相続登記で不動産が共有名義の場合はどうなるの?対策を解説します

公開日:2025年9月8日

相続登記で共有名義の場合はどうなるの?トラブルに発生しないようにする方法を解説します_サムネイル

土地・建物は複数のものに分割することが難しく、分割できるとしても手続きが複雑かつ資産価値低下のリスクがあります。そこで、複数の相続人で1つの土地または建物を共有するようにして受け継ぐケースが多々見られます。そうかといって、1つの不動産を共有名義で相続すると、必要なときに管理・処分ができなくなったり、単独名義に整理することが困難になったりします。ここで、共有名義で土地・建物を相続するときの懸念事項と、その対策について解説します。

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そもそも共有名義とは?

不動産の共有名義とは、1つの土地または建物について、2人以上の所有者がいる状態です。不動産の基本情報や権利状況を記載した「登記簿」の記録上では、共有者として2人以上の登記名義人がいる状態のことです。

共有持分の考え方

共有されている不動産には、各所有者に「共有持分」の割合が定められています。3人で平等に土地を取得したケースを考えてみると、登記簿にはそれぞれにつき「持分3分の1」ような記載があります。

不動産の共有持分は、各共有者が使用できる割合を示すとともに、その不動産を扱う際にどのように判断するか決める要素でもあります。共有する土地・建物の取扱いは、程度が小さい順に保存、管理、変更の3パターンがあり、それぞれについて共有持分のうち一定割合の同意が必要です。

共有物の取扱い実施できる条件行為の具体例
保存行為各共有者が単独で可能不法占拠者への返還請求
管理行為持分価格の過半数の同意賃貸借契約の締結、設備の修繕
変更行為共有者全員の同意大規模なリフォーム、第三者に持分を売却

相続による不動産共有の具体的な例

不動産を相続で共有するのは、1つの土地や建物に対して複数の相続人がいるなかで、物理的に分割してそれぞれ取得することが難しいのが主な理由です。その状況は2つのパターンに分かれます。相続開始時に相続人が複数いるケースと、共有者のうちの1人が亡くなるケースです。

相続開始時に相続人が複数いるケース

もともと単独名義だった不動産の相続について、相続人が複数いるケースです。土地・建物の取得方法は当事者の意思に委ねられますが、公平にするため複数人の共有で共有する場合が見られます。

    <【例】母子3人で不動産を共有するケース>

    1. 父名義の家に母子3人で居住
    2. 父が死亡(敷地と家屋の相続が発生)
    3. 遺産分割協議で公平に共有することに決定

    →母は持分2分の1、子どもはそれぞれ持分4分の1で共有名義による登記が行われる

    共有者のうちの1人が亡くなるケース

    相続が始まった時点ですでに共有名義となっている不動産もあり、その場合は共有持分を相続することになります。相続人が複数人いると、持分は細分化されます。

    <【例】共有者2人のうち1人が死亡するケース>

    1. 祖父が死亡(土地の相続が発生)
    2. 父とその弟で土地を共有(共有者は2人)
    3. 父が死亡(持分2分の1について相続発生)
    4. 子ども2人で相続

    →父の弟(叔父)が持分2分の1、子ども2人がそれぞれ4分の1、共有者は2人から3人に増加

    共有名義が生まれる背景

    不動産が共有名義なってしまう経緯はさまざまで、特に避けたくてもそうせざるを得なかった場合が多い傾向にあります。ここでは、相続において共有名義が誕生してしまう主な背景について、それぞれ具体的に解説していきます。

    遺言書による指定があった

    共有名義が生まれる背景として、被相続人(亡くなった人)が遺言書でそのように指定したケースが挙げられます。典型的なのは「自宅不動産は、長男と次男に2分の1ずつ相続させる」といった内容です。

    こうした指定は「特定の子どもだけを優遇せず、相続人のあいだで公平性を保ちたい」という被相続人の意思の表れであることが多いと考えられます。

    遺産分割協議による合意があった

    遺言書がない場合、相続人全員の話合い(遺産分割協議)によって遺産の分け方を決めなくてはなりません。このとき「親が残した実家は誰も単独で相続せず、みんなで協力して維持管理していこう」といった理由で共有する場合が多々見られます。

    また、特定の相続人が単独相続を希望しても、公平を期すためほかの相続人に支払う必要のある代償金を用意できず、結果として共有を選択するケースも少なくありません。

    法定相続分を共有持分で取得した

    遺産分割協議がまとまらない場合や、相続人同士が疎遠で連絡が取れない場合など、話合いが進まない状況での妥協によって共有名義が生まれることもあります。

    遺産分割協議ができない状況下でも、法定相続分での登記は可能であり、相続税申告のため単独で登記申請することによって共有となるケースもあるでしょう。

     

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    共有名義で相続登記を行うとどうなるか?

