「マンション」は1つの土地を他の住居人と共有しているため、評価方法などで注意すべきポイントがいくつか存在します。こちらの記事では、初めてマンションを相続する人のために、相続に関する概要や、手続きの流れや費用といった基礎知識を紹介します。さらに、マンションという資産をいかに活用すべきか、実践でも役立つ内容も徹底解説します。
目次
【基本】分譲マンションの相続手続き
遺産相続で代表的な財産ともいえるのが、親が住んで実家にしていた「一戸建て」や「分譲マンション」などの不動産。「一戸建て」と「分譲マンション」の評価方法は、建物と土地に分けて考えるのが基本です。一見すると似たように思えるかもしれませんが、両者では「土地の計算方法」が異なります。
マンションは、土地の所有に関して、マンションの住人で共有している状態です。そのため「敷地権割合」を考慮するかどうかが、「分譲マンション」と「一戸建て」の相違点だといえます。
「敷地権割合(敷地利用権割合)」とは、マンションの専有部分を所有する者が持つ、マンションの敷地全体に対する権利割合のこと。共有持分割合ともいい、原則として、建物専有部分の床面積の比率を指します。
このように一戸建てと異なり、マンションの相続ならではの土地の相続税評価額の算出方法や、それに絡んだ手続きが発生するということを理解しておきましょう。
分譲マンションの相続手続き・必要書類・評価方法
マンションを相続する場合、まずは「どのような手続きが発生するのか」全体像を理解しておく必要があります。その上で、手続きで必要となる書類を把握し、さらにマンションの評価方法についても理解を深めていきましょう。
分譲マンションの相続手続きは6つの手順。必要書類は相続登記で提出
マンションの相続手続きは、一般的な不動産の相続手続きと基本的に同じです。大まかな手続きは以下の通りです。
- 不動産の価値・相続人の調査
- 必要書類の収集
- 遺産分割協議書の作成
- 法務局での相続登記
- 税務署への相続税の申告納税住宅ローンへの対応
- 住宅ローンへの対応
まずは、「不動産の価値・相続人の調査」を行います。たいていの場合、路線価方式を用いて、マンションの「相続税評価額」を算出します。
相続した不動産の評価額と誰が相続人になるのか調査し終わったら、その次に「必要書類の収集」に移ってください。これには理由があり、相続登記の手続きにて相続人全員の戸籍謄本が必要であり、まずは相続人を調査することが先決であるためです。
3つ目の「遺産分割協議書の作成」では、遺言がない場合、または法定相続分に従って相続しない場合に行う手続きです。そして、4つ目の「法務局での相続登記」で、すでに集めた必要書類を提出して、マンションの名義変更を完了させます。5つ目に「税務署への相続税の申告納税」をすれば、マンションの相続手続きは一通り完了します。
なお、注意点として挙げられるのが相続税の申告・納付期限。ここまでの相続手続きに関しては、「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」が期限ですので、うっかり忘れないようにしましょう。
さらに、ここまで紹介したマンションの相続手続き以外にも、残りの住宅ローンを返済するために「団体信用生命保険(団信)」やそれに伴う「抵当権の抹消登記」などの手続きが発生することがあります。
上記の(1)~(6)がマンション相続の大まかな流れですが、相続した不動産の種類によって手続きが変更になることがあります。
「不動産の相続手続き」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
また、戸籍謄本などの各種書類は、マンションの名義変更手続き(相続登記)の際に必要です。「建物の名義変更」と「土地の名義変更手続き」の際に必要な書類は、原則として同一です。以下の通りの書類をそろえましょう。
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 死亡した人の住民票除票(または戸籍除附票)
- 相続人に関する戸籍謄本
- 相続人に関する住民票(または戸籍除附票)
- 遺言書または、遺産分割協議書
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 固定資産評価証明書
- 委任状(代理権限証書)
分譲マンションの評価方法は敷地権割合を考慮
前述の通り、マンションは土地と建物に分けた上で、建物専有部分の床面積の比率である「敷地権割合」を考慮して計算します。
市街地エリアにマンションが建っていれば「路線価方式」に、郊外や地方のように路線価がないエリアであれば「倍率方式」に則って計算するのが大前提です。
市街地に実家があり、路線価方式が適用されるマンションの「相続税評価額」は以下の計算方法で算出します。
- マンションの評価額=建物の評価額+土地(敷地利用権)の評価額
- 建物の評価額=固定資産税評価額
- 土地の評価額=路線価×土地の面積×敷地権割合
「倍率方式」であれば、固定資産税評価額に対して「評価倍率表」に掲載されている「倍率」と敷地権割合(持分割合)を乗じて、土地の相続税評価額を算出します。
