相続による所有権移転登記とは?費用や期限、相続登記との違いを徹底解説

公開日:2023年12月12日

相続による所有権移転登記とは?費用や期限、相続登記との違いを徹底解説_サムネイル

相続や贈与によって不動産の所有者が変わるとき、所有権移転登記の手続きを行わなければなりません。しかし、どのような手続き内容なのかわからない方も多いのではないでしょうか。本記事では、所有権移転登記の概要や相続登記との違い、費用、期限について詳しく解説します。これから不動産を新たに取得する予定のある方は、参考にしてください。

所有権移転登記とは?

所有権移転登記とは、土地・建物などの不動産の所有権が移った事実を法務局のデータベースに反映させるための手続きです。

そもそも、不動産を取得したときには法務局のデータベースに不動産情報と所有者情報を登録する登記簿制度があります。手数料を支払えば、誰でも全国各地にある不動産情報の閲覧が可能です。

もし、新築の建物を購入した場合、取得から1か月以内に表題登記をする必要があります。表題登記とは、建物の用途や構造、床面積などを登記することです。

さらに、所有権保存登記で所有者についての情報を登記します。しかし、長く不動産を持っていると、売買や贈与などによって所有者が変わる場合も出てくるでしょう。

このとき、所有者が変わったことを法務局に申し出なければ、データベースの情報は古いままです。そのため、所有権移転登記を行って、所有権が移った事実を法的に明確にします。

所有権移転登記をしていれば、第三者に対しても所有権が移った事実を主張できるようになります。

相続登記との違いは?

所有権移転登記と相続登記の違いに迷われる方がいらっしゃるかもしれません。

相続登記は、所有権移転登記のうちのひとつの手続きです。所有権を有する方が亡くなり、相続発生が原因で所有権が移るときに行う所有権移転登記の手続きが相続登記であると考えましょう。

ちなみに、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。

相続によって不動産を取得した相続人は、所有権取得の事実を知った日から3年以内に相続登記の手続きをしなければなりません。遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内の相続登記の手続きが必要です。

正当な理由なくこれらの義務を履行しなかった場合、10万円以下の過料の適用対象となります。令和6年4月1日以前に発生した相続についても義務化の対象です。

土地や建物などの不動産を相続したら、早めに相続登記を済ませましょう。

「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

所有権移転登記はどんなタイミングでやる手続き?

所有権移転登記の必要性が発生するタイミングについて、いくつかご紹介します。

  • 不動産の売買取引をしたとき
  • 不動産を贈与されたとき
  • 離婚で財産分与するとき
  • 不動産を相続したとき

順番に確認しましょう。

不動産の売買取引をしたとき

不動産の売買取引を行うとき、不動産の所有権を売主から買主に移すために所有権移転登記の手続きが必要です。売主と買主が共同で所有権移転登記の手続きを行います。

一般的に手続きをするタイミングは、売買代金の全額を支払った当日です。支払いが完了したにもかかわらず所有権が売主のままだと、買主は所有権を主張できません。

不動産を贈与されたとき

不動産を贈与された場合にも、不動産を譲り渡す側の贈与者から不動産を受け取った側の受贈者に所有権を移すための所有権移転登記の手続きが必要です。贈与の契約自体は口頭でも成立しますが、贈与の事実を明確にするために登記を行います。

もし、登記をしないまま贈与者が亡くなってしまうと、法的な所有者は贈与者のままです。そのため、遺産分割の対象となってしまいます。本来であれば、同居している長男に生前贈与されていたにもかかわらず、登記手続きをしていなければ相続人で分割しなければなりません。

あとあと相続人同士のトラブルに発展する恐れがあるため、贈与を受けた際は権利を守るために早めの手続きをおすすめします。

離婚で財産分与するとき

離婚で不動産を財産分与する際、財産分与による所有権移転登録の手続きを行います。手続きできるタイミングは、離婚届を提出して離婚が成立したあとです。

財産分与による所有権移転登記を行った場合でも、住宅ローンの債務者はそのままです。もし、夫が所有者、かつ住宅ローンの名義人である不動産を妻に財産分与し、所有権移転登記をしたとしましょう。このとき、所有者は妻に変更されますが、住宅ローン債務者は夫のままです。

不動産を相続したとき

遺言書や遺産分割協議で不動産を相続した場合、所有権移転登記のひとつである相続登記の手続きをします。

相続登記をしないまま放っておくと、他の相続人が相続分通りの持分で所有権移転登記をすることが可能です。相続トラブルに発展する可能性が出てくるため、早めに手続きしましょう。

また、相続登記が行われていない所有者不明の不動産が増加しており、大きな問題となっています。そのため、令和6年4月1日より、3年以内に相続登記をしなければならないと義務化されました。

令和6年4月1日以前に発生した相続も対象となるため、早めに手続きを済ませましょう。

手続きする期限・いつまで?

