令和6年4月1日より相続登記の義務化が始まり、手続きをしなければならないと焦っている方もいるでしょう。今回は、遺言書が残されている場合に焦点を当てて、相続登記の手順や必要書類について詳しく解説します。遺言執行者の役割や依頼できる内容についても説明しています。ぜひ最後まで読んで、手元にある遺言書を使ってどのように相続登記の手続きを進めていくべきかを確認してくださいね。
地元の専門家をさがす
遺言書とは?
遺言書とは、亡くなった方が所有する財産を誰にどれほど相続させるかを指定する法的書類です。財産の分け方やどのような財産があるのかが記載されています。
遺言書では、法定相続人以外の人に財産を譲り渡すことや、法定相続分とは異なる相続割合を指定することが可能です。法定相続分よりも遺言書が優先されるため、遺言書が残っている場合は遺言通りの遺産分割を行われることが多いです。
遺言書には3つの種類があり、種類ごとに特徴や相続登記までの手続きの流れに違いがある点に留意しなければなりません。残された遺言書の種類によって特徴や相続手続きの流れが異なるため、詳しく確認しましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言書とは、公証役場の公証人に作成してもらう遺言です。遺言者は2人以上の立会人と一緒に公証役場に出向き、公証人に遺言内容を伝えて遺言書を作成してもらいます。
公証人が聞き取りを行い、法的に問題ないかを前提に作成されるため、遺言書が無効になる可能性が低いです。
また、公証役場に保管されるため紛失や改ざんの心配もありません。
相続登記がスムーズに行える遺言書
公正証書遺言は、3つの遺言書のなかで比較的スムーズに相続登記の手続きができる遺言です。また公証役場に保管されることから偽造や改ざんの余地がないため、遺言を開封するときに必要な家庭裁判所での検認手続きを省略でき、遺言書にもとづいてスムーズ相続登記しやすいのが特長です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人が民法で定められた形式に従って自筆で作成する遺言です。
1人で思い立ったときに手軽に作成でき、何度でも書き直せることが特徴です。公正証書遺言のように公証人や立会人に遺言内容を話す必要がなく、内容と存在を秘密にできます。
ですが、開封時に家庭裁判所での検認手続きが必要で、様式を満たしていないと無効となってしまうリスクがあります。手軽に作成できる代わりに、手間やリスクが多い遺言と言えます。
そんな手間やリスクの多い自筆証書遺言の中でも、一般的に起こりやすい注意点を以下に解説します。
注意点:まず遺言書を探す必要がある
自筆証書遺言は、内容と存在を秘密にできる手軽さが影響して、所在が不明であることがあります。遺言者が遺言書の存在を明かさないこともあるため、そもそもとして遺言者が存在するかどうかの確認と捜索が必要になるため、亡くなった方の自宅や貸金庫を念入りにさがしましょう。
自筆証書遺言を見つけたら、勝手に開封せずに家庭裁判所で検認を行わなければなりません。裁判官や相続人の立ち会いのもと開封して検認することで、偽造や改ざんを防ぐ目的があるためです。
なお、令和2年7月から始まった自筆証書遺言保管制度を利用している場合は、検認が不要になります。理由は自筆証書遺言の原本と画像データが法務局に長期間保管されるため、紛失や改ざんを防止できるためです。
尚、制度の利用と法務局に預けられた自筆証書遺言書を閲覧するには、一定の手数料が発生します。
注意点:無効になった場合は遺産分割協議
自筆証書遺言は専門家のチェックなしに保管されているケースが多く、書き損じや要件などの形式を満たしていないことで無効となる場合があります。自筆証書遺言には、下記のような細かな様式が定められています。
- 全文・日付・氏名を全て自筆する
- 用紙サイズはA4、余白を最低上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートル担保するなどの様式が定められている
- 財産目録すべてのページに署名と押印する
- 訂正がある場合は、訂正箇所を二重線で抹消して押印し、欄外に訂正内容と署名をする
上記をような様式を満たしていないことにより遺言書が無効となった場合、遺産分割協議を行ってから相続登記の手続きをする必要があります。なお、遺産分割協議で遺言に沿った遺産分割を行い、相続登記の手続きを行っても問題ありません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知らせないまま、存在だけを公証役場で証明してもらう遺言です。
自分で作成した遺言書に利用した印鑑と同様の印鑑を使って封に押印した状態で公証役場へ持っていき、公証人と2人以上の立会人の前で封をされた遺言書の存在を証明してもらいます。
つまり公証役場には、「遺言書が存在する」という記録だけが残ります。
そして完成した秘密証書遺言は遺言者本人が保管しなければなりません。また、秘密証書遺言書は自筆証書遺言書のように、内容すべてが自筆でなくても問題はありません。
そのため、内容は秘密にしたいが、見つけてもらえない可能性に備える場合の遺言です。
なお、秘密証書遺言書を開封するためには、家庭裁判所における検認手続きを経る必要があります。
理由としては、あくまで秘密証書遺言は存在自体の秘匿性を担保する形式であるため、内容や書式については担保されていないためです。
注意点:無効になった場合は遺産分割協議
秘密証書遺言書は、自筆での署名と捺印があれば有効です。しかし、内容を確認する専門家がいないため、開封した際に自筆での署名と捺印がされていない場合や、内容自体に不備があると無効になってしまいます。
遺言書が無効となってしまえば、相続登記の手続きに使えません。改めて遺産分割協議を行って遺産分割の内容を決め、遺産分割協議書を作成することになってしまいまいます。
地元の専門家をさがす
遺言書による相続登記の手順
遺言書がある場合、相続登記の流れは遺言執行者がいるケースといないケースに分かれます。
まず、遺言執行者がいる場合の相続登記手続きについて解説したのち、相続登記を行う手順について解説します。遺言執行者が相続登記の申請をする場合も、相続人が行うときと同様の手順で進めます。詳しく確認しましょう。
遺言執行者がいれば何もやらなくていい?
