「遺産を相続させたい人が自分よりも先に亡くなるかもしれない」と不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。そのようなときに備えた遺言が予備的遺言です。予備的遺言を残すことで、遺言書で相続人にした人が万が一、自分よりも先に死亡した時でも希望の相続を実現しやすくなります。この記事では、遺したほうがよいケースなどを解説します。
予備的遺言とは
予備的遺言とは、遺言書の中で相続させると指定した人が遺言者よりも先に死亡した場合に備える遺言です。誰が・いつ亡くなるかは誰にも分かりません。自分の遺産を相続させたい人が自分よりも先に亡くなってしまう可能性はゼロではないでしょう。
遺言書で相続させると指定した人が自分より先に亡くなってしまうと、その部分の遺言は効力を失います。その場合、無効になった部分は他の相続人で遺産分割協議を行い分割することになるのです。
しかし、遺産分割協議で分けてもらいたくない被相続人やその次の相続についても希望がある場合も少なくないでしょう。よくあるケースでは、長男に相続させたい場合で、長男が亡くなった場合はその分をすべて長男の子ども(孫)に相続させたいというケースがあります。
たとえば、相続人となる予定の人がA・B・Cだとします。ちなみに、Aには子ども(被相続人の孫)Eがいます。遺言状で「Aに100万円を相続させる」と遺していても、自分よりも先にAが亡くなった場合、遺言書でAを相続人に指定した部分に効力は生じません。
この場合、Aに相続させる予定だった100万円は、BとCまた代襲相続人となったEの3人で平等に遺産分割することになります。たとえ、相続人が孫EにAの分をすべて相続させたいと考えていても、Eはすべて相続できません。
そのような場合に備えるのが予備的遺言です。予備的遺言では、「Aに100万円を相続させる。自分が死亡するより先にAが死亡したら、100万円は孫Eに相続させる」という旨を遺言します。そうすることで、Aが相続できなかった100万円はEが相続できるようになるのです。
このように、予備的遺言を遺しておくことでより希望に沿った相続を実現できます。
なお、相続人に指定した人が亡くなっている場合で、遺言の効力が無くなるのは亡くなった相続人を指定している部分のみです。遺言書の他の部分の効力には影響がない点は覚えておきましょう。
予備的遺言を遺した方がよいケース
予備的遺言があれば、万が一の場合でも相続の希望を実現しやすくなります。とはいえ、すべてのケースで予備的遺言が必要というわけではありません。
相続させたい相手が先に死亡した場合、遺言書を書き換えることでも相続の希望を実現できます。しかし、指定した相続人が死亡した時点で、自分に遺言能力がないと書き換えられなくなるので、そのような場合に備えるなら予備的遺言が有効です。公正証書遺言で作成していると作り変えには費用がかかるので、コストを抑えたい場合は予備的遺言を検討するとよいでしょう。
また、以下のようなケースでも予備的遺言を遺したほうがよいでしょう。
- 相続させる相手との年齢が近い
- 相続させる相手の健康状態が悪い
- 遺言書を早い段階で作成する
遺言書で相続させる相手の年齢が自分と近い、健康状態が悪くいつなくなるか分からないという場合は予備的遺言を検討する必要があります。
たとえば、高齢の夫婦で夫が妻を遺言者に指定するといったケースです。
相続させる相手が若い場合でも、重度の病気といったケースも予備的遺言を遺したほうがよいでしょう。
また、若いうちに遺言書を作る場合も、予備的遺言を検討する必要があります。
民法961条では遺言について「十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」と規定してあるため、15歳以上であれば遺言書の作成が可能です。20代・30代で遺言書を作成するケースは多くはないですが、近年は「終活」として早い段階で遺言書を作成するケースは少なくありません。
しかし、若いうちに作成しておくと、実際の相続開始までに相続人の状態が変わってくる可能性は高くなります。そのため、予備的遺言で次の相続候補を指定しておくと希望の相続が実現しやすくなります。
予備的遺言の書き方・文例
ここでは、予備的遺言の文例をみていきましょう。
「相続人が死亡している場合は孫に相続させたい」場合の文例は以下の通りです。
遺言者は、遺言者の所有する下記の財産をAに相続させる。
遺言者より前にまたは同時にAが死亡した場合は、遺言者は前条記載の財産の一切をAの子どもEに相続させる。
民法では「同時死亡の推定」として、数人の者が死亡した場合、そのうちの1人が他の人の死亡後に生存していたことが明らかでなければ同時死亡とされます。
交通事故や災害などで相続人に指定した人が同時死亡した場合も、遺言で相続させるという旨は無効になります。そのため、同時死亡にも備えて「同時に死亡した場合」という一文を加えておく必要があるのです。
また「孫に遺贈しつつ、孫が相続人になった場合に備える」場合の文例は以下の通りです。
遺言者は、遺言者の所有する下記の財産をAの子どもEに遺贈する。なお、この遺言書の効力発生時においてEが相続人になっていたときは、上記の財産を同人に相続させる。
遺贈と相続では、登記手続きが異なってきます。相続させるようにしておいた方が、相続人の負担を軽減できるでしょう。
このように、予備的遺言は特別難しい文章を加えるわけではないので、検討しやすいものです。ただし、どのように予備的遺言を遺すかは、被相続人の状況などによって異なるので専門家に相談しながら決めることをおすすめします。
予備的遺言の注意点・知っておきたいこと
予備的遺言を検討する際には、以下のようなポイントは押さえておきましょう。
- 遺留分に気を付ける
- 予備的遺言の費用
- 無効になるおそれもある
遺留分に気を付ける
遺留分とは、一定の相続人に最低限保証された取得できる遺産のことです。兄弟姉妹を除く法定相続人には遺留分があり、他の相続人から遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求できます。
遺留分は、遺言であっても侵害できません。そのため、遺言や予備的遺言で遺留分の侵害があると、相続人間でトラブルになる恐れがあります。相続トラブルに発展し、相続人間の関係性が悪くなることは被相続人も望まないものでしょう。
遺言を遺す場合は、相続人の遺留分についても考慮することが大切です。
「遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
予備的遺言の費用
予備的遺言を自筆証書遺言で遺す場合は、費用は発生しません。
公正証書遺言にする場合や専門家に遺言書を作成してもらう場合でも、一般的には予備的遺言の分で追加費用がかかることはないでしょう。ただし、予備的遺言のために追加資料が必要なケースでは、費用が発生する可能性があります。
また、公正証書や専門家に依頼する遺言書で、一度作成した遺言書に予備的遺言を追加する場合も費用がかかるのが一般的です。
無効になるおそれもある
予備的遺言に限ったことではありませんが、遺言書は形式を満たしていないと無効になる恐れがあります。
公正証書遺言や自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、形式的に無効になるリスクは低いでしょう。しかし、自分で遺言書を作ってそのまま保管するケースでは、形式を満たさない恐れがあるので注意が必要です。
また、公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度を利用した場合でも、法的には有効でも相続トラブルが起きないとは限りません。
無効にならず、かつスムーズに相続を実現させる遺言を作成するなら、専門家に相談することをおすすめします。
予備的遺言は専門家に相談を
予備的遺言とは、遺言書で指定した相続人が自分よりも先に死亡する場合に備えて次の相続人を指定する方法です。
予備的遺言を活用することで、万が一の場合でも希望の相続を実現しやすくなります。ただし、予備的遺言をどのように残すかは個々の状況によって異なってきます。
相続トラブルを避けつつ希望の相続を実現するためには、遺言の作成時に専門家に相談することをおすすめします。