認知症になっても遺言書は有効?遺言能力を判定するポイントを解説

公開日:2023年9月19日

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「認知症になった人が書いた遺言書は有効なのだろうか」と気になっていませんか。結論から言うと、認知症を発症していても意思能力があれば遺言書の内容は有効です。しかし、作成にはポイントがあります。本記事では、認知症になった人が遺言書を遺すときに重視される意思能力や、有効にするためのポイントについて詳しく解説します。

遺言者の意思能力とは

認知症になった人によって作成された遺言書が有効であるかどうかの判定は、遺言者本人の意思能力に関係します。意思能力とは、自らが行った行為の結果を判断できる能力のことです。

つまり、自ら作成した遺言内容や遺言書を作成したことで起こりうる結果を予測・理解できる意思能力があれば、遺言書は有効です。法律用語で「遺言能力」と呼びます。

認知症初期や軽度の症状であれば「意思能力がある」とされるケースが多いため、認知症が発症したからと言ってかならずしも遺言能力がないわけではありません。

そもそも、遺言書の作成は法律行為です。意思能力のない人が行った法律行為は無効とみなされます。

このような理由から、遺言書を作成した時点で認知症になった人に意思能力(遺言能力)があったかどうかが遺言書の有効・無効に大きく関わります。

遺言書の有効性や遺言能力を判断するポイント・有効になるケース

遺言者が亡くなったあと、相続が発生したタイミングで「あのとき認知症だったから遺言書は無効なのではないか」と相続争いに発展する可能性は否定できません。

そこで、遺言書の有効性や遺言能力を判断するポイントや有効になるケースについて解説します。相続人同士で争わないために、あらかじめ以下のポイントを知っておきましょう。

  • シンプルな遺言内容にする
  • 当時の進行具合を証明する医療記録を残す
  • できれば公正証書遺言を作成する
  • 長谷川式認知症スケールの点数でも遺言能力が判断できる

4つのポイントについて、詳しく解説していきます。

シンプルな遺言内容にする

遺言内容がシンプルなものであれば、作成時に意思能力があったと判断されやすいです。たとえば、「全財産を長男に相続させる」といった内容であれば、本人が内容を理解して本人の意思で作成したと判断できるためです。

一方で、財産を複数人に割り当てる内容だと、複雑になって意思能力があったと判断されにくくなります。たとえば、「長男には不動産Aと預貯金の30%、次男には不動産Bと預貯金の70%」のように複雑であると遺言能力が疑われやすいです。

当時の進行具合を証明する医療記録を残す

遺言書の作成時における認知症の進行具合を証明する医療記録を残しておきましょう。医師の診断や看護記録など、認知症が軽度であったことを証明できれば遺言書が有効であると判断できます。

万が一、相続人の一部の人から「遺言書は無効だ」と主張された場合、裁判で争うこととなります。裁判では遺言書を作成した時点における遺言能力の有無を客観的に証明できるかどうかが重要です。

そのため、遺言書と一緒に医師の診断書を保管しておきましょう。このとき、より診断の信ぴょう性を高めるためのポイントは、以下の通りです。

  • 主治医に診断書を出してもらう
  • 心配であればセカンドオピニオンとして別の医療機関でも診断書を出してもらう
  • 診断書作成から1か月以内に遺言書を作成する

診断書を書いてもらってから時間が経ってしまうと、認知症の進行が指摘されるかもしれません。あくまでも、「遺言書作成時の認知症の進行状態・遺言能力の有無」がわかるようにしておきましょう。

できれば公正証書遺言を作成する

遺言書の有効性を確実にするには、公正証書遺言を作成しましょう。公正証書遺言とは、公証人によって作成される公正証書としての遺言書です。

公証人が公正証書遺言を作成する際、遺言者本人が遺言能力を持っているかどうかをチェックしてくれます。そもそも、公正証書遺言は公証人に遺言内容を口頭で伝えて作成していくため、意思疎通能力の有無の判断が可能です。

