相続が発生したら準確定申告は必須?期限や手続きの流れ、注意点を徹底解説

公開日:2024年10月7日

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亡くなった方に収入がある場合、代わりに相続人が確定申告をしなければならない場合があります。この手続きを準確定申告と呼び、原則亡くなった日から4か月以内に行わなければなりません。本記事では、準確定申告が必要なケース・不要なケースや申告期限、申告の流れについて詳しく解説します。準確定申告をすべきか悩んでいる方は参考にしてください。

準確定申告とは

準確定申告とは、本来亡くなった方がしなければならない確定申告を代わりに相続人が行う手続きです。申告期限は、原則亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内です。

通常の確定申告は、収入を得た本人が期限までに行わなければなりません。しかし、本人が亡くなってしまうと、確定申告をする義務は相続人に引き継がれます。

準確定申告と確定申告との違いを下記にまとめました。

<申告期限>
準確定申告:被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内
確定申告:翌年の2月16日〜3月15日

<申告する人>
準確定申告:亡くなった方の相続人全員
確定申告:収入を得た本人

<納税義務者>
準確定申告:相続人(遺産分割の割合に応じる)
確定申告:収入を得た本人

<所得の計算期間・控除の対象期間>
準確定申告:1月1日〜死亡日まで
確定申告:1月1日〜12月31日の1年間

<申告先の税務署>
準確定申告:亡くなった方の住所地を管轄する税務署
確定申告:本人の住所地を管轄する税務署

準確定申告によって亡くなった方の所得税があると発覚した場合、相続人に納税義務が発生します。このとき、各相続人が納税する額は、遺産相続した割合に応じて負担することが原則と考えられています。

たとえば、長男・次男の2人の相続人が半分ずつ遺産を相続した場合に、所得税が20万円だったと仮定しましょう。納税額は遺産相続した割合に応じて負担するため、それぞれ10万円ずつ負担します。

準確定申告が必要なケースと不要なケース

相続が発生したからと言って、必ずしも準確定申告をしなければならないわけではありません。ここでは、下記の3つのケースをご紹介します。

  • 必要なケース
  • 不要なケース
  • 必須ではないがした方が良いケース

詳しく確認しましょう。

必要なケース

亡くなった方が通常の確定申告をする必要のある場合、準確定申告も必要です。

1つの目安として、亡くなった方が前年度に確定申告をしていなかったかどうかを確認しましょう。前年度に確定申告していた場合、準確定申告も必要となる可能性が高いからです。

具体的には、亡くなった方が下記に当てはまる場合に準確定申告をしなければなりません。

  • 事業所得・不動産所得がある方
  • 2000万円以上の給与所得がある方
  • 複数の事業者から給与所得がある方
  • 公的年金による収入が400万円以上ある方
  • 給与・退職金以外で20万円以上の収入がある方
  • 土地・建物を売却して譲渡所得を得た方
  • 株式などを売却して源泉徴収されていない方など

上記のような場合には準確定申告を行う義務があります。

不要なケース

準確定申告が必要なケースに当てはまらない場合、準確定申告は不要です。たとえば、下記のようなケースです。

  • 1つの事業者からの給与所得しかなく、給料が2000万円以下で事業者側で年末調整が行われる場合
  • 年間の年金収入が400万円以下で、ほかの所得が20万円以下の場合など

会社勤めをしているときに亡くなると、勤務先の事業所が年末調整を行ってくれるため準確定申告をする必要はありません。

必須ではないがした方が良いケース

準確定申告をする義務はないものの、準確定申告をすると還付金が受け取れてお得になるケースもあります。

還付金とは、所得税を収め過ぎているときに返還される税金のことです。下記のような場合は、還付金を受けられる可能性があります。

  • 退社によって年末調整が行われない場合
  • 医療費控除が受けられる場合
  • ふるさと納税や寄付金控除などを受けられる場合
  • 特定口座で株式運用をしていて損失の繰越控除や配当控除を受けられる場合など

上記のケースに当てはまるのであれば、申告義務がなくても準確定申告をすることをおすすめします。

準確定申告の期限と前年度の準確定申告における注意点

準確定申告の期限について詳しく確認しましょう。

準確定申告の期限

準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。

「相続の開始を知った日」とは、相続人が死亡して相続が開始された事実を知り、さらに自身が相続人となったと理解した日を指します。通常、相続人は死亡した日を知っていることが前提とされており、「相続の開始を知った日」を「被相続人の死亡日」とすることが原則です。

しかし、なかには遠方に住んでいたり、疎遠になっていたりして、被相続人が実際に亡くなった日からしばらくして死亡の事実を知るケースも少なくありません。このような場合は、「被相続人の死亡を知らされた日」が「相続の開始を知った日」となります。

たとえば、相続の開始を知った日が4月20日であれば、1月1日〜4月20日までに得た収入について期限である8月20日までに申告・納税する必要があります。

通常の確定申告の期限は、翌年の3月15日です。しかし、準確定申告は、この期日を過ぎていても相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告すれば問題ありません。

前年度分の準確定申告が必要な場合がある

被相続人が前年度分の確定申告を行う前に亡くなった場合、前年度分の所得税についても準確定申告する必要があります。ただし、前年度分の準確定申告についても、本来の確定申告期限である3月15日ではなく、準確定申告の期限が適用されます。

もし、前年度分の確定申告をしないまま病に倒れ、令和6年3月10日に亡くなったとしましょう。このとき、準確定申告期限である令和6年7月10日までに令和5年度分と令和6年度分の準確定申告を行わなければなりません。

準確定申告の期限は、相続の開始を知った日から4か月以内と短く設定されています。早いうちから準備を始めたり、税理士などの専門家に相談したりと対策するようにしましょう。

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準確定申告の申告手段と方法

準確定申告をする場合、あらかじめ申告手段と方法を確認しておきましょう。

申告手段

申告手段は、主に3つあります。

  • 税務署に持参または郵送
  • e-Taxでの電子申告
  • 税理士に依頼

順番に確認しましょう。

税務署に持参または郵送

紙書類で申告書を作成し、税務署に直接持参するか郵送にて提出できます。税務署に提出する方法であれば、相続人それぞれで申告することが可能です。

直接持参すれば、提出前に記載漏れがないか簡単なチェックをしてもらえます。2部用意しておくと、1部は受付印を押して返却してもらえます。

郵送する場合は、返信用封筒と申告書2部をまとめて送付すると受付印を押して返送してもらえるため覚えておきましょう。

e-Taxでの電子申告

令和2年度から準確定申告についてもe-Taxから電子申告することが可能となりました。

電子申告では、各相続人が個別で申告することができません。1つにまとめて代表者が申告する必要があるため、相続人の代表者に電子申告を委託することを証明するための準確定申告の確認書の提出が必要です。

また、e-Taxから電子申告する場合、マイナンバーカードを利用した電子証明書が必要です。

税理士に依頼

税知識に不安があるのであれば、税理士に申告を代行してもらえます。とくに、被相続人が自営業やフリーランスなどで事業経営をしていたのであれば、取得方法や所得税計算が複雑です。

被相続人が会社員や年金所得者だった場合でも、相続人が税申告に慣れていなければ税金・還付金の計算ミスや控除の見落としなどによって適切な申告ができないかもしれません。

税理士であれば正しく申告書や添付書類を作成してくれるため、安心して任せられます。

申告方法

準確定申告は、相続人全員で行う必要があります。相続人が2人以上いる場合、以下の2つの申告方法があります。

  • 1つにまとめて提出する方法
  • 各相続人が申告する方法

それぞれ詳しく確認しましょう。

1つにまとめて提出する方法

準確定申告書を1つにまとめて提出する場合、相続人の中から代表者を選出して連署で申告を行います。このとき、申告書や付表に相続人全員が署名をする必要があります。

また、相続人代表者は、税務署から送付される書類の受け取りや、役所での手続き、関係者・関係団体への問い合わせ対応などを行う役割も担わなければなりません。

各相続人が申告する方法

1つにまとめずに、各相続人が個人で準確定申告をする方法もあります。それぞれがどのような手続きを行ったのか、手続きの内容を通知し合う必要があります。

相続人がそれぞれで申告すると情報が混乱するおそれがあるため、できるだけ1つにまとめて連署で提出するようにしましょう。

準確定申告の流れと必要書類

準確定申告の流れと必要書類のイメージ

つづいて、準確定申告を行う流れと必要書類について、詳しく確認しましょう。

申告の流れ

準確定申告を行う流れは、以下の通りです。

  1. 相続人代表者を決定する
  2. 必要書類を収集する
  3. 申告書類を作成する
  4. 申告書類を税務署に提出する

ステップごとに詳しく確認しましょう。

1.相続人代表者を決定する

相続人が複数人いる場合、代表者を決めましょう。代表者を決めて連署で申告する場合、代表者に申告を任せる旨を示した委任状を作成します。

相続人それぞれが申告する場合は、相続人ごとに必要書類の収集や申告書類の作成が必要です。もちろん、委任状も不要です。

2.必要書類を収集する

つづいて、申告書類を作成するために必要な書類を準備します。通常の確定申告を行う場合と同じように、下記のような書類を集めましょう。

  • 亡くなった方の年金・給料の源泉徴収票
  • 生命保険料や小規模共済等掛金などの控除証明書
  • 医療費の領収書

亡くなった方が個人事業の場合、事業用の口座の動きがわかる通帳や、請求書、経費に使った領収書なども準備する必要があります。

3.申告書類を作成する

必要書類が揃ったら、準確定申告書を作成していきます。準確定申告書は、通常の確定申告書を使って作成していきます。

通常の確定申告と異なる点は、下記の通りです。

  • 申告書の表題の「確定申告書」を「準確定申告書」に修正する
  • 申告書の第1表の上部空白部分に被相続人の死亡年月日を記載する
  • 相続人が1人の場合、申告書の第1表の上部空白部分に相続人の氏名・個人番号を記載する
  • 氏名欄や住所欄に「被相続人」と記載して被相続人の情報を記載する

