相続トラブルだけじゃない!家庭裁判所で行う相続手続き一覧とその管轄

公開日:2024年5月16日

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家庭裁判所と聞くとトラブルや争いごとが起きたときに利用する場所だと思っている方は多いでしょう。しかし、相続が発生した際には、さまざまな手続きを家庭裁判所で行う必要が出てくる場合があります。本記事では、家庭裁判所での手続きについて、どのような場合に家庭裁判所を利用すべきなのかを知り、スムーズに相続手続きを済ませましょう。

家庭裁判所とは

家庭裁判所とは、少年事件と家事事件の2つの事件を取り扱う場所です。

少年事件というと、未成年者が犯した万引きや暴行事件などを指します。未成年者の再犯防止や健全育成を目的として、非行の内容に応じた処分が下されます。

一方、家事事件とは家庭内のトラブルのことです。具体的には、離婚や離縁、養子縁組などのトラブルが挙げられます。相続関連のトラブルも家事事件のなかに含まれており、相続が発生すると家庭裁判所で手続きが必要となる場合があります。

家庭裁判所で申し立てをする場合、管轄の家庭裁判所での手続きが必要です。たとえば、相続放棄の手続きであれば、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所でしか申し立てができません。手続き内容ごとに管轄の家庭裁判所は異なります。全国各地どこの家庭裁判所でも取り扱ってくれるわけではないため、注意しましょう。

ここからは相続に関して家庭裁判所で行う手続きや、トラブル解決のために行えることについて、詳しく解説していきます。

相続放棄・限定承認の手続き

相続が開始した場合、法定相続人は以下の3つのなかから相続方法を選択できます。

  • すべての相続財産を引き継ぐ単純承認
  • すべての相続財産を引き継がない相続放棄
  • 被相続人のプラスの財産を限度に被相続人のマイナスの財産を引き継ぐ限定承認

単純承認の場合、家庭裁判所で特別な手続きは必要ありません。しかし、相続放棄・限定承認をしたい法定相続人は、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

相続放棄・限定承認を行う際に必要となりうる家庭裁判所での手続き一覧は、以下の通りです。

  • 相続の放棄の申述
  • 相続の限定承認の申述
  • 相続の承認または放棄の期間の伸長
  • 相続財産清算人の選任

詳しく確認しましょう。

相続の放棄の申述

相続放棄をして被相続人の預貯金や不動産、権利、負債などを一切引き継ぎたくないのであれば、家庭裁判所で相続放棄の申述を行いましょう。相続の放棄の申述は、自身に相続が発生したことを知ってから3か月以内です。

必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の相続人であることを証明する書類(関係によって異なる)

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

一度相続の放棄の申述を行うと、撤回することはできません。そのため、十分に相続財産調査を行い、相続放棄をするかどうかを検討しましょう。

参照:相続の放棄の申述|裁判所

相続の限定承認の申述

限定承認をして、被相続人のプラスの財産を限度に被相続人のマイナスの財産を引き継ぐ場合、家庭裁判所で相続の限定承認の申述を行いましょう。相続の限定承認の申述も、自身に相続が発生したことを知ってから3か月以内です。

必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 相続の限定承認の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の相続人であることを証明する書類(関係によって異なる)

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

複数の相続人がいる場合、限定承認の申述は共同相続人全員で行う必要があります。単独や一部の相続人だけでは限定承認ができないため注意しましょう。

参照:相続の限定承認の申述|裁判所

相続の承認または放棄の期間の伸長

原則、相続人は自身に相続が発生したことを知ってから3か月の熟慮期間の間に単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを選択しなければなりません。

しかし、3か月の熟慮期間に相続人が相続財産のすべてを調査しきれずに相続方法を選択できない場合に、家庭裁判所にて相続の承認または放棄の期間の伸長の申し立てができます。

相続の承認または放棄の期間の伸長をすると、1〜3か月の間で熟慮期間の伸長が認められやすいとされています。相続財産のボリュームが大きい場合やさまざまな箇所から借金をしている場合などに有効です。

相続の承認または放棄の期間の伸長の申し立てに必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 相続の承認または放棄の期間の伸長の申立書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 伸長を求める相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の相続人であることを証明する書類(関係によって異なる)

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

相続の承認または放棄の期間の伸長の申し立て期限は、自身に相続が発生したことを知ってから3か月です。3か月を過ぎてしまうと「単純承認をした」とみなされるため、注意しましょう。

参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所

相続財産清算人の選任

相続人全員が相続放棄をして相続人が不在となった場合、家庭裁判所で相続財産清算人の選任の手続きを行います。相続財産清算人とは、被相続人の債務を遺産の中から支払ったり、残った不動産や預貯金を国庫に帰属させる業務を行う人です。

