家族信託ってどうやるの?具体的なやり方・手順をご紹介

公開日:2023年10月26日

専門家
監修
石井もも(司法書士・社会保険労務士)

石井もも(司法書士・社会保険労務士)

司法書士・社会保険労務士 いしい法務事務所

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認知症対策として注目を集めている家族信託。すでに家族信託を検討している人もいるでしょう。しかし、「家族信託ってどうすればいいの?」「お金がかかりそう…」と悩んでいる人も少なくありません。そこで、この記事では家族信託の具体的な手順や必要書類・費用をメリット・デメリットとともに分かりやすく解説します。

家族信託とは

家族信託とは、家族などの受託者に財産の管理を任せる契約のことを言います。

親の高齢化や認知症などで、親自身が財産を管理できなくなったときに備えることができる財産管理方法の一つです。

認知症などで親が自分の財産を管理できない状況になるケースは珍しくありません。しかし、そのような場合でも、たとえ子供であっても親の財産を自由に使うことはできないのです。

「認知症が悪化すると銀行口座が凍結され、子供がお金を下ろせずに介護費用の負担が大きい」、「施設入居後に空き家になった実家を売却したくても、所有権のない子供では売却できない」など、親の認知症に伴う財産管理のトラブルはいつ自分の身に起きてもおかしくないのです。

そのような場合で有効になるのが「家族信託」です。家族信託を結ぶことで、親(委託者)の財産の管理を任された受託者は、委託者のために財産の管理・運用ができます。

家族信託について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

家族信託のやり方・手順

家族信託の導入を検討するうえでは、導入までの手続きや期間・費用などを理解しておくことが大切です。家族信託を結ぶには早くても2~3か月ほどの期間がかかります。

「まだ親は元気だから大丈夫」と手続き開始が遅くなると、急に親の認知症が悪化し手続きできなくなる恐れもあるでしょう。期間や必要な手続きをおさえて、早めに導入を検討することが大切です。

まず、家族信託の手順についてみていきましょう。大まかな手順は次の6つです。

  1. 無料相談などを活用して家族信託を行う目的を決める
  2. 信託契約の内容を決める
  3. 信託契約の内容を書面にする
  4. 信託契約書を公正証書で作成する
  5. 不動産の名義変更をする
  6. お金を管理する専用口座を作成し送金する

①無料相談などを活用して家族信託を行う目的を決める

まずは、家族で話し合って家族信託を何のためにするのかを明確にしておきましょう。家族信託をする目的は、家族の事情や財産状況などによってそれぞれ異なります。

  • 認知症対策をしたい
  • 不動産の管理を任せたい
  • 高齢になった時に資産運用を子供に任せたい

など、様々な理由があるものです。

家族信託は、受託者が契約で定められた目的に従って財産を管理・運用するものです。

何の為に財産を管理してもらいたいのか、受託者と共通の認識を持つ必要があります。また、家族の誰かが財産を管理することに、受託者以外の家族が不満を持つ可能性もあります。

財産管理の目的や内容などを家族間でしっかりと話し合い、納得いく形を明確にしておくことで、余計なトラブルを避けられるようになるでしょう。

財産を管理する目的によっては、家族信託以外の選択肢が適している場合もあります。財産を管理する方法には、他にも「後見制度」や「贈与」「遺言」など様々な方法があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。

どの方法が適しているかは、専門家の無料相談などを活用するのも有効です。専門家であれば、第三者的な立場で適切な方法をアドバイスしてくれるでしょう。

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②信託契約の内容を決める

家族信託の導入を決定したら、信託契約の内容を明確にしていきます。具体的には、主に以下のことを決めていきます。

  • 委託者・受託者・受益者
  • 信託する財産の範囲
  • 信託期限や制限
  • 信託修了後の財産の継承

家族信託では、次の3つの役割が必要です。

  • 委託者:財産を預ける人
  • 受託者:財産の管理を任される人
  • 受益者:管理する財産から利益を受け取る人

通常は、委託者=受益者となるケースが多いでしょう。受益者が第三者になる場合、贈与税が課税される場合があるので注意が必要です。

また、家族信託では信託する財産を決める必要があります。

一般的な信託財産としては、現預金・有価証券・不動産などが対象です。しかし、家族信託したからと言ってすべての財産を受託者が管理できるわけではなく、信託を依頼された財産のみにしかその権利は及びません。

