「相続すると所得税がかかるのだろうか」と心配になっていませんか。結論から言うと、相続した財産に対して所得税はかかりません。しかし、相続財産からの収益で所得が発生することで確定申告が必要になり、所得税が課税される可能性があります。なかには相続によって取得した財産から収益が発生したことで、確定申告をしなければならないケースもあります。本記事では、相続によって所得税が発生するケースや確定申告の方法、注意点を詳しく解説します。ご自身が確定申告しなければならないのか、ぜひ確認してください。
目次 [開く]
相続した遺産に所得税はかからない
相続した遺産に対して、所得税はかかりません。そのため、相続人が引き継いだ遺産を自分の所得として所得税の確定申告をする必要も原則ありません。
遺産は、相続税の対象です。相続税は財産を無償で引き継ぐことに対して課税され、相続又は遺言による遺贈によって財産を取得した場合に発生します。
ただし、遺産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人)を上回っていなければ、相続税は課税されません。
一方、所得税は、給与や事業所得などの収入に対して課税される税金です。相続によって得られた財産は所得に該当しないため所得税を納める必要がありません。
ただし、被相続人の所得に対する所得税や、相続したあとに発生した所得に対する所得税が発生する場合もあります。次の章で、相続の発生によって所得税の申告・納税が必要となるケースを詳しく確認しましょう。
相続の際に所得税が発生するケース
相続の際に所得税が発生するケースは、下記の通りです。
- 被相続人の準確定申告が必要な場合
- 相続した財産から収益が発生している場合
- 相続した財産を売却して利益が出た場合
- 死亡保険金を受け取った場合
- 未支給年金を受け取った場合
被相続人の準確定申告が必要な場合
亡くなった方に収入があった場合、代わりに相続人が確定申告をしなければなりません。これを準確定申告と呼びます。
準確定申告が必要となるケースの例は、下記の通りです。
- 事業所得・不動産所得がある方
- 2000万円以上の給与所得がある方
- 公的年金による収入が400万円以上ある方
- 土地・建物を売却して譲渡所得を得た方
上記は一例に過ぎませんが、通常の確定申告が必要なケースに当てはまる場合に準確定申告も必要だと考えておきましょう。本来被相続人がしなければならなかった確定申告を相続人が代わりに行うため、被相続人に確定申告の必要性がなければ準確定申告の必要もありません。
準確定申告の期限は、原則相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。期限までに準確定申告を行わなかった場合、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課される恐れがあるため注意しましょう。

相続した財産から収益が発生している場合
相続した財産から収益が発生している場合、相続人に収入が発生するため確定申告が必要です。たとえば、下記のようなケースが当てはまります。
- 賃貸マンションや駐車場などの不動産を相続し、賃貸収入が発生した
- 株式を相続し、株式配当を得た
仮に、賃貸マンションを保有している父が3月31日に死亡した場合、1月1日から3月31日までに発生した賃料は父の収入となるため相続人が代わりに準確定申告を行います。4月1日から12月31日までの賃料については、その賃貸マンションを相続した相続人が翌年の3月15日までに確定申告しなければなりません。
万が一、法定相続人が複数人いて法定相続分通りに賃貸マンションを相続することになった場合、相続人全員が相続以降に得た賃料に対する確定申告を行う必要があります。
なお、賃料は不動産所得に分類され、収入に対して経費を差し引いた分に対して所得税が課税されます。
相続した財産を売却して利益が出た場合
相続した不動産や株式などを売却して得た利益を譲渡所得と呼びます。譲渡所得は所得税の対象となり、確定申告が必要です。不動産などの遺産を売却して得た現金を相続人で分ける換価分割で遺産分割する場合にも該当します。
単純に売却額に対して課税されるわけではなく、売却額から取得にかかった費用や売却のためにかかった経費、特別控除額を差し引いて課税額を算出します。
譲渡所得に対する所得税の計算方法は、分離課税と総合課税の2つです。それぞれの違いは、下記の通りです。
種類 | 適用される譲渡所得 | 計算方法 |
---|---|---|
分離課税 | 不動産・株式の譲渡 | 他の所得とは合算せずに、それぞれの譲渡に関する所得だけで税額を計算する |
総合課税 | 不動産・株式以外の譲渡 | 他の所得と合算して税額を計算する |
なお、譲渡所得に対する税率は、譲渡した財産の内容や保有していた期間などで異なります。
「相続した不動産や株式の売却にかかる費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。


死亡保険金を受け取った場合
死亡保険金を受け取った方が保険の契約者と同じ場合、一時所得あるいは雑収入として所得税の課税対象となるため確定申告が必要です。たとえば、相続人である息子が被相続人に死亡保険をかけていて、その保険金の受取人が息子自身だった場合に当てはまります。
なお、被相続人自身が死亡保険をかけていて相続人が受け取った場合には相続税、長男が契約者で受取人が母(被相続人の配偶者)だった場合には贈与税が発生します。

未支給年金を受け取った場合
未支給年金は相続人の一時所得として扱う必要があり、確定申告が必要です。未支給年金とは、被相続人が年金を受け取っていた場合に、死亡した時点でまだ受け取っていない年金のことです。一定の要件を満たせば、相続人は未支給年金を受け取ることができます。
年金というと被相続人の所得のように考えるかもしれませんが、未支給分は「遺族に支給されるもの」です。そのため、準確定申告時に含める必要はなく、相続税の課税対象でもありません。
なお、一時所得には50万円の特別控除が設けられています。未支給年金を含めたその年の一時所得が50万円以下だった場合、確定申告をする必要はありません。
確定申告の方法

相続によって所得が生じた場合、原則所得が生じた年の翌年の2月15日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。
確定申告の方法は、主に3つあります。
- 税務署の相談窓口で申告する
- 国税庁ホームページの「e-Tax」で電子申告する
- 税理士に依頼する
詳しく確認し、適切な方法を選びましょう。
税務署の相談窓口で申告する
税務署の相談窓口で申告する方法があります。
例年、確定申告の時期が近づくと、税務署で確定申告の相談窓口が設けられます。職員からアドバイスをもらいながら申告書を作成することが可能です。
ただし、確定申告の時期は税の相談が増え、長時間待つことになりかねません。電話で相談時間を予約できる税務署も多数あり、予約しておくとスムーズに対応してもらえます。
また、所得額がわかる書類や本人確認書類を持っていかなければ、適切なアドバイスがもらえない可能性があります。所得金額が大きい場合や複数の収入がある場合は、税理士への依頼を促される場合もあります。
国税庁ホームページの「e-Tax」で電子申告する
国税電子申告・納税システム「e-Tax」を活用して申告することも可能です。
確定申告書等作成コーナーやe-Taxソフトを使えば、インターネットを通じて確定申告できます。税務署に足を運ぶ必要がないため、税務署が遠い方におすすめの申告方法です。
ただし、e-Taxを利用するには、利用者識別番号や電子証明書の取得が必要です。また、自宅から電子申告する場合は、パソコン環境も整えなければなりません。
一見手軽に手続きできるように思いますが、準備することが多い点に注意しましょう。
税理士に依頼する
確定申告に不安がある方は、税理士に依頼することをおすすめします。
報酬に5万円程度かかるものの、必要書類を渡せば所得税の計算から申告書の作成、提出まで一貫してお願いできます。申告内容が複雑で記入漏れが心配な方や、確定申告をする時間のない方におすすめです。
また、相続税の申告や準確定申告をする必要がある場合にも、まとめてお願いできます。

