各種相続手続きを進めていくなかで期限を確認する際、「相続開始日がいつなのか」と疑問に思うことがありませんか。相続開始日とは、通常被相続人が亡くなった日です。しかし、亡くなり方などによっては相続開始日の考えが異なる場合があります。本記事では、相続開始日の考え方や相続手続きの期限、注意点について解説します。
相続開始日とは
相続開始日とは、一般的に遺産相続が始まった日、つまり被相続人が亡くなった日を示します。通常、死亡診断書や死体検案書に記載されている「死亡日」の日付が相続開始日です。
しかし、認定死亡や擬制死亡である場合、死亡診断書は存在しません。そのため、戸籍に記された死亡日が相続開始日となります。
通常、相続放棄や相続税の申告・納付などの相続にかかわる手続きの期限は、「相続開始を知った日」を起算日とします。しかし、すべての「死亡」が医師の診断によるものではなく、すぐに相続人に知らされるとも限りません。そのため、「相続開始を知った日=被相続人の死亡日」ではない場合もあります。
ここでは、死亡の種類や「相続開始を知った日」について詳しく解説します。
死亡の種類
法律では、死亡の扱いが複数あります。死亡の種類ごとに相続開始日の考え方が少し異なります。
イレギュラーな死亡の種類は、下記の通りです。
- 認定死亡
- 擬制死亡(失踪宣告)
種類ごとに異なる相続開始日の考え方について、詳しく確認しましょう。
認定死亡
認定死亡とは、事故や火災、自然災害などによって亡くなった可能性が高いにもかかわらず、遺体が確認できない場合に官公庁が死亡を認定することです。戸籍法第89条に基づいて死亡が認定されると、戸籍に死亡が記載されます。
被相続人が認定死亡だった場合の相続開始日は、官公庁が死亡地の市町村長へ死亡の報告を行ったことを相続人が知った日となるため注意しましょう。
擬制死亡(失踪宣告)
擬制死亡(失踪宣告)とは、行方不明者の生死状態が分からないときに、法律上死亡したものとみなす制度です。失踪宣告には普通失踪と特別失踪の2つの種類があり、それぞれ相続開始日が異なります。
まず、普通失踪とは、行方不明になって7年間、生死状態が明らかでない場合に家庭裁判所にて死亡を認定することです。普通失踪が認められた場合の相続開始日は、行方がわからなくなってから7年が経過した日となります。
ただし、失踪宣告を受けて死亡したものとみなされた方の相続人や受遺者について、相続開始を知った日をこれらの者が当該失踪の宣告に関する審判の確定があったことを知った日として取り扱うよう相続税法基本通達27-4に記載されています。
そのため、失踪宣告の審判確定日が相続手続き期限の起算日となります。
次に、特別失踪とは、自然災害や戦争、飛行機事故などの危難によって行方不明になったときに危難が去ってから1年間生死状態が明らかでない場合に家庭裁判所にて死亡を認定することです。
この場合の相続開始日は危難が去った日です。ただし、普通失踪と同様に、相続開始を知った日は失踪宣告の審判確定日となり、相続手続き期限の起算日も失踪宣告の審判確定日となります。
相続開始を知った日
相続放棄や相続税の申告・納税などの相続にかかわる手続きの期限は、相続開始を知った日が起算日となります。相続開始日とは異なるため注意しましょう。
相続開始を知った日とは、自分自身に相続があったことを知った日です。通常、被相続人の死亡を知った日と解釈して問題ありません。
たとえば、10月1日に遠方に住んでいる父が自宅で孤独死したと仮定しましょう。一人暮らしのために発見が遅れ、さらに親族である息子に連絡が取れた日が10月10日だとします。
このとき、相続開始日は被相続人が死亡した10月1日です。しかし、相続開始を知った日は、連絡を受けた10月10日です。
被相続人と近しい間柄であれば相続開始日が相続開始を知った日となりますが、疎遠で相続開始を知った日が遅れる場合も十分にあり得ます。
また、被相続人の相続人の第一順位である子どもたちが相続放棄をしたことで、第二順位の両親が相続人になった場合にも、相続開始を知った日と相続開始日に乖離が生まれます。相続人が相続放棄をした事実は他の親族に知らされないため、「自分が相続人である」と認識するまでに時間がかかるケースは少なくありません。
