土地・不動産を相続するとき、どれくらいの費用がかかるのか気になっていませんか。不動産といってもマンションや借地、山林などによって相続にかかる費用は異なります。また、令和6年4月1日より相続登記が義務化され、様々な項目において費用がかかるため知っておかなければなりません。この記事では、土地・不動産相続にかかる費用や手続きについて詳しく解説します。
目次
不動産相続とは
不動産相続とは、不動産を相続する行為です。不動産には、土地や建物が含まれます。さらに細かく見ると、以下のような種類に分類できます。
- 土地:宅地・農地・山林・駐車場など
- 建物:一戸建て・マンション・アパート・店舗・事務所など
相続財産のなかでも、不動産は他の財産と比べて扱いづらい一面があります。なぜなら、以下のような理由があるからです。
- 相続や維持・管理に費用がかかる
- 被相続人から相続人への名義変更の手続きが必要
- 複数の相続人で分割しづらい
また、ひとくちに不動産相続といっても、マンションや空き家などケースによって注意すべき点があります。
「不動産相続の基礎知識」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
不動産相続で発生する手続き
不動産相続にかかる費用について理解を深めるには、どのような手続きが発生するのかを知っておく必要があります。不動産相続における手続きの流れは、以下の通りです。
- 不動産の評価額を算出する
- 相続に必要な必要書類を収集する
- 法務局で相続登記をする
- 税務署で相続税の申告・納税を行う
このように不動産相続ではさまざまな手続きが必要となり、費用の支払いが求められます。
「不動産相続の手続きの流れ」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
不動産相続にかかる費用・税金
不動産相続にかかる費用・税金は、以下の通りです。
- 相続登記手続きにおける費用
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 相続税
- 専門家への依頼費用
- その他維持・管理に発生する費用・税金
支払うタイミングや費用相場について解説します。
相続登記手続きにおける費用
不動産を相続するとき、不動産の名義変更を行うために法務局で相続登記をしなければなりません。このときに複数の必要書類を提出しなければならず、必要書類取得に数千円かかります。
必要書類と取得費用を以下の表にまとめました。
書類名 | 取得費用の相場 |
---|---|
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 1通あたり450円 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 1通あたり750円 |
改製原戸籍謄本 | 1通あたり750円 |
戸籍の附票の写し | 1通あたり300円 |
(除)住民票の写し | 1通あたり300円 |
固定資産評価証明書 | 1通あたり200〜300円 |
印鑑証明書 | 1通あたり200〜400円 |
戸籍謄本は被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要だったり、被相続人相続人の関係によって必要な戸籍謄本の数が変わったりと、人によって必要な個数は異なります。
登録免許税
相続登記をする際、登録免許税の支払いが必要です。登録免許税とは、法務局で土地・建物の所有権が誰にあるかを登記簿登録するときに国に収めなければならない税金です。
相続登記をするときの登録免許税の税率は、0.4%です。実際の税額は、以下のように算出します。
登録免許税額=固定資産税評価額 × 0.4%
固定資産税評価額は、市町村役場から通知される「固定資産課税明細書」や市町村役場で発行できる「固定資産評価証明書」に記載されています。
相続登記の申請をする際に、収入印紙での納付が必要です。
「相続登記で発生する費用・登録免許税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
不動産取得税
不動産取得税とは、不動産を取得した時点で1回だけ課税される税金です。不動産相続の際、原則不動産取得税は発生しません。
しかし、生前贈与や法定相続人以外の人に遺贈された場合に不動産取得税が発生します。特例等を利用して贈与税が免除になったとしても、不動産所得税は課税されます。
不動産取得税の税率は、3%です。実際の税額は、以下のように算出します。
不動産取得税額=固定資産税評価額 × 3%
固定資産税評価額は、市町村役場から通知される「固定資産課税明細書」や市町村役場で発行できる「固定資産評価証明書」に記載されています。
不動産の名義変更手続きのあと6か月〜1年半までの間に都道府県から納税通知書が届くため、金融機関で不動産取得税を納付しましょう。
相続税
