生前贈与の非課税枠はいくらまで?制度別にみる限度額や要件、注意点を解説

公開日:2024年8月5日

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生前贈与の非課税枠を賢く使えば、大きな節税につながります。しかし、正しい知識のもとに生前贈与しなければ、思った以上の贈与税や相続税が発生するかもしれません。本記事では、生前贈与で活用できる非課税枠・控除の限度額や注意点について解説します。資産状況や家族構成に合わせて生前贈与を行い、家族の税負担を軽減させましょう。

生前贈与の非課税枠・控除を活用することで相続税の軽減が可能

生前贈与には非課税枠や控除があるため、うまく活用すれば相続税の軽減につながる場合があります。

ここでは生前贈与や贈与税の非課税枠・控除について詳しく解説します。

  • 生前贈与とは
  • 生前贈与で活用できる非課税枠・控除

順番に確認しましょう。

生前贈与とは

生前贈与とは、生きているうちに所有している財産の所有権を別の人に譲り渡すことです。生前に所有する財産を贈与していれば、死亡時に遺産が減っているため相続税も少なくなります。そのため、生前贈与は相続税節税の手段として活用されています。

しかし、生前贈与には贈与税がかかる点に注意が必要です。贈与税には非課税枠や控除がある一方で、贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。正しい知識がなければかえって多くの税金を納めることになりかねません。

単純に「生前贈与すれば税金対策になる」と考えず、贈与税の非課税枠・控除を理解した上で贈与する方法や金額を決めましょう。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

生前贈与で活用できる非課税枠・控除

生前贈与で節税をするには、贈与税の非課税枠や控除を活用しましょう。うまく活用すれば、一切の贈与税を支払わずに財産を他の人へ譲り渡せます。

贈与税の非課税枠や控除は、以下の通りです。

  • 暦年贈与の基礎控除額
  • 相続時精算課税の特別控除額
  • 不動産関連の非課税枠・控除
  • 子・孫への生前贈与の非課税枠・控除
  • その他の非課税枠・控除

令和6年1月1日に制度が新設されたものや、活用できる期間が決まっているものなどがあり、正しく非課税枠や控除を活用しなければ贈与税が発生する場合もあります。

次の章から、上記の非課税枠や控除の内容や要件について詳しく確認していきましょう。

暦年贈与の基礎控除額

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間で贈与財産の額が110万円以下であれば、贈与税が非課税となる贈与方法です。つまり、年間110万円以下の贈与であれば贈与税は発生しません。

暦年贈与の贈与税は、下記のように計算します。

贈与税額=(贈与で受け取った財産−基礎控除110万円)×税率−控除額

たとえば、毎年100万円の贈与を10年間続ければ、贈与税が非課税のまま1000万円贈与できます。贈与者が死亡したとき、遺産は1000万円減っているため、相続税の節税となるでしょう。

ただし、基礎控除額110万円は、財産をもらった受贈者1人あたりの金額です。父親・母親がそれぞれ100万円ずつ長男に生前贈与した場合、長男は200万円贈与されたことになります。

長男が受け取った200万円から110万円を控除した90万円に対して贈与税が発生するため注意しましょう。

一方で、贈与者は長男・次男にそれぞれ100万円を贈与しても贈与税に影響はありません。あくまでも、生前贈与された受贈者が合計いくらの財産を受け取ったかが重要です。

相続時精算課税の特別控除額

相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子ども・孫に対して生前贈与するときに活用できる制度です。ただし令和4年3月31日以前の生前贈与においては、20歳以上の子ども・孫に限定されます。

相続時精算課税制度を活用すると、以下の2つの控除が受けられます。

  • 基礎控除:年間110万円
  • 特別控除:累計2500万円

年間110万円までの基礎控除を超えた財産が累計2500万円までは非課税です。生前贈与の累計が2500万円を超えたとき、超えた金額に対して一律20%の贈与税が発生します。

相続時精算課税制度を活用したときの、贈与税の計算方法は以下の通りです。

贈与税額={(年間贈与額-110万円)の合計−2500万円}×一律20%

この制度は令和6年1月1日に新たに制度が変わり、年間110万円の基礎控除が創設されました。年間110万円までの生前贈与なら贈与税は非課税で、累計2500万円の特別控除に含めなくても問題ありません。