もともと相続人だった人の他にも、被相続人の債権者や特定遺贈を受けた人、特別縁故者も申し立てができます。

相続財産清算人の選任の申し立てに必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 相続財産清算人の選任の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の住民除票または戸籍附票
  • 被相続人の相続人であることを証明する書類(関係によって異なる)
  • 財産を証明する資料など

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)
  • 官報公告料5075円(家庭裁判所の指示後に納める)

内縁の妻や事実上の養子など、特別縁故者は相続財産清算人の選任を行ったあとに家庭裁判所に対して特別縁故者に対する財産分与の申し立てができます。家庭裁判所が財産分与を認めれば、法定相続人でなくても被相続人の財産を譲り受けられます。

参照:相続財産清算人の選任|裁判所特別縁故者に対する相続財産分与|裁判所

遺産分割の手続き

遺産分割の手続きのイメージ

相続人同士で行う遺産分割協議で遺産分割が成立しなかった場合、家庭裁判所に判断を仰ぐことができます。

家庭裁判所でできる手続きは、以下の通りです。

  • 遺産分割調停
  • 遺産に関する紛争調整調停

具体的にどのような手続きなのか確認しましょう。

遺産分割調停

遺産分割調停とは、遺産分割の内容が相続人同士でまとまらない場合、調停委員を通じて話し合いのできる場を設ける手続きです。調停手続では、当事者それぞれの事情を聞いてもらい、事情を理解してもらったうえで解決案が提示されます。

ただし、合意に至らず調停が不成立となった場合、自動的に審判へ移行し、裁判官が最終的に遺産分割の内容を指示します。

遺産分割調停の申し立てに必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺産分割調停の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または戸籍附票
  • 財産を証明する資料

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

審判での結果に不服があると、訴訟に発展する場合があります。

参照:遺産分割調停|裁判所

遺産に関する紛争調整調停

遺産に関する紛争調整調停とは、相続財産の対象範囲や相続人同士での利害関係についてトラブルがあった際に解決を目指して話し合うための場を設ける手続きです。

たとえば、1人の相続人が被相続人と同居していたことを理由に、生前に名義変更を行っていたとしましょう。しかし、他の相続人は「その不動産は被相続人の財産であるため遺産分割の財産の対象だ」と主張しているといったように、相続人同士でトラブルとなっているケースに遺産に関する紛争調整調停が活用されます。

遺産に関する紛争調整調停に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺産に関する紛争調整調停の申立書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 相手方の戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 遺産に不動産がある場合は、不動産登記事項証明書

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

調停が不成立となった場合は、地方裁判所に対して訴えを起こすことが想定できます。

参照:遺産に関する紛争調整調停|裁判所

「相続の調停」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言書の手続き

相続開始時に被相続人の遺言書が残されている場合もあるでしょう。遺言書がある場合、以下の手続きを家庭裁判所で行う必要があるかもしれません。

  • 遺言書の検認
  • 遺言執行者の選任

どのような場合に手続きをしなければならないのか、詳しく確認しましょう。

遺言書の検認

遺言書は、原則勝手に開封する行為は禁止されています。相続人による改ざんや差し替えを防ぐために、家庭裁判所の検認手続きのなかで裁判官が立ち会って開封することとなっているからです。

ただし、公証人の立ち会いの元作成された公正証書遺言であれば、遺言書の検認は必要ありません。被相続人が自分で作成した自筆証書遺言や秘密証書遺言は、開封のために遺言書の検認が必要のため注意しましょう。

遺言書の検認に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺言書の検認の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の相続人であることを証明する書類(関係によって異なる)

<必要費用>

  • 収入印紙代800円(1通あたり)
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

遺言書の検認を終えないと相続手続きが進められないため、早めに検認の申し立てを済ませましょう。

参照:遺言書の検認|裁判所

遺言執行者の選任

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために相続財産の管理や必要手続きを行える権限を持つ人です。遺言執行者の選任を遺言者本人が行う場合、遺言書に遺言執行者の氏名や住所と一緒に「遺言執行者として選任する」と記載すれば完了します。

しかし、相続人が遺言書の内容を実現するために遺言執行者を選任したい場合、家庭裁判所での申し立てが必要です。財産管理や名義変更手続きを一任できるため、相続人が遺言執行者を選任するケースは珍しくありません。

遺言執行者の選任に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺言執行者の選任の申立書
  • 遺言者が死亡していることがわかる戸籍謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
  • 遺言書の写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
  • 利害関係を証明する資料

<必要費用>

  • 収入印紙代800円(1通あたり)
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

遺言執行者を解任したい場合は、利害関係者全員の同意を得たのちに家庭裁判所へ解任の申し立てを行い、認められれば解任されます。

参照:遺言執行者の選任|家庭裁判所

「遺言書」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

成年後見制度に関する手続き

相続が開始したとき、相続人に物事を判断する能力がない場合に成年後見制度を活用しなければならないケースがあります。また、親権者が不在となっている未成年者が相続人となった場合にも、未成年後見制度を利用する必要があります。