このように、被相続人の死亡を知っていたとしても、自分が相続人であると認識できなかった場合には相続開始日と相続開始を知った日にズレが生じます。
相続開始日(相続開始を知った日)は様々な手続き期限の基準になる
相続開始日(相続開始を知った日)は、相続に関するさまざまな手続きの期限の基準となるため、しっかり把握しておく必要があります。
相続開始日(相続開始を知った日)が期限の基準となる相続関連の手続きは、下記の通りです。
- 相続放棄・限定承認
- 準確定申告・納税
- 所得税の青色申告承認申請
- 相続税の申告・納税
- 遺留分侵害額請求
- 死亡保険金(生命保険金)の請求
- 相続登記
それぞれの期限について、詳しく確認しましょう。
相続放棄・限定承認
相続放棄や限定承認の手続き期限は、自分のために相続があったことを知ってから3か月以内です。この3か月の期間を熟慮期間と呼びます。
相続放棄は遺産のすべての相続権利を放棄する手続きで、限定承認はプラスの遺産を限度としてマイナスの遺産を引き継ぐ手続きです。相続放棄や限定承認の手続きを熟慮期間中にしなければ、相続財産を無条件で相続する単純承認を認めたとみなされるため注意しましょう。
ただし、相続開始を知ってから3か月以上が経過したあとでも、遺産がないと信じており、信じたことに正当な理由がある場合にのみ相続放棄が認められる可能性があります。
また、前順位の相続人が相続放棄したことで後順位の方が相続人となった場合、先順位者の相続放棄を知ったときから3か月間が熟慮期間となり、熟慮期間に手続きをすれば相続放棄が認められます。
なかには、熟慮期間内に相続財産の調査が間に合わず、相続放棄や限定承認の判断ができない場合もあるでしょう。家庭裁判所に対して熟慮期間の伸長の申し立てをし、認められれば熟慮期間が延長されます。
申し立てをすれば必ず延長されるわけではないため、早期に申し立てを行い相続財産の調査を進めるようにしましょう。
準確定申告・納税
準確定申告と納税の期限日は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。期限内に申告・納税を済ませられなければ、ペナルティとして延滞税や無申告加算税などが課される場合があります。
準確定申告とは、被相続人がしなければならない確定申告を相続人が代わりに行うことです。準確定申告の対象期間は、被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得です。
また、被相続人が前年度の確定申告を行わないまま亡くなった場合、前年度分に関しても準確定申告を行わなければなりません。
なお、普段から被相続人が確定申告を行っていなかったのであれば、準確定申告の必要がない可能性があります。
所得税の青色申告承認申請
被相続人の個人事業を引き継ぐ場合、引き継ぐ方が青色申告承認申請を行う必要があります。青色申告をする権利は個人に紐づくため、引き継ぐ方が改めて税務署へ申請しなければなりません。
下記のように、青色申告承認申請の期限は、亡くなった方の日付によって異なります。
- 亡くなった日1月1日~8月31日:相続開始日から4か月以内
- 亡くなった日9月1日~10月31日:その年の12月31日まで
- 亡くなった日11月1日~12月31日:翌年の2月15日まで
個人事業を引き継ぐ際は、忘れないようにしましょう。
相続税の申告・納税
相続税の申告・納税の期限日は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。期限内に申告・納税を済ませられなければ、ペナルティとして延滞税や無申告加算税などが課される場合があります。
ただし、遺産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えていない場合に相続税の申告・納税の必要はありません。早めに相続財産の調査を行い、基礎控除を上回っているかどうかを確認しましょう。
遺留分侵害額請求
遺言や生前贈与などによって遺留分を侵害された場合にできる遺留分侵害額請求の期限は、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内です。