ただし、相続時精算課税を適用して譲り受けた財産のうち基礎控除は、贈与者が死亡したときに相続税の対象となります。

相続税の課税額=(年間贈与額-110万円)の合計

たとえば、父から長男へ以下のように生前贈与が行われていたとしましょう。

  • 1年目:300万円
  • 2年目:100万円
  • 3年目:500万円
  • 4年目:100万円
  • 5年目:200万円

このとき、2年目と4年目は年110万円の基礎控除額におさまっているため、贈与税は発生しません。6年目に生前贈与が行われないまま父が死亡したとき、基礎控除を除いた贈与財産の累計は670万円です。2500万円の特別控除額までは非課税のため、贈与税は非課税です。

一方、基礎控除を除いた贈与財産の累計670万円には相続税が発生します。相続時精算課税を適用して生前贈与された財産は、贈与されたときの価格で相続税の対象となります。

そのため、財産の価値が変わらないものを生前贈与しても相続税の節税になりません。将来値上がりが見込まれる有価証券や利益をもたらす賃貸不動産があるときに相続時精算課税制度が適しています。

逆に、価値の下がる可能性のある住居不動産は相続時に評価したほうが節税になるでしょう。

また、2500万円の特別控除は贈与者ごとに適用できます。つまり、父・母・祖父・祖母のそれぞれから生前贈与を受けた場合でも、それぞれの贈与に対して相続時生産課税を適用すると1億円まで贈与税が非課税です。

一方で、複数人から受けた贈与に対して相続時精算課税制度を適用させた場合でも、年間の基礎控除額は110万円です。110万円×4人分とはならないため、注意しましょう。

不動産関連の非課税枠・控除

不動産関連の財産を生前贈与する場合にも、非課税枠・控除が存在します。

  • おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)
  • 住宅取得等資金の贈与の非課税枠

それぞれに利用するための要件が細かく定められているため、確認しましょう。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)

贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の贈与や居住用不動産の購入資金の贈与を受けたとき、最大2000万円まで控除される制度です。長年連れ添った夫婦にしか使えない制度であることから、おしどり贈与とも呼ばれます。

配偶者控除を活用した場合、贈与者が亡くなったときにも相続財産に加算せずに相続税を計算できます。そのため、大きな節税効果があります。

配偶者控除を受けるためには、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに贈与が行われたこと
  • 贈与財産が居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭であること
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与によって取得した居住用不動産が贈与を受けた人が住んでいて、そのあとも住む見込みがあること

また、控除を受けるためには、実際に支払う贈与税が0円でも贈与税の申告書の提出が必要です。

ちなみに内縁関係の2人で同様の贈与が行われた場合でも、2人は婚姻関係にないため配偶者控除を使えません。

参照:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

住宅取得等資金の贈与の非課税枠

住宅取得等資金の贈与の非課税枠とは、子どもや孫のマイホームの新築などに必要な資金を贈与したときに使える特例です。非課税枠は、住宅家屋の機能性によって以下のように定められています。

  • 一定の耐震性・省エネルギー性・バリアフリー性などを有する良質な住宅用家屋:1000万円
  • 上記以外の住宅用家屋:500万円

令和6年度に行われた税制改正によって適用期間が延長され、令和8年12月末まで活用できるようになりました。

住宅取得等資金の贈与の非課税枠を活用するには一定の要件を満たす必要があります。下記が要件の一部です。

  • 贈与者は受贈者の直系尊属(子どもや孫)であること
  • 受贈者は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること
  • 贈与を受けた年の所得税にかかる合計所得金額が2000万円以下であること
  • 対象となる住宅用の家屋が日本国内にあること

他にも細かな要件が定められているため、活用を考えている方は慎重に要件を確認しましょう。

また、特例を受けるためには、実際に支払う贈与税が0円でも贈与税の申告書の提出が必要です。

参照:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁

子・孫への生前贈与の非課税枠・控除

要件を満たすことで、子・孫への生前贈与に対して非課税枠・控除を活用できる場合があります。子・孫への生前贈与の非課税枠・控除は、以下の通りです。

  • 教育資金の一括贈与の非課税枠
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠

内容や要件を見て、節税に活用できないか確認しましょう。

教育資金の一括贈与の非課税枠

子どもや孫に教育費を一括で贈与するとき、最大1500万円までの非課税枠を活用できます。令和8年3月31日までの生前贈与が対象です。

通常、子どもや孫に必要な教育費をその都度出すことは通常の扶養の範囲であるとされるため、贈与税の対象ではありません。

一方、将来を見据えて教育費を一括で贈与する場合には、贈与税が発生します。しかし、金融機関で手続きを行ったうえで制度を活用すれば贈与税が非課税となります。

学校への入学金や授業料、教科書購入費に加え、塾や習いごとにかかる費用も対象です。ただし、非課税枠1500万円のうち塾や習いごとについては500万円が上限と定められています。