上記の計算方法のように、マンションの土地評価の計算方法は、ますはマンション全体敷地の評価額を算出。その後、全体敷地の評価額に「敷地権割合」を乗じて、個別のマンションの土地評価額を算出します。
相続した「不動産の評価方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
分譲マンションの手続き費用と税金
マンションの手続きで発生する費用と税金は、主に相続登記に関連したものが多く「書類にかかる取得費用」と「登録免許税」が発生します。さらに、すべての遺産額が基礎控除を超えて、相続税が発生した場合だと、相続人は「相続税」を支払わなければなりません。
また、専門家に依頼するケースだと、さらに「専門家への報酬」が発生します。こうしたマンションの相続で発生する費用や税金について解説していきます。
書類にかかる取得費用
マンションの相続登記では、死亡した人と相続人の関係性を証明する戸籍謄本などの公的な証明書が必要です。市区町村役場にて発行してもらうための手数料(実費)が掛かります。書類1枚あたりの手数料は以下の通りです。
書類名 | 手数料 | 取得場所 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 450円 | 市区町村役場 |
除籍謄本 改製原戸籍 | 750円 | 市区町村役場 |
住民票の写し・ 住民票除票 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
固定資産評価証明書 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
登記事項証明書 (登記簿謄本) | 480円~600円 | 法務局 |
印鑑登録証明書 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
戸籍謄本などの書類は、死亡した人と相続人全員を合わせた人数分を用意します。取得費用の合計は、3000円~5000円程度になります。
戸籍謄本などの公的書類にかかる発行手数料は全国一律の料金で決まっています。しかし、取得方法によっては、安く抑えることができます。
自治体にもよりますが、コンビニエンスストアで交付ができる書類だと窓口や郵送で請求するよりも、費用が安く済みます。たとえば、住民票の写しや印鑑登録証明書などは、コンビニ交付が可能で便利な方法だといえます。
他にも、「登記事項証明書」も同様です。オンライン請求を利用した上で郵送にて受け取ると手数料は500円、最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターで受け取ると480円。登記所窓口で請求する場合の600円と比較すると、手数料が安くなります。
なお、名称こそ違いますが、「登記事項証明書」と「登記簿謄本」は同じ書類です。デジタル処理されていると「登記事項証明書」、紙のままのだと「登記簿謄本」と呼ばれます。
相続登記で書類を取得する際は、こうしたコンビニ交付やオンライン請求などをうまく活用することで節約につなげられます。
参考:東京都主税局「固定資産に関する証明書等の手数料について」、法務局「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」
登録免許税
登録免許税とは、法務局の登記簿に土地や建物の所有権を登録(相続登記)する際に発生する税金。分譲マンションは、専有部分の部屋(建物)とマンション敷地の持分(土地)をセットにして、1つの権利(所有権)となります。したがって、相続登記では建物と土地の2つを行います。
「相続」により土地や建物を取得した場合、登録免許税の税率は建物と土地はともに0.4%となっており、まとめると以下の通りです。
建物所有権の場合:固定資産税評価額×0.4%
固定資産税評価額とは、家や土地といった固定資産に課される税金の基準となる評価額のこと。毎年、市区町村役場から通知される税金の明細書である「固定資産課税明細書」に「価格(評価額)」と表記されています。
ただし、登録免許税の計算では、固定資産税評価額の下3桁を切り捨てることと、算出された納税額の下2桁を切り捨てることの2つの注意点があります。
登録免許税は、現金納付が原則です。登録申請時に金融機関または税務署にて、登録免許税の納付用納付書を入手しましょう。その納付書に必要事項を記入し、金融機関や税務署の窓口に納付。手続きが完了して交付された領収証書を、登録免許税納付用台紙に貼り付けて法務局に提出します。なお、申請前に法務局が指定する口座に振り込む方法もあります。
現金納付以外だと、印紙納付・キャッシュレス納付も認められています。印紙納付の方法は、金融機関や法務局内の印紙売り場で収入印紙を購入し、それを申請書に貼り付けて提出。ただし、税額が3万円以下の場合などの条件があります。
キャッシュレス納付では、インターネットバンキング・金融機関のATM・クレジットカードなどを利用して納付できます。
参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
相続税