準確定申告書の付表や委任状を添付する場合、全相続人の下記の情報を記載する必要があります。

  • 氏名
  • 住所
  • 個人番号(マイナンバー)
  • 押印

遺産分割協議など、全員が集まるときに作成しておくとよいでしょう。

また、亡くなった方が個人事業の場合、収支内訳書や青色申告決算書の作成も欠かせません。亡くなるまでに帳簿をつけていなかったか確認し、通常の確定申告と同じように作成しましょう。

4.申告書類を税務署に提出する

最後に、申告書類を税務署に提出しましょう。申告先の税務署は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。

ここまで自分で準備したときの提出方法は先述の通り、持参・郵送・電子申告の3通りです。税理士に任せている場合は、税務署への提出までお任せできます。

必要書類

準確定申告に必要な書類は、下記の通りです。

  • 所得税及び復興特別所得税の確定申告書
  • 亡くなった方の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
  • 亡くなった方の源泉徴収票
  • 亡くなった方の控除証明書
  • 亡くなった方の医療費等の領収書
  • 相続人のマイナンバーや本人確認書類
  • 収支内訳書(個人事業主で白色の場合)
  • 青色申告決算書(個人事業主で青色の場合)
  • 委任状(相続人代表者が申告する場合)
  • 準確定申告の確認書(電子申告の場合)
  • そのほか追加書類

漏れがないか不安な場合は、税理士や税務署の職員に確認しましょう。

準確定申告の注意点・知っておきたいこと

最後に、準確定申告の注意点・知っておきたいことについて解説します。以下の順番に確認しましょう。

  • 相続人が複数いる場合
  • 各種控除の利用
  • 還付金がある場合
  • 税理士に依頼する場合
  • 期限を過ぎてしまった場合

詳しく解説します。

相続人が複数いる場合

相続人が複数人いる場合、全員が手続きしなければなりません。なぜなら、亡くなった方がするはずだった確定申告の義務を相続人が承継しているからです。

また、準確定申告には原則連署をして提出します。相続人全員の署名が必要な理由は、相続税の計算内容だけでなく、所得税の納税額についても相続人全員が承認していることを示すためです。

各種控除の利用

通常の確定申告で活用できる各種控除は、準確定申告でも利用できます。たとえば、被相続人が亡くなる日までに支払っていた下記のような費用は、控除の対象です。

  • 医療費
  • 社会保険料
  • 生命保険料
  • 小規模共済等掛金
  • ふるさと納税など

ただし、入院費や治療費など、死亡日以降に支払ったものは被相続人が支払ったものではないとされるため、準確定申告における医療費控除の対象には該当しません。

準確定申告における医療費控除の対象ではないものの、同一生計家族が支払った場合は支払った方の医療費控除の対象にすることが可能です。あるいは、相続税の債務控除の対象としても扱えます。

還付金がある場合

還付金がある場合、相続財産とみなされるため相続税の課税対象です。なぜなら、還付金は納め過ぎた税金が亡くなった方へ還付されたものであり、税金を納めた本人に帰属されると考えられているからです。

還付金があれば相続税の計算に含める必要があるため、相続税の申告・納税前に準確定申告を終わらせる必要があります。

税理士に依頼する場合

通常の確定申告と違って、他人が書類を集めて申告をするため、手間と労力がかかってしまいます。必要な書類も多いうえに、4か月以内に期限を迎えてしまうため、相続人にかかる負担は大きいでしょう。

そのため、税理士に依頼することを検討する相続人は少なくありません。税理士に準確定申告の手続きを依頼するときには、税務代理権限証書が必要です。税務代理権限証書とは、税理士が納税者の代理で手続きをする際に必要な書類です。

税理士であっても代理権を持つことを証明する税務代理権限証書がなければ代理人として扱われないため、注意しましょう。

期限を過ぎてしまった場合

万が一、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をしなかった場合、加算税や延滞税などのペナルティが課される場合があります。

また、準確定申告をしないままだと、本来返還されるはずだった還付金が返ってこない場合もあります。

納税義務が発生する場合はもちろん、還付金がある場合にも、期限内に手続きを終えるようにしましょう。

正しい準確定申告をするために相続発生後すぐに準備を始めよう

準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内と短く設定されています。自分の確定申告をした経験があったとしても、他人の収入について申告するとなると抜け漏れが出てきやすいため注意が必要です。

必要書類や申請書類の作成方法について疑問がある場合、早めに税務署や税理士に相談しましょう。相続税も発生するのであれば、準確定申告もあわせて税理士に依頼すればスピーディーに手続きを終えられます。

いち早く相続人であるみなさんが日常生活を取り戻せるよう、専門家の力を借りましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年10月7日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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