教育資金の一括贈与の非課税枠を利用するには、金融機関で教育資金口座を開設しなければなりません。贈与はその口座を通じて行い、口座から預金を引き出す際は金融機関に領収書を提出する必要があります。

また、教育資金の一括贈与の非課税枠を活用するには、一定の要件を満たさなければなりません。下記が要件の一部です。

  • 受贈者は贈与者の直系尊属(子どもや孫)であること
  • 受贈者は0〜30歳までであること
  • 受贈者は贈与を受ける前年の合計所得金額が1000万円以下であること

他にも細かな要件が定められているため、活用を考えている方は慎重に要件を確認しましょう。

また、受贈者が23歳以上になると教育資金の用途に制限ができ、30歳になると契約は終了です。原則、30歳になった時点で残高がある場合、残高に対して贈与税が課されるため注意しましょう。

参照:教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について|文部科学省

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠

子どもや孫に結婚・子育てに必要な資金を一括で贈与するとき、最大1000万円までの非課税枠を活用できます。令和7年3月31日までの生前贈与が対象です。

非課税枠1000万円のうち、結婚資金の上限は300万円と定められています。具体的に結婚・子育ての資金は、以下のような金銭を指します。

<結婚資金>

  • 挙式費用・衣装代など婚礼にかかる費用
  • 家賃・敷金などの新居費用や転居費用

<子育て(妊娠・出産・育児)資金>

  • 不妊治療・妊婦健診にかかる費用
  • 分娩費や産後ケアにかかる費用
  • 子どもの医療費や幼稚園・保育所、ベビーシッターなどにかかる保育料など

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠を活用するには、金融機関で専用口座を開設しなければなりません。贈与はその口座を通じて行い、口座から預金を引き出す際は金融機関に領収書を提出する必要があります。

また、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠を活用するには、一定の要件を満たさなければなりません。下記が要件の一部です。

  • 受贈者は18歳以上50歳未満であること
  • 受贈者は贈与を受ける前年の合計所得金額が1000万円以下であること

さらに、受贈者が50歳になると契約は終了し、その時点における残高に対して贈与税が課されるため注意しましょう。

参照:父母などから結婚 ・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし|国税庁

その他の非課税枠・控除

ここまで紹介してきた非課税枠・控除以外にも、相続税の節税に役立つ非課税枠・控除があります。

  • 特定障害者等に対する贈与税の非課税制度
  • 生活費や教育費による贈与税非課税制度

順番に確認しましょう。

特定障害者等に対する贈与税の非課税制度

特定障害者等に対する贈与税の非課税制度とは、特定障害者や特別障害者の方の生活費のために特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権を活用すると、障害の程度によって贈与税の非課税枠が活用できる制度です。

受益者1人あたり特別障害者の場合は6000万円、特別障害者以外の特定障害者の場合は3000万円を限度として贈与税が非課税となります。

扶養者が亡くなった場合でも、受益者の方の生活費や養育費が信託財産から交付され、安定した生活基盤が築けます。

参照:障害者と税|国税庁

生活費や教育費による贈与税非課税制度

原則、生活費や教育費は贈与税の対象ではありません。親や祖父母が子どもや孫の成長のために生活の面倒や勉学ができる環境を整えることは当然の義務として考えられており、課税は適切でないからです。

同様に、夫婦間における生活費においても、互いに助け合いながら生活をしていくことは当然と考えられているため、生活費も課税対象ではありません。

しかし、生活費・教育費として渡された資金であっても、使い道によっては生活費・教育費ではないとみなされるケースがあります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 不動産や自動車、有価証券の購入に使うケース
  • 生命保険料に使うケース
  • 受け取った生活費のなかから余った分を預貯金に回しているケース