遺産額が基礎控除額を超えると、原則として相続税が発生します。相続税の申告・納税期限は、「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」。死亡した人が住んでいた地域を管轄する税務署にて、所定の手続きを行う必要があります。
「相続開始を知った日」とは「死亡の事実を相続人が知った日」を指します。したがって、長期の海外旅行に出ていて連絡が取れないなど、「死亡診断書」に記載された「死亡日」と一致しないケースもまれに存在します。
相続税の申告納税義務があるにもかかわらず、期限内に申告しなかったり、申告が遅れたりすると、延滞税などの追徴課税が発生してしまうため注意が必要です。
相続方法により、発生する可能性があるのが「不動産取得税」。遺言書にて遺産相続について指定があり、相続人以外が受け取るケースがあります。このような行為を「遺贈」と呼び、厳密にいうと「相続」とは異なるため、「不動産取得税(税率2.0%)」が追加で発生することがあります。
法定相続ではなく、遺言書がある場合は「不動産取得税」がかかるかどうか、念のために内容を確かめておきましょう。
専門家への報酬
マンションで発生する手続きは、専門家に依頼して代行してもらえます。「不動産の価値・相続人の調査」であれば、税理士・弁護士・司法書士・行政書士などに代行依頼が可能。しかし、相続登記の手続きを代行依頼できる専門家は、一般的なケースだと司法書士となることが多いです。そのため、専門家に依頼する際は、その手続きを担当できるかどうか確認しておきましょう。
それでは、専門家への報酬について、日本司法書士連合会が実施した調査結果から、「司法書士に相続登記を代行依頼したとき」を例にとって見ていきましょう。
司法書士が受注した以下の条件について、相続登記の代理業務・戸籍謄本等5通の交付請求・登記原因証明情報(遺産分割協議書および相続関係説明図)の作成といった業務を実施した場合を見ていきます。
<受注条件>
- 相続した不動産:土地1筆および建物1棟
- 固定資産評価額:合計で1000万円
- 相続人について:法定相続人は3名おり、その内の1名が単独相続
司法書士への報酬金額は、全国でバラつきがあります。関東地区を例に挙げると、全体の平均値は約6万6000円、報酬金額の幅は約3万9000円~10万3000円となっています。手続きをどの範囲まで代行してもらうかにより、報酬は変動します。戸籍謄本等の書類収集や遺産分割協議書の作成などを含めると、その分報酬が高くなる仕組みです。
追加で考慮すべき条件として挙げられるのが、登記不動産や手続きする法務局、相続人の人数。不動産などが複数あり、また人数が多くなるとその都度、報酬額は加算されます。そのため、事前に事務所に見積もりを取って確認しましょう。
出典:日本司法書士連合会「報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)」
《比較》マンションの生前贈与と相続。メリットや節税効果が見込めるケース
親から子どもなどに実家のマンションといった財産を継承させる方法は、相続だけではありません。「生前贈与」も、相手へ引き継がせる(譲渡する)代表的な方法の1つです。気になるポイントとなるのは、「相続」と「生前贈与」のどちらがお得なのかでしょう。
お得になるかどうかは、分譲マンションを置かれている状況などを考慮する必要があります。こちらの段落では、マンションにおける「生前贈与」と「相続」のメリットを紹介し、どちらがお得になるのか、ケース別に解説していきます。
マンションを生前贈与するメリット
まずは、生前贈与の基本を押さえておきましょう。生前贈与とは贈与行為の1つです。「生前贈与」は、財産を贈る人が生きている状態で、かつ「無償」で別の個人に与える契約行為。「贈与」が本来持つ意味とほぼ同じで、成立条件も「贈与」とほぼ同様です。
贈与の成立条件は、自分(贈与者)の財産を相手(受贈者)に「無償」であげる行為に対して、受贈者が「合意(受諾)」すること。また、贈与行為で受贈者が取得した財産に対する税金「贈与税」が発生します。
それでは、マンションを「生前贈与」する際は、どのようなメリットがあるのでしょうか?生前贈与の特徴などを踏まえると次のようなメリットが考えられます。
- 譲渡する相手を選べる
- 相続人同士のトラブルの回避につながる
- 贈与税の特例で非課税枠がある
生前贈与の代表的なメリットは、譲渡する相手を選べること。「相続」の場合だと、死後に財産が譲渡されるため、必ずしも自分が譲渡したい相手に財産が引き継がれるとは限りません。生前贈与では、すでに財産の譲渡が完了しているため、そうした心配はありません。
相続人同士のトラブルの回避も、すでに相手への譲渡が完了している理由から考えられるメリット。相続では遺言書がない、または法定相続分に従って相続しない場合などは、相続人同士で遺産分割協議を行う必要があります。このとき、相続人同士で遺産分割についての意見が衝突してトラブルになることがあります。生前贈与では、相続人同士のトラブルリスクの回避が期待できるでしょう。
マンションの贈与が「現物」としてではなく、子どもへのマンションの購入費用を「金銭」としてプレゼントされるケースもあります。この場合、「住宅取得等資金の贈与」という贈与税の非課税の特例が適用できます。