遺言執行者が指定・選任されている場合、遺言執行者が単独で不動産の登記手続きを完了させられます。また、法定相続人以外の人への遺贈があった場合にも、遺言執行者による単独での登記手続きができます。
そのため、基本的にはなにもやらなくていい状態になります。
遺言執行者とは何をする人?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために実務を担う人です。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合はその人が遺言執行者となります。指定がない場合は、相続人らが家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることも可能です。
遺言執行者になるための資格は特にありません。
遺言執行者の役割とは?
遺言執行者の役割は、滞りなく遺言内容を実現させることです。遺言書は、遺言者が亡くなったあとに開封されるため、意思を残したものの本当に実現されるか確認できません。
そこで、遺言内容を確実に実現させるために、遺言執行者が指定されます。
「遺言執行者」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言書の検認を行う
遺言書がある場合、まず最初に家庭裁判所で「検認」を行う必要があります。自筆証書遺言や秘密証書遺言を勝手に開封してしまうと、5万円以下の過料が科せられる恐れがあります。
もしも勝手に開封してしまっても遺言書の内容が無効になることはありませんが、相続人同士の関係性に禍根を残してしまう可能性があります。
そのため、遺言書を見つけたとしても焦って開封するようなことはせず、必ず家庭裁判所で「検認」を行いましょう。
遺言書の検認が終わると、遺言書に検認済証明書が添付されます。相続登記の際、検認済証明書がなければ登記が承認されないため注意しましょう。
不動産の相続人を確認する
遺言書の内容を確認し、不動産の相続人が誰なのかを確認しましょう。なかには、法定相続人以外の孫や内縁関係のパートナーなどへ遺贈するよう指定されている場合もあります。
不動産の相続人が必要書類を準備する
ここからは、不動産を相続する人が登記申請に向けて準備を進めていきます。
相続登記に必要な書類は、下記の通りです。
- 検認済証明書付きの遺言書
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続する人の戸籍謄本
- 相続する人の住民票
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図
- 法定相続情報一覧図の登記原因証明情報
- 法定相続人全員の印鑑登録証明書
- 委任状
詳しく見ていきましょう。
検認済証明書付きの遺言書
遺言内容に従って不動産を相続する場合、検認済証明書付きの遺言書が必要です。遺言で指示されている内容と相続登記の手続き内容が同一であるかを確認するために提出します。
被相続人の戸籍謄本
被相続人の死亡時の戸籍謄本が必要です。死亡によって相続が発生したことを証明するために提出します。
戸籍謄本は、全国の市区町村役場で取得できます。取得費用の目安は、1通あたり450円です。
被相続人の住民票の除票
被相続人の住民票の除票で、亡くなった方と相続登記の対象となる不動産の名義人が同一人物であるかを確認するために必要です。
住民票の除票は、被相続人の最後の住所地の市区町村役場で取得できます。
取得費用は自治体によって多少異なりますが、1通あたり300円が目安となっています。
相続する人の戸籍謄本
遺言によって相続する相続人の現在の戸籍謄本が必要です。被相続人の死亡日以降に発行されたものでなければなりません。なお、相続人以外が不動産を取得する場合には不要です。
戸籍謄本は、全国の市区町村役場で取得できます。取得費用の目安は、1通あたり450円です。
相続する人の住民票
相続する人の住民票は、相続登記に必要な住所を確認するために提出が必要です。住民票に掲載されている住所が取得者情報に記載されます。
住民票は、住所地の市区町村役場やコンビニエンスストアで取得できます。こちらも取得費用は自治体によって多少異なりますが、1通あたり300円が目安となっています。
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、相続登記の際に納付する登録免許税の額を計算するために必要です。固定資産税評価額は毎年変動し、登記申請をする時点における最新年度のものを用意しなければなりません。
毎年4月頃に所有者へ固定資産評価証明書が送付されるため、もしも所在がわからない場合は亡くなった方の自宅を探してみましょう。見つからない場合は、不動産の住所地の市区町村役場で再取得できます。取得費用の目安は、1筆・1棟あたり200~300円程度です。
相続関係説明図
戸籍謄本の原本を返却してほしい場合、相続関係説明図を活用しましょう。相続関係説明図とは、亡くなった方と相続人との関係を図式化した書類です。
生命保険の請求や預金口座の名義変更などにおいても、戸籍謄本が必要です。他にも戸籍謄本の原本が必要な場合は、相続関係説明図を作成して相続登記後に戸籍謄本の原本を返却してもらいましょう。
法定相続情報一覧図の登記原因証明情報
法定相続情報一覧図とは、法務局が発行する亡くなった方と相続人の関係を図にした公的な証明書です。戸籍謄本等の原本の束の代わりに、法定相続情報一覧図を相続登記に利用できます。
法定相続人全員の印鑑登録証明書
遺言によって、孫や長男の妻、内縁関係のパートナーなどの相続人以外の人が不動産を取得する場合、法定相続人全員の印鑑登録証明書が必要です。
印鑑登録証明書は、住所地の市区町村役場で取得できます。取得費用の目安は、1通あたり200~300円程度です。
なお、遺言執行者が単独で登記手続きをする場合、法定相続人全員の印鑑登録証明書を準備する必要はありません。
委任状
相続登記を司法書士などの代理人に依頼する場合、委任状が必要です。専門家に相続登記依頼する場合は委任状を作成してくれるため、基本的には署名と押印だけで問題ありません。
「相続登記の必要書類」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

不動産の相続人が登記申請書を作成する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成しましょう。登記申請書の様式は、法務局の窓口か法務局の公式サイトで取得できます。
遺言書の種類によって利用する登記申請書の様式が変わるため、注意しましょう。
記載例を確認しながら登記申請書を作成し、必要書類と一緒に法務局へ提出します。不備がなければ、法務局へ提出後、2週間程度の審査を経て承認されます。
不備の訂正や追加書類が必要な場合、法務局から連絡がくるため指示に従いながら補整を行い、再提出しましょう。
「登記申請書の作成方法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続登記にかかる費用

相続登記にかかる費用について、下記のケースごとに確認しましょう。
- 登録免許税は固定資産税評価額×4/1000
- 自分で相続登記した場合の費用
- 専門家に相続登記を依頼した場合の報酬
- 遺言執行者に任せた場合
詳しく解説します。
登録免許税は固定資産税評価額×4/1000
相続登記をする際に必ず納付しなければならない税金が登録免許税です。登録免許税の計算は、原則下記の通り行います。
- 固定資産税評価額×4/1000
なお、相続において土地を取得した人が相続登記されないまま死亡した場合、前回に納付しなければならなかった登録免許税は、令和9年3月31日までに登記手続きをすれば免税されます。
自分で相続登記した場合の費用
自分で相続登記をした場合にかかる費用は、登録免許税に加えて、必要書類の取得費と法務局までの交通費の実費です。
専門家に相続登記を依頼した場合の報酬
相続登記は、登記を専門とする司法書士へ依頼することが一般的です。そのため、ここでは司法書士へ依頼した場合の報酬目安をご紹介します。
相続登記を司法書士へ依頼した時の報酬目安は、6万5000円程度です。依頼する地域や相続登記の難易度によって報酬が異なってきますので、あくまで目安となります。
遺言執行者に任せた場合
遺言執行者に相続登記を依頼する場合、相続登記にかかる費用だけを正確に算出するのは難しいでしょう。
遺言通りにすべての手続きを依頼する場合の遺言執行者の報酬の相場は、遺産総額の1〜3%です。遺言書に報酬額が記載されている場合は、その額に従いましょう。
相続登記に関する遺言書がトラブルになる前に専門家へ相談しよう
今回は、遺言書がある場合の相続登記の手続きについて詳しく解説しました。
遺言書には3つの種類があり、公正証書遺言が一番スムーズに相続登記の手続きを進められます。一方、自筆証書遺言や秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認で、検認済証明書がなければ相続登記の手続きができません。
遺言内容の通りに相続する場合は、相続登記に必要な書類が比較的少なく済みます。また、遺言執行者がいれば、さらに手続きをスムーズに進められるでしょう。
しかし、遺言書の効力に疑いがある場合や遺言書通りに遺産分割したくない場合は、相続人同士でトラブルに発展する場合もあります。それぞれの状況に合わせて専門家の力を借り、納得のいく遺産分割を行いましょう。
地元の専門家をさがす