相続した財産の所得税に関する注意点
相続によって相続人に所得税が発生する場合の注意点は、下記の通りです。
- 被相続人の準確定申告と相続人の確定申告の違い
- 事業の青色申告までは相続されない
- 準確定申告・確定申告をしないとペナルティが発生する
- 相続財産を寄附し、確定申告すると控除が受けられる
- 相続で所得が増えても住民税は増えない
詳しく確認しましょう。
被相続人の準確定申告と相続人の確定申告の違い
被相続人の準確定申告と相続人の確定申告の違いを理解しておきましょう。2つの違いを、下記の表にまとめました。
被相続人の準確定申告 | 相続人の確定申告 | |
---|---|---|
申告をする人 | 相続人全員 | 所得を得た本人 |
期限 | 原則被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内 | 所得のあった年の翌年の2月15日から3月15日まで |
提出先 | 被相続人の死亡日時点における納税地を管轄する税務署 | 相続人の納税地を管轄する税務署 |
医療費控除 | 1月1日から死亡の日までに支払った金額 | 1年間に支払った金額 |
物的控除 | 1月1日から死亡の日までに支払った金額 | 1年間に支払った金額 |
納税者 | 相続人 | 所得を得た本人 |
上記のような違いがあるため、それぞれのルールに従って申告手続きを行いましょう。
事業の青色申告までは相続されない
被相続人が青色申告していた場合、相続人は手続きなしに青色申告を引き継ぐことはできません。賃貸収入のある不動産や被相続人の事業を引き継ぐのであれば、相続人が改めて青色申告の承認申請を税務署に対して行う必要があります。
青色申告の承認申請の期限は、原則被相続人の死亡日から4か月以内です。ただし、被相続人が9月・10月に死亡した場合にはその年の12月31日まで、11月・12月に死亡した場合は翌年の2月15日までに手続きを行う必要があります。
青色申告の承認申請は、所得を得た本人の納税地を管轄する税務署で行いましょう。
準確定申告・確定申告をしないとペナルティが発生する
準確定申告・確定申告を期限内に行わなければ、下記のようなペナルティが発生する場合があります。
税金の種類 | 課されるケース |
---|---|
延滞税 | 修正申告をして相続税を追加で支払う場合 |
過少申告加算税 | 税務署の指摘で相続税の不足が発覚した場合 |
重加算税 | 相続財産の隠ぺい・偽装をした場合 |
無申告加算税 | 相続税の申告を行っていなかった場合 |
「期限を理解してなかった」「単純な計算ミスで過少申告していた」など、故意ではない場合にもペナルティが課される場合があるため慎重に申告書を作成しましょう。
期限に間に合うか心配な方や所得税の計算に不安がある方は、税理士に依頼することをおすすめします。

相続財産を寄附し、確定申告すると控除が受けられる
相続財産を特定の団体へ寄付する場合、確定申告をすると寄附金控除が受けられます。このとき、確定申告は義務ではないものの、寄付の合計額に応じて所得から課税所得を差し引くことができるため節税になります。
寄附金控除の対象となる団体の一例は、下記の通りです。
- 国
- 都道府県・市町村などの地方公共団体
- 政党・政治資金団体
- 日本赤十字社
- 公益財団法人
- 公益社団法人
- 社会福祉法人
- 認定NPO法人
- 学校法人など
寄付先の団体や寄付の種類によっては控除対象にならない場合があります。寄付をする前に控除対象になっているかをよく確認しましょう。
また、寄付金控除を受けるには、寄付先から発行される寄付金の領収書が必要です。領収書を受けとったあと、なくさないように注意しましょう。
参照:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
相続で所得が増えても住民税は増えない
相続によって財産を取得すると所有する財産が増えますが、所得となる収入を得るわけではないため所得税や住民税も増えません。
ただし、相続した不動産の賃貸収入や売却による譲渡所得を得るなど、相続した財産から収益が出ると収入が増えることになります。所得税および住民税の課税対象となるため、かならず確定申告をして納税を忘れないようにしましょう。
相続によって所得税が課せられるケースがある
相続によって取得した財産に対して所得税はかかりません。しかし、相続した財産から発生する収入がある場合には所得税の確定申告が必要です。この場合、収入を得た年の翌年の2月15日から3月15日までの間に確定申告と納税を済ませなければなりません。
また、被相続人が得た所得について申告する準確定申告が必要となるケースもあります。準確定申告の期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から4か月以内と短く設定されているため注意が必要です。
確定申告も準確定申告も、期限を守らない場合や誤った申告をしてしまった場合には、ペナルティが課される恐れがあります。
忙しくて時間の取れない方や、申告内容に不安のある方は税理士に相談しましょう。税理士であれば、相続税や贈与税に関する悩みも解決してくれます。
ぜひ税の専門家である税理士の力を借りて、期限までに正しい内容を申告しましょう。