死後事務委任契約とは?費用や手続きの流れ、トラブル対策をわかりやすく解説

公開日:2024年8月23日

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自分自身が死亡したあとの葬儀や遺品整理に不安を感じていませんか。死後の手続きに関して希望を叶えるためには、死後事務委任契約を活用しましょう。死後事務委任契約とは、死亡後の事務手続きを第三者に託せる契約です。本記事では、死後事務委任契約の基礎知識や使った方がよいケース、手続き方法について解説します。

死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは、自分自身が死亡したときの事務手続きを第三者に受任者として託せる生前契約です。依頼する人を依頼者や委任者、される人を受任者や代理人と呼びます。

通常、死後に行わなければならない事務手続きは家族や親族が対応します。しかし、頼れる方がいない場合に、一連の事務手続きを第三者に委任しておくことが可能です。

家族がいても、長年疎遠になっている方や家族に負担をかけたくない方が利用するケースも増えています。

死後事務委任契約で委任できること・できないことについて詳しく確認しましょう。

死後事務委任契約で委任できること

死後事務委任契約では、以下の事務手続きについて委任できます。

  • 遺体の引き取り
  • 通夜・告別式・火葬・納骨・埋葬に関する手続き
  • 永代供養に関する手続き
  • 行政官庁等への届出
  • 賃貸住宅の明け渡し
  • 相続財産管理人の選任申立手続に関する手続き
  • 親族・関係者への連絡
  • 医療費・施設利用費・公共料金などの清算
  • 残されるペットの引き継ぎ・世話
  • 遺品整理
  • デジタルデータ・Webサービスの解約・処分

このような事務手続きに関して、細かに内容を設定できます。

死後事務委任契約で委任できないこと

一方、死後事務委任契約で委任できないこともあります。以下の手続きは死後事務委任契約で委任できないため注意しましょう。

  • 相続・遺贈の指定や認知、遺言執行者の指定
  • 生前における介護
  • 身元保証人(医療行為への同意・介護施設入居への同意など)
  • 遺産を超える葬儀費用や医療費などの支払い

死後事務委任契約は死後に発生する事務手続きを委任する契約のため、生前に発生する手続きの委任はできません。

また、相続・遺贈に関する指定や認知・遺言執行者の指定などの身分に関することは遺言書に記した場合にのみ法的効力を持つため、遺言書を残す必要があります。

さらに、葬儀費用や医療費など、死後に発生する支払いに関してはあくまでも自分持ちです。たとえば葬儀費用を準備できるか不安な方は、葬儀保険や互助会などの利用や生前の前払いを活用しましょう。

死後事務委任契約が必要となるケース

死後事務委任契約を利用した方がよいケースとして、下記の5つのケースをご紹介します。

  • おひとりさまや家族と不仲・絶縁している
  • 家族が高齢である
  • 家族や親族の負担を減らしたい
  • 内縁関係や事実婚である
  • 葬儀や埋葬方法の希望があるが家族と意見が違う

当てはまるケースがある場合、積極的に死後事務委任契約の利用を検討しましょう。

おひとりさまや家族と不仲・絶縁している

おひとりさまやお子さんのいないご夫婦などで身近に死後の手続きを任せられる家族がいない方や、家族との不仲・絶縁によって頼れる人がいない方は、死後事務委任契約を前向きに検討しましょう。

自治体がやってくれる手続きには限度があるため、契約によって死後事務を任せられると安心できます。

家族が高齢である

家族が高齢で、葬儀や遺品整理などを任せられない場合にも死後事務委任契約が役立ちます。死後に発生する事務手続きは、さまざまな場所に赴いたり、たくさんの書類を集めたりしなければならず、手間や時間がかかります。

そのため、高齢の家族にすべての事務手続きを任せることに抵抗感を抱く方は多く、できるだけ負担を減らしたい思いから死後事務委任契約を活用する方は少なくありません。

家族や親族の負担を減らしたい

まだまだ若くて健康な家族や親族がいたとしても、できるだけ自分の死後に負担をかけたくない場合には死後事務委任契約が有効です。

現役世代で仕事や育児が忙しかったり、海外・遠方に住んでいたりすると、さまざまな手続きに家族の手を煩わせたくないと考える方もいるでしょう。自分のことで負担をかけたくない方には、死後事務委任契約で準備しておくことをおすすめします。

内縁関係や事実婚である

内縁関係や事実婚のパートナーがいたとしても、戸籍上のつながりがないといった理由で死後事務の手続きを進められない場合があります。とくに、2人がパートナーであることを証明する書面がない場合には、死後事務委任契約を作成しておくとスムーズに手続きが進められるため安心です。

葬儀や埋葬方法の希望があるが家族と意見が違う

葬儀や埋葬方法の希望が明確にある場合、死後事務委任契約で細かく指定しておくことをおすすめします。家族とは考え方や宗派が異なる場合、自分の希望が叶わないかもしれません。

「散骨してほしい」「カトリックの葬儀をしてほしい」など、明確な希望を叶えたい場合には死後事務委任契約を活用しましょう。

死後事務委任契約手続きの流れ

死後事務委任契約を締結する場合、主な手続きの流れは下記の通りです。

  1. 委任内容を決める
  2. 受任者(代理人)を決める
  3. 契約書を作成する
  4. 契約書を公正証書として保管する
  5. 死後、委任内容を執行してもらう

5つのステップごとに、詳しく確認しましょう。

1.委任内容を決める

まず、依頼者がどのような内容を委任したいのかを決める必要があります。今、不安に思っていることや悩んでいることを書き出し、何をしてもらえれば安心できるかを書き出してみましょう。

2.受任者(代理人)を決める

つづいて、死後事務を委任する受任者(代理人)を決定します。友人や知人はもちろん、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。受任者によって依頼できること・できないことがあるため、慎重に検討しましょう。

依頼できる先の候補については、あとの「死後事務委任契約を依頼できる相手」にて詳しくご紹介します。

3.契約書を作成する

委任内容や受任者(代理人)を明確にするため、契約書を作成することをおすすめします。亡くなったあとのことは自分で見届けることができないため、できるだけ詳細に記載しておきましょう。

4.契約書を公正証書として保管する

契約書を公正証書として保管しましょう。公正証書とは公証人が作成する公文書です。証拠力が高く、本人が亡くなったあとに契約内容を確実に執行するために有効です。

契約書を公正証書化するには、最寄りの公正役場に電話をして相談の予約を取りましょう。相談時には、下記のような流れで契約書の原案を作成します。

  1. 相談時に公証人に契約書の内容を伝える
  2. 公証人が公正証書の体裁で契約書の原案を作成する
  3. 必要書類や準備物の指示を受ける

作成日当日には、委任者と受任者の両名で公正役場へ行きます。このとき必要書類や実印などを忘れないようにしましょう。当日は、下記の流れで契約書を作成します。

  1. 公証人が用意した原本を読み上げる
  2. 委任者と受任者が署名捺印をする

以上で公正証書としての契約書は完成です。完成した公正証書は公正役場で保管されます。委任者と受任者は、謄本を発行してもらいそれぞれ保管しましょう。親族や関係者にも謄本を渡しておくと、死後の手続きがスムーズに進められます。

また、契約書を公正証書として保管するには、公証人の手数料1万1000円がかかります。

5.死後、委任内容を執行してもらう

自身が亡くなったら、受任者に委任した内容を執行してもらいます。すべての委任項目が執行されると、契約は終了です。

死後事務委任契約を依頼できる相手

死後事務委任契約を依頼できる相手には、特別な条件や資格はありません。基本的には誰にでも依頼できますが、認知症などによって法律行為ができない人には依頼できない点に注意しましょう。

一般的に、死後事務委任契約の受任者候補として挙げられる人は、下記の通りです。

  • 相続人以外の親族
  • 友人・知人
  • 内縁関係・事実婚のパートナー
  • 弁護士などの法律の専門家
  • 社会福祉協議会
  • 死後事務委任サービスを行っている民間企業

信頼できる親族や友人・知人、内縁関係・事実婚のパートナーであれば、気心が知れていて頼みやすいと考える方が多いでしょう。しかし、死後事務の執行では法的な手続きを行わなければならず、一定の専門知識が必要です。

また、依頼した親族や友人・知人、パートナーなどが先に亡くなってしまう可能性も否定できません。依頼相手が先に亡くなってしまうと、新たに契約を結ぶ相手を見つける必要が出てきます。

トラブル防止や確実な執行のためにも、専門家や法人へ依頼することをおすすめします。

死後事務委任契約の費用と支払方法

死後事務委任契約の費用と支払方法のイメージ

死後事務委任契に必要な費用や支払い方法について、締結前に理解しておきましょう。

死後事務委任契約の主な費用項目

死後事務委任契約の主な費用項目は、以下の通りです。

  • 契約書作成費用
  • 公証人費用
  • 死後事務の執行費用

どれほどの金額になるのか、項目ごとの目安を確認しましょう。

契約書作成費用

委任者の意向を反映した死後事務委任契約書を作成するのであれば、専門家に作成依頼をすると確実です。専門家に依頼するときの契約書作成費用目安は30万円程度です。

もちろん、委任者と受任者の両者で契約書を作成するのであれば、費用はかかりません。

公証人費用

死後事務委任契約書を公正証書で作成するのであれば、公証人費用として1万1000円かかります。また、謄本手数料などにも実費で3000円程度かかるため、合計1万4000円程度の費用がかかると考えておきましょう。

