事故物件の相続はデメリットばかり?相続することになった方に向けた注意点と対処法

公開日:2025年2月20日

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事故物件を相続しても、活用や売却が難しく負担ばかりかかる恐れがあります。さらに、事故物件でない不動産と比べて価値が下がってしまいやすいのにも関わらず、相続税は下がらないといった点にも注意が必要です。事故物件のデメリットや注意点を理解したうえで相続するかを判断することが大切です。この記事では、事故物件の基本やデメリット・相続時の選択肢から売却時の注意点まで詳しく解説します。

事故物件とは

事故物件に対して「人の死があった不動産」という認識の方も多いでしょう。しかし、人の死といっても要因はさまざまであり、要因によって事故物件かどうかが判断されることも多いです。ここでは、事故物件の概要を見ていきましょう。

事故物件とは何を指すのか

事故物件とは、告知義務のある「人が死亡した物件」を指すのが一般的です。正確に言えば「心理的瑕疵」のある物件を指します。

告知義務とは、不動産契約の際に買主・借主に告げなくてはならない不動産の不具合や問題です。とはいえ、どこまでの人の死なら告知義務があるかは判断が難しいところでしょう。同じ人の死といっても、殺人と老衰では印象が大きく異なります。

また、同じ死因でも「これくらいなら問題ない」と感じる人、「ちょっとのことでも嫌だ」と感じる人と受け取る側によっても異なります。そのため、人の死のある物件については告知義務を巡ってトラブルになるケースが少なくありませんでした。

そこで、国土交通省では令和3年に「人の死の告知に関するガイドライン」を制定し、告知義務の基準を定めたのです。ガイドラインでは、以下のような人の死は告知義務があるとしています。

  • 殺人
  • 自殺
  • 火災による死亡
  • 病死や不慮の事故死でも長期間放置された場合

一方、以下のような死は告知義務がありません。

  • 老衰や病死などの自然死
  • 階段からの転落や食事中の誤飲・入浴中の溺死など日常生活での不慮の事故死
  • 隣接する住戸での死亡
  • マンションなど集合住宅で通常使用しない共用部での死亡

なお、自然死や不慮の事故死には告知義務はありませんが、長期間放置された場合は告知義務が発生します。長期間がどれくらいを指すかは明確に定義されてはいませんが、特殊清掃やリフォームが必要になれば告知義務があるのが一般的です。

また、隣接する住戸での死亡やマンションなどの通常使用しない共用部での死亡と合わせて、買主・借主から問われた場合や社会的影響が大きいと判断される場合は告知義務があるとされています。

なお、ガイドラインは一般的な基準を取りまとめたものであり、法的ルールではありません。ただ、不動産取引時に不動産会社が取るべき対応としての位置づけであり、裁判などのトラブル時にはガイドラインに則っているかも判断基準とされます。

しかし、事故や事件が発生し搬送先の病院で亡くなった場合などガイドラインの対象のケースもいくつかあります。告知義務は判断が難しいため、悩む場合は弁護士や不動産会社など専門家へ相談することが大切です。

事故物件の心理的瑕疵とは

告知義務の発生する不動産の不具合や問題は瑕疵と呼ばれ、以下の4種類にわかれます。

  • 物理的瑕疵:土地や建物自体の欠陥
  • 法律的瑕疵:法律に違反・法律により制限がある場合
  • 心理的瑕疵:心理的に悪影響を与える欠陥
  • 環境的瑕疵:不動産を取り巻く環境に対しての欠陥

瑕疵の中でも代表的な、雨漏りやシロアリ被害・土壌汚染などは不動産自体の瑕疵であり物理的瑕疵に該当します。再建築不可物件のように、現行の建築基準法に違反する場合が、法律的瑕疵です。

一方、心理的瑕疵とは、購入や生活するうえで心理的に嫌悪感や抵抗感を与える瑕疵を指します。前述したような殺人や自殺など告知義務がある人の死があるケースです。

ちなみに、環境的瑕疵とは不動産自体には問題がなくても、周辺に火葬場などの嫌悪施設があるといった環境に問題がある不動産を指しますが、心理的瑕疵にまとめられるケースもあります。

事故物件は心理的瑕疵のある不動産ですが、他の種類の瑕疵も「訳あり物件」や「瑕疵物件」と呼ばれ通常の物件とは区別されるのが一般的です。また、心理的瑕疵に関わらず、これらの瑕疵は買主・借主の契約判断に大きく影響することから告知義務がある点にも注意しましょう。

事故物件を相続することによるデメリット

事故物件を相続することにはデメリットも多いため慎重な判断が必要です。ここでは、事故物件を相続するデメリットとして以下の3つを解説します。

  • 事故物件には告知義務がある
  • 買い手や借り手が見つかりにくい
  • 通常の不動産と同じ相続税が発生する

事故物件には告知義務がある

心理的瑕疵は告知義務があり、告知せずに取引を行うと契約不適合責任が問われ損害賠償請求や契約解除を要求されるなどのリスクがあります。そのため、相続した事故物件を売却や賃貸に出す場合は、相手方に正確に情報を提供し契約書にも明記しておくことが大切です。

