法定相続情報証明制度とは?メリット・デメリットや手続きの流れ

公開日:2024年8月28日

「相続手続きで窓口に提出する書類が多すぎる」そのような不満を抱える方は少なくありません。法定相続情報証明制度を活用することで、必要書類を省略でき負担軽減が可能です。とはいえ、この制度についてよくわからないという方も多いでしょう。この記事では、法定相続情報証明制度の手続きの流れや注意点などをわかりやすく解説します。

法定相続情報証明制度とは

法定相続情報証明制度とは、作成した法定相続情報一覧図を法務局に認証してもらう制度です。認証後に交付される法定相続情報一覧図の写しは、相続手続き時の各種窓口で戸籍の代わりとして利用できます。つまり、公的に相続関係を証明してくれる制度といえるでしょう。

制度の概要と設立の背景

法定相続情報証明制度は、不動産の相続登記を促す目的で平成29年5月にスタートした制度です。

近年日本では、相続登記が未了のまま放置されている所有者不明の不動産が増加し、空き家問題や公共事業・災害時の妨げなどの大きな問題となっています。この問題を解決するために、相続登記の手間を軽減する目的で法定相続情報証明制度が設立されたのです。

法定相続情報証明制度では、提出する法定相続情報一覧図と戸籍に基づいて法務局が相続関係を証明してくれます。認証後に交付された法定相続情報一覧図を用いることで、通常の相続手続きで必要になる戸籍謄本などの書類の束は不要になります。

通常、相続手続きを窓口で進めるためには、被相続人の出生から死亡時までの戸籍や相続人の戸籍など多くの戸籍が必要です。それを一覧図1枚だけで進められるので、戸籍収集や窓口での負担を大きく軽減できます。

なお、相続登記については令和6年4月1日から義務化されています。3年以内に相続登記しない場合、過料が科せられる恐れもあるので速やかに登記手続きするようにしましょう。

「法定相続一覧図」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

制度を利用するメリット・デメリット

法定相続情報証明制度では、相続手続きの負担軽減というメリットがある反面、法務局に認証してもらうためには手間がかかるというデメリットがあります。

メリット

この制度の大きなメリットが、相続手続きの負担の軽減です。

金融機関や登記所などの各種窓口で相続手続きを行う際には、被相続人の戸籍謄本や相続人全員の戸籍など数多くの相続関係を証明する書類が手続きのたびに必要です。被相続人の財産が多岐に渡ると、銀行だけでも複数行で手続きしないといけない場合もあるでしょう。そのたびに、戸籍の束を窓口に提出するのは大きな負担と言えます。

しかし、法定相続情報証明制度であれば、相続情報一覧図の写しという1枚の紙を提出するだけで戸籍の束に替えることが可能です。窓口でも相続関係の把握がスムーズにできるので、手続き時間の短縮にもつながるでしょう。

デメリット

一方、デメリットとしては、法務局に提出する法定相続情報一覧図は自分で作らないといけない点が挙げられます。法定相続情報一覧図とは家系図のようなものですが、戸籍をだとりながら作成するのは手間も時間もかかるものです。

また、認証後の手続きでは戸籍の束は不要になると言っても、法務局には戸籍の束を提出する必要があるため、戸籍収集作業自体を無しにはできません。特に、相続人の関係が複雑な場合は、申出人に大きな負担となる恐れもある点には注意が必要です。

制度を利用した方がよいケース・しなくてもよいケース

制度を利用するかどうかは、相続手続きの窓口の多さで判断するとよいでしょう。

制度を利用したほうがよいケース

相続手続きで複数の窓口に行く必要があるケースでは、利用したほうがメリットを感じやすくなります。

複数の窓口で手続きが必要になる場合、それぞれの窓口で戸籍の束が必要です。一般的には、手続き後に戸籍の束を返却してくれるケースが多いので、返還後に次の窓口で同じ束を提出することになります。そうなると、1つの手続きが済むまで次の手続きに進めないので、手続きすべてを終えるのに時間がかかってしまうこともあるでしょう。

なかには、手続き後に戸籍の束を返還しないケースもあります。また、戸籍書類の数が多くなればなるほど途中で紛失するリスクもあり、返還されない・紛失したといった場合再取得が必要になるため手間が余計にかかってしまうものです。

法定相続情報証明制度では、一覧図の写しは必要分だけ取得できるので同時に複数の手続きを進めることも可能です。不動産が複数ある・取引銀行が多いなど相続財産が多岐に渡るといった場合は、利用検討するとよいでしょう。

ちなみに、この制度は相続登記促進のための制度だからと言って、相続登記がないケースで利用できないわけではありません。相続登記がない相続でもこの制度は利用できるので、手続きが煩雑になるかを目安に利用を検討するとよいでしょう。

利用しなくてもよいケース

反対に、手続きする窓口が多くないのであれば、法務局で手続きする時間や手間のデメリットの方が勝ってしまいます。法務局で認証を受けるのには、法定相続情報一覧図の作成や戸籍収集など手間がかかるうえに、交付を受けるまでにも一定の時間が必要です。

手続きする窓口が1~2つくらいであれば、法務局に出向く時間を省いて集めた戸籍で直接相続手続きを進めたほうが早く終わる可能性があるでしょう。

法定相続情報証明制度の手続きの流れ・必要書類

法定相続情報証明制度の手続きの流れ・必要書類のイメージ

ここでは、法定相続情報証明制度の手続きの流れと必要書類を解説します。

大まかな手続きの流れは、以下の通りです。

  • 必要書類の準備
  • 法定相続情報一覧図の作成
  • 法務局に申出
  • 認証・交付

以下で詳しくみていきましょう。

必要書類の準備

申請時に添付する書類として、以下のような書類が必要です。

  • 被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 相続人全員の戸籍
  • 申出人の住所・氏名が確認できる公的書類
  • 法定相続情報一覧図
  • 申出書

住所・氏名を確認する公的書類としては、運転免許証やマイナンバーカード・住民票の写しが利用できます。申出書は「法務局のホームページ」でダウンロードでき、記載例も掲載されているので参考に作成するとよいでしょう。

また、相続情報一覧図に住所まで記載する場合は相続人の全員の住民票が必要です。代理人が申請する場合は、さらに委任状や代理人の資格者代理人団体所定の身分証などが必要になります。

法定相続情報一覧図の作成

法定相続情報一覧図とは、A4サイズの白い用紙1枚に相続関係をわかりやすくまとめた家系図のような図です。

作成する際には、以下の内容を記載します。

  • 被相続人の氏名・住所・生年月日・本籍地・死亡年月日
  • 相続人全員の氏名・生年月日・続柄・(必要なら住所)
  • 申出人
  • 作成日
  • 作成者の氏名・住所

作成はパソコンでも手書きでもかまいませんが、必要事項のもれや必要のない項目を記載すると修正を指摘されます。具体的な書き方は「法務局のホームページ」で確認できるので、確認しながら作成しましょう。

法務局に申出

必要書類と作成した法定相続情報一覧図を法務局に提出します。提出する法務局は、どこでもいいわけではなく以下の地域を管轄する法務局に限定されているので注意しましょう。

  • 被相続人の死亡時の本籍地
  • 被相続人の最後の住所地
  • 申出人の住所地
  • 被相続人名義の不動産の所在地

申出する際には、直接法務局に出向く以外にも郵送での提出も可能です。

認証・交付

申出後、法務局で内容がチェックされ問題なければ法務局の認証文が記載された法定相続情報一覧図の写しが交付されます。受け取る際には、申出書の申出人の欄に記載した住所・氏名と一致する本人確認書類が必要になるので忘れずに持参しましょう。申出時に返信用封筒と切手を提出しておくことで郵送での受け取りも可能です。

法定相続情報一覧図は申出から交付まで1~2週間ほどかかります。混み合う時期ではそれ以上かかる場合もあるので、早めに手続きするようにしましょう。

交付後は、法定相続情報一覧図を用いて各種相続手続きを進めていくことになります。窓口によっては法定相続情報一覧図での手続きに対応してないケースもあるので、事前に確認することをおすすめします。

法定相続情報証明制度を利用する上で知っておきたいこと・注意点

法定相続情報証明制度を利用する際には、以下の点は覚えておくようにしましょう。

  • 費用は掛からない
  • 提出した戸籍謄本は返却される
  • 法定相続情報番号があれば法定相続情報一覧図の添付無しで相続登記できる
  • 再交付することができる
  • 法定相続情報一覧図の写しは5年間保存される
  • 相続放棄した人も法定相続情報一覧図に記載する

費用は掛からない

法定相続情報証明制度は、申請時や法定相続情報一覧図の交付時に費用は必要ありません。

ただし、戸籍などの各種必要書類の取得費や、郵送で一覧図の交付を希望する場合は返信用の切手代が必要です。

提出した戸籍謄本は返却される

申出の際提出した戸籍謄本は、一覧図の交付時に返却されます。なお、申出人の住所・氏名を確認するために用いた本人確認証(運転免許所のコピーや住民票の写しなど)は返却されないので注意しましょう。

法定相続情報番号があれば法定相続情報一覧図の添付無しで相続登記できる

法定相続情報番号とは、法定相続情報一覧図の写しに記載される識別番号です。令和6年4月1日以降の相続登記では、この法定相続情報番号を記載すれば一覧図の貼付は必要ありません。

ただし、令和6年7月時点では、相続登記以外の相続手続きで番号は使用できないので注意しましょう。

再交付することができる

法定相続情報一覧図の写しは、一度交付した後でも申請することで再交付を受けられます。最初の交付では枚数が足りなかった、途中で紛失や窓口に回収されて不足したといった場合は、再交付を申し出るとよいでしょう。

ただし、再交付を受けられるのは申出時に申出人として記載した人のみであり、申請できるのも最初に申出をした法務局のみです。申出人でない相続人が再交付を希望する場合は、申出人の委任状が必要になります。

なお、法定相続情報一覧図の写しには有効期限はありませんが、窓口によっては「発行から〇か月以内」というように有効期限が定められているケースもあります。必要書類の発行期限は事前に確認するようにしましょう。

法定相続情報一覧図の写しは5年間保存される

法定相続情報一覧図は、申出の翌年から5年間保存されます。この保存期間内であればいつでも無料で再交付を受けられますが、5年を経過すると再交付されないので注意が必要です。

相続放棄した人も法定相続情報一覧図に記載する

相続人のなかに相続放棄した人がいる場合でも、提出する法定相続情報一覧図に氏名・生年月日・続柄の記載が必要です。反対に、相続廃除された人は記載する必要はありません。

そのため、実際に相続する人と相続情報一覧図が一致しないケースもあるので注意しましょう。

法定相続情報証明制度を検討しているなら専門家に相談を

法定相続情報証明制度を利用することで、各種窓口での相続手続き時に必要な戸籍を省略でき手続きの負担を軽減できます。相続手続きを複数の窓口で行わないといけない場合は利用を検討することをおすすめします。

ただし、制度を利用する際には法務局への申出が必要となり、その際に戸籍の収集や法定相続情報一覧図の作成などの手間がかかります。相続人の関係性が複雑な場合など、一覧図の作成は大きな負担となりかねません。

法定相続情報制度は、弁護士や司法書士などで代理で手続きできます。専門家への依頼であれば、一覧図の作成や戸籍の収集などを任せられるので検討してみてはいかがでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年8月28日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする