「申告期限が過ぎているのに新たに相続財産が出てきた」「みなし財産を申告し忘れていた」など、本来の相続税よりも少なく申告した場合は修正申告が必要です。本記事では、相続税の修正申告の基礎知識や必要なケース例、課せられるペナルティについて詳しく解説します。修正申告が必要かもしれないと不安に思っている方は、ぜひ最後まで読んで疑問を解消してください。
相続税の修正申告とは
相続税の修正申告とは、一度申告した相続税額が少なかった場合に申告期限後に申告をやり直す手続きです。
相続税は、自分で納めるべき税金を計算して申告・納税する申告納税制度に該当するため、遺産相続後に制度に即して相続税の申告・納税をしなければなりません。
しかし、なかには申告期限を迎えたあとに新たに相続財産が見つかったり、控除の計算を間違ったまま申告したりする場合もあるでしょう。このような場合、納付金額に変更が発生するため、申告を修正する必要があります。
修正申告をすると、足りなかった分の税額と延滞税を支払わなければなりません。税務署から指摘されたあとに修正申告をする場合は、さらに過少申告加算税や重加算税などのペナルティが課される場合があるため注意が必要です。
相続税の修正申告について理解を深めるために、下記の2点について詳しく見ていきましょう。
- 「更正の請求」と「修正申告」の違い
- 相続税の修正申告の期限
順番に解説します。
「更正の請求」と「修正申告」の違い
相続税の申告期限を過ぎてから相続税の申告に間違いに気づき、申告をやりなおすという点において、更正の請求と修正申告は同じです。2つの違いは、下記の通りです。
- 更正の請求:申告した納税額が多い場合や還付金が少な過ぎた場合に申告をやりなおすこと
- 修正申告:申告した納税額が少ない場合や還付金が多過ぎた場合に申告をやりなおすこと
たとえば、認知によって相続人の数が増えたり、相続財産の評価額が大き過ぎたりした場合、必要以上に相続税を支払ったことになります。このとき、間違った申告によって払い過ぎた分の金額を税務署から返金してもらうための手続きとして、更正の請求を行います。
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相続税の修正申告の期限
相続税の修正申告の期限は、相続税の申告期限の翌日から5年以内です。ちなみに、相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月間です。
この期限は、相続税の修正申告ができる期間と考えましょう。相続税の申告期限の翌日から5年の期間を超えると時効となり、それ以降の修正申告が認められないからです。
つまり、期限までに間違いに気づかないまま、税務署からの連絡がなく、修正申告をせずに期限を迎えた場合、実際の納付額より少ない場合でも追加で納付する義務がなくなります。
ただし、遺産隠しなどによって意図的に相続税の金額を過少申告していた場合には、悪質であるとして時効が5年から7年に延長されるケースがあります。
また、「バレなければ納付しなくてもよい」という考えは甘く、多くのケースで税務署からの指摘を免れません。税務署から指摘をされた場合はペナルティとして多くの税金が課税されるため、間違いに気づいたらできるだけ早く修正申告を行いましょう。
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相続税の修正申告が必要になるケース
相続税の修正申告が必要になるケース例を6つご紹介します。
- 相続税申告後、新たに相続財産が見つかった
- 財産評価額の算定や相続税の計算に誤りがあった
- 本来は適用できない特例制度を適用して計算していた
- みなし相続財産を申告時に含めていなかった
- 遺産分割協議がまとまらず未分割の状態で相続税申告を行った
- 税務署から税額の不足を指摘された
それぞれ、なぜ修正申告をしなければならないかについて解説します。当てはまる場合は、早急に修正申告をしましょう。
相続税申告後、新たに相続財産が見つかった
すべての相続財産を洗い出し、遺産分割協議を進めて相続税申告を終えたと思っていたにもかかわらず、新たな相続財産が見つかった場合には修正申告が必要です。理由として、遺産総額が増えることと相続人が取得する相続財産の内容が変わることが挙げられます。
本来、新たに相続財産が見つかった場合、遺産分割協議もやりなおす必要があります。ただし、遺産分割協議書に「あとから遺産が見つかった場合は配偶者がすべて相続する」などと記載しておけば、再度協議をやりなおさなくても問題ありません。
ただし、新たな遺産が見つかると修正申告が必要となるため、相続税を再計算しましょう。
財産評価額の算定や相続税の計算に誤りがあった
相続財産の評価額の算定に間違いがあったり、相続税の計算にミスがあった場合にも修正申告が必要です。相続税を過少申告している場合は修正申告、過大申告している場合は更正の請求を行います。
相続人本人が自分で申告するときに発生しやすいケースのため、税理士に依頼しない場合は特に注意しなければなりません。少しでも不安がある場合は、評価額の算定から相続税の計算まで、すべて税理士に任せることをおすすめします。
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本来は適用できない特例制度を適用して計算していた
相続税の特例制度を適用できると思っていたにもかかわらず、実際には適用外だった場合は修正申告をしなければなりません。
相続税には特例や控除の制度が設けられていますが、それぞれに細かな要件があります。多くの方が利用する小規模宅地等の特例にも、土地の種類や大きさなどによって条件が定められており、間違った認識をしていると相続税も間違った額を算出することになりかねません。
そもそも特例や控除が適用できる財産なのか、要件に該当しているのかなど、正しい知識をもって判断する必要があるため、特例や控除を適用させたい場合には税理士に依頼することをおすすめします。
みなし相続財産を申告時に含めていなかった
みなし相続財産を申告時に含めずに相続税を算出していると、実際の相続税額よりも過少に申告することになるため修正申告が必要です。
みなし相続財産とは、被相続人が亡くなったことで受け取れる財産のことです。民法上では相続財産ではないため遺産分割の対象になりませんが、税法上では相続財産としてみなされます。
具体的には、下記のような財産がみなし相続財産に当てはまります。
- 生命保険金・死亡保険金
- 死亡退職金
- 被相続人の死亡時からさかのぼって3〜7年以内※に贈与された財産
- 相続時精算課税制度を適用して取得した財産
※令和5年度税制改正によって、生前贈与の相続財産への加算期間が死亡前3年から7年へ変更されました。
相続税申告時に見落とされやすい財産ですが、申告しないまま放っておくと税務署から指摘されるため修正申告を行いましょう。
遺産分割協議がまとまらず未分割の状態で相続税申告を行った
遺産分割協議が期限までにまとまらず、未分割の状態で相続税申告を行った場合にも、遺産分割協議がまとまったあと改めて修正申告をしなければなりません。
誰がどの遺産を引き継ぐかが決まっていない状態でも、相続税の申告は期限までに済ませる必要があります。分割されていないことを理由に、申告期限が延長されることはありません。
この場合、法定相続分どおりで分割したと仮定して相続税申告をしますが、相続割合が確定した段階で正しい納税額が確定します。法定相続分よりも多く遺産を引き継ぐことになった相続人は、修正申告をしなければならない可能性があります。
参照:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁
税務署から税額の不足を指摘された
相続税の申告内容に不備や疑わしい点があると、税務署から連絡があり税務調査が実施されます。調査の結果、申告した相続税額に不足が発覚すると修正申告をしなければなりません。
税務署から指摘があった場合、自ら修正申告をしたときと比べて多くのペナルティが課される可能性があります。万全の内容で相続税の申告をすることはもちろん、万が一間違いに気づいた場合は早めに修正申告をするようにしましょう。
修正申告を行った際に発生するペナルティ
修正申告が必要となった際、本来の期限までに正しい相続税を納付していないため、ペナルティとして追徴課税が発生します。
ペナルティとして課税される内容は、下記の通りです。
税金の種類 | 課税されるケース |
---|---|
延滞税 | 修正申告をして相続税を追加で支払う場合 |
過少申告加算税 | 税務署の指摘で相続税の不足が発覚した場合 |
重加算税 | 相続財産の隠ぺい・偽装をした場合 |
無申告加算税 | 相続税の申告を行っていなかった場合 |
それぞれの税金が課税されるケースと税率について詳しく確認しましょう。
延滞税
修正申告をして相続税を追加で支払う場合、本来の納付期限から納付するまでの日数に対して延滞税が発生します。
延滞税の額を求める計算式は、下記の通りです。
- 延滞税額=追加で支払う税額×延滞税の税率×日数÷365日(100円未満は切り捨て)
税率は、本来の納付期限の翌日から起算して修正申告までの期間が2か月経過しているかどうかで異なります。以下で、令和3年1月1日以降に適用されている延滞税の税率を表にまとめました。
<本来の納付期限から2か月以内に修正申告した場合>
- 7.3%もしくは「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合
<本来の納付期限から2か月経過後に修正申告した場合>
- 14.6%もしくは「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
延滞税の税率は、金融機関の新規の短期貸出約定平均金利という指標にあわせて毎年変動するため注意しましょう。
過少申告加算税
税務署の指摘によって追加納付をしなければならず、修正申告した場合は延滞税に加えて過少申告加算税が発生します。税務調査の事前通知を受ける前に自ら修正申告をする場合には、免除されます。
過少申告加算税の額を求める計算式は、下記の通りです。
- 過少申告加算税額=追加で支払う税額×過少申告加算税の税率
税率は、申告する時期や追加で支払う税額によって異なります。平成29年以降に定められた税率を下記の表にまとめました。
追加で納める税額 | 申告のタイミング | |
---|---|---|
税務調査の通知から 税務調査の前まで | 税務調査の後 | |
当初の税額と50万円の多い金額以内 | 5% | 10% |
当初の税額と50万円の多い金額を超える部分 | 10% | 15% |
税務調査を受けてから修正申告を行うと、いずれにしても大きな税率がかかるため通知を受けたあとすぐに修正申告をするようにしましょう。
重加算税
相続税の支払いから逃れるために、遺産を隠して虚偽の申告をした場合や証拠書類を偽装した場合には悪質とみなされて重加算税が発生します。重加算税が課税される際、過少申告加算税や無申告加算税は発生しません。
重加算税の額を求める計算式は、下記の通りです。
- 重加算税額=追加で支払う税額×重加算税の税率
税率は、下記の通り定められています。
申告の種類 | 税率 |
---|---|
過少申告 | 35% |
無申告 | 40% |
下記に該当する場合、さらに税率10%が加算されます。
- 過去5年以内に相続税で無申告加算税、または重加算税を課されたことがある場合
- 令和6年1月1日以降の申告期限で、前年度および前々年度の国税に無申告加算税・重加算税が課されており、さらに同じ税目で無申告があった場合
このように重加算税は悪質だとみなされた場合に課される税金のため、税率が高く設定されています。
無申告加算税
相続税の申告期限までに申告をしなかった場合、無申告加算税が発生します。
無申告加算税の額を求める計算式は、下記の通りです。
- 無申告加算税額=相続税額×無申告加算税の税率
税率は修正申告を行うタイミングや相続税の額によって異なり、下記のように定められています。
税額 | 申告のタイミング | ||
---|---|---|---|
税務調査の通知前 | 税務調査の通知から 税務調査の前まで | 税務調査の後 | |
50万円以下の部分 | 5% | 10% | 15% |
50万円を超える部分 | 15% | 20% | |
300万円を超える部分※ | 25% | 30% |
※申告期限が令和6年1月1日以降の場合にかぎる
下記に該当する場合、さらに税率10%が加算されます。
- 過去5年以内に相続税で無申告加算税、または重加算税を課されたことがある場合
- 令和6年1月1日以降の申告期限で、前年度および前々年度の国税に無申告加算税・重加算税が課されており、さらに同じ税目で無申告があった場合