上記のような場合には生活費・教育費が扶養の範囲を超えているとされ、贈与税の対象となるため気をつけましょう。

非課税枠・控除の組み合わせでより多くの節税を実現できる

非課税枠・控除の組み合わせでより多くの節税を実現できるのイメージ

贈与税にはさまざまな非課税枠・控除がありますが、それぞれ組み合わせて活用すればより節税効果が実感できます。

たとえば、以下のように組み合わせて使えます。

  • 相続時精算課税制度+住宅取得等資金の贈与の非課税枠
  • 教育資金の一括贈与の非課税枠+結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠

具体的な活用例を見ていきましょう。

相続時精算課税制度+住宅取得等資金の贈与の非課税枠

子どもや孫が住宅用家屋を新築や取得、増改築の際に両親や祖父母が資金を援助するとき、相続時精算課税制度と住宅取得等資金の贈与の非課税枠を組み合わせると最大3610万円までが非課税となります。

3610万円の内訳は、以下の通りです。

  • 相続時精算課税制度の基礎控除110万円
  • 相続時精算課税制度の特別控除2500万円
  • 住宅取得等資金の贈与の非課税枠1000万円

2つの制度は併用可能なため、一度に多額の資金援助をすることができます。

教育資金の一括贈与の非課税枠+結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠

子どもや孫が結婚をして、これから新しい生活をスタートさせようというときに教育資金の一括贈与の非課税枠と結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠を組み合わせれば、最大2610万円までが非課税となります。

2610万円の内訳は、以下の通りです。

  • 暦年贈与の基礎控除額110万円
  • 教育資金の一括贈与の非課税枠1500万円
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠1000万円

たとえば、結婚にともなって結婚・子育て資金として1000万円を娘に贈与し、娘夫婦に子どもが誕生したら、その孫に対して教育資金として1500万円を贈与できます。

結婚と子どもの誕生が同じ年になるケースは珍しいかもしれませんが、同じ年に使っても問題ありません。

非課税枠・控除を活用した生前贈与の注意点

非課税枠・控除を活用した生前贈与をする際、以下の点に注意しましょう。

  • 暦年課税制度と相続時精算課税制度は併用できない
  • 生前贈与は両者の合意がなければ成立しない
  • 財産の受け渡しは証拠が残るようにする
  • 定期贈与とみなされない工夫をする
  • 死亡3年(7年)以内の生前贈与は相続財産に持ち戻しされる
  • 相続人の遺留分に配慮する

6つの点に注意して、生前贈与を活用しましょう。

暦年課税制度と相続時精算課税制度は併用できない

前提として、贈与税の課税方法には暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがあり、受贈者は贈与者ごとに課税方法を選択する必要があります。

たとえば、父親からの贈与は相続時精算課税制度を利用し、母親からの贈与は暦年課税制度を利用するといったイメージです。同じ贈与者に対して2つの制度を併用することはできません。

また、相続時精算課税制度を選ぶと暦年課税制度に戻ることはできないため注意しましょう。

相続時精算課税制度を利用する際は、受贈者が贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に納税地の税務署にて相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。

相続時精算課税選択届出書を提出しなければ、暦年課税制度で贈与税が課税されます。

参照:No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類|国税庁

生前贈与は両者の合意がなければ成立しない

そもそも生前贈与は、贈与者と受贈者の両者に合意がなければ成立しません。

贈与契約の内容や贈与のタイミングは口頭で合意を取っても法的に問題はありませんが、トラブルを避けるために贈与契約書を交わすことをおすすめします。贈与契約書があれば贈与があった事実を証明でき、税務調査があった場合でも事実を主張できるからです。

また、贈与者が一方的に「孫のために」と名義預金をしているケースがありますが、名義預金は両者の合意がないため生前贈与として認められません。コツコツと孫の名義で預金していたとしても、相続税の課税対象となってしまいます。

実際には両者で贈与契約を結んでいたとしても、贈与契約書がなければ名義預金でないことを第三者に証明できません。贈与者の死後、相続税の対象とならないよう贈与契約書を残しておきましょう。

財産の受け渡しは証拠が残るようにする

財産の受け渡しは、証拠が残るようにしましょう。もちろん、現金手渡しでも法的には問題がありませんが、いくら贈与したのかを明確にするために金融機関を通じて受け渡しをしましょう。

なぜなら、税務調査を誘発する可能性があるからです。贈与契約書を交わしていたとしても、現金を手渡ししていた場合「本当に契約書通りの金銭を贈与したのか」と疑われてしまうでしょう。

