遺言執行者がいる場合、相続登記の手続きは誰が行うのか気になっていませんか。結論からいうと、令和元年7月1日以降に作成された特定財産承継遺言があれば遺言執行者が単独で相続登記の手続きを進められます。本記事では、遺言執行者がいる場合の相続登記や手続きの流れ、注意点について詳しく解説します。
目次
遺言執行者がいる場合の相続登記
遺言執行者が存在する場合、遺言執行者が単独で相続登記を行える場合と行えない場合があります。
以下の2つの条件を満たす場合にのみ、遺言執行者が単独で相続登記することが可能です。
- 令和元年7月1日以降に作成された遺言書である
- 特定財産承継遺言が残されている
特定財産承継遺言とは、「特定の相続不動産を特定の相続人に相続させる」という旨が記載されている遺言のことです。
2つの条件を満たさない場合は、遺言執行者は相続人に代わって相続登記の手続きをすることができません。相続人自身が手続きを進めるか、不動産登記の専門家である司法書士に依頼して手続きを完了させましょう。
また、いずれの場合でも、相続人は相続登記の手続きをすることが可能です。
「遺言執行者」や「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
法改正により特定財産承継遺言は遺言執行者が単独でできるようになった
令和元年7月1日の相続法改正で変わった相続登記に関する遺言執行者の権限は、以下の通りです。
- 特定財産承継遺言があれば遺言執行者が単独で相続登記ができる
- 遺贈を原因とする所有権移転登記は遺言執行者が単独で手続きできる
順番に確認しましょう。
特定財産承継遺言があれば遺言執行者が単独で相続登記ができる
令和元年7月1日の相続法改正によって、特定財産承継遺言があれば遺言執行者が単独で相続登記の手続きができるようになりました。
改正以前より、特定の財産の相続者を指定する旨の遺言がある場合、遺言者の死亡によってただちに相続人が当該の遺産を取得できるものとされ、相続人による単独の登記申請が認められています。
また、遺言執行者には相続登記の申請についての権利および義務はありませんでした。そのため、遺言執行者が単独で相続登記の手続きを進めることはできないとされていました。
しかし、相続法改正によって特定財産承継遺言がある場合に限って遺言執行者が単独で相続登記を申請できると、遺言執行者の権限が大きくなったのです。改正以前と同様に、相続人による単独の相続登記も可能です。
このような経緯から、令和元年7月1日以降に作成された特定財産承継遺言がある場合に限って、遺言執行者が単独で相続登記できるようになりました。
特定財産承継遺言とは
特定財産承継遺言とは、特定の遺産をどの相続人に相続させるかについて指定する遺言のことです。たとえば、以下のような内容が特定財産承継遺言に該当します。
- 自宅の土地・建物は妻に相続させる
- 自宅の土地・建物は妻に、別荘の土地・建物は長男に相続させる
- 自宅の土地・建物を妻が2分の1、長男が2分の1の持分割合で相続させる
相続法改正前は、このように遺産の内容と相続人を指定した遺言を「相続させる旨の遺言」と呼ばれていました。しかし、改正によって「特定財産承継遺言」と呼ぶように変わっています。
遺贈を原因とする所有権移転登記は遺言執行者が単独で手続きできる
令和元年7月1日の相続法改正によって、遺贈による所有権移転登記の扱いも変わっています。
改正前は、遺贈を原因とする登記手続きをするには、受遺者と相続人全員による共同申請しかできませんでした。しかし、改正後は遺言執行者がいる場合には、受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者として共同申請を行うこととなっています。実務上では、遺言執行者が単独で申請を行います。
この改正によって、被相続人の愛人への遺贈を嫌がった相続人らがおり遺贈登記ができないといったトラブルを回避することが可能です。
遺言執行者による相続登記の手続きの流れと必要書類
遺言執行者が単独で相続登記の手続きを行う際は、以下の4つの流れに従って行いましょう。
- 必要書類を集める
- 登記申請書を作成する
- 法務局で登記申請手続きを行う
- 登記完了の確認を行う
通常行う相続登記とは、必要書類が異なります。提出しなければならない書類と一緒に、手続きの流れを確認しましょう。
必要書類を集める
まず、特定財産承継遺言によって不動産を相続人の名義に変更する場合、以下の必要書類を準備しましょう。
- 遺言書
- 被相続人の死亡について記載されている戸籍(除籍)謄本
- 被相続人の住民票(除票)、または戸籍附票(除附票)
- 相続によって不動産を取得する相続人の戸籍謄本
- 相続によって不動産を取得する相続人の住民票、または戸籍附票
- 不動産の固定資産評価証明書、または納税通知書
特定財産承継遺言の内容通りに相続登記をする場合、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を提出する必要はありません。
また、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、検認済みである必要があります。検認済みを証明するための家庭裁判所の検認済証明書の添付も求められます。ただし、法務局の保管制度を利用している場合は、検認手続きは不要です。
また、銀行口座の解約や名義変更などの相続手続きを同時に行う場合は、原本還付の制度を活用しましょう。原本と一緒にコピーを提出すれば、法務局から原本を返却してもらえます。
「遺言書の検認」や「原本還付」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
登記申請書を作成する
次に、登記申請書を作成しましょう。特定財産承継遺言の内容に基づいて登記申請する場合、以下のいずれか当てはまる様式を選んでください。
- 所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)
- 所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言)
- 所有権移転登記申請書(相続人に対する遺贈・単独申請)
法務局の公式サイトから、様式や記載例、作成マニュアルが確認できます。
法務局で登記申請手続きを行う
登記申請書や必要書類の準備ができたら、法務局で登記申請手続きを行います。
登記申請手続きの方法は、3つあります。
- 直接窓口で申請する
- 郵送で申請する
- オンライン申請する
法務局は全国各地にありますが、名義変更したい不動産の所在地を管轄する法務局で申請しなければなりません。最寄りの法務局など、管轄外の法務局では受け付けてもらえないため注意しましょう。管轄の法務局が遠い場合でも、郵送やオンラインで対応できるためぜひ活用しましょう。
直接窓口に出向く場合は、法務局の窓口で登録免許税の額に相当する収入印紙を購入して申請書に貼り付けてから提出します。
郵送で申請する場合は、郵便局やコンビニで登録免許税の額に相当する収入印紙を購入して申請書に貼付します。オンライン申請の場合は、電子納付・現金納付・印紙納付のいずれかの方法で登録免許税を納付します。
「オンラインでの申請」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
登記完了の確認を行う
書類に不備がなければ、申請から1週間から10日程度で登記が完了します。登記が完了したら登記完了証を法務局で取得し、名義が変わっているか確認しましょう。また、登記識別情報の通知を受け取ったら、大切に保管してください。
万が一、書類に不備がある場合、法務局から連絡があるため指示に従いましょう。内容によっては、窓口まで出向く必要がありますが、無視すると登記は完了しません。
法務局から連絡があった際は、迅速に対応しましょう。
遺言執行者がいる場合の相続登記の注意点・知っておきたいこと
遺言執行者がいる場合、相続登記を進める際の注意点・知っておきたいことが3つあります。
- 執行遺言者のやることは相続登記以外にもある
- 遺言執行者に指定・選任されても辞退することはできる
- 遺言執行者が業務を怠ると解任請求や損害賠償金請求の恐れがある
これから遺言執行者に相続手続きを任せる方はもちろん、遺言執行者に選ばれた方もぜひ確認してください。
執行遺言者のやることは相続登記以外にもある
執行遺言者に選ばれると、相続登記以外にもやらなければならない職務がたくさんあります。
具体的には、以下の通りです。
- 相続人の調査
- 相続財産調査
- 財産目録の作成
- 子どもの認知
- 預貯金の払い戻しと分配
- 貸金庫の解錠・解約・取り出し
- 株式や自動車の名義変更手続き
- 寄付行為
- 相続人の廃除とその取り消し
- 保険金受取人の変更
- 相続人以外への遺贈手続き
子どもの認知や相続人の廃除とその取り消しは遺言執行者にしか認められていない権利で、相続人にはできません。
相続発生後に行わなければならない職務が多いため、司法書士や弁護士などの専門家に依頼すると、相続人や利害関係者は安心できるでしょう。
遺言執行者に指定・選任されても辞退することはできる
遺言書で遺言執行者に指定されたり、家庭裁判所から遺言執行者に選任されたりしても、辞退することができます。
就任前であれば、特別な理由がなくても辞退を主張できます。相続人全員に対して辞退する旨を書面で通知しましょう。しかし、就任後に「忙しくて対応しきれない」といった理由で辞任することはできません。引っ越しや病気などの正当な理由が求められます。
就任後に辞任を申し出たい場合は、家庭裁判所へ辞任申し立てを行います。家庭裁判所に認められれば辞任が可能です。
このように就任後に遺言執行者を辞退するには時間と労力がかかるため、少しでも不安がある場合は遺言執行者を承諾しないようにしましょう。
遺言執行者が業務を怠ると解任請求や損害賠償金請求の恐れがある
遺言執行者が職務をまっとうしていない場合、相続人や利害関係者は解任請求や損害賠償金請求をすることが可能です。
まず、解任をするには、以下のような正当事由が提示しなければなりません。
- 遺言執行を怠っている
- 財産の使い込みがある
- 報酬が高額すぎる
- 長期の不在がある
- 特定の相続人に偏った行為をする
相続人や利害関係者は、家庭裁判所へ遺言執行者解任の申し立てを行います。家庭裁判所に認められれば解任されます。ただし、解任の申し立てには利害関係者全員の同意が必要です。
また、執行遺言者が任務を怠って相続人や利害関係者の利益を不当に侵害した場合、遺言執行者に損害賠償請求される恐れがあります。
たとえば、「職務をまっとうしないことで遺留分侵害額請求権が時効を迎えた」「職務をまっとうしないことで相続税申告・納税が遅れて追徴課税された」などが挙げられます。
義務を果たせないかもしれないと不安に思う場合は、遺言執行者の就任を断ることも必要です。改めて相続人らから、司法書士や弁護士などの専門家を選任してもらいましょう。
司法書士や弁護士に依頼することも検討しよう
令和元年7月1日以降に作成された特定財産承継遺言であれば、遺言執行者が単独で相続登記できます。これは、相続法改正によって遺言執行者の権限が大きくなったことを表します。
なかには相続人や被相続人の知人・親戚が遺言執行者に指定されているケースがありますが、遺言執行者の仕事は相続登記だけではありません。すべての職務をまっとうできる自信がない場合は、選ばれても辞退することをおすすめします。
もし、被相続人が遺言書を残しているにもかかわらず遺言執行者がいない場合や、専門家以外の人が指定されている場合は、司法書士や弁護士に依頼することも検討しましょう。
なかでも相続や遺言書に強い専門家であれば、円滑に手続きを進められます。相続登記の無料相談を受け付けている専門家事務所もあるため、気軽に相談してみてください。