不動産にかかわらず、相続が発生した際に相続税が発生する可能性があります。不動産を含めた相続財産の総額が基礎控除額を超えるときに相続税の申告・納付の義務が発生します。
基礎控除額の計算方法は、以下の通りです。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数
相続税は、1つの不動産にかかる税額を計算するのではなく、相続財産の総額から税額を算出します。
「相続税の計算方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
専門家への依頼費用
相続登記や相続税の申告を専門家に依頼すると、それぞれ報酬の支払いが発生します。
まず、相続登記は司法書士に依頼することが一般的です。司法書士への依頼費用は、4万〜10万円程度ですが、不動産の価格や数によって費用は変動します。司法書士に依頼すれば必要書類の取得から法務局の手続きまで、すべてを任せられます。
次に、相続税の申告は税理士に依頼が可能です。節税対策や申告に必要な書類作成まで、全て任せられます。依頼費用の目安は、相続財産の総額の0.5〜1%です。
その他維持・管理に発生する費用・税金
不動産の相続後、保有していると維持・管理にも税金が発生します。発生する税金は、以下の通りです。
- 固定資産税:課税標準額×1.4%(標準税率)
- 都市計画税:課税標準×0.3%(制限税率)
さらに、空き家であっても建物であれば火災保険料や修繕費がかかります。
種類別にみる不動産の評価額の計算方法
相続税の申告・納税において、不動産は相続税評価額を用いて税額を算出します。ここでは、以下の4つの種類の不動産の相続税評価額の計算方法について解説します。
- 一軒家
- マンション
- 土地
- 農地
順番に確認しましょう。
一軒家
一軒家の場合、被相続人が利用していたかどうかで評価額の計算方法が異なります。
- 被相続人が利用していたとき:固定資産税評価額×1.0
- 第三者に貸し出していたとき:固定資産税評価額×0.7
固定資産税評価額は、毎年6月頃に郵送される固定資産税の納税通知書か、市町村役場で取得できる固定資産税評価証明書で確認しましょう。
マンション
マンションの場合、建物に対して所有割合がどれくらいかで評価額の計算方法が異なります。
- マンション1棟を所有していたとき:建物の固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
- マンションの1室を所有していたとき:固定資産税評価額×1.0
マンション1棟を所有して第三者に貸し出している場合、満室に近ければ近いほど評価額は下がります。
また、マンションの1室を所有している場合、固定資産税評価額にすべての住戸であん分した共用部分の価格も含まれるため加算の心配はありません。
土地
土地(更地)の評価額を算出するには、路線価方式と倍率方式の2つの計算方法が一般的です。それぞれ確認しましょう。
路線価方式
路線価とは、路線(道路)に面する土地の1平方メートルあたりの評価額を指します。国税庁が市街地における路線価を定めています。
路線価方式で評価額を算出する場合、計算式は以下の通りです。
路線価×補正率×土地の面積(地積)
補正率とは、実際に利用されている土地の形などを考慮した割合です。
倍率方式
路線価は市街地のみしか定められていないため、路線価のない土地では倍率方式で評価額を算出します。倍率方式とは、国税庁が定めた倍率を乗じて評価額を導き出す計算方法です。
倍率方式で評価額を算出する場合、計算式は以下の通りです。
土地の固定資産税評価額×定められた倍率
倍率は地域によって異なり、国税庁が発表している倍率表で数値を確認できます。
農地
田んぼや畑などの農地は、農地法によって宅地への転用制限が設けられていたり、時価事情が異なったりするため、土地(更地)と異なる方式で評価額を算出します。
以下の4つの区分ごとの計算式は、以下の通りです。
- 純農地:固定資産税評価額×倍率
- 中間農地:固定資産税評価額×倍率
- 市街地周辺農地:市街地農地であるとした場合の評価額×80%
- 市街地農地:(宅地であるとした場合の1平方メートルあたりの価格−1平方メートルあたりの宅地造成費)×地積
このように、純農地と中間農地は倍率方式を使って評価額を算出します。一方、市街地周辺農地と市街地農地は宅地比準方式または、倍率方式を使って評価額を算出しなければなりません。
宅地比率準方式とは、国税庁にて以下のように定められています。
宅地比準方式とは、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。
宅地開発が可能な地域では宅地比準方式を用いますが、それ以外の地域では倍率方式で評価します。
種類別にみる不動産相続にかかる追加費用
不動産相続の手続きで発生する費用について解説しましたが、不動産の種類によっては手続きにおいて追加費用がかかります。以下の4つの不動産について確認しましょう。
- マンション