万が一の税務調査に備えて、「いつ・いくら・誰が・誰に贈与したのか」が分かるように証拠を残しましょう。

定期贈与とみなされない工夫をする

一定期間決まった金額を定期的に贈与をする定期贈与とみなされないように注意しましょう。

本来、毎年100万円ずつの贈与であれば暦年贈与の基礎控除額におさまるため、贈与税は発生しません。しかし、1500万円の贈与を15年間かけて計画的に贈与すると決めて100万円ずつ贈与すると、1500万円に対して贈与税が課税される恐れがあります。

実際には定期贈与でなくても、「進学のタイミングである4月に毎年100万円ずつ」などと援助していると、定期贈与とみなされる可能性があります。

もし、毎年贈与するのであれば、以下のような工夫をしましょう。

  • 贈与をするたびに贈与契約書を作成する
  • 贈与額や贈与時期をバラバラにする
  • わざと110万円より多く贈与して贈与税を納税する

税務調査が行われたとしても、定期贈与とみなされないよう工夫が必要です。

死亡3年(7年)以内の生前贈与は相続財産に持ち戻しされる

被相続人が亡くなった日から遡って3年の間に生前贈与された財産は、相続税の課税対象として相続財産に加算されます。これを相続税の持ち戻しと呼びます。

たとえば、被相続人の遺産総額が4000万円だったとしましょう。相続人が配偶者と子どもの2人だったとき、相続税の基礎控除額は4200万円です。遺産総額が基礎控除額におさまるため、本来相続税は発生しません。

ところが、相続開始時から遡って3年の間に、被相続人が配偶者と子どもに対して300万円ずつ贈与していたとすると、贈与された600万円が相続財産に加算されます。つまり、遺産総額は4600万円とされ、基礎控除額を差し引いた400万円に対して相続税が課税されます。

従来、相続開始前の3年以内だった期間が令和5年の税制改正によって7年に延長されました。令和6年1月1日以降に行われた生前贈与について、加算対象の期間が段階的に伸びています。

ちなみに相続税の持ち戻しの対象は、原則法定相続人への生前贈与に限られます。お世話になった知人やこれからの成長を支援したい孫への生前贈与は持ち戻しがないため、節税に活用できるでしょう。

ただし、法定相続人以外であっても、遺言によって遺産を取得する人や生命保険金の受取人は加算の対象者となるため注意が必要です。

相続人の遺留分に配慮する

生前贈与は「遺産の前渡し」と考えられているため、特定の相続人や親族に生前贈与をしていると、一部の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分とは、配偶者や子ども、両親などの相続人に最低限保証された相続の取り分のことです。

たとえば、相続人が長男・次男・長女の3人だったとしましょう。このとき、長男が家を建てるタイミング、長女に子どもが生まれたタイミングでそれぞれ1000万円ずつ生前贈与していたとします。

被相続人が遺産1000万円を残して死亡した時点で次男が何も金銭的支援を受けていなかった場合、1000万円を兄弟姉妹3人で均等に分けることに対して次男は不満に感じるでしょう。

次男の遺留分は、相続分3分の1の半分のため、全体の6分の1です。長男と長女に生前贈与された2000万円を遺産に含めると3000万円の財産があり、その6分の1は次男の遺留分です。

遺産の1000万円を均等に3人で分けると500万円の遺留分より少ない取り分しか残りません。このとき、次男が長男・長女に対して遺留分侵害額請求を行う権利があります。

遺留分侵害額請求をきっかけに、兄弟姉妹の関係に亀裂が入ってもおかしくありません。いくら節税のためであっても、生前贈与をする際は残った相続人たちに配慮して贈与額を決めましょう。

生前贈与の非課税を活用すれば税金対策ができる

生前贈与にはさまざまな非課税枠が設けられているため、上手に活用すれば税金対策に役立ちます。しかし、非課税枠の利用には細かなルールが設けられており、理解が難しいと感じる方もいるでしょう。

また、生前贈与以外にも、生命保険や信託の活用などによる節税が適している場合もあります。資産状況や家族構成によっても最適な節税方法が異なるため、相続に強い専門家に個別に相談することをおすすめします。

ご自身にとってふさわしい生前対策方法を知って、死亡したあとの家族の負担をできるだけ軽減させましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年8月5日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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