死後事務の執行費用

死後事務委任契約で交わした死後事務を執行してもらうために、執行費用がかかります。

死後事務の執行費用の金額は、150〜300万円程度と考えておきましょう。ただし、死後事務委任契約で委任する死後事務の項目によって必要な金額は大きく変動します。項目ごとの費用目安は、以下の通りです。

葬儀・埋葬100〜200万円
不動産賃貸借契約の解約から明渡しまで10万円(1か月分の家賃程度)
入院費の清算50万円
行政への手続き10万円
SNSアカウントの削除1万円/1アカウントあたり

遺産を上回る費用は出してもらえないため、あらかじめどれほどの執行費用がかかるのか概算を出しておきましょう。また、現在の財産状況から執行費用にどれほどの費用を充てられるのかも把握しておく必要があります。

支払い方法

契約書を作成するために必要な契約書作成費用や公証人費用は、契約書を作成するタイミングで支払いが必要です。

一方、死後事務の執行費用は自身の死後に支払いが発生します。しかし、受任者が亡くなった方の口座から必要な費用を引き出すことは原則できません。そのため、あらかじめ必要な執行費用を預託金として預けておきましょう。

一般的には、契約を交わす際に執行費用の見積もりを出して、執行に必要な預託金を渡します。ただし、なかにはすぐに必要費用を渡せない方もいるでしょう。そのような場合は、生命保険を活用したり遺産から清算したりする方法もあります。

亡くなってすぐに必要な葬儀・埋葬費用だけでも預託金として受任者に預けておくと、受任者が肩代わりをせずに手続きを進められます。

死後事務委任契約のトラブルとその対策

信頼していた相手との死後事務委任契約であっても、トラブルが発生することがあります。ここでは、死後事務委任契約のトラブルとその対策方法について詳しく解説します。

よくあるトラブル事例

よくあるトラブル事例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 受任者によるトラブル
  • 契約内容をめぐったトラブル
  • 相続人・親戚と受任者とのトラブル

順番に確認しましょう。

受任者によるトラブル

受任者によるトラブルには、以下のようなものが挙げられます。

  • 受任者に預託金を使い込まれた
  • 自分より先に受任者が亡くなって死後事務を執行する人がいなくなった
  • 受任者である民間企業が倒産して預託金が返還されない

信頼できる方を受任者として選出した場合であっても、上記のトラブルは起きかねません。受任者を誰にするかは慎重な判断が必要です。

契約内容をめぐったトラブル

委任内容や報酬額が不明瞭だった場合、契約内容をめぐってトラブルに発展する場合があります。報酬額が適切かどうかも含め、契約内容をしっかりと検討しなければなりません。

また、相続や遺産の扱いについては死後事務委任契約で定められず、遺言書に指定する必要があります。しかし、受任者に謝礼や形見分けをするよう死後事務委任契約に定められている場合、遺言書と死後事務委任契約のどちらを優先すべきかトラブルが発生する恐れがあります。

遺言内容と統一性を持たせるためにも、死後事務委任契約内容について熟考しなければなりません。

相続人・親戚と受任者とのトラブル

相続人や親戚が死後事務委任契約の内容を知らなかった場合、いきなり受任者が現れて死後事務が執行されるためトラブルに発展する恐れがあります。

たとえば、死後事務委任契約に記載されている葬儀の方法や規模に相続人や親戚が納得しなければ、受任者と揉めてしまうでしょう。また、本来得られたはずの遺産が死後事務の執行によって使われていることを快く思わない相続人がいてもおかしくありません。

