遺産分割調停・審判や遺産相続の裁判にかかる費用についてお悩みではありませんか。遺産分割調停・審判の申し立てにかかる費用は1万円程度ですが、訴訟に発展したり弁護士に依頼したりすると一定の費用が必要です。本記事では、遺産分割調停・審判にかかる費用について解説します。遺産分割調停・審判に発展しそうだとお考えの方は、参考にしてください。
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遺産分割調停・審判とは
遺産分割調停・審判とは、相続人同士で遺産分割方法について当人同士の話し合いで合意できなかった場合に行われる争いごとの解決方法です。どちらも家庭裁判所で行われ、遺産分割方法について相続人全員の合意を目指します。
遺産分割調停・審判に発展するケースは、主に以下のような場合です。
- 遺産分割協議が相続人だけでまとまらない
- 寄与分を主張したい人がいる
- 特別寄与料を請求したい人がいる
どのような争いごとであっても、基本的にはいきなり裁判ではなく調停から行います。調停とは、調停委員が相続人たちの間に入り、適正な解決を目指す話し合いの場です。
相続人同士は直接話し合いをするわけではなく、裁判官と調停委員に対して自分の主張や事情を伝えます。それぞれの相続人の希望をすべて叶えることは難しいものの、解決策の提案や助言を言ってくれ、円満に解決するためのサポートをしてもらえます。
しかし、調停による話し合いを行っても全員が合意しなければ不成立です。不成立となると、相続人の範囲や遺産の範囲に争いがない場合、審判に移行審判に移行します。
審判とは、当事者の主張や資料を踏まえて法廷で裁判官が判断を下して解決を目指す制度です。調停のような話し合いではなく、裁判官が客観的な判断を下します。反対する相続人がいたとしても、審判の内容に従わなければなりません。
次の章から、遺産分割調停・審判に発展した際に発生する費用について詳しく解説します。

遺産分割調停・審判で発生する費用
遺産分割に関連する裁判所への費用は、手続きの種類によって異なります。
ここでは、主に利用される「遺産分割調停・審判」にかかる費用について詳しく見ていきましょう。
遺産分割調停・審判を申し立てる場合、申し立て費用として以下の費用を裁判所に支払います。
収入印紙 | 被相続人1人あたり1200円 |
---|---|
予納郵券(切手代) | 数千円※裁判所によって設定額が異なる |
調停が不成立となり審判に移行した際、調停の申し立てのときに遺産分割審判の申し立てがあったものとして、別途申し立て費用は不要です。
遺産分割調停・審判のために発生する可能性のある費用
遺産分割調停・審判をするために、以下のような費用が発生する場合があります。
- 相続人調査にかかる費用
- 相続財産調査にかかる費用
- 不動産鑑定料
- 調査嘱託・文書送付嘱託などにかかる費用
いずれも必ず発生する費用ではありませんが、思いがけない出費が出ないよう注意しましょう。
相続人調査にかかる費用
遺産分割調停・審判には、相続人全員の参加が必須です。そのため、戸籍調査をして相続人を確定しなければなりません。戸籍調査に必要な書類を取得するための相場は、数千〜数万円程度です。
内訳は、以下の通りです。
項目 | 費用 |
---|---|
戸籍謄本の取得 | 1通あたり450円 |
除籍・改製原戸籍謄本の取得 | 1通あたり750円 |
住民票の取得 | 1通あたり200〜400円※自治体によって異なる |
相続人の数によって必要な取得書類数が異なるため、必要な費用は変動します。
また、相続人調査を弁護士に依頼すると、10〜20万円程度の費用がかかります。
相続財産調査にかかる費用
相続財産が確定していなければ、遺産分割協議は進められません。被相続人が遺したすべての財産を調査し、財産を評価する必要があります。
相続財産調査で必要な費用の相場は、数千円〜数万円程度です。ただし、財産の量や種類によって証明書交付に必要な手数料が大きく異なります。
また、弁護士に相続財産調査を依頼すると、20〜30万円程度の費用がかかります。
不動産鑑定料
不動産鑑定料とは、不動産鑑定士に不動産の価値を鑑定依頼するために必要な費用です。相続財産のなかに不動産が含まれている場合、不動産鑑定料が発生する場合があります。