    共有名義での相続登記をするとどうなるか?のイメージ

    共有名義での相続登記は、公平性を保ちやすい方法ですが、その裏には長期的なデメリットが含まれています。合意しやすい・手続きがスムーズといった短期的なメリットよりも、長期的なデメリットの方がはるかに大きいと言わざるを得ません。

    共有名義の相続登記のメリット

    不動産を共有する内容での相続登記は、法定相続分を持分とする内容であることが多く、その事前準備や手続きは遺産分割協議で合意した場合よりも簡単です。具体的には、以下のようにいえます。

    相続人同士での協議や調整が不要

    共有名義での登記は、相続人同士での話合いは不要になり、法定相続分で共有する内容の登記は、どの相続人でも単独でもできる手続きとなるためです。

    登記申請の際の必要書類が少ない

    法定相続分で登記申請を行う場合、通常の相続登記に比べて必要書類が少なく済む点もメリットです。具体的には、相続人全員の合意を証明するための遺産分割協議書や、ほかの相続人からの委任状が不要になります。

    共有名義の相続登記のデメリット

    共有名義とする内容の相続登記には、共有持分の考え方で紹介した法律上のルールにより、土地・建物の利活用や維持管理に悪影響を及ぼすことがあります。ただ持分を使用したり、あるいは共有状態を解消しようとするときも、思い通りにいかない場合が多々見られます。

    共有者同士でトラブルになりやすい

    共有名義の最大のデメリットは、共有者間でのトラブルの多さです。トラブルが起こりやすいのは、共有名義となってからしばらく時間が経ち、共有者同士での意見調整が難しくなったり、相続により共有者が増えて交流がなくなった頃です。

    前提として、一定数の合意が売却やリフォームの条件となることは、すでに説明した通りです。同意にあたっては、売却したい人と利用したい人で意見が分かれたり、修繕費や固定資産税といった維持費の負担割合を巡って対立したりして、話合いがまとまらないことが少なからず見られます。

    また、共有する人同士で円満な付き合いがあっても、誰かが認知症と診断される・音信不通になるなどして必要な同意が取れなくなるなど、予想外の事態が起こることも考えられます。相続が繰り返され、面識の薄い親戚が共有者に加わって話合い自体が不可能になる場合にも注意しなくてはなりません。

    共有関係を解消するため高額な費用がかかる

    共有名義を解消するには、高額な費用がかかる可能性があります。

    権利を保ちながら解消する方法として「共有物分割請求訴訟」や、土地を物理的に分ける「分筆」が考えられますが、いずれも高額な費用がかかります。共有物分割請求訴訟では高額な弁護士費用や裁判費用が、分筆では測量費や分筆登記の費用が発生するのです。

    ほかの共有者の持分を買い取って単独名義にする方法でも、買い取りのためまとまった自己資金やローンが必要です。これらの問題を迅速かつシンプルに解決するため共有持分の第三者への売却をするにせよ、ほかに共有者がいる不動産は買い手がつきにくく、売れたとしても相場より低い価格となってしまいがちなのが問題です。

    不動産の売却など処分するときに手間がかかる

    共有名義の不動産全体を売却するには、共有者全員の同意と、全員分の実印及び印鑑登録証明書が必要です。つまり、多数いる共有者のうちたった1人でも反対すれば、その不動産を売ることはできません。

    共有者との連絡や意見調整が困難になっていたり、認知症を発症していたりするケースでは、簡単に不動産売却の同意をとることはできません。たとえ売却にこぎつけても、今度は売却代金の配分方法や諸経費の負担割合で、新たなトラブルが発生する可能性もあります。

    共有名義の相続登記のトラブル回避方法

    共有名義の不動産は将来のトラブルの火種となりやすいですが、事前に対策を講じたり、相続発生後に適切な方法を選んだりすることで、そのリスクを大きく減らすことが可能です。

    円満な相続を実現するためには、どのような選択肢があるのかを正しく理解し、必要に応じて専門家の助けを借りるようにしましょう。

    単独名義とする内容の遺言書を作成する

    将来のトラブルを避ける最も効果的な生前対策は、単独名義での相続に向けて準備しつつ、遺言書を作成することです。具体的には「長子に自宅不動産を相続させる」のように明確に単独名義で相続される内容が好ましいです。

