令和6年4月から相続登記が義務化された影響で、亡くなった人が土地・建物を所有していた場合は3年以内に登記申請しなければならなくなりました。これを放置すると、10万円以下の過料だけでなく、さまざまな負担の増加やトラブル発生のリスクがあります。相続して受け継いだ土地・建物に起こる問題を防ぐため、ここで今回の法改正による変更や、困ったときの相談先を抑えましょう。
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相続登記の義務化が実施されました
土地・建物の名義変更手続きである相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)は、令和6年4月1日以降に期限内の申請が義務化されました。
これに伴い、亡くなった人が土地・建物を所有していた場合、3年以内に相続内容を定めて、登記申請する必要があります。
相続登記義務化のポイント
今回の法改正は「所有者不明土地」の増加によるものです。登記簿で確認しても所有者がわからなかったり、所有者と連絡がつかなかったりする土地の数は、令和2年の時点で九州本島に匹敵する面積があるといわれています。
上記のような土地は管理不全が常態化し、公共工事の遅れを招くなどして地域及び行政にさまざまな悪影響を及ぼします。そして、所有者不明土地の66%は「相続登記の未了」が原因で発生しているとされます。
相続登記の義務化は、今後の所有者不明土地の発生を防ぐことが目的です。所有者の死亡や転居などによって誰の土地かわからなくなる事態を防止するため、相続登記の義務化と合わせて「住所変更登記の義務化・合理化」も令和7年4月1日から始まる予定です。
参考:所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります|法務省民事局
相続登記の期限は3年
相続登記の申請期限は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内です。遺言による贈与(遺贈)の場合でも、不動産をもらい受ける人が相続人であれば上記義務があります。
相続登記義務化に伴う申請期限の解釈は、基本的に「亡くなったことを知ってから3年以内」と考えましょう。相続が始まってすぐ登記申請の準備を進め、相続に関してトラブルなどが発生しなければ、基本的には数か月以内に手続き完了となるため、あまり不安に思う必要はありません。
登記申請の義務化は過去の相続にも遡って適用される
相続登記の義務化は、法律が施行された令和6年4月1日より前に開始した相続にも適用されます。つまり、令和6年3月31日以前に土地・建物の所有者が亡くなったケースでは、施行日である4月1日以降、3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
注意したいのは「祖父母の代から家の土地・建物の名義変更はとくにやっていない」など、長期にもわたって相続登記が放置されているケースです。このケースでは、父母や叔父母の代の相続で相続人の数が膨大になり、手続きの複雑化によって期限内の登記が難しくなることもあります。過去の相続に心当たりがある人は、早急に専門家へ相談しましょう。
期限内の対応が難しいときは「相続人申告登記」が利用できる
3年以内の相続登記が難しいときは、法改正で新設された「相続人申告登記」を利用しましょう。あてはまるのは、遺産分割協議がまとまらなかったり、相続人が多くて連絡が取りきれなかったりするなどして、土地・建物の相続がなかなか決まらないケースです。
相続人申告登記では、自分がその不動産の相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の申請義務をいったん果たしたとみなしてもらえる簡易な手続きです。この制度を利用した場合、3年が経過してもペナルティ(この後の「相続登記を放置したらどうなるの?」の章で解説します)はありません。
注意したいのは、相続人申告登記をもって不動産の名義変更が完了するわけではない点です。売却手続きなどといった不動産の所有権を証明する必要のある対応では、正式に相続登記を済ませましょう。

相続登記を放置したらどうなるの?