うっかり忘れていた場合にも無申告加算税が課されるため注意しましょう。
相続税の修正申告の必要書類と手続き方法
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本来納めなければならない相続税よりも少なく申告してしまった場合、早急に修正申告を行う必要があります。ここでは、すぐに準備に取り掛かれるように下記について詳しく解説します。
- 相続税の修正申告の必要書類
- 相続税の修正申告の申告方法
- 税理士に相続税の修正申告を依頼するメリット
順番に確認し、迅速に修正申告を済ませましょう。
相続税の修正申告の必要書類
相続税の修正申告に必要な書類は、主に下記の通りです。
- 相続税の修正申告書
- 相続財産の種類別価額表
- 相続税の納付書(電子納付の際は不要)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、もしくは通知カードと本人確認書類の写し)
相続税の修正申告書と相続財産の種類別価額表は、近くの税務署あるいは国税庁の公式サイトから取得可能です。
第1表「相続税の修正申告書」、第15表(修正申告用)「相続財産の種類別価額表」のほか、必要な申告書があれば一緒にダウンロードしましょう。
また、相続税の納付書は、税務署の窓口あるいは金融機関の窓口で取得できます。税務署の窓口で取得すると、税務署名や必要な番号が記載されているため、記入を楽に済ませられます。
申告内容によっては、追加で書類の提出を求められる場合があります。税務署での案内に従って、必要書類を揃えましょう。
相続税の修正申告の申告方法
相続税の修正申告を行う手順は、下記の通りです。
- 修正申告書など必要書類を揃える
- 修正申告書を作成する
- 不足分の税額を納付する
- 税務署に修正申告をする
必要書類の収集後、修正申告書を作成します。必要箇所を記入し終えたら、先に不足分の税金と延滞税の支払いを終わらせます。延滞税は期限から毎日加算されていくため、早めに納付することで金額を抑えることが可能です。
最後に、修正申告書や必要書類をまとめて税務署へ提出します。納付先・提出先の税務署は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
申告方法は、税務署の窓口へ直接書類を持参するほか、郵送、e-Taxを使った電子申告でも認められます。
税理士に相続税の修正申告を依頼するメリット
修正申告が必要となった場合、税理士に依頼することをおすすめします。もちろん、自分で修正申告を行うことも可能です。
しかし、税理士に相続税の修正申告を依頼するメリットは下記のようにたくさんあります。
- 正確な申告書を迅速に作成してもらえる
- 修正を繰り返す可能性を低くできる
- 延滞税の増加を最小限に食い止めることができる
- 必要書類の作成から提出まで丸投げできる
修正申告が必要な場面では、とにかく1日でも早く修正を行って納税する必要があります。なぜなら、延滞税が日々加算され続け、納税額が高くなってしまうからです。
また、修正申告で間違った申告を再びしてしまうと、税務調査のリスクが高まってしまいます。少しでも不安を感じる場合は、税理士に依頼することをおすすめします。
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間違いに気づいたら迅速に相続税の修正申告を行おう
あとから相続財産が新たに出てきた場合や相続税の計算に間違いがあった場合など、本来支払わなければならない相続税額よりも少なく申告・納税している場合には修正申告が必要です。
修正申告をするとかならず課される延滞税は日々加算されていくため、1日でも早く修正申告するようにしましょう。
そもそも修正申告は、税理士に依頼せずに自分で行った際に必要となるケースが多く見られます。もし、相続税の修正申告が必要となったのであれば、迅速に正確な修正申告を行うためにも税理士に相談することをおすすめします。
必要書類の収集から作成、提出までの手続きのすべてを税理士に任せられるため、時間的・労力的な負担は最小限に抑えることが可能です。積極的に専門家の力を借りて、相続税に関する不安を解消しましょう。