相続によって行わなければならない可能性のある後見人に関する手続きは、以下の通りです。

  • 後見開始・成年後見人(保佐人、補助人)選任
  • 未成年後見人選任
  • 特別代理人選任

どのような場合に必要な手続きなのかを詳しく確認しましょう。

後見開始・成年後見人(保佐人、補助人)選任

成年後見制度を開始するには、後見開始の手続きを行わなければなりません。そもそも成年後見制度とは、判断能力が低下した方の権利と利益を守るための制度です。

認知症や知的障害・精神障害などによって判断能力が欠けている方が相続人となった場合、他の相続人に言いくるめられたり、相続放棄するかどうか判断できないまま熟慮期間を迎えてしまったりする可能性があります。

そのため、遺産分割協議や相続放棄などの相続手続きをするには、成年後見制度を利用しなければなりません。

成年後見制度を開始するには、家庭裁判所で後見開始の申し立てを行います。必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 後見開始の申立書
  • 本人の戸籍謄本
  • 本人の住民票または戸籍附票
  • 成年後見人候補者の住民票または戸籍附票
  • 本人の診断書
  • 本人情報シートの写し
  • 本人の健康状態がわかる資料
  • 成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
  • 本人の財産や収支に関する資料

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)
  • 登記手数料2600円

成年後見制度の利用が認められたら、成年後見登録されます。選任された後見人は、本人の財産や健康保険証などの書類を管理することとなります。

参照:後見開始|裁判所成年後見人(保佐人,補助人)選任の申立書|裁判所

未成年後見人選任

通常、未成年者が相続人となった場合、親権を持つ方が代理人となって相続手続きを行います。しかし、親や祖父母が亡くなったことで相続人となった場合、未成年者には親権を持つ方がいない状態となってしまいます。

このようなとき、未成年後見人が未成年者の代理人となって相続手続きを進めていくことが必要です。未成年後見人が選出されると、未成年後見人は未成年者の身上監護と財産管理を行います。

未成年後見制度を開始するには、家庭裁判所で後見開始の申し立てを行います。必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 成年後見人選任の申立書
  • 本人の戸籍謄本
  • 本人の住民票または戸籍附票
  • 未成年後見人候補者の住民票または戸籍附票
  • 本人に親権者がいないことを証明する書面
  • 本人の財産に関する資料
  • 本人と申立人の関係を証明する書類

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

未成年後見人は、未成年が成年に達するか養子縁組をした時点で役割は終了します。それまではよほどの理由がない限り簡単に解任できません。

参照:未成年後見人選任|裁判所

特別代理人選任

特別代理人選任は、本人と法定代理人との利益が相反するときに本人の利益を守るために特別代理人を選任する手続きです。具体的には、以下のような場合に手続きを行います。

  • 成年後見人と成年被後見人との利益が相反するとき
  • 親権者またが未成年後見人と子どもとの利益が相反するとき

相続において、「成年後見人と成年被後見人」「親権者とその子ども」が同じ被相続人の相続人となる場合があります。このとき、どちらか一方の利益を多く獲得しようとすると、もう一方の利益が減ってしまう関係が成立してしまうため、別の特別代理人を選任しなければなりません。

特別代理人選任に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 特別代理人選任の申立書
  • 本人の戸籍謄本
  • 利益相反となる親権者や後見人の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 利益相反に関する資料

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

家庭裁判所で定められた行為が終了した時点で、特別代理人の任務は終了します。

参照:特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)|裁判所

「成年後見制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分の手続き

遺留分とは、法定相続人に最低限保証された相続の取り分です。たとえ、遺言書で「すべての財産を長男に相続させる」と指定されていたとしても、配偶者や次男などの他の相続人にも最低限相続できる遺産の割合が定められています。

遺留分に関して請求・放棄する際に、以下のような手続きを家庭裁判所で行う必要があります。

  • 遺留分侵害額の請求調停
  • 遺留分減殺による物件返還請求調停
  • 遺留分放棄の許可

3つの手続きに関して詳しく確認しましょう。

遺留分侵害額の請求調停

遺留分を持つ相続人が遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額の請求調停にて返還請求ができます。かつては同様の行為を遺留分減殺請求と呼んでいましたが、令和元年7月の法改正以降、名称や返還方法が変わりました。

ここでは、令和元年7月1日以降に開始した相続における遺留分侵害額の請求調停について詳しく解説します。

遺留分侵害額の請求調停の申し立ては、遺留分を侵害された兄弟姉妹以外の相続人や遺留分を侵害された者の承継人にのみ認められています。

必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺留分侵害額の請求調停の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 遺言書の写し、またはは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺産の内容を証明する書類