相続登記を放置することによるデメリットとして、まず「今回の登記義務化による過料」です。実際には、土地・建物が処分できなかったり、権利関係の状況が複雑になったりすることの影響の方が大きいでしょう。
過料に処される可能性がある
相続登記の義務化では、正当な理由なく期限内に登記申請をしない場合、10万円以下の過料に処されることが定められました。ここでいう「正当な理由」とは、遺産分割協議が長引くなどといった複雑な事情のことであり、手続きが面倒などといった理由は認められません。
相続した不動産を売却できない
相続登記をしていない不動産は、法的には亡くなった方の名義のままです。そのため、たとえ相続人であっても、その不動産を自分の意思で売却したり、賃貸に出したりすることはできません。不動産の売買契約や賃貸借契約は、登記簿上の所有者でなければ締結できないからです。
ほかの相続人の債権者が差し押さえる可能性がある
相続人に借金を抱えている人がいると、その債権者が、貸した債権を回収するため「債権者代位権」によって強制的に相続登記を申請してしまう場合があります。債権者代位による相続登記では、不動産は法定相続分に従って共有となり、その後に共有持分が差し押さえられることで、不動産の自由な処分が難しくなってしまいます。
固定資産税・都市計画税が高額になる可能性がある
相続登記されずに管理もおろそかになった空き家は、近年制定された空き家特別措置法により「特定空家等」に指定されることがあります。特定空家等に指定されると、固定資産税の優遇措置である「住宅用地の特例」が適用されなくなり、税額が更地と同じ扱いになって最大で6倍に跳ね上がる場合があります。
責任・義務を押し付け合うトラブルが発生するおそれ
相続登記の義務そのものや、登記しないあいだも発生し続ける固定資産税などの維持費用を巡り、相続人同士で責任の押し付け合いになって揉める可能性も考えられます。このせいで管理がおろそかになると、空き家が荒れ放題になり近隣から苦情が来るなど、新たなトラブルの火種にもなりかねません。
相続人の数が増えて権利関係が複雑化する
相続登記をしないまま相続人の誰かが亡くなると、その人の権利はさらにその子どもたちへと引き継がれます。これを数次相続と呼び、少し世代を重ねただけで会ったこともない人が不動産の権利者になってしまいます。権利者の数が膨れ上がると、登記申請への協力は自力での交渉だとほとんど期待できず、必要な戸籍謄本の収集などといった手続きも困難になります。
相続登記の申請に関わる必要書類が入手困難になる
相続登記の手続きではさまざまな添付情報が必要です。このうち、相続関係を証明するための戸籍謄本の組み合わせは、相続人の数が増えると数が増え、収集が難しくなることもあります。住民票の除票や戸籍の附票(住所の履歴を証明する書類)も、保存期間が原則5年となることから、時間が経ちすぎると入手できなくなるかもしれません。
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相続した不動産のリスク回避は専門家へ相談が大事

さまざまな理由で相続登記が法改正後の期限に間に合わないなど、両親や祖父母の不動産について何らかの不安があるときは、早めに相続の専門家に相談することが大切です。
なお、相談先となる専門家は、今抱えている問題の種類によって異なります。
司法書士に相談するとよいケース
司法書士は「登記の専門家」です。誰がどの財産を相続するかが円満に決まっているケースでの手続きは、司法書士に相談するとよいでしょう。そのほかにも、とくに祖父母や祖父母より前の世代から登記できていないケース(数次登記が必要なケース)で必要となる調査も得意です。
司法書士に相談した方がよいケースの具体例として、次のような場合が挙げられます。
- 相続する不動産の情報を調べたい
- 登記申請書などの必要書類がわからない
- 戸籍謄本などを収集している時間がない
- 遺産分割協議書の作成方法がわからない
- 遺言を実現する手続き(遺言執行)をやってほしい
- 数次登記が必要となるため、相続人の調査を任せたい
弁護士に相談するとよいケース
弁護士は「トラブルを含む法律問題の専門家」です。相談するケースとして、不動産を巡って相続人同士で意見がわかれている、協議・交渉や調停の対応が必要、そのほかの複雑な対応が求められるケースなどが考えられます。
弁護士に相談した方がよいケースの具体例として、次のような場合が挙げられます。
- 音信不通や連絡に応じてくれない相続人がいる
- 不動産の取得者を巡って揉めている
- 遺言書の有効性がわからない、遺言書は無効かもしれない
- 債権者から督促がある、代位による相続登記が進んでいる
- 将来の利活用に備え、不動産の分割方法についてよい提案が欲しい
相続登記の放置に注意!意図しないトラブルを避けるために
相続登記は令和6年4月から義務となり、3年という期限が設けられました。放置すると過料だけでなく、不動産の売却できなかったり、差し押さえを受けたり、さらには親族間の深刻なトラブルに発展するリスクがあります。これらを避けるため、亡くなった人の土地・建物は、速やかに分割方法を決めて登記申請するようにしましょう。
不動産の相続登記は、スムーズに進めば長くても数か月で完了します。手続きでつまづいたり、必要書類の確認や収集などで困っていたりするときは、早めに専門家に相談しましょう。
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