両親や祖父母など直系尊属から贈与された資金で、マンションの購入や改築するなどの要件を満たす場合、一定の非課税枠が設けられています。贈与を受けた者ごとに、住宅取得等資金の贈与における非課税額が定められており、省エネ等住宅の場合には1000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までです。
マンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積が40㎡以上240㎡以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が、受贈者の居住用であることなどの要件を満たす必要があります。
なお、「省エネ等住宅」とは、断熱性や耐震性が一定の基準を満たすと証明されているマンションを指し、非課税枠が通常よりも広く定められています。
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
生前贈与で節税効果が見込めるケース
実家マンションなどの生前贈与において、節税効果が見込めるのは次のようなケースです。
- 相続時精算課税制度を利用するメリットがある場合
- 新しいマンションを買う予定がある場合
相続時精算課税制度とは、親から子どもといった生前贈与を2500万円まで非課税にできる贈与制度。贈与した後に相続が発生する(贈与した人が死亡する)と、相続時精算課税制度で贈与したときの贈与額を、相続財産として合算する仕組みです。
したがって、相続発生時に贈与した時の贈与額を合算しても、相続税の基礎控除額以内に収まれば、贈与税も相続税もかけずに実家マンションなどの所有権を子どもに渡せます。このケースだと、相続時精算課税制度を利用するメリットがあるといえます。
なお、マンションなどの不動産贈与だと、「不動産取得税」が課税されることも忘れないようにしましょう。
マンションという現物ではなく、新しいマンションの「購入資金」として贈与された場合も、節税効果が期待できるケースです。省エネ等住宅の場合には1000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までを非課税にできる「住宅取得等資金の非課税」の特例を、利用できるときに得られる節税効果です。
すべての購入資金を非課税枠に納めることは現実的ではありませんが、マンションの頭金であれば可能だと考えられます。残りは子どもがローンを組み、親から毎年110万円が非課税枠となる「暦年贈与」を行えば、贈与税をかけることはなく子どものサポートが期待できます。
マンションを相続するメリット
実家マンションなどを相続する場合、次のようなメリットが考えられます。
- 法定相続人が多ければ基礎控除額が増える
- 「小規模宅地等の特例」が使える
- 相続したときの評価額で課税される
贈与税の非課税枠は、暦年贈与だと年間110万円と少額であり、さらに法定相続人の人数に影響を受けません。一方で、「相続」は法定相続人の人数で非課税枠となる基礎控除額が増える仕組みとなっています。
相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で決定されます。すなわち、相続人に子どもがたくさんいるなどで法定相続人が多ければ、節税効果が期待できるといえます。
また、相続税には「小規模宅地等の特例」という実家マンションなどの評価額が最大80%OFFになる制度が設けられています。建物は対象とならず、マンションであれば敷地権(土地)の対象面積に応じて相続税額が減額されます。
なお、死亡した人が宅地などをどのような目的で利用していたのかで、減額対象となる面積と割合が変わります。
実家マンションを相続したときの評価額で課税されるため、実家マンションの価値が徐々に下落しているのであれば、相続を選択するメリットは十分にあるといえます。
出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続で節税効果を見込めるケース
実家マンションなどの相続において、節税効果が見込めるのは次のようなケースです。
- 遺産額が基礎控除額以下に収まる場合
- マンションの評価額が徐々に下がっている場合
相続人となるであろう法定相続人がある程度固まっていれば、相続人の人数に応じて相続税の基礎控除額を算出しましょう。算出した基礎控除額に収まれば、実家マンションを相続した方が、節税効果が見込めるでしょう。
また、実家マンションの評価額の基準となるのは相続時の評価額。購入時よりも、徐々にマンションの価値が下がっているようであれば、相続時が一番低くなる可能性があります。そのため、評価額が低いタイミングを見計らって相続するとよいといえます。
マンションの賃貸と売却はどちらがお得?メリットとデメリットを比較
実家マンションを相続したけど、必ずしもそのまま住み続けるとは限りません。「賃貸に出すのか、いっそのこと売却して現金に換えるべきか」と、活用方法に頭を抱える人は多いのではないでしょうか?