一般的に所有権移転登記の手続きに期限は設けられていません。ただし、相続登記に限り、令和6年4月1日から3年以内に手続きを済ますことが義務化されました。

相続以外で不動産を取得した場合でも手続きを怠ると権利の主張ができず、以下のようなさまざまなトラブルを引き起こしかねません。

  • 元の所有者に売却・処分されてしまった
  • 相続財産の一部とみなされてしまった
  • ほかの相続人が相続分の持分で所有権移転登記してしまった

登記をしていれば所有権を有する人として保護される一方で、登記をしなければ権利を持っていても法律上の保護が受けられません。

とくに、売買・贈与・離婚に伴う財産分与であれば、契約を交わした当日中に所有権移転登記を申請し、法的に所有の権利を守りましょう。

相続登記についても、「3年以内だったら大丈夫」と安心せず、遺産分割の内容が決定した段階で早めに手続きを済ませておくとトラブルを回避できます。

所有権移転登記の手続き方法と費用

ここからは、実際に所有権移転登記を行うときの手続き方法や費用について確認しましょう。以下の順番に解説していきます。

  • 必要書類
  • 必要費用
  • 手続きの流れ

不動産を取得する予定がある方は、ぜひ確認しましょう。

必要書類

相続の場合か、それ以外の場合かで、必要書類の種類は大きく異なります。それぞれ確認しましょう。

相続の場合

相続登記において、以下の書類の提出が求められます。

書類名必要性
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式必須
被相続人の住民票除票必須
相続人全員の戸籍謄本必須
土地・不動産を相続する人の住民票必須
遺言書遺されていた場合のみ
遺産分割協議書+相続人全員の印鑑証明書遺言書がない場合のみ
相続関係説明図戸籍謄本の原本を返却してもらいたいとき
不動産の評価証明書(固定資産評価証明書)必須

法定相続分通りに遺産分割する場合や、遺言書がない場合には、遺産分割協議書と相続人全員分の印鑑証明書が必要です。

相続以外の場合

相続以外では、不動産の所有権を失う人(権利者)と新たに取得する人(義務者)の両名義で申請しなければなりません。そのため、協力して必要書類を集める必要があります。

売買や贈与、財産分与における所有権移転登記の必要書類は、以下の通りです。

  • 登記原因証明書情報(売買契約書や贈与契約書、離婚協議書など)
  • 権利書・登記識別情報通知
  • 権利者の住民票
  • 義務者の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

売買契約を交わす場合、代金の領収書の提出を求められる場合もあります。支払った事実を証明できるよう準備しておきましょう。

必要費用

所有権移転登記にかかる費用は、以下の3つです。

  • 必要書類の取得費用(実費)
  • 登録免許税
  • 専門家への依頼費用

手続きにかかる総額は、対象の不動産の評価額によって大きく変動します。また、専門家へ依頼するかどうかも総額に大きく影響します。

それぞれの相場や費用の考え方について確認しましょう。

必要書類の取得費用(実費)

必要書類の取得にかかる費用の総額は、1000〜3000円程度です。戸籍謄本や住民票を市区町村役場で発行する場合にかかる費用を、以下の表にてまとめました。

書類名取得費用
戸籍謄本・除籍謄本450〜750円/1通あたり
住民票・住民票除票200〜300円/1通あたり
印鑑証明書200〜300円/1通あたり
固定資産評価証明書200〜400円

相続登記の場合、相続人の数が多いとその分必要な書類の数が多くなるため、実費でかかる取得費用も増える点に留意しましょう。

登録免許税

登録免許税の金額は、対象の不動産の固定資産額評価額を基準に決定します。金額の計算方法は、以下の通りです。

登録免許税=固定資産評価額×税率

税率は、不動産の種類や所有権移転登記を行う理由によって異なります。また、現在は登録免許税の軽減措置を受けられるため、通常よりも低い税率で手続きを完了させられます。

本則軽減措置
土地の売買による所有権移転登記2.0%1.5%(令和8年3月31日まで)
住宅用家屋の売買・競売による所有権移転登記2.0%0.3%(令和6年3月31日まで)
相続登記0.4%評価額100万円以下の土地であれば免税措置が受けられる(令和7年3月31日まで)
その他の所有権移転登記2.0%