不動産鑑定料の相場は不動産鑑定料の相場は戸建ての土地建物は40~60万円程度、アパートやマンションといった収益物件の場合は、100万円~です。
ちなみに最低料金が定められているケースもあります。鑑定評価額が5000万円を下回る場合、費用相場は以下の通りです。
不動産の種類 | 費用相場 |
---|---|
更地の土地 | 40万円 |
土地+建物 | 40~60万円 |
マンション | 100万円~ |
裁判所を通して依頼すると、発生した費用は当事者同士による折半です。
一方、相続人が直接依頼したときの依頼費用は、原則依頼した相続人が負担します。
調査嘱託・文書送付嘱託などにかかる費用
遺産分割調停・審判において、相続財産の内訳を調査するために調査嘱託・文書送付嘱託という手続きが発生する場合があります。具体的には、争っている相続人による申し出によって裁判所が金融機関・公的機関に事実確認や文書開示を求める行為です。
調査嘱託・文書送付嘱託を申し立てて裁判所に認められると、金融機関・公的機関との文書のやりとりのために使う手数料や郵送費用の提出を求められる場合があります。
遺産分割調停・審判を弁護士に依頼するときの費用相場
遺産分割調停・審判をする際、法律の専門家である弁護士に相談する場合もあるでしょう。弁護士に依頼をすると、主に以下の4つの費用が発生します。
費用の種類 | 費用相場 |
---|---|
相談料 | 30分あたり無料〜1万円程度 |
着手金 | 30万円~ |
報酬金 | 経済的利益に応じて算出 |
実費 | 数千円~(不動産鑑定などが必要な際は高額化) |
それぞれ、どのようなタイミングで何のために支払う費用なのかを確認しましょう。
相談料
相談料とは、弁護士に相談する時間に応じて発生する費用です。相場は、30分あたり5000円程度です。初回の相談は無料に設定している弁護士事務所もあります。
相談料は、相談が終わったタイミングで支払います。相談内容についてそのまま遺産分割調停・審判の依頼をすれば相談料が無料になる弁護士事務所もあるため、事前にWebサイトの料金表を確認しましょう。

着手金
着手金とは、争いごとの解決に向けたサポートを弁護士に依頼する際に支払う費用です。取得遺産が1000万円未満であれば、30万円~程度です。ただし、相続財産の総額によって変動する料金設定をしている弁護士事務所も多く、高い着手金が発生する可能性もあります。
まとめて大きな費用を支払うことに抵抗感のある方は、分割払いやあと払いができないか相談しましょう。
報酬金
報酬金とは、遺産分割調停・審判が成立した際や裁判が終わった際に支払う費用です。一般的に、報酬金は調停・審判などで得られた金銭に応じて変動します。万が一、全面敗訴した場合には、報酬金を支払う必要はありません。
もちろん、弁護士事務所によって料金設定は異なります。かならず依頼前に確認しておき、金額に納得したうえで依頼しましょう。
実費でかかる費用
ほかにも、実費でかかる費用を支払う必要があります。実費で費用が発生するケースは、以下の通りです。
- 戸籍調査や不動産調査をする際の書類取得費用
- 遠方から出廷するときの交通費や宿泊費
- 出廷・出張が発生したときの日当(出廷日当・出張日当)
相場は数千円〜数万円程度ですが、出張を依頼すると10万円以上の費用がかかる場合もあります。実費でかかる費用は、案件ごとに大きく金額が変動します。相談時にどのような費用が発生するのかを確認しておきましょう。
「調停・審判以外にかかる弁護士費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺産分割にかかる紛争中は相続税の申告・納税期限に注意
遺産分割調停・審判などによって争っている間でも、相続税の申告・納税の期限は待ってくれません。相続税の申告・納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月です。
遺産分割にかかる紛争中の相続税の申告・納税期限について注意すべきポイントは、2つあります。
- 期限までに遺産分割が終わらなかったら未分割申告をしよう
- 遺産分割が進まないままだと相続財産から相続税を納税できない
順番に確認し、早期解決を目指しましょう。
期限までに遺産分割が終わらなかったら未分割申告をしよう
期限までに解決に至らず、遺産分割が終わらない場合は未分割をしましょう。
遺産分割の紛争があるかないかにかかわらず、相続税の申告・納税期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月です。しかし、相続税の申告や納税額を確定するには、それぞれの相続人がいくら相続したかが確定していなければなりません。
そこで、期限を守るために法定相続分で分割したと仮定して、相続税の申告や納税額を確定させる未分割申告を行います。遺産分割の内容が確定したら、改めて修正申告や更生請求をして納税を調整しましょう。
未分割申告をしないまま相続税の申告・納税期限を迎えてしまうと、延滞税や無申告加算税などのペナルティが加算される可能性があります。
注意点として、相続税申告時に遺産分割が完了していることが条件となっている小規模宅地等の特例や配偶者控除の特例は利用できないため、通常よりも相続税の負担が大きくなる傾向にあります。
ただし、未分割申告を行う際に申告期限後3年以内の分割見込書を添付し、さらに相続税の申告期限から3年以内に遺産分割できた場合には小規模宅地等の特例や配偶者控除の特例を利用することが可能です。
参照:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁
遺産分割が進まないままだと相続財産から相続税を納税できない
遺産分割が進まないままだと、相続財産から相続税を納税できません。
なぜなら、被相続人の預金口座は遺産分割が終わっていることを証明できなければ、凍結されて引き出せなくなってしまうからです。当然、相続登記もできないため、不動産の売却や土地活用もできません。
もし、被相続人の事業を引き継ぐのであれば、事業承継がスムーズにできない可能性も出てくるでしょう。
遺産分割調停・審判の費用に関する注意点

遺産分割調停・審判の費用に関する注意点は、主に3つあります。
- 遺産分割調停・審判は長期化することが多い
- 遺産分割調停・審判にかかった費用は申し立てた人が負担する
- 弁護士に依頼した費用は相続税から控除できない
3つの注意点について詳しく確認しましょう。
遺産分割調停・審判は長期化することが多い
遺産分割調停・審判は長期化するケースが多いです。
遺産分割調停は、一般的に数か月から1年以上程度かかります。調停の回数に制限がなく、解決するか決裂するかのどちらかの結論に至るまで話し合いを続けられるため、数年以上かかるケースもあります。
一方、遺産分割審判は5回程度で終わることが多く、半年から1年程度で審判が下されるケースがほとんどです。ただし、争点が多かったり激しく対立したりしている場合は、数年かかるケースもあります。
長期化すると、相続税の小規模宅地等の特例や配偶者控除の特例が使えなくなったり、弁護士に支払う報酬が増えたりと、金銭的負担が増える原因になりかねません。できるだけ早期解決を目指しましょう。
遺産分割調停・審判にかかった費用は申し立てた人が負担する
遺産分割調停にかかった費用は、調停が成立する際に費用の調整を行います。遺産分割審判になった場合は、審判の中で費用の負担を裁判官が定めます。
そのため、どれほどの費用がかかるのかをしっかり把握したうえで遺産分割調停・審判の申し立てをするかどうかを決めましょう。
弁護士に依頼した費用は相続税から控除できない
遺産分割調停・審判に関して弁護士に依頼した費用は、相続税から控除できないため注意しましょう。
相続税の控除対象は、被相続人の相続財産のなかに含まれている債務や、被相続人の葬式費用のみです。そのほかの費用は控除できず、相続人本人が必要だった経費として扱われます。
遺産相続の早期解決のために弁護士に相談しよう
遺産分割調停の申し立てに必要な費用は、1万円程度と高くありません。しかし、長期化すると訴訟問題に発展したり、相続税が当初より高くなったりと、いいことはありません。
遺産相続について相続人同士で揉めている場合は、早期解決のために弁護士に相談することをおすすめします。調停・審判を起こさなくても、弁護士に遺産分割協議を依頼すれば冷静な話し合いができて円満に遺産分割できる場合もあります。
親族間に大きな亀裂が入るまえに、弁護士に相談しましょう。
