非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことです。本記事では、非嫡出子の基本的な定義から認知制度、戸籍・相続における取り扱い、嫡出推定制度の最新の改正内容などについて、詳しく解説します。
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非嫡出子とは?
非嫡出子とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことであり、婚外子とも呼ばれます。非嫡出子と近い言葉に嫡出子がありますが、嫡出子とは法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子どものことです。
非嫡出子と嫡出子の大きな違いは、父親との親子関係です。嫡出子の場合は夫が自動的に父親となるのに対し、非嫡出子は認知を経て初めて法的な親子関係が成立します。
このような違いから、非嫡出子は戸籍、相続、認知といった場面において、嫡出子とは法的に異なる扱いを受ける場合があります。
なお、母親との親子関係は分娩の事実によって成立するとされており、この点は嫡出子と非嫡出子の間に違いはありません。
認知について
非嫡出子と父親との法的な親子関係は、認知を経て初めて成立します。認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもについて、父親がその子どもを自分の子どもであると法的に承認する手続きのことです。認知には、父親が自発的に行う任意認知と、家庭裁判所の手続きによる強制認知の2つの方法があります。
認知で変わること
認知がなされると出生時にさかのぼって法律上の父子関係が生じ、父の子どもに対する扶養義務や子どもの相続権などが発生します。
また、父親が認知しない場合、非嫡出子やその母親は家庭裁判所に対し、認知の調停・審判を申立てることができます。認知調停や認知の訴えにおいて、DNA鑑定などの科学的証拠に基づいて親子関係が証明されれば、裁判所によって認知を命じる判決がなされます。
認知準正について
認知準正とは、子どもの出生後に父母が婚姻し、父親による認知が行われることで、その子どもが嫡出子としての身分を得る制度です。認知準正の効果が生じると、非嫡出子であった子どもは嫡出子と変わらない法的な地位を手に入れます。
通常の認知手続きでは、相続権などの法的権利は得られますが、子どもの身分は非嫡出子のままです。一方で、認知準正制度を利用すると、その子どもは嫡出子としての法的地位を得ることができ、この点が一般的な認知手続きとの大きな違いとなります。
戸籍について
非嫡出子の戸籍は、母親が出生届を提出することで母親の戸籍に記載されます。母親がそれまで自分の両親の戸籍に入っていた場合、母親を筆頭者とする新しい戸籍が作成され、母子がその戸籍に入ります。
父親による認知が行われた場合、非嫡出子の戸籍に認知された事実が記録されます。認知前は空欄となっていた「父」の欄に父親の氏名が記載され、身分事項欄には認知日や認知者の氏名、本籍地などの情報が追加されます。認知されたからといって自動的に父親の戸籍に移るわけではなく、子どもは引き続き母親の戸籍に残ります。
父親の戸籍が改製や転籍などで新たに作成されたとしても、認知の記録は引き継がれません。そのため、認知した子どもの存在を把握するには、認知の事実が記載された戸籍まで遡って調査する必要があります。
余談ですが、相続手続きにおいて被相続人の出生から亡くなるまでの全戸籍謄本が求められるのは、認知された子どもを含め、相続人となる子どもの存在を漏れなく確認するためとなっています。
相続について
ここまでに述べたように、非嫡出子が認知を受けた場合、その法的効果は出生の時点まで遡及して親子関係が確立されます。これにより、非嫡出子も嫡出子と変わらない相続上の権利を得ます。
なお、法改正以前の民法では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の半分に設定されていました。しかし、平成25年の最高裁大法廷決定では、こうした法律婚重視の制度趣旨について合理性を欠くものとなったと判示し、憲法第14条が保障する法の下の平等原則に反するとの結論を下しました。
この司法判断を受けて、平成25年12月に民法の相続編が改正され、嫡出子と非嫡出子の法定相続分が同等となり、非嫡出子にも嫡出子と等しい相続上の地位が保障されることとなりました。
嫡出子の種類
嫡出子は、嫡出推定制度の適用範囲に応じ、以下の3種類に分かれます。
- 推定される嫡出子
- 推定されない嫡出子
- 推定の及ばない嫡出子
これらの分類ごとに法的な扱いが変わるため、以下で具体的に解説します。
推定される嫡出子
婚姻関係にある夫婦の間に子どもが生まれた場合、以下の期間に生まれた子どもには嫡出の推定が及び、夫の嫡出子であるとみなされます。
- 婚姻届を提出した日から200日後
