相続税の更正の請求とは、本来よりも多い相続税を申告・納税した場合に払い過ぎた分を請求することです。本記事では、相続税の更正の請求の期限や手続き方法、必要書類について詳しく解説します。請求が認められなかったときの対処法もご紹介しています。相続税の更正の請求には期限が設けられているため、スムーズに請求ができるように最後まで記事を確認してくださいね。
目次
相続税の更正の請求とは
相続税の更正の請求とは、本来の相続税の金額よりも多く申告・納税してしまった場合に払い過ぎた分を請求することです。請求が認められれば、払い過ぎた分の相続税が還付されます。
たとえば、相続人が増えたことで基礎控除額が上がった場合や、相続財産の評価を誤って高く計算していた場合などに相続税の更正の請求ができます。
相続税の更正の請求について、より理解を深めるために下記のポイントごとに詳しく解説します。
- 相続税の更正の請求は払い過ぎた相続税の還付手続き
- 相続税の更正の請求期限
詳しく確認しましょう。
相続税の更正の請求は払い過ぎた相続税の還付手続き
相続税の更正の請求とは、払い過ぎた相続税を還付してもらうために必要な手続きです。
相続税の申告・納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。しかし、なかには申告した税額が間違っていたことが判明するケースもあるでしょう。
このとき、再度計算しなおして間違っていた申告内容を訂正することが可能です。相続税を払いすぎた場合は「更正の請求」、少なく払っていた場合は「修正申告」を行います。
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相続税の更正の請求期限
相続税の更正の請求に定められている期限は、相続税の申告期限から原則5年以内です。この期限を迎えてしまうと、払い過ぎた相続税の還付が受けられません。
ただし、特別な事情がある場合にかぎって、相続税の申告期限から5年の期間が過ぎていたとしても、その事実が生じた日の翌日から4か月以内であれば更正の請求を行うことができます。これは更正の請求の特則といって、相続税法第32条第1項で定められています。
特別な事情として認められるケース例は、下記の通りです。
- 未分割の財産が分割された・分割によって軽減措置や特例が適用された
- 認知や廃除などによって相続人の異動があった
- 遺留分侵害額の請求によって返還があった
- 遺贈に関わる遺言書が見つかった・遺贈が放棄された
更正の請求の特則に該当する場合は、相続税の申告期限から5年経過していても請求ができます。また、相続税の申告期限から5年経過していない場合であっても、4か月以内に相続税の更正の請求を行わなければならない点に留意が必要です。
相続税の更正の請求が起こる可能性があるケース
相続税の更正の請求が起こる可能性があるケースの事例として、下記が挙げられます。
- 未分割の財産が分割された場合
- 遺留分侵害額請求が行使された場合
- 認知や相続人の廃除などにより相続人の異動があった場合
- 遺贈に関わる遺言書が見つかった・遺贈が放棄された場合
- 相続税申告を納税者自身が行った場合
- 土地の相続税評価を高く計算していた場合
詳しく確認し、該当する場合は早めに相続税の更正の請求を行う準備を始めましょう。
未分割の財産が分割された場合
未分割の財産が分割されたとき、相続税の更正の請求が必要となる場合があります。
亡くなった方が遺言書を残していなかったとき、法定相続人は誰がどの遺産を取得するかを決める遺産分割協議を行って、遺産分割の内容を決定します。相続税の申告は、遺産分割が終わった状態で済ませることが原則です。
ただし、なかには遺産分割ができないまま期限を迎えるケースがありますが、未分割を理由に相続税の申告・納税期限が延長されることはありません。そこで、一度法定相続人が民法で定められた法定相続分通りに分割したとして申告・納税を行います。
申告・納税後に遺産分割協議がまとまったら、実際に取得した遺産の内容に合わせて相続税の計算をすると、相続税を払い過ぎていたという場合があるため相続税の更正の請求を行います。
未分割のまま相続税の申告をすると、多くの方が利用する配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例制度を利用した節税ができません。そのため、相続税の更正の請求をする際に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の申告も行います。
参照:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁
遺留分侵害額請求が行使された場合
遺留分侵害額請求をされて相続財産から金銭を支払った場合、更正の請求の特則に該当するとされているため相続税の更正の請求が必要です。
遺留分とは、配偶者や子ども、両親などの生活を守るために民法で最低限保証されている相続割合です。
たとえば「長男に家業を継がせたいから全財産を長男に相続させる」などの遺言書が見つかったとき、財産を相続できなくなった相続人は遺留分を請求することができ、長男は相続財産のなかから遺留分相当の金銭を支払う必要があります。
遺留分侵害額請求をされたことによって申告した相続税額よりも税額が低くなった場合は、更正の請求をして払い過ぎた相続税を還付してもらえます。
遺留分侵害額請求の期限は、相続開始および遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ってから1年間です。1年以内に請求権を行使しなければ時効となり、遺留分の権利は消滅してしまいます。
また、相続開始から10年が経過した場合にも遺留分の権利が消滅します。相続開始や遺留分侵害を知ってから1年以内であっても、すでに被相続人が亡くなってから10年経過していた場合には遺留分侵害額請求ができなくなるため注意しましょう。
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認知や相続人の廃除などにより相続人の異動があった場合
認知や相続人の廃除などの理由によって相続人の異動があった場合、相続税の更正の請求が必要となる場合があります。
なぜなら、相続税の基礎控除額は法定相続人の数で変動するため、相続人の異動があると相続税の額が変わる可能性があるからです。相続税の基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)です。つまり、1人法定相続人が増えると、600万円の基礎控除の枠が広がります。
また、遺産総額に変更のない状態で相続人が増えると、1人あたりの相続税額は減少します。すでに相続税の申告・納税を行っている場合は、相続税の更正の請求をして還付を受けられる可能性があります。
相続人の異動が起きる主な原因は、下記の通りです。
- 被相続人に認知された子どもの存在が発覚した
- 廃除や欠格によって相続権を失い、代襲相続が発生した
- 相続人が失踪宣告を受けた・失踪宣告が解除された
遺言書がある場合、被相続人が子どもの認知を行ったり、相続人の廃除またはその撤回を行うことが可能です。被相続人の生前に認知や相続人の廃除の手続きをすることも可能なため、あとから発覚するケースも珍しくありません。
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遺贈に関わる遺言書が見つかった・遺贈が放棄された場合
遺贈とは、遺言書によって遺産を相続人やそれ以外の人に譲ることです。
相続税の申告・納税を済ませたあとに、遺言書が見つかった場合や、遺贈先として指定されていた人が遺贈を放棄した場合、改めて遺産分割をしなければなりません。
このとき、すでに納めている相続税額が少なくなる可能性があり、少なくなったときには相続税の更正の請求を行って還付を受けられる場合があります。
相続税申告を納税者自身が行った場合
税理士を頼らずに納税者自身が相続税申告を行った場合、相続税申告の内容に間違いがある可能性があります。なぜなら、相続税申告に必要な書類の種類がとても多く、計算ミスや財産の評価方法の間違いなどが起きやすいからです。
万が一、申告・納税した相続税の額が実際に納めるべき相続税の額よりも多かった場合、相続税の更正の請求を行って還付を受けることができます。
相続税に関して、不安や疑問がある状態で申告をした場合は間違いや計算ミスがおきている可能性があります。万が一、過大申告ではなく過少申告してしまっている場合には、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課税されるリスクもあるでしょう。
税の専門家である税理士に相談し、申告内容に誤りがないか確認することをおすすめします。
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土地の相続税評価を高く計算していた場合
相続した土地の相続税評価を高く計算していた場合、相続税の更正の請求が必要となる場合があります。
土地は、都市計画法、建築基準法、農地法などの法令に加え、形状や周辺の環境などによって同じ面積であっても評価額が大きく異なります。誤って高い評価額で相続税を算出していると相続税額は大きくなり、必要以上の相続税を納めることになるでしょう。
専門家に見てもらえば正確な相続税評価額が算出できますが、自分で計算した場合には間違っている可能性を否定できません。
下記のような土地は評価額が高くなりやすく、相続税の更正の請求ができる可能性があります。
- 周りに比べて広い土地
- 崖や傾斜がある土地
- 形がいびつな土地
- 道路より低い位置にある土地
- 道路に接していない土地
改めて専門家に土地評価額について相談することをおすすめします。
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更正の請求が認められなかった場合の対処法
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相続税の更正をしたからといって必ずしも還付が認められるとは限りません。認められなかった場合には更正すべき理由がない旨の通知書が送付されます。しかし、諦める必要はありません。更正の請求が認められなかった場合の対処法は、2つあります。
- 国税不服申立を行う
- 税務訴訟を行う
上記の対処法を実践するために、詳しく確認しましょう。
国税不服申立を行う
国税不服申立制度とは、税務署が行った処分に不服がある場合、その処分の取り消しや変更を求めて国税不服審判所に不服を申し立てる制度です。処分を行った税務署長等に再審査を請求することはもちろん、国税不服審判所長への審査請求も直接行えます。