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

遺留分侵害額請求権は、相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ってから1年または相続開始から10年経過すると時効を迎えます。

家庭裁判所への申し立てだけでは意思表示をしたこととみなされないため、内容証明郵便を活用して相手方に意思表示を行いましょう。

参照:遺留分侵害額の請求調停|裁判所

遺留分減殺による物件返還請求調停

遺留分減殺による物件返還請求調停とは、遺留分を侵害された相続人が、贈与・遺贈を受けた人に対して遺留分侵害を限度に贈与・遺贈された物件の返還を請求することです。

この請求調停は、令和元年7月1日より前に開始した相続に限ります。令和元年7月1日以降に発生した相続において遺留分を侵害された際は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求することとなります。

遺留分減殺による物件返還請求調停に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺留分減殺による物件返還請求調停の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 不動産登記事項証明書
  • 遺言書の写し、またはは遺言書の検認調書謄本の写し

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

遺留分減殺は、相続開始および減殺すべき贈与・遺贈があったことを知ってから1年または相続開始から10年が経過するまでに相手方に意思表示をしなければなりません。

家庭裁判所への申し立てだけでは意思表示をしたこととみなされないため、内容証明郵便を活用して相手方に意思表示を行いましょう。

参照:遺留分減殺による物件返還請求調停|裁判所

遺留分放棄の許可

被相続人が生きている間に家庭裁判所の許可を得ることができれば、あらかじめ相続人は遺留分を放棄することが可能です。

たとえば、「長男に家業を引き継がせたい」「住処と生活費のために全額遺産を妻に残したい」などの理由で、相続財産を一部の人に集中させたい場合もあるでしょう。あらかじめ他の相続人が遺留分を放棄していれば、相続トラブルを未然に防げます。

遺留分放棄の許可に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 遺留分放棄の許可の申立書
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本

<必要費用>

  • 収入印紙代800円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

あくまでも、相続が開始するまでに行わなければならない手続きである点に注意しましょう。

参照:遺留分放棄の許可|裁判所<遺留分減殺による物件返還請求調停>|裁判所

「遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

寄与分の手続き

寄与分とは、亡くなった方に金銭的援助をしたり介護を献身的に行ったりと、特別な寄与を行った人に相続分に上乗せして多くの遺産を相続できる制度です。

寄与分を求める際に家庭裁判所で行う手続きは、以下の通りです。

  • 寄与分を定める処分調停
  • 特別の寄与に関する処分調停

順番に確認しましょう。

寄与分を定める処分調停

遺産分割の際に、被相続人の財産の維持・増加に特別な寄与を行った相続人の寄与分について話し合いをするための手続きです。遺産分割協議で相続人全員が納得すれば調停を行う必要はありません。

調停では、当事者のそれぞれの事情や要望を調停委員が確認し、解決案を提示してくれます。

寄与分を定める処分調停に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 寄与分を定める処分調停の申立書、および相手方人数分の写し
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または戸籍附票
  • 遺産の内容を証明する書類

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円(申立人1人につき)
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

調停で合意できず、調停が不成立になったときは審判手続きが開始されます。ただし、遺産分割審判の申し立てをしていないと不適法として却下されるため注意しましょう。

参照:寄与分を定める処分調停|裁判所

特別の寄与に関する処分調停

被相続人の財産の維持・増加に特別な寄与を行った相続人以外の者の寄与分について話し合いをするための手続きです。相続人に直接請求しても交渉が成立しなかった場合に調停を行います。

調停では、当事者のそれぞれの事情や要望を調停委員が確認し、解決案を提示してくれます。

ちなみに特別寄与は、令和元年7月1日に施行された改正民法に新しく制定された制度です。そのため、令和元年7月1日以前に開始した相続については、この申し立てができません。

特別の寄与に関する処分調停に必要な書類と費用は、以下を参考にしてください。

<必要書類>

  • 特別の寄与に関する処分調停の申立書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または戸籍附票
  • 遺産の内容を証明する書類

<必要費用>

  • 収入印紙代1200円(申立人1人につき)
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なる)

調停が不成立となった場合は、審判手続が自動的に開始されます。

参照:特別の寄与に関する処分調停|裁判所

「寄与分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

家庭裁判所で相続手続きを行う際は専門家に相談しよう

相続放棄から遺言書の検認、遺産分割調停まで、相続に関する家庭裁判所での手続きは多岐に渡ります。なかには普段利用しない家庭裁判所での手続きに戸惑う方もいるかもしれません。

家庭裁判所での相続手続きが必要になった際は、積極的に法律の専門家に相談することをおすすめします。期限のある手続きであればスピーディーに対応してくれます。

もちろん、相続人同士でトラブルに発展した際も、あなたが有利になるよう有益なアドバイスをくれるでしょう。早めに法律の専門家に相談し、円滑に相続手続きを終わらせてくださいね。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年5月16日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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