    ですが、このときに不公平にならないようにほかの指定で注意を払う必要があります。

    不動産を単独名義としつつ不公平感を解消するための遺言の内容としては、代償金の支払いを指定する内容などが考えられます。また、後述しますが生前準備として、資産の組み換えによる資金確保も検討するとよいでしょう。

    生前に不動産を売却する

    トラブルの根本原因となりうる不動産を、相続人が健康なうちに売却して現金化しておくのもよいでしょう。現金であれば1円単位で公平に分割できるため、遺言や遺産分割協議による現金の取得分の判断がスムーズです。不動産市場の動向を確認し、最適なタイミングで売却を進められるのもメリットだといえます。

    不動産の売却にあたり、すべての土地・建物を対象にするのではなく、利活用の予定がない物件だけを処分して現金とする方法も考えられます。このような資産組み換えで現預金を増やしておけば「重要な物件は単独で取得してもらい、ほかの相続人にも十分な財産を残す」といった公平な遺産分割が実現します。

    換価分割や代償分割を行う

    遺産分割協議において、共有状態を避けるための具体的な方法が「換価分割」「代償分割」です。換価分割の場合は売却活動のためのスケジュールが、代償分割の場合は代償金の資金源が問題となります。

    換価分割

    相続した不動産を売却し、その売却代金を相続人同士で分け合う方法です。現金を公平に分配できるため、相続人同士の不公平感が生まれにくいのがメリットです。

    代償分割

    特定の相続人が不動産を単独で相続する代わりに、ほかの相続人に対して、その人の相続分に見合った現金(代償金)を支払う方法です。問題は、代償金の資金源として、生前のうちに確保した現預金や死亡保険金がない場合、不動産を取得する人の個人資産を利用しなければならない点です。

    現物分割により不動産の分割を行う

    相続財産が広大な土地である場合などには、分筆を実施したうえでそれぞれの土地の所有者を判断する「現物分割」という方法も考えられます。分筆登記を行うことで、それぞれの土地が独立した不動産となり、所有者は他の共有者の同意なしに、自由に売却したり活用したりできるようになります。

    ただし、土地の形状や建築基準法の接道義務といった法令上の規制によっては、そもそも分筆ができない、あるいは分筆することで土地の価値が著しく下がってしまうケースもあります。

    相続放棄を申述する

    最終的な手段として考えられるのは、相続開始後、家庭裁判所で相続放棄を申述する方法です。相続放棄とは、相続人として財産を受け取る権利を手放す手続きであり、不要な不動産だけではなく現預金などの必要な財産も取得できなくなる性質を持ちます。

    相続放棄で注意したいのは、生前のあいだの手続きはできないことに加え、相続開始を知ってから3か月以内とされる申述期限がある点です。この期限内に財産を調査し、本当に相続財産全体を放棄してもよいのか判断しなくてはなりません。

    なお、相続放棄しなくても不要な土地のみ手放すことができる「相続土地国庫帰属制度」が令和5年4月27日からスタートしており、この制度の活用も選択肢に入ります。最も、原則として一筆20万円となる負担金の存在や、制度の対象となる土地の要件が厳格である点など、考慮すべき点も多々あります。

    早めに専門家に相談する

    ここまでさまざまなトラブル回避方法を紹介しましたが、どの方法が最適かは個々の状況によって大きく異なります。相続登記の義務化への対応も含め、複雑な手続きを正確かつスムーズに進めるため、登記及び不動産の取扱いに詳しい司法書士に相談するとよいでしょう。

    なお、共有名義の解消や予防策などといった問題については、早期相談が解決の要です。分筆や売却を視野に入れてスケジュールを立てたり、遺言書の内容を検討したりするにあたっては、一定の時間がかかるためです。トラブルになりそうなときは、弁護士に相談しましょう。

    相続した不動産の共有に関する悩みは専門家へ

    共有名義による不動産の相続は、処分や維持管理のたびに共有者の同意が必要になる点が問題です。売却や一定程度の規模のリフォームなどが難しくなるだけでなく、共有関係の解消にも多大な労力を求められます。

    将来のトラブルを避けるため、生前のうちに遺言書の作成、生前売却、換価分割や代償分割といった方法を積極的に検討しましょう。対策にはある程度の時間を必要とするため、早めに司法書士や弁護士などの専門家に相談することも大切です。

     

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    相続プラス編集部

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