これまでは相続登記はあくまでも任意でしたが、令和6年からは義務化され、法務局への申告期限が設けられるようになります。こちらの記事では、避けて通れない相続手続きとなった相続登記への理解を深められる内容となっています。相続登記の手続きを自分でやるのか、専門家に依頼すべきかの判断にもきっと役立つでしょう。
目次
《概要》相続登記とは
「相続登記って、難しくて大変そうであまりよく分からない」という人に向けて、相続登記が必要な理由や、登記の種類といった基礎知識について解説します。
相続登記とは「相続した不動産の名義変更」
相続の場面では、死亡した人が所有していた不動産(土地・家・マンションなど)を取得するとき、登記されている名義を死亡した人から相続した人に変更を行います。これが「相続登記」です。
そもそも「登記」とは、円滑に取引が行われるために、個人や法人が所有する財産の権利や義務を、社会に向けて公開されている登記簿に記載すること。「不動産の登記」では、権利関係が第三者から見ても明らかになるように、所有者の住所や氏名などを法務局に登録します。
不動産の所有者が、売買・贈与・相続などで変わった際に発生する登記手続きを「所有権移転登記(所有者の名義変更)」といいます。つまり、相続登記は所有移転登記の中の1つであり、「相続による所有権移転登記」ともいえます。
新しい所有者は、登記をすることでその不動産の所有権を第三者に対して「対抗」できます。「対抗」とは、不動産の売主と買主との当事者間で成立した権利関係を、他人(当事者以外の第三者)に対して主張すること。「第三者対抗要件」ともいいます。このように「相続登記」は、自分の土地を第三者から守るための公的に有効な手段であるといえます。
相続登記の方法には種類がある
不動産に関する相続登記の方法について解説します。ちなみに、「相続登記」だけに限らず、不動産の登記全体にもいえる登記方法です。
名義変更の人数による「単独登記」「共有登記」
遺言または遺産分割協議により、死亡した人の所有していた不動産を1人だけが相続するケースだと「単独登記(単独名義)」に、配偶者と子どもなど複数人で相続するケースだとそれぞれの所有割合(持分)を明記する「共有登記(共有名義)」になります。
「単独登記」だと、所有者が1人のため、その土地・自宅・マンションを担保に融資を受けたり、売却したりなどの判断も単独で行えます。
一方で、「共有登記」では、所有者が複数人いるため、土地・自宅・マンションの不動産に関する売却などの判断も、全員分の合意が必要となります。不動産の相続にて「共有登記」になるのは、遺産分割協議で相続人同士の意見がまとまらず、法定相続分に従って相続登記をしたケースなどが考えられます。
例外:1つの建物を別々に登記する「区分登記」
相続ではあまり見られないケースですが、建物を登記する際に、建物の構造上の区分にあわせてそれぞれが登記する「区分登記(区分所有登記)」というものもあります。
たとえば、二世帯住宅に親子が住んでいるケースを例に挙げます。「区分登記」では、二世帯住宅を完全に2戸の住宅とみなして、親が一階部分を、子どもが二階部分をそれぞれ登記します。
ただし、「区分登記」の前提として、1つの同じ住宅に住みながらも、玄関や浴室などをまったく共有せずに構造上独立している「完全分離タイプ」の二世帯住宅を建てることが必要になります。
相続登記が義務化された背景、注意点について
令和4年度税制改正大綱により、「相続登記の義務化」が令和6年4月1日から施行されました。
こちらの段落では、相続登記が義務化された社会的背景や、相続登記で押さえておきたい注意点などを解説します。
《背景》所有者不明土地は九州の土地面積以上
国土交通省では、不動産登記簿で確認しても所有者のわからない土地、判明しても連絡がつかない土地を「所有者不明土地」と定義しています。
国土交通省土地白書では、所有者不明土地の発生要因の約66.7%は「相続登記がされていないこと」、約32.4%は「住所変更の登記がされていないこと」であると発表しました。
日本全国にある「所有者不明土地」を合算すると平成28年時点だと約410万ヘクタールで、これは九州の土地面積を上回る広さ。令和22年にはさらに拡大し、約720万ヘクタールとなり北海道の土地面積に迫ると推測されています。いかに多くの土地が活用されずに放置されているかが分かります。
こうした「所有者不明土地」の存在は、市街地開発や近隣住民の生活に悪影響を及ぼす、いわゆる「所有者不明土地問題」と呼ばれて社会問題と化しています。平成29年から令和22年までの「所有者不明土地」の経済的損失を試算してみても、少なくとも累積で約6兆円にのぼるとされています。
明らかに空き家と判明していても、行政を含む第三者が勝手に手を加えることは法的に難しいのが現状。こうした社会的背景を踏まえ、所有者不明の空き家・土地をこれ以上増やさないための解決策として、法改正によるルール見直しがなされています。
出典:国土交通省「所有者不明土地の実態把握の状況について」、所有者不明土地問題研究会「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要」
《5つの注意点》相続登記をしないことで起こるリスク
相続登記の義務化は令和6年4月からですが、法改正以前に所有している相続登記が済んでいない不動産も対象であるため、早めに名義変更を完了させておくべきだといえます。
相続登記をしないことで起きる、主なリスクが「ペナルティ(罰則)」。
相続登記には申請期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」と定められています。また、正当な理由がなく登記・名義変更手続きをしない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があるので注意が必要です。
さらに、罰則以外にも、相続登記をしないことのリスクには、以下のようなものが挙げられます。
- 不動産の売却・担保融資ができない
- 権利関係が複雑になってしまう
- 相続した不動産を差し押さえられる
- 認知症などで遺産分割が難航する
- 税金の減額対象から外れる
それぞれのリスクについて簡潔に解説していきます。
1. 不動産の売却・担保融資ができない
他人名義の不動産を売ったり、担保に入れて金融機関の融資を受けることはできません。相続登記をしないままだと、お金が必要になったときに不動産の活用が大変難しいでしょう。
2. 権利関係が複雑になってしまう
相続した不動産の名義が死亡した人のままだと、その不動産は相続人全員の「共有財産」扱いになります。その相続人の内1人が死亡し2回目の相続が発生すると、その不動産の権利はその相続人の子どもたちに引き継がれます。
このように、相続登記を怠ってしまうと、下の世代にも共有財産として不動産の権利が引き継がれるため、相続人の人数が膨れ上がってしまい、誰の所有物なのか権利関係が複雑になってしまいます。
3. 相続した不動産を差し押さえられる
借金を抱えている相続人がおり、返済が滞ってしまうと、お金を貸している債権者が不動産を差し押さえることができます。債権を守るための、こうした債権者による不動産登記を「債権者代位登記」と呼びます。
相続登記をしていない不動産は、相続人全員の共有財産扱いですから、債権者による相続登記が可能となってしまうのです。
4. 認知症などで遺産分割が難航する
遺産分割協議は、相続人全員の参加が必須な法律行為。相続登記をせずにそのまま放置している内に相続人の中の1人が、判断能力が低下してしまうと、遺産分割協議自体が無効になってしまいます。
そうなると、判断能力が十分でない相続人のために、「成年後見人」を選任しなければならなくなります。成年後見人とは、判断能力が十分でない人の代わりに、本人の財産や生活をサポートする人。成年後見人の選任には、時間と費用が掛かってしまい相続人の負担になります。
不動産を早く処分したい場合は、大