チェックを経て作成された遺言書であるため、亡くなったあとに遺言書が無効であると判断される可能性は低くなります。

また、自筆で作成する遺言書は、書き方の間違いや記入漏れがあると無効になってしまいますが、公正証書遺言であれば不備の心配はありません。原本は公正役場に保管されるため、紛失の恐れも不要です。

「公正証書の作成方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

長谷川式認知症スケールの点数でも遺言能力が判断できる

長谷川式認知症スケールの点数で遺言能力が判断されることもあります。長谷川式認知症スケールとは、認知症の程度を測るための検査方法です。30点満点で、合計点数によって以下のように判断されます。

  • 20点以下:認知症発症の疑いが高い
  • 15点前後:中等度の認知症
  • 10点前後:高度の認知症

もちろん、長谷川式認知症スケールだけで認知症の重症度の診断はできません。当日の体調や精神状態によっても点数に大きく影響します。

しかし、公正証書遺言であっても長谷川式認知症スケールの点数が10点以下だった場合には、遺言内容が無効だと判断される可能性が高まります。

親・配偶者が認知症になったあとでも検討可能な策

親・配偶者が認知症になったあとでも検討可能な策のイメージ

親・配偶者が認知症になっていた場合、遺言書を遺しても無効となる可能性が高くなるため、もう作成してもらえないと判断する人もいるでしょう。このようなとき、以下のような方法で自分の取り分を主張して財産を増やすことが可能です。

  • 遺留分侵害額請求
  • 特別受益の持ち戻し
  • 介護をしていた場合は寄与分

それぞれ確認していきましょう。

遺留分侵害額請求

被相続人の意思能力がなくなる前に「すべて長男に相続させる」など、自分以外の相続人に偏った遺言内容であれば、遺留分侵害額請求をしましょう。

遺留分侵害額請求とは、民法で定められている法定相続人に最低限保証されている相続分を請求する行為です。遺言書で遺産分割内容が指定されていたとしても、遺留分は遺言よりも優先されているため確保できます。

遺留分の割合は、被相続人との関係性によって変わります。

また、遺留分侵害額請求の流れは、以下の通りです。

  1. 侵害した相手と交渉する
  2. 内容証明郵便で請求の意思を表明する
  3. 家庭裁判所で調停手続きを行う
  4. 簡易・地方裁判所にて訴訟手続きを行う

遺留分の請求は、相続開始を知ってから1年以内に行わなければ時効を迎えてしまうため注意しましょう。

「遺留分侵害額請求」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

特別受益の持ち戻し

被相続人の生前に多額の贈与を受けていた相続人がいれば、特別受益の持ち戻しを主張しましょう。

特別受益とは、被相続人からの生前贈与によって受けた利益のことです。つまり、特別受益は「相続財産の前渡しがされた分」を指します。

たとえば、相続財産が3000万円で、法定相続人が長男・次男・三男の3人だったと仮定しましょう。もし、長男・次男には結婚や新築の援助として300万円ずつ贈与していたとします。特別受益を考慮しなければ、3分の1ずつ1000万円の相続となります。

しかし、特別受益を持ち戻すと、相続財産とみなされる金額は3600万円です。3600万円を3分の1ずつ相続するため、1人あたり1200万円相続することとなります。また、長男と次男はすでに300万円を贈与されているため、1200万円から差し引き、900万円を相続します。

特別受益の持ち戻しの流れは、以下の通りです。

  1. 特別受益のあった相手と交渉する
  2. 弁護士に遺産分割協議に立ち会ってもらう
  3. 家庭裁判所で遺産分割調停の手続きを行う
  4. 家庭裁判所で遺産分割審判の手続きを行う

特別受益があることを知らずに遺産分割協議書を作成してしまった場合、遺産分割は無効にできます。発覚した特別受益分を考慮して遺産分割協議をしなおしましょう。

介護をしていた場合は寄与分

介護をしてきた人や、家業を無給で手伝ってきた人であれば、寄与分を主張しましょう。寄与分とは、他の相続人と比べて財産維持や増加に貢献して特別な寄与をした人に認められ、相続に寄与した分を上乗せされる制度です。

