依頼すると月15〜25万円が相場です。報酬額は法律で定められていないため、誰に依頼するかによって大きく変動します。

後見人は相続放棄のためだけに選任するのではなく、本人が亡くなるまで財産管理を行う役割を担っています。そのため、相続放棄のために成年後見人を選任したつもりであっても、相続放棄の手続きが終わったからといって契約を途中で打ち切れないため注意しましょう。

いつまで後見人に報酬を支払い続けるかは本人の健康状態にもよりますが、思った以上に高額な報酬がかかってしまうことも考えられます。相続だけでなく、現在の生活環境や本人の財産状況などを総合的に考えて後見制度の利用を検討しましょう。

生前にできる対策

生前にできる対策のイメージ

相続人のなかに認知症の方がいる場合、生前にできる対策があります。以下の対策を参考に、自分にできることがあればぜひ実践しましょう。

  • 遺言書を作成する
  • 遺言執行者を設定しておく
  • 家族信託をする
  • 生前贈与をする

4つの対策について、詳しく解説します。

遺言書を作成する

まず、遺言書を作成しておき、どの財産を誰に相続させるかを決めておく方法です。

遺言書で相続の内訳を記載しておけば、遺産分割協議をしなくても不動産や銀行口座の名義変更の手続きができます。認知症の方が相続人のなかにいても相続手続きをスムーズに進められるため、有効な対策といえます。

ただし、財産の記載漏れがあると、相続先が指定されていなかった財産についての遺産分割協議を行わなければなりません。遺言書には財産の記載漏れがないよう注意して作成しましょう。

遺言執行者を設定しておく

遺言執行者を選定し、遺言書のなかに記載をしておく方法もあります。遺言執行者とは、遺言書の内容に従って被相続人の意思を実現する役割を持つ人です。

遺言執行者は、遺言書通りに財産の分配や登記手続きを実行できます。そのため、認知症の方が相続人のなかにいたとしても、成年後見人を選出せずに確実に財産を相続してもらえます。

家族信託をする

家族信託を活用して承継先を決めておけば、遺産分割協議なしに相続手続きを進められます。たとえば、父が息子と家族信託をしておけば、父が死亡したあとに契約内容通りに信託財産の管理・運用・処分をする権利が発生します。

家族信託には遺言書と同様の効果があり、次に財産を継がせる人を定めることが可能です。また、次の後継者や、その次の後継者以降も指定できます。

生前贈与をする

認知症の相続人に財産を残したくない場合、生きているうちに不動産や預貯金などを他の相続人に生前贈与する方法もあります。生前贈与は、贈与者と受贈者の同意をもって契約を成立させるため、思い通りに財産を分配できます。

また、遺産分割協議による相続では法定相続人にしか財産を分配できませんが、生前贈与であれば孫や知人、法人などにも贈与が可能です。

ただし、意思能力のない認知症の方がおこなった法律行為は無効とされます。つまり、認知症の方は、贈与契約の受贈者として契約を交わすことができません。認知症の方に財産を残したい場合は違う対策を選択しましょう。

認知症の相続人が相続放棄する場合は専門家に相談しよう

認知症の相続人が、自分で相続放棄の手続きをすることはできません。認知症の相続人が相続放棄をした方がよいと考える場合、まずは専門家に相談しましょう。相続放棄をするには成年後見人の選任が必須ですが、成年後見人を選任しても状況によっては相続放棄できない可能性があります。

そのため、あらかじめ法律に詳しい専門家に相談し、成年後見制度を使って相続放棄ができるかどうかを判断してもらいましょう。万が一、成年後見制度を利用しても相続放棄できなかった場合でも、本人が亡くなるまでの間報酬が発生し続けてしまいます。

そもそも「本当に相続放棄するべきか」という視点も含めて専門家に相談し、最適な方法を選択しましょう。

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記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年3月7日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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