また、委任者が契約を交わした時点で認知症を患っていれば契約書が無効となる場合があります。相続人や親戚が無効を主張すると、死後事務の執行が難しくなるでしょう。

相続人・親戚と受任者の間でトラブルに発展した場合、死後事務の手続きもスムーズに進められなくなるでしょう。

トラブルにならないための対策

トラブルにならないための対策として、以下の4つの方法をご紹介します。

  • 判断能力がある間に契約する
  • 相続人・親族に事前に説明する
  • 遺言書も合わせて作成する
  • 信頼できる専門家・業者と契約を交わす

死後事務委任契約を交わす前にしっかりと対策しましょう。

判断能力がある間に契約する

まず、委任者に判断能力がある間に契約を交わしましょう。なぜなら、認知症によって判断能力がない状態となる場合、法律行為である契約締結は原則できなくなるためです。

公正証書を作成して契約書を作成したとしても、判断能力がない状態での契約は無効となってしまい、受任者は死後事務の執行ができなくなります。

また、委任者に判断能力がなければ、専門家や民間会社からも受任者を断られてしまいます。死後事務委任契約を交わしたい意向があるなら、早めに検討を進めましょう。

相続人・親族に事前に説明する

相続人や親族に、死後事務委任契約を締結したことや契約内容を伝えておきましょう。委任者が自ら相続人や親族へ知らせない限り、契約の存在を知る術はありません。

死後事務委任契約の存在を知らないまま、あなたが死亡してしまうと、いきなり受任者が現れてさまざまな手続きを進めようとするため不信感を抱いてしまいます。また、契約内容と家族の考えが異なる場合、死後事務の執行を進める弊害になりかねません。

もちろん、受任者と委任者の両者だけで契約を交わすことはできます。しかし、あらかじめ相続人・親族の理解を得るようにしておけば、受任者がスムーズに手続きを進められます。

遺言書も合わせて作成する

死後事務委任契約では、相続の指定や遺産の処分、認知、遺言執行者の指定はできません。

相続人がいない場合、基本的に遺産はすべて国庫に帰属されます。もし、遺産を引き継いで欲しい人がいたり、認知したい人がいたりするのであれば、遺言書も作成しましょう。

ただし、要件を満たさない遺言書は効力を持たず、いくら意思を記載していたとしても執行されません。死後事務委任契約の内容との統一性を持たせ、遺言書にも効力を持たせるためにも弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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信頼できる専門家・業者と契約を交わす

よくあるトラブルを予防するには、信頼できる専門家・業者と契約を交わしましょう。もちろん、友人・知人や親戚と契約を結んでも問題ありませんが、預託金の使い込みや死後事務の執行の確実性においてリスクがともないます。

もちろん、専門家や業者においても、経営状況を確認して倒産のリスクがないか、信頼できる人物であるかどうかの見極めは重要です。信頼できる受任者を見つけるためには、複数の専門家や業者へ相談し、実績や応対の誠実さ、報酬額などを比較することをおすすめします。

死後事務委任契約と他の制度や契約との違い

死後事務委任契約と似た制度や契約には、以下のようなものがあります。

  • 遺言、遺言執行
  • 後見制度
  • 財産管理契約

それぞれとの違いについて詳しく理解して、適切な制度を活用したり契約を交わしたりしましょう。

遺言、遺言執行

遺言は、本人の意志を死後に実行していくという点において死後事務委任契約と似ています。しかし、遺言には相続に関する事柄や遺言執行者の指定、認知、相続人の排除やその取り消しなど、効力の持つ事項に制限が設けられています。

「散骨して欲しい」「スマホの中身は見ないで処分して欲しい」といった要望を記載することは可能ですが、法的な効力はありません。

後見制度

後見制度とは、認知症の方や知的・精神障害を持つ方など判断能力が十分でない方の財産管理や身上監護を家庭裁判所で選出された成年後見人が行う制度です。

死後事務委任契約は、死後に発生する事務手続きを委任する契約です。契約や財産管理など、生前の身の回りに関して委任したいのであれば後見制度を活用しましょう。

財産管理契約

財産管理契約とは、高齢で身体が自由に動かせなくなったときや、介護施設などに入居するときなどに、自分の財産管理に関する事務の代理を第三者に依頼する契約です。

死後事務委任契約は死後に発生する支払いや清算を任せられますが、生前の支払いや清算に関して委任できません。生前の財産管理を委任したい場合は、財産管理契約を活用しましょう。

死後事務委任契約は専門家に相談しよう

死後事務委任契約とは、葬儀や埋葬、親族への連絡など、委任者の亡くなったあとの希望を叶えるための契約です。

親族や友人・知人を受任者として契約を交わすことも可能です。しかし、死後事務執行の確実性を高め、トラブル回避をするためには弁護士などの専門家が受任者におすすめです。また、相続に関する指定は死後事務委任契約できないため、遺言書の作成もあわせて検討しましょう。

相続全般や生前・死亡後の事務手続きに関して、今から対策しておきたいとお考えの方は、ぜひ相続に強い弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年8月23日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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