万が一、被相続人が死亡した事実や遺言・生前贈与の事実を知らないままであれば、遺留分侵害額請求のできる期間は進行しません。
しかし、遺留分侵害額請求には時効が存在します。相続開始日から10年が経過すると、遺留分侵害を請求する権利は失効します。
相続人が死亡した事実や遺言・生前贈与の事実を知らないままであっても、被相続人が亡くなってから10年経過すると遺留分を取り戻すことができないため、注意しましょう。
死亡保険金(生命保険金)の請求
死亡保険金(生命保険金)の請求期限は、相続開始日の翌日から3年以内です。
被相続人が亡くなった事実を生命保険会社に伝え、所定の死亡保険金支払請求書と必要書類を準備して提出する必要があります。必要書類や手続きの流れは生命保険会社によって異なるため、早急に問い合わせましょう。
相続登記
令和6年4月1日より、相続登記の申請が義務化されました。相続登記の期限は、下記のいずれかです。
- 相続、もしくは遺言によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内
- 遺産分割協議によって不動産の所有権を取得した場合、遺産分割が成立した日から3年以内
正当な理由なく義務を果たさなかった場合、10万円以下の過料の対象となるため注意しましょう。
相続開始日について知っておきたいこと
相続開始日について知っておきたいことは、下記の3つです。
- 期限日が土日祝日だった場合
- 脳死の場合に相続開始日はどうなる?
- 手続きは多岐にわたるため専門家をうまく利用する
詳しく確認しましょう。
期限日が土日祝日だった場合
相続手続きの期限日が土日祝だった場合、土日祝明けの平日が期限の満了日です。たとえば、11月3日(金)が期限日にもかかわらず祝日だったとき、連休明けの11月6日(月)が期限の満了日です。
また、税務署や家庭裁判所は、年末年始に閉庁しています。閉庁期間に期限日を迎える場合、翌開庁日が期限の満了日です。たとえば、閉庁期間である12月29日から1月3日までの間に期限日がある場合、1月4日が期限の満了日となります。
脳死の場合に相続開始日はどうなる?
脳死は、民法上において人の死亡の基準として扱われていません。なぜなら、脳死状態とは脳の機能が停止しているだけで、身体は生きているためです。
そのため、脳死をしただけでは相続開始日として判断されないと覚えておきましょう。
脳死を人の死亡として扱うケースは、脳死判定をした人物から臓器を移植するケースに限ると臓器の移植に関する法律で定められています。脳死における相続開始日は、さまざまな調査や手続きが必要となり、法律的に明確な相続開始日を確定させるには専門家の力が欠かせません。
身内だけで判断して手続きを開始せず、弁護士へ相談することをおすすめします。
手続きは多岐にわたるため専門家をうまく利用する
相続が開始すると、しなければならない手続きがたくさんあります。前述したように、相続放棄・限定承認に関する相続方法の選択から、相続税申告や準確定申告などの税関係の手続きまで多岐にわたります。
期限がないものの、葬式や遺品整理など、被相続人が亡くなったあとにしなければならないことはとても多いです。そのため、専門知識が必要な手続きに関しては専門家を上手に活用して、いち早く日常生活が取り戻せるようにしましょう。
相続プラスなら、相続に強い専門家を悩みごと・エリアごとに検索できます。積極的に活用し、期限に間に合うよう準備を進めましょう。
相続開始日がいつか分からないときは専門家に相談しよう
一般的に、相続開始日は被相続人が亡くなった日です。しかし、亡くなり方によって、死亡日の考え方が変わるため、判断が難しい場合もあるでしょう。
また、相続手続きの期限の起算日となる相続開始を知った日と相続開始日が同一であるとは限りません。相続人ごとに相続開始を知った日が異なる場合もあります。
相続放棄や遺留分侵害額請求を考えているのであれば、手続きの期限に間に合うよう早めに準備を進める必要があります。
起算日が分からない場合や、相続手続きの期限に間に合わなさそうな場合は、相続に強い専門家に相談しましょう。相続プラスなら、それぞれの分野に詳しい専門家を簡単に検索できます。
期限を過ぎてしまう前に手続きを終えるためにも、積極的に専門家を頼りましょう。