ただ一緒に住んで身の回りのお世話をしていただけでは、寄与分は認められません。扶養義務の範囲を超える貢献があったかどうかが重要です。

貢献度の判断は、以下の4つの観点から行われます。

  • 特別性
  • 無償性
  • 継続性
  • 専従性

また、寄与分の算定方法は、以下の通りです。

<介護をしてきた場合>

  • ヘルパーの日当額×介護日数×裁量的割合

<家業を無給で手伝ってきた場合>

  • 通常受けられる年間給与額×(1-生活費控除の割合)×寄与年数×裁量的割合

裁量的割合は、被相続人の状態や専従度などから判断されます。

寄与分を主張する際、以下の流れで行いましょう。

  1. 他の相続人に対して寄与分を主張する
  2. 弁護士に遺産分割協議に立ち会ってもらう
  3. 家庭裁判所で遺産分割調停の手続きを行う
  4. 家庭裁判所で遺産分割審判の手続きを行う

自分が特別な寄与をしていたと思うのであれば、主張することを忘れないようにしましょう。

遺言の有効性に疑問を感じたら、遺言書の無効を主張しよう

もし、親や配偶者が遺した遺言の有効性に疑問を感じたら、遺言書の無効を主張しましょう。主張の際は、以下のステップを踏みます。

  1. 交渉(遺産分割協議)
  2. 調停
  3. 訴訟

交渉(遺産分割協議)でも合意が取れなければ調停、調停でも解決できなければ訴訟、という手段を取っていきます。具体的に確認しましょう。

①交渉(遺産分割協議)

相続人全員の合意を得れば、遺言と異なる遺産分割ができます。調停や訴訟には費用や労力がかかるため、まずは相続人同士で話し合うことをおすすめします。

もし、認知症の症状が進行しており遺言能力の有無に疑いがあるのであれば、主治医からカルテの開示を請求しても良いでしょう。他の相続人たちに「認知症が重度であった」と理解してもらえれば、交渉が成立する可能性が高まります。

②調停

もし、交渉をしても合意が得られなければ、家庭裁判所における遺言無効確認調停を検討しましょう。遺言無効確認調停では、調停委員が仲介者となって合意に向けた話し合いを行います。

遺言無効確認調停における争点は、被相続人の遺言能力の有無です。

ただし、調停ではあくまでも話し合いの場が設けられるだけです。合意成立の見込みがない場合には調停の申し立てをせずに、最初から訴訟の申し立てをすることも認められています。

③訴訟

交渉や調停を経ても相続人同士で合意ができなかった場合、地方裁判所で遺言無効確認訴訟を申し立てます。

原告と被告の立場で裁判し、月に1回程度のペースでお互いに主張や立証を重ねていきます。最後に裁判官が判断をし、相続人は判断に従わなければなりません。訴訟中に、原告・被告が譲歩して和解する形で終結する場合もあります。

ただし、遺言内容が有効か無効かによって相続できる額に大きく差が出るケースがほとんどです。そのため、徹底的に争って時間と費用、労力をかけてしまい、さらに相続人同士の関係が悪化することもあるでしょう。

できるだけ話し合いで早期解決し、互いに譲歩しながら和解できる可能性を探っていくことをおすすめします。

認知症になった人が遺言書を作成する場合は無効とならない工夫が必要

認知症になった人が遺した遺言書の有効性は、遺言者の遺言能力の有無によって左右されます。そのため、遺言内容を確実に実行してもらうためには、意思能力があると証明できる診断書や長谷川式認知症スケールの得点を残しておくことが重要です。

また、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を証明したり、シンプルでわかりやすい遺言内容にしたりするなどの工夫をしましょう。

さらに、開封した遺言書の有効性が疑われる際は、遺言書の無効を主張できます。相続人同士で公平に遺産分割し、円満に相続手続きを終えましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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