ほかにも、条件を満たせば軽減措置を受けられる不動産があります。詳しくは国税庁や法務局、専門家に確認をしましょう。

参照:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局土地の売買や住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ|税務署

専門家への依頼費用

所有権移転登記に必要な書類の収集から申請書の作成、申請手続きまでを司法書士に依頼した場合、依頼費用の目安は5〜10万円程度です。

ただし、依頼内容や依頼する事務所によって提示される金額は異なります。相見積もりを取り、納得したうえで依頼先を決めましょう。

手続きの流れ

所有権移転登記の手続きの流れは、以下の通りです。

  1. 必要書類を揃える
  2. 登記申請書を作成する
  3. 法務局に申請する
  4. 審査を受ける
  5. 登記事項証明書を受け取って完了

申請先の法務局は、不動産を管轄している法務局に限ります。直接窓口に持ち込むほか、郵送・オンラインでも可能です。不備や漏れがある場合、法務局から追加書類の提出や修正を求められます。すみやかに対応しましょう。

申請後、1〜2週間の審査・手続きを経て登記完了です。完了の通知を受け取ったら、法務局証明サービスセンターや登記所窓口、郵送で登記事項証明書を受け取りましょう。

所有権移転登記の手続きは自分でできる?

所有権移転登記の手続きは自分でできる?のイメージ

所有権移転登記の手続きを自分で行うことも可能です。自分ですれば専門家に支払う報酬が不要となり、低コストで手続きできます。

自分で手続きを進める場合でも、手続きの流れは同じです。必要書類を収集し、登記申請書を作成して管轄の法務局に提出しましょう。

ただし、自分で手続きをするのであれば、以下の点に注意してください。

  • 平日の昼間に時間を作らないと書類集めが難しい
  • 申請が1度で通ることは珍しく、何度も修正作業が発生する

市区町村役場や法務局の窓口は、原則平日の昼間しか開いていません。そのため、日中仕事をしている人の場合、書類の取得や相談をするために休みを取る必要があります。

また、専門家でない方が所有権移転登記の申請を一度で通すことは難しく、何度も電話がかかってくる可能性が高いです。追加書類の準備や修正作業に時間が取られるため、途中で専門家に依頼をする方は少なくありません。

時間的に余裕のない方や、公的手続きに慣れていない方は、専門家に依頼した方が時間を有効に使えます。一部分の作業だけを依頼することもできるため、少しでも不安があるのであれば一度専門家に相談しましょう。

「相続登記を自分で手続きする方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

所有権移転登記以外の「不動産登記」

不動産の登記の種類には、所有権移転登記以外にも以下のような登記があります。

  • 表題登記
  • 所有権保存登記
  • 抵当権設定(抹消)登記

順番に確認しましょう。

表題登記

表題登記とは、不動産の存在や規格などの情報を記載するための登記です。

新しく建物を建てたとき、登記簿には何もデータが掲載されていません。そのため、表題部を記載して、建物の存在を公的に認めてもらいます。

法律によって所有権の取得日から1か月以内に表題登記の申請をしなければならないと、義務付けられています。

所有権保存登記

所有権保存登記とは、所有者に関する情報を記載する権利部の「最初の所有者」の情報を入れるための登記です。新築で一軒家を建てる場合などに、登記が存在していない建物の初めての所有者情報を記載します。

いずれ所有権が移行した際には、所有権移転登記を行って所有者情報の変更が必要です。

抵当権設定(抹消)登記

抵当権設定登記とは、住宅ローンを組むときに金融機関が不動産に担保権を設定するために行う登記です。住宅ローンが返済できなくなった場合に、不動産を売って回収できる権利を抵当権といいます。

また、住宅ローンを完済すると、抵当権を抹消するために抵当権抹消登記を行います。

相続・贈与があったら早めに所有権移転登記を完了させよう

相続や贈与、財産分与などの理由で不動産の所有権を新たに取得したら、早めに所有権移転登記を完了させましょう。

なぜなら、第三者に所有権を主張できないどころか、勝手に不動産を売却・処分される恐れがあるからです。早めに手続きを終えれば、トラブルを回避できます。

もし、時間に余裕がないのであれば、専門家に相談しましょう。司法書士に依頼すれば、必要書類の収集から登記申請書の作成、申請まですべて任せられます。費用はかかるものの、負担が大きく軽減されます。

部分的に依頼することも可能なため、まずは無料相談をして依頼すべきかどうか判断しましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月12日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする