「認知症になった人は生前贈与はできないのだろうか」とお悩みではないでしょうか。認知症になった人であっても、意思能力があると判断されれば生前贈与はできます。しかし、生前贈与を行った時点で意思能力があったことを証明しなければなりません。この記事では、認知症になった人が生前贈与をするときのポイントや注意点をまとめて解説します。本人の意思を尊重した財産分配をするために、ぜひ参考にしてください。
認知症になった人が生前贈与をすることは可能?
結論から言うと、軽い認知症であれば生前贈与をすることは可能です。
生前贈与を含む「贈与」は法律行為の一種であるため、認知症を理由に無効になる可能性があります。なぜなら、認知症になった人は、意思能力がなくなっているケースがあるためです。
もし、認知症になった人が生前贈与をしたとしても、意思能力がなかったと判明すれば生前贈与は無効と判断されます。そもそも生前贈与とは、財産を譲る「贈与者」と財産を受け取る「受贈者」の2者間で交わす契約です。
意思能力がなくなっている人は、法律行為ができません。交わした「贈与」の契約も無効とされてしまいます。
認知症を発症していると、ついさっきの記憶がなくなってしまったり、コミュニケーションがうまく取れなくなったりします。しかし、認知症の程度によってはしっかりコミュニケーションが取れていて、家族であっても認知症の発症に気付かない場合もあるでしょう。
このように、認知症を発症していたとしても、意思能力の状態は人によってさまざまです。そのため、認知症になっていたとしても、意思能力があると判断された場合に限って生前贈与の契約は成立させられます。
「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
認知症になった後から生前贈与をするポイント
認知症になった人が生前贈与をする場合、以下のポイントを押さえましょう。
- 医師による診断書が必要
- 診断後早めに生前贈与を行う
- 贈与契約書の作成する
3つのポイントを詳しく理解し、生前贈与を成立させましょう。
医師による診断書が必要
認知症になった人が生前贈与をする場合、意思能力があると分かる診断書が必要です。家族や親族であっても、一般人がどの程度の認知症であるか判断したり、意思能力があるかどうかを確認したりすることはできません。
そのため、認知症の専門家である医師の診断を受け、意思能力があることを証明する必要があります。このとき、できるだけ長年通っている病院や医師に診断してもらいましょう。なぜなら、小さな変化に気づいてもらいやすく、診断内容に信ぴょう性を持たせられるからです。
また、複数人の医師の診断を受けておくと安心度が増します。セカンドオピニオンとして別の医師の診断結果を聞いておくと、生前贈与の契約のあとから覆されにくくなるでしょう。
2人以上の医師の診断を受ける場合、「生前贈与を考えているため、診断結果に信ぴょう性を持たせたい」と、認知症を発症している本人や医師に伝えておくとトラブルを回避できます。
診断後早めに生前贈与を行う
診断書を作成したら、早めに生前贈与の手続きを行いましょう。せっかく意思能力があると確認できたにもかかわらず、時間が経ってしまうと症状が進行していたのではないかと疑問が生まれてしまい、診断書が無効であるとみなされかねません。
意思能力に問題のない状態で生前贈与をしたと主張するには、診断書作成から1か月以内の契約を目安としてください。もし、1か月以上の時間が経ってしまったのであれば、再度診断書を作成しなおしてトラブルを防ぎましょう。
贈与契約書の作成する
生前贈与は口約束でもできますが、認知症を発症している場合にはかならず贈与契約書を作成しましょう。意思能力があったときに契約を交わしたと証明するためです。作成することで内容を明確化でき、相続人同士のトラブル回避につながります。
また、贈与契約書を作成しておくと、以下のようなメリットも生まれます。
- 内容の撤回が不可能になる
- 税務調査の時暦年贈与の証明になる
贈与者と受贈者の2者間でのトラブルや、相続が発生してからの税務トラブルも防げるため、贈与契約書の作成を怠らないようにしましょう。
贈与契約書には、以下の内容を記載します。
- 誰があげるのか(贈与者の氏名・住所)
- 誰にあげるのか(受贈者の氏名・住所)
- いつあげるのか(贈与した日)
- 何をあげるのか(贈与財産の種目・内容・金額)
- どうやってあげるのか(贈与の方法)
- 贈与者・受贈者の署名と実印による捺印
内容が記載されていれば、作成方法は自由です。手書きでもパソコンでもどちらで作成しても有効ですが、より信ぴょう性を持たせるには日付や署名部分のみを手書きにしても良いでしょう。
不動産の贈与を行う際には200円の収入印紙が必要なため、忘れないように注意してください。
認知症の人が生前贈与を行う場合の注意点
認知症になった人が生前贈与を行う場合、以下のポイントに注意が必要です。
- 必要書類を適切に作成・管理する
- 生前贈与をすると成年後見制度ができない
- 基礎控除を超える贈与の場合は贈与税が発生する
生前贈与を実行する前に、かならず確認しましょう。
必要書類を適切に作成・管理する
認知症になった人が生前贈与をする場合、「生前贈与の成立が有効である」ことを証明するための必要書類を適切に作成・管理しましょう。
認知症を発症したあとの生前贈与が有効であるかどうかは、意思能力の程度で判断されるためです。そのため、意思能力をしっかり有していると証明できる医師の診断書を証拠として保管しておかなければなりません。口頭での診断では証拠が残らないため、注意しましょう。
また、贈与契約書の作成・保管も必須です。贈与契約書には贈与契約を交わす日付が残されるため、意思能力に問題がないときに契約が交わされた事実を証明できます。しかし、贈与契約書の記載内容に不備や誤りがあると契約書が無効となってしまう可能性があります。
適切な贈与契約書を作成するためには、専門家の力を借りることも検討しましょう。有効な贈与契約書を作成してくれることはもちろん、適切な管理方法までアドバイスしてもらえます。
さらに、書類以外にも生前贈与の事実を客観的に証明できるような工夫も必要です。たとえば、金銭は日付と金額が残る振り込みを行ったり、不動産・有価証券はただちに名義変更をしたりして対策しましょう。
成年後見制度を利用して生前贈与はできない
認知症を患ったら成年後見制度を利用する人もいますが、成年後見制度を利用して生前贈与はできません。
そもそも成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などの理由で1人で十分な判断ができない人の財産を守り、生活を支援するための制度です。「1人で十分な判断ができない人」が成年後見制度の対象であり、意思能力を持っていないことが前提です。
また、生前贈与は「財産を処分する行為」であるため、成年後見制度の目的である「財産保護」に反します。そのため、成年後見人が代理人として生前贈与の契約を交わすことはできません。
このように、成年後見制度を利用しても生前贈与はできないため、注意しましょう。
「成年後見制度」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
基礎控除を超える贈与の場合は贈与税が発生する
基礎控除額を超える贈与の場合は贈与税が発生することを覚えておきましょう。
生前贈与は、相続税の税金対策のために行われるケースが多いです。贈与であれば基礎控除を利用して、贈与税を発生させずに財産を移動させられます。そのため、生きているうちに財産を他の人に譲り渡しておけば、遺産の総額が減って、結果的に相続税の額も減らすことが可能です。
しかし、基礎控除額を超えてしまうと、税金対策のために行ったはずの生前贈与によって贈与税が発生します。贈与税には、以下の2つの課税方法があります。
課税方法 | 違い |
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暦年贈与 | 年間110万円までは非課税。110万円を超えた額には累進課税される |
相続時精算課税制度 | 累積された贈与額2500万円までは非課税。 2500万円を超えた額に一律20%の贈与税が課税されるが、相続税額から差し引かれる。 ※原則「60歳以上の両親(もしくは祖父母)」から「18歳以上の子ども(もしくは孫)」への贈与が対象 ※令和6年1月1日以降の贈与から年間110万円の基礎控除が認められる |
すでに認知症を発症しており、多額の財産を生前贈与したいのであれば、相続時精算課税制度を活用して一度に贈与した方が税金対策として有効でしょう。なぜなら、暦年贈与であれば毎年110万円以下の贈与でなければ、贈与税が発生してしまうからです。
認知症が進行してしまい、意思能力がなくなってしまうと生前贈与はできなくなってしまうため、長期間にわたって財産を移動させることは難しいと考えましょう。
税金対策をしたい場合、資産状況や本人の認知症の進行状況、法定相続人の数などによって最適な解決策が異なります。自己判断せず、税金のスペシャリストである税理士に相談することをおすすめします。
「生前贈与と贈与税・相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
認知症になった人が生前贈与するなら準備が重要
認知症になった人であっても、初期・軽症で意思能力があれば生前贈与ができます。しかし、意思能力があるかどうかの判断は家族でも難しく、自己判断するとトラブルを招く原因になりかねません。
そのため、認知症の人に意思能力があることを証明するために医師による診断書が必須です。さらに、診断から1か月以内に贈与契約を交わし、実行するようにスケジュールを立てるとスムーズに生前贈与を進められます。
あとから意思能力がなかったのではないかと疑われるような状況にならないよう、本人の意思通りに財産を譲り渡せるように準備を進めましょう。