こちらの段落では、どちらにすべきかの判断材料となるような、それぞれのメリットとデメリットを解説していきます。
マンションを貸し出すメリット
相続したマンションを貸し出す場合は、次のようなメリットがあります。
- 家賃収入で安定した収益が得られる
- 同じ金額の預貯金よりも相続税が抑えられる
- 資産として残せ、将来住むことができる
マンションを賃貸に出す最大のメリットが「家賃収入で安定した収入を得られる」ことでしょう。定期預金の金利や株式投資の配当などと比較すると、相当な不労所得が期待できます。
不動産として所有していた方が、預貯金などの現金で相続させるよりも相続税を抑えられます。これは、現金とマンションの購入価格が同じであっても、マンションなどの不動産は「相続税評価額」の対象となることで、購入価格(実勢価格)の80%ほどの価値に下がるためです。現金が相続税評価額に適用されることはないため、その差額分が相続税の節税効果を生むといえます。
マンションを貸し出せば手元に残るため、資産としてそのまま残すことも可能。災害などに見舞われて、自宅に住めなくなったときの備えにもなりますし、自分だけでなく、将来自分の子どもたちが住むこともできます。
マンションを貸し出すデメリット
相続したマンションを貸し出す場合は、費用面や控除などに関連して次のようなデメリットがあります。
- 不動産のリフォームや修繕の費用がかかる
- 不動産業者への手数料が発生する
- 空室が出ると維持費などがマイナスになる
- 住宅ローンの借り換え費用や控除が適用されなくなる
マンションを貸し出すには、リフォームや修繕を行わなければならないことがほとんど。賃借人が快適に住めるような魅力的な物件になるように、多くの手間と費用が初期費用として発生してしまうデメリットがあります。
不動産会社に仲介や管理を依頼すると、当然ながら不動産会社に仲介手数料を支払わなければなりません。さらに、マンションの賃貸では、空室状態が長く続くと、管理費用や維持費などが自己負担となりマイナスになるリスクがあります。
相続したマンションで住宅ローンを組んでいた場合、賃貸ローンに切り替える必要が生じます。借り換え手数料や印紙税や抵当権設定などで諸費用が発生し、さらに住宅ローン控除の適用も受けられなくなるため注意が必要です。
マンションを売却して現金化するメリット
相続したマンションを売却して現金化する場合は、遺産分割に関連して次のようなメリットがあります。
- 維持費の負担がなくなる
- 自由に使えるまとまった現金が入手できる
- スムーズにかつ平等に遺産分割できる
- 相続税の支払いに当てられる
マンションを売却してしまえば、維持費などの負担を考える必要がなくなり、精神的にも楽になるでしょう。
売却して現金化すれば、当然、そのお金を自由に使用できるため、各相続人の好きなように遺産を使えます。もともと、実家のマンションを含む不動産は遺産分割が難しい場合があります。したがって、相続人が複数いる場合は、現金化してしまえば遺産分割がやりやすくなります。
さらに相続税が発生している場合は、相続マンションを売却して得た現金を相続税の支払いに当てられるメリットもあります。
マンションを売却して現金化するデメリット
相続したマンションを売却して現金化する場合は、次のようなデメリットがあります。
- 現金化した方が現物よりも相続税が高くなる
- 継続的な収益化は見込めない
- ローン残債があると手続きや支払いが大変になる
- 相続税に加えて譲渡所得税が発生することがある
マンションを現金化した方が、その財産に対する相続税が、現物(建物)として相続するよりも高くなります。前述の通り、同じ価値の現金よりも現物(建物)のまま相続した方が、相続税評価額が低く評価されるためです。
一度売却してしまうと、相続人の資産としてマンションは残らないため、その後の収益化は見込めなくなります。後悔しないように、資産形成に関して計画性が求められます。
一番大変なのが、ローン残債があるケース。ローン残債がある場合、一括返済が基本です。もし住宅ローン残債額を確認した際に、残債額がマンションの売却代金を上回っていると、不足分を自分の預貯金などから補わなければならないため注意が必要です。さらに、ローン残債があるマンションには、借入先である金融機関が抵当権を設定していることが一般的であるため、金融機関の許可も必要です。こうしたローン残債に関する手間が、発生してしまうことがデメリットだといえます。
相続した不動産をすぐに売却する場合、その売却益は「譲渡所得」に分類されます。そして、その譲渡所得に対して「譲渡所得税」が課税されてしまうことがあります。しかし、節税対策として、相続人は一定の要件を満たす場合に限り、「相続税の取得費加算の特例」か「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」のどちらかを選択できます。
「相続税の取得費加算の特例」は、納付した相続税額の一部を取得費に加算することで、譲渡所得税を軽減させる特例。一方で、「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」は、死亡した人がひとりで住んでいた家屋を相続し、その不動産を売却した場合、譲渡所得から3000万円を控除できる特例です。こうした特例を活用すれば、譲渡所得税を軽減でき、売却によるデメリットも抑えることができます。
貸出・売却以外には自らマンションに住むパターンも
相続したマンションを貸し出しも売却もしないのであれば、そのまま自分の居住用として住むのも有効な手段の1つです。
相続人が自分しかいない、または複数人いた場合は他の相続人にマンションの使用料金分を支払うことで、合意が形成できれば問題ないでしょう。
分譲マンションの相続放棄
相続した実家マンション(分譲マンション)を貸出や売却などで活用をせず、さらに居住もしないケースもあります。このように不動産の相続をしない場合は、相続放棄するという手段が最後に残ります。
マンションの相続放棄をする上で、押さえておきたい基礎知識について解説します。
放棄しても一定期間はマンションの管理責任が残る
死亡した人が所有していた遺産を、相続人が相続しない行為のことを「相続放棄」と呼びます。相続放棄を行うと、死亡した人のマンションを含む相続財産や、借地権などの権利や借金などの義務を一切承継する必要がなくなります。
「相続放棄」をするためには、相続人は「相続開始を知った日から3か月以内の期限(熟慮期間)」に申述手続きを行う必要があります。申述先は「死亡した人が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所」です。
相続放棄の注意点は、かりに相続人全員が相続放棄したとしても、相続人には死亡した人の遺産の“管理義務”は残るということ。マンションを含む遺産が一定の管理下に置かれるようにするために、相続人自身が家庭裁判所に「相続財産管理人の選任」の申述をしなければなりません(民法940条)。したがって、相続人全員が相続放棄する場合、「相続財産管理人の選任」について相続人全員で話し合う必要があるといえます。
相続放棄した財産は最終的に国のものになりますが、すぐに国に帰属されるわけではありません。つまり、相続財産管理人の選任されるまでの期間、相続放棄した人の内で誰か1人は財産管理をしなければなりません。さらに、相続財産管理人への報酬「予納金」といった費用もかかることが多いです。
また、相続放棄はすべての相続財産が対象であるため、実家マンションだけを相続しない(相続放棄する)ことは認められていないことにも注意してください。
「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
マンション活用は見極めが肝心
マンションは、相続手続きにおいては一戸建てと同じですが、「土地の評価方法」では異なる方法で計算しなくてはなりません。1つの土地を複数人で分割するような土地の所有方法であることを忘れないようにしましょう。
実家マンションを生前贈与すべきか、相続すべきかはケースバイケース。非課税枠となる基礎控除額や特例、土地の値段が今後どのように変化するのかを見極めるべきといえます。相続したマンションの活用方法についても、貸し出すのか売却するのかでメリット・デメリットがあります。どちらが今後の自分が目指すべき資産形成に合致しているか判断することが重要です。
また、マンションを含む、不動産の評価額を相続人自身で正確に算出するのは骨の折れる作業だといえます。相続登記や相続税の申告期限もあるため、なおさら大変な思いをするでしょう。司法書士などの専門家をはじめとしたプロに任せることで、確実で安心な相続が実現できるはずです。まずは、当サイトにて、自分が信頼できる専門家を探してみることをオススメします。