国税不服申立制度を利用できる期限は、更正すべき理由がない旨の通知書を受け取った日の翌日から3か月以内です。
再審査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定後の処分に不服がある際は再調査決定書謄本の送達があった日の翌日から1か月以内に審査請求することも可能です。
審査請求では手数料などを納める必要はありませんが、証拠書類等の写しを請求する際には原則1枚あたり10円の手数料が発生します。
税務訴訟を行う
国税不服申立制度を活用しても相続税の更正の請求が認められない場合は、裁判所に対して取消訴訟を起こすことが可能です。取消訴訟ができる期間は、国税不服審判所長の審査結果が分かった日から6か月の間に限られます。
税務訴訟ができる裁判所は、下記の通りです。
- 課税処分をした税務署長の所在地を管轄する裁判所
- 納税者の住所を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所
- 東京地方裁判所
税務訴訟を検討するのであれば、早いタイミングで税務訴訟に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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相続税の更正の請求に必要な書類と手続きの流れ
実際に相続税の更正の請求を行う場合、下記の3つのステップで進めていきます。
- 必要書類を準備する
- 税務署に必要書類を提出する
- 「更正通知書」と「国税還付振込通知書」が届き、還付金が振り込まれる
順番に確認し、スムーズに請求を済ませましょう。
必要書類を準備する
相続税の更正の請求の必要書類を準備しましょう。提出が求められる書類は、下記の通りです。
- 相続税の更正の請求書およびその次葉
- 遺産分割協議書や遺言書など、更正の請求に至った経緯を証明する書類
- 本人確認書類(マイナンバーカードもしくは通知カードと身分証)
相続税の更正の請求書およびその次葉は、近くの税務署の窓口で取得するか国税庁の公式サイトからダウンロードして取得できます。
加えて、修正申告書を税額計算の参考資料として提出すると、より変更の内容を理解してもらえるでしょう。
税務署に必要書類を提出する
必要書類が揃ったら、税務署へ提出します。
書類は、相続税の更正の請求を行う人ごとに提出する必要があり、同じ被相続人における相続税の更正の請求であっても複数人でまとめて行うことはできません。かならず1人1セット書類を準備しましょう。
書類の提出後、税務署は調査を行って相続税の更正の請求に妥当性があるか審査します。審査にかかる期間の目安は、2〜3か月程度です。
審査期間中に税務署から電話や面談で不明点を質問されたり、追加書類を求められたりする場合があります。迅速に対応しましょう。
「更正通知書」と「国税還付振込通知書」が届き、還付金が振り込まれる
審査の結果、相続税の更正の請求が認められると、相続税の更正通知書が送付されます。その後、国税還付金振込通知書が届いてから2週間程度で指定の金融機関口座へ還付金が振り込まれます。
万が一、相続税の更正の請求が認められない場合は更正すべき理由がない旨の通知書が税務署から送付され、不服がある場合は国税不服申立制度を活用しましょう。
税理士に相続税の更正の請求を依頼するメリット
相続税の更正の請求が必要となった場合、税理士に依頼することをおすすめします。もちろん、税務署に相談しながら自分で修正申告を行うことも可能です。
しかし、更正の請求をする理由によって必要書類が変わることや、審査期間中に税務署から質問を受ける場合があることを考慮すると、相続税の更正の請求は簡単な手続きではありません。相続税の申告時以上に時間と労力がかかると考えておきましょう。
税理士に相続税の更正の請求を依頼するメリットは、下記のようにたくさんあります。
- 正確な請求書を作成してもらえる
- 面倒な必要書類の取得や作成などを丸投げできる
- 税務署対応をお願いできる
- 認められなかった場合の国税不服申立について相談できる
相続税の更正の請求には期限が設けられており、期限を過ぎると払い過ぎた相続税は還付されません。迅速に準備を進める必要がありますが、仕事や子育て、家事をしながら対応することが難しいと感じる方は多いでしょう。
期限内に正確な相続税の更正の請求を行って払い過ぎた相続税を還付してもらうためにも、税理士へ相談するようにしましょう。
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相続税の更正の請求はスピーディーに行う必要がある
相続税の申告・納税を済ませたあとに、相続人の移動や遺留分侵害額請求があった場合には、本来納めるべき相続税額よりも多くの相続税を申告・納税している可能性があります。その場合には相続税の更正の請求を行って、払い過ぎた相続税を還付してもらいましょう。
しかし、相続税の更正の請求には相続税の申告期限から原則5年以内という期限が設けられています。さらに更正の請求の特則に該当する場合は、その事実が生じた日の翌日から4か月以内に請求をしなければなりません。
相続税の更正の請求をする際は、税理士に依頼することをおすすめします。正しい税知識のもと、正確な相続税額を算出してくれます。ぜひ、税理士を頼ってスピーディーに相続税の更正の請求を行いましょう。