また、人が死んでしまったのが過去のことであっても、告知義務があることがある点に注意が必要です。国土交通省のガイドラインでは、告知義務の期間を以下のように定めています。

  • 売買:時効なし
  • 賃貸:おおむね3年

売買の場合、告知義務の期間の定めがないため、かなり古い事案であっても告知が必要と考えられます。実際過去の判例では、50年を経過した事件で瑕疵が認められたケースがあるので「昔のことだから」と安易に判断してはいけません。

賃貸の場合は死が発生してからおおむね3年の期間としていますが、事件性や社会への影響によっては3年経過後でも告知が必要な場合があります。

事故物件の告知義務は期間や場所などの判断が難しいため、安易に自分で判断せずに専門家に相談することをおすすめします。

買い手や借り手が見つかりにくい

事故物件はいい印象を持たれにくいことから、買い手や借り手が見つかりにくくなります。買い手や借り手を見つけるためには、相場よりも価格を大きく下げることが必要になるでしょう。

死因によっても相場は異なりますが、死因別の価格への影響は以下の通りです。

死因価格への影響
賃貸殺人一次入居者:継続して入居する限り賃料40~60%減
二次入居者:5年程度は20~40%減
自殺20~40%減
売却(マンション)殺人40~60%減
自殺20~40%減、発見まで日数を要した場合は40~60%減

たとえば、通常なら3000万円で売却できる中古マンションが殺人で事故物件になれば1500万円ほどまで価格が下がることになります。しかし、事件性によっては価格を下げても買い手・借り手がつかないケースも少なくないでしょう。

通常の不動産と同じ相続税が発生する

事故物件であっても相続時には相続税の対象となります。また、心理的瑕疵は基本的に不動産の評価額の減少要因とはならないため、通常の不動産と同じ評価額で相続税が課税される点には注意が必要です。さらに、相続税だけでなく毎年発生する固定資産税についても減額とはなりません。

つまり、事故物件は売却時には価格が下がるのに、支払うべき税金は通常の不動産と同じとなるのです。とはいえ、事故物件は売却先を見つけるのが難しいケースが多いため、所有している期間中固定資産税などの維持費がかかり続ける点も覚えておきましょう。

事故物件を相続することになったらどうする?

事故物件を相続することになったらどうする?のイメージ

事故物件を相続予定の場合、以下の選択肢を検討できます。

  • 相続放棄する
  • 活用する
  • 売却する

相続放棄する

これから相続予定なら相続放棄することで事故物件を所有せずに済みます。一度相続してしまうと手放すのは容易ではないうえ、所有期間中もコストがかかるので検討するとよいでしょう。

ただし、以下の点に注意が必要です。

  • すべての財産の放棄が必要
  • 相続放棄の期限は3か月以内
  • 相続放棄しても保存義務が残るケースがある

すべての財産の放棄が必要

相続放棄してしまうと事故物件以外の相続財産も放棄しなければなりません。事故物件以外にも現預金がある、相続したい財産があるケースでは慎重に判断する必要があります。

反対に、事故物件以外に相続財産がほぼない・借金が多いというケースでは相続放棄が適しているでしょう。

相続放棄の期限は3か月以内

相続放棄は相続開始があったことを知った日から3か月以内の手続きが必要です。期限を超えてしまうと相続放棄が認められなくなります。状況によっては期限後も認められるケースがあるので、あきらめず専門家に相談してみるとよいでしょう。

とはいえ、期限後に相続放棄を認めてもらうのは容易ではありません。一方、期限内であれば大きな問題がなければ基本的に相続放棄が認められます。相続放棄を検討する場合は、できるだけ早く手続きするようにしましょう。

相続放棄後も保存義務が残るケースがある

相続放棄時点で、事故物件を占有していた人が相続放棄した場合は、次の相続人に事故物件を引き渡すか、相続財産清算人が専任されるまでの間に保存義務が残ります。別の相続人が事故物件の管理をスタートするか、相続人がいない場合は相続財産清算人が選任されるまでは、相続放棄をしても事故物件を管理しなければならないということです。

たとえば、被相続人の死亡で事故物件になった実家に相続人が一緒に暮らしていたケースが該当するでしょう。全員が相続放棄している・自分以外に相続人がいないといった場合は、家庭裁判所で相続財産清算人の選定が必要です。

ただし、保存義務があるのは相続放棄時点で現に財産を占有していた相続人です。実家であっても遠方に住んでいて管理や生活に関わっていないのであれば、相続放棄しても義務はありません。相続放棄の後の保存義務について判断が難しい場合は、専門家に相談して慎重に対応することが大切です。

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活用する

事故物件の活用方法としては、「住む」「賃貸に出す」が検討できます。事故物件であることが気にならず、すでに住んでいる・今後住む予定があるなら住むという選択をした方がシンプルで手間もコストもかからないでしょう。

自分で住まない場合は、賃貸に出すのもひとつの方法です。賃貸であれば毎月家賃収入を得られるので、固定資産税などのコストをカバーできる可能性があります。

ただし、事故物件は借り手がつきにくい点に注意が必要です。事故物件になった要因の程度にもよりますが、賃料を相場よりも落としても借り手がつかないケースも少なくありません。借り手がいない状態で保有し続けてもコストばかりかかるため、賃貸経営は慎重に判断するようにしましょう。

売却する

相続放棄や活用が難しいなら、売却して手放すのが現実的な選択肢となります。しかし、事故物件は不動産仲介会社による売却では買い手がつかない可能性があります。仲介会社だけではなく、訳あり不動産を専門に扱う不動産業者による買取も視野に入れることで、スムーズに手放せるでしょう。

また、前述の通り事故物件は売却時に告知義務があります。不動産会社に状況を正確に伝え、どのように売却すればいいかアドバイスをもらうとよいでしょう。

事故物件を売却するために気をつけたいこと

事故物件の売却時には、告知義務以外にも気を付けなければならない点がいくつかあります。ここでは、売却時に気をつけたいことを解説します。

通常の物件よりもコストがかかる

室内で亡くなっているため、清掃費用が通常の物件よりも高額になりがちです。とくに発見が遅れたケースでは、通常の清掃やハウスクリーニングではなく特殊清掃が必要になりコストも高くなります。

また、状況によっては床やクロスの張り替えなどリフォームが必要になるケースもあるでしょう。たとえ、室内の状況がそれほど悪くない場合でも、事故物件というだけで買い手のイメージは悪くなるので、リフォームしてイメージの一新を図るケースも少なくありません。

売却で得られる利益は少ない

売却できる場合でも売却額は通常の物件よりも大幅に下がるため、コストを考えれば利益はかなり少なくなってしまうでしょう。

また、買取の場合は仲介の価格よりもさらに売却額が下がる点に注意が必要です。一般的に買取価格は仲介の7~8割ほどの価格といわれており、事故物件ではそれより下がる可能性があります。とはいえ、仲介ではいつまでも売れないことを考えれば、売却額が下がっても買取ですぐに手放したほうがメリットとなるケースも多いでしょう。

譲渡所得税の申告に必要な契約書の取得が難しい

事故物件を売却し利益が出ると譲渡所得税が課税されるため、確定申告して納税が必要です。確定申告時には利益の計算や経費の証明のために、物件購入時の売買契約書や経費の領収書などを提出しなければなりません。

しかし、事故物件では居住者(被相続人)と相続人が疎遠で必要書類の場所が分からないケースも少なくありません。不動産売却時の譲渡所得税の計算では、売却する不動産を購入したときの費用を経費として計上できますが、契約書や領収書が提出できないと本来の購入価格を計上できません。この場合、概算法といって売却価格の5%を経費として計上することになりますが、実際より経費が少なくなりやすく、税負担が大きくなる可能性があるのです。

事故物件の相続についてよくある質問

最後に、事故物件の相続についてよくある質問をみていきましょう。

事故物件であることを伏せて売却や賃貸はできる?

意図的に事故物件であることを伏せて契約すると、告知義務違反となり損害賠償請求を受けるなど法的なリスクがあります。

死因や時期・売却か賃貸かによっても告知義務があるかは変わってきますが、安易に自分で判断するのはおすすめできません。プロに正確に状況を伝えてアドバイスをもらうようにしましょう。

事故物件であることを隠していてもバレる?

事故物件であることを隠してもバレると考えておくとよいでしょう。どんなに隠していても、近隣住民からの苦情や噂・事故物件サイト・不動産登記情報などで判明する可能性は十分あります。契約後にバレてしまうと契約不適合責任を問われるリスクがあるので、告知義務をきちんと守ることが大切です。

建物を取り壊して更地にしたらどうなる?

更地にすることでイメージが払しょくされ、建物のままより売却しやすくなる可能性があります。ただし、建物を解体しても告知義務はなくならない点には注意が必要です。

また、解体すると解体費用がかかるだけでなく、土地の固定資産税が跳ね上がる点にも気を付けなければなりません。更地にしたからといってすぐに売却できるわけではないので、解体するかは慎重に判断することが大切です。

事故物件の相続は専門家に相談を

これから家を買う・借りるというなら自分の選択次第で事故物件を避けられますが、実家が事故物件になったなど相続では事故物件を避けにくくなります。事故物件は相続しても売却が難しくコストがかかるので、所有するかは慎重な判断が必要です。

相続前であれば相続放棄も検討できますが、他の相続財産などとも比較して判断しなければなりません。相続後なら、活用や売却を検討することになるでしょう。売却する場合は、通常の仲介での売却が難しくなるので、事故物件など訳ありの不動産を専門的に取り扱う業者への相談をおすすめします。

事故物件の相続が発生したら、問題解決のために早い段階で専門家に相談するとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2025年2月20日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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