受託者は、信託された財産を管理する権限を持つので、何を任せるかは慎重に判断しなければトラブルに発展する恐れもあるでしょう。同時に受託者に対する制限についても詳細に決めておく必要があります。

信託する期間や終了事由なども決めておきます。信託修了後の財産の継承についても定めておきましょう。

③信託契約の内容を書面にする

家族信託の契約は、口頭でも有効です。しかし、口頭では後々トラブルに発展する可能性が高くなります。

また、不動産の売却や信託口座の開設などでも、信託契約書の提出を求められることが一般的です。信託契約を結ぶ場合は、契約書として書面で作成するようにしましょう。

契約書には明確な決まりはなく、インターネットなどで雛形を利用して作成することも可能です。ただし、必要な条項や内容が記載されていないと信託運用後に問題が発生する可能性もあるので、慎重に作成する必要があります。

以下のような内容は、必ず記載するようにしましょう。

  • 家族信託の目的
  • 委託者・受託者・受益者
  • 信託財産
  • 信託期間
  • 終了に関する必要事項
  • 信託財産の管理や処分の制限

契約書の記載内容は、信託の目的や内容によって異なります。

信託契約書は自分でも作成できますが、トラブルを避けられる契約書にするにはある程度の知識が必要です。書類作成の際には、一度弁護士や司法書士などに相談してみることをおすすめします。

④信託契約書を公正証書で作成する

公正証書とは、公証人が作成し内容を証明した書類です。

公正証書にすることで、証明力を有することができます。家族信託の契約書は公正証書にしなければならないという決まりはありません。

公正証書にすることでより確実な契約にできるので公正証書での作成をおすすめします。

公正証書で作成するには、公証役場に出向くなど手間も費用も掛かります。しかし、公正証書にすることで次のようなメリットがあるのです。

  • 公証人が家族信託契約の成立を証明してくれる
  • 契約書の原本を公証役場が保管してくれる
  • 契約内容を公証人に確認してもらえる
  • 金融機関などでの証明に利用できる

⑤不動産の名義変更をする

信託契約締結後は、信託する財産の名義変更などを進めていきます。

契約を結ぶだけでは、受託者は委託者の財産を管理することができないので、速やかに手続きに進むようにしましょう。

信託財産が不動産の場合は、名義人である委託者から受託者への名義変更が必要です。信託に伴う不動産の名義変更では、「所有権移転登記」と「信託登記」を行います。

登記手続きは自分でもできますが、必要書類の準備や手続きなども煩雑になる為、司法書士に依頼することをおすすめします。

⑥お金を管理する専用口座を作成し送金する

信託契約していても、受託者が委託者の口座を直接管理できるわけではありません。受託者が口座のお金を管理するためには、信託口座を開設し契約書に定めた金銭を口座に送金する必要があるのです。

信託口座を開設できる金融機関は多くはありません。予め、信託口座の開設に対応している金融機関や必要書類を確認しておくようにしましょう。

必要書類・費用

必要書類・費用のイメージ

家族信託では、様々な書類が必要になります。また、費用も掛かってくるため書類や費用について把握しておくことが必要です。

ここでは、必要書類と費用について見ていきましょう。

必要書類

次のような書類が必要です。

  • 本人確認書類
  • 実印と印鑑証明書
  • 戸籍謄本・住民票
  • 不動産関係書類

本人確認書類や印鑑証明書・戸籍謄本・住民票は、委託者・受託者・受益者すべての人のものが必要です。相続対策として家族信託する場合は、相続人を明らかにするため被相続人の戸籍も必要になります。

また、信託する財産に不動産が含まれる場合は、不動産に関する書類として「登記事項証明書」や「固定資産税納税通知書」なども必要になるでしょう。

これらの書類が必要になるタイミングは、一般的には公正証書を作成する時です。必要な書類は信託内容によって異なるので、公証役場、司法書士や弁護士などに確認しておくようにしましょう。

必要費用

家族信託を自分で手続きする場合は、次のような費用がかかります。

  • 公正証書作成費用
  • 不動産登記にかかる費用

公正証書を作成する際には手数料が必要です。手数料は、信託する財産によって異なりますが、3~10万円程が目安となるでしょう。

また、不動産が信託財産に含まれる場合、登録免許税として不動産評価額の0.4%がかかります。仮に、評価額3000万円の不動産の場合は、12万円が必要となります。ただし、特例として土地については、2026年3月31日まで税率が0.3%となります。

家族信託の手続きを専門家に依頼する場合は、別途専門家への報酬も必要です。家族信託で専門家を依頼する場合、次のような報酬が発生するのが一般的でしょう。

  • 家族信託のコンサルティング
  • 契約書の作成
  • 信託登記申請代理費用

専門家への報酬は、依頼する専門家や依頼内容などによって大きく異なるので事前に見積もりを取っておくことが大切です。

家族信託の費用について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

家族信託を自分でするメリット・デメリット

家族信託の手続きは「自分でする」か「専門家に依頼する」のどちらかを選択できます。

自分で手続きすれば費用を抑えられる反面、契約でのトラブルに発展する恐れもあるでしょう。どちらで手続きを進めるかは慎重に判断する必要があります。

ここでは、自分で手続きするメリット・デメリットについてみていきましょう。

メリット

自分で手続きするメリットとしては、次のようなことが挙げられます。

費用を抑えられる

自分で手続きする大きなメリットが、専門家への報酬費用を抑えられるという点です。

自分で手続きする場合、必要になるのは公正証書作成の手数料と登記費用くらいとなるでしょう。しかし、専門家に依頼すると数十万円や財産によっては100万円以上掛かる可能性もあります。

デメリット

自分で手続きするデメリットとしては、次のようなことが挙げられます。

  • 余計な費用や税金がかかる可能性がある
  • 書類の不備で無効になる恐れがある
  • トラブルが発生する恐れがある
  • 手続きに時間がかかる

家族信託は、信託内容や財産の設定などを間違えると家族間でトラブルになることや信託の目的を達成できない可能性もあります。

公正証書の作成や信託口座の開設・不動産登記なども、不慣れな人では書類を集めるだけでもかなりの時間がかかるでしょう。契約書を作成しても、不備があれば信託財産を管理できないことや、反対する家族から無効を主張される可能性もあります。

また、家族信託を進めるには、ある程度の知識もなければ想定外の費用が発生したり、大きなトラブルにつながるケースもあります。

  • 受益者と委託者を別に設定して贈与税がかかってしまう
  • 長期に渡る信託契約で財産を管理できなくなる

受益者と委託者が同一人物であれば、贈与税は発生しません。しかし、父が委託者・受益者が父と母のように受益者・委託者が異なると贈与に該当して贈与税が課せられる恐れがあるのです。

家族信託を契約する場合は、契約期間にも注意が必要です。信託期間が長期に渡ると、受託者に万が一があると財産管理が継続できずに、トラブルに発展するケースもあります。

さらに、家族信託には「30年ルール」がある点にも注意が必要です。30年ルールとは、信託契約が30年を経過後受益者が亡くなると、信託契約はその次の受益者までしか効力がないというルールのことです。

信託契約が30年以上に渡る場合、財産の継承が1度しかできないため孫やひ孫への継承ができなくなってしまいます。

信託内容を決める際には、受託者に何かあった場合の後継の受託者の設定や相続まで含めた対策が必要になります。

家族信託は自分でするとリスクが高くなります。費用は掛かっても専門家に相談しながら適切に設定・手続きすることで、スムーズな家族信託ができるでしょう。

家族信託は専門家に相談しよう

家族信託の流れや必要書類・費用などについてお伝えしました。

財産の管理を委託して適切に管理・運用してもらえる家族信託なら、認知症などでも本人・家族のための財産管理ができます。

手続きは自分ですることも可能ですが、法的な知識や複雑な手続きが必要となる為、自分ですると、家族信託ができないなどリスクも高まります。また、家族信託をそもそも選択すべきかは、目的や資産状況・家族状況などによっても異なります。

家族信託を検討しているなら、一度司法書士や弁護士に相談して適切な管理方法のアドバイスを受けることから始めてみるとよいでしょう。

記事の監修者紹介

石井もも(司法書士・社会保険労務士)

司法書士・社会保険労務士 いしい法務事務所

【プロフィール】

令和元年社会保険労務士登録。令和5年司法書士登録。いしい法務事務所を開業。ダブルライセンスを取得する過程で培った粘り強さで相続や中小企業のお困りごとに対して、ご相談者様が安心して次のステップへ進めるよう困難な問題にも柔軟に対応。問題解決に向けて尽力している。

【所属】

兵庫県司法書士会:第2338号
簡裁訴訟代理等認定番号:第2101286号
兵庫県社会保険労務士会:第28190043号

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年10月26日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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