- 離婚・婚姻取消しがあった日から300日以内
このような推定制度が設けられている理由は、分娩によって親子関係が明確な母親とは違い、父親との親子関係はかならずしも明確でないためです。しかし、すべての子どもに血縁関係の証明を義務づけるのは現実的ではありません。
そこで、民法では嫡出の推定制度を設け、婚姻期間中に生まれた子どもは原則として夫の嫡出子とみなすこととしています。
なお、嫡出の推定に対し、夫は嫡出否認の訴えを提起することが可能です。嫡出否認の訴えを家庭裁判所に申立て、認められた場合には、法的な父子関係が否定されることになります。
推定されない嫡出子
婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子どもであっても、嫡出の推定が適用されない場合があります。このような子どもを「推定されない嫡出子」といいます。
この推定されない嫡出子が生まれるケースとして代表的なのは、いわゆる「授かり婚」の場合です。
授かり婚とは、妊娠が判明してから婚姻届を提出するケースです。この場合、「婚姻成立の日から200日を経過した後に生まれた子」に該当しないため、嫡出の推定が及びません。ただし、夫婦が婚姻していれば出生届は受理されるので、推定されない嫡出子であっても戸籍上は嫡出子として記載されます。
この場合では、父子関係に疑義が生じてその関係を否定したい場合、家庭裁判所へ親子関係不存在確認の調停を申立てることが可能です。
推定の及ばない嫡出子
「推定の及ばない嫡出子」とは婚姻中の妻が妊娠した子どもで、夫との血縁関係がないことが明らかな場合を指します。例えば、以下のようなケースが推定の及ばない嫡出子に該当します。
- 夫の服役中・失踪中に妻が妊娠した
- 夫に医学的に生殖能力がない
- 夫が長期間海外に滞在していた
- 血液型や医学的・遺伝的要素などから、血縁関係のないことが明白である
上記のように、夫の子どもでないことが客観的に明らかな場合、嫡出否認の訴え・親子関係不存在確認の訴えによって父子関係を否定することが可能です。
嫡出推定制度とは

これまで説明してきた通り、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子どもは一定の条件のもと、夫の嫡出子として法的に推定されます。これを嫡出推定制度といいます。
父子の親子関係は、母子と違ってかならずしも明確ではありません。しかし、嫡出推定制度があることで、婚姻期間中に生まれた子どもは原則として夫の子どもとして扱われるため、個別に血縁関係を証明することなく子どもの身分が安定化されます。
このような嫡出推定制度ですが、令和6年4月に重要な改正がなされました。以下では、それについて詳しく解説します。
嫡出推定制度が改正されました
令和6年4月1日に施行された民法改正では、嫡出推定制度についても重要な見直しが行われました。
この法改正の主たる狙いは、無戸籍者問題の根本的な解決にあります。無戸籍者問題とは、離婚後に前夫以外の男性との子どもを妊娠・出産した女性が、法律上前夫の子どもとして扱われることを回避するため出生届の提出を控えることによりおこる問題です。その結果として、戸籍を持たない子どもが発生してしまう深刻な社会問題です。
嫡出推定見直しのポイント
民法改正における主要なポイントは、以下の通りです。
- 再婚後の夫の推定
- 女性の再婚禁止期間の廃止
- 嫡出否認権の拡大
本改正により、母親が再婚した場合は、離婚後300日以内に生まれた子どもであっても、再婚後の夫の子どもと推定されるようになりました。これにより、血縁上の父親と再婚相手が同じ場合、戸籍上も正しい父子関係が記載されるため、母親が出生届の提出を躊躇する理由がなくなりました。
また、従来は父親が重複する可能性を避けるため、女性にのみ離婚後100日間の再婚禁止期間が設けられていましたが、上記の嫡出推定見直しによって再婚禁止期間も廃止されました。
そして、夫のみが提起できた嫡出否認の訴えは子どもや母親も提起できるようになり、出訴期間が1年から3年に延長されました。
これらの改正により、無戸籍問題の主要な原因となっていた制度的な障壁が取り除かれ、子どもの権利保護と戸籍制度の適正化がより一層図られるようになりました。
非嫡出子の権利保護に向けて
非嫡出子は、認知によって父親から扶養を受ける権利や相続権を取得します。認知には任意認知と強制認知があり、父親が認知しない場合でも家庭裁判所を通じて認知を求めることが可能です。
平成25年の法改正により非嫡出子と嫡出子の相続分が完全に平等になりました。さらに、さらに、令和6年の民法改正によって嫡出推定制度が見直され、これにより無戸籍者問題の解消に向けて大きく前進しています。
認知制度や相続制度について理解を深め、すべての子どもが適切な法的保護を受けられるよう、社会全体で取り組むことが大切です。
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