- 農地
- 山林
- 借地
該当する不動産の相続がある場合、確認しておきましょう。
マンション
マンションを相続した際、被相続人が団体信用生命保険に入っていると相続登記に加えて保険金請求の手続きが必要です。
団体信用生命保険に入っていれば、住宅ローンは保険金で完済されるため、必ず行うべき手続きです。
手続きには、以下の書類の提出が求められます。
- 団信弁済届
- 死亡証明書(死亡診断書)
死亡証明書は、医療機関で5000円程度で発行してもらえます。
また、住宅ローンを組むときにマンションに抵当権が設定されますが、相続人は抵当権を抹消する手続きをしなければなりません。これを抵当権抹消登記と呼びます。
抵当権抹消登記をするには、ローンを完済している必要があります。
抵当権抹消登記で必要な書類は、以下の通りです。
- 登記識別情報・登記済証
- 金融機関が作成した解除証書
- 金融機関の委任状
- 金融機関の登記事項証明書(発行から3か月以内のもの)
- 住民票
- 戸籍謄本
抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産1つあたり1000円です。さらに、住民票の取得に300円、戸籍謄本の取得には450円かかります。
農地
農地を相続する際、相続登記に加えて農業委員会への届出が必要です。相続登記を済ませてからでないと、手続きできません。
農業委員会への届出には、以下の書類の提出が求められます。
- 農業委員会が指定する届出書
- 登記事項証明書
登記事項証明書には、取得に480〜600円程度の費用がかかります。
山林
山林を相続する際、相続登記に加えて市町村役場への届出が必要です。このとき、以下の書類の提出が求められます。
- 市区町村役場への山林の「所有者届出書」
- その山林の土地の位置を示す図面
- 登記事項証明書(相続登記が終わっている場合)
- 遺産分割協議書(相続登記が終わっていない場合)
登記事項証明書には取得に480〜600円程度の費用がかかります。
不動産の評価額を下げられる「小規模宅地等の特例」とは
不動産を相続する場合、小規模宅地等の特例が受けられるかもしれません。小規模宅地の特例を受けられると、相続税が大幅に軽減されます。
小規模宅地の特例の内容と要件について詳しく確認しましょう。
特例の内容
小規模宅地等の特例には、以下の3つの特例が設けられています。
特定居住用宅地等の特例 | 自宅の敷地330平方メートルまでの部分についての評価額を80%減額できる |
---|---|
特定事業用宅地等の特例 | 店舗の敷地400平方メートルまでの部分についての評価額を80%減額できる |
貸付事業用宅地等の特例 | 貸家の敷地200平方メートルまでの部分についての評価額を50%減額できる |
このように評価額が大幅に減額されるため、相続税の引き下げに繋がります。
特例を受けるための要件
特例を受けるための要件は、不動産を相続する人が不相続人とどのような関係だったかによって異なります。以下の表で確認しましょう。
相続する人 | 要件 |
---|---|
配偶者 | 無条件に適用される |
同居していた親族(子や親など) | 相続税の申告期限(相続発生日の翌日から10か月後)まで所有し続け、住み続けていれば適用される |
同居していない親族(子や親など) | ・被相続人に配偶者、同居親族がいない ・過去3年以内に自己、自己の配偶者、3親等身以内の親族が所有する家に住んでいない ・相続発生時に居住していた家を過去に所有していたことがない ・相続税の申告期限(相続発生日の翌日から10か月後)まで所有し続ける |
同居していない親族が特例を受けるときには、厳しい要件が設けられているため注意しましょう。
参照:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
不動産相続において相続登記が義務化
法改正によって、令和6年4月1日より相続登記が義務化されました。
相続人は、不動産相続を知ったときから3年以内に相続登記をしなければなりません。正当な理由なく相続登記の手続きをしなかった場合、10万円以下の過料が科せられる場合があります。
相続が発生したら、すみやかに相続登記の手続きを済ませるよう注意しましょう。
参照:不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~|法務局
まとめ・結論
土地・不動産の相続手続きには、さまざまな税金や費用が発生します。相続をしてから初めて知ると慌てることも多いですが、あらかじめ理解しておくと心に余裕を持てます。
令和6年4月1日より相続登記が義務化され、相続後はすみやかな相続登記手続きが必要です。費用を抑えるには自分たちの手で全て行う方が良いですが、場合によっては専門家に依頼をすると負担が大幅に軽減されるケースも少なくありません。
何度も法務局や税務署へ足を運ぶことにならないためにも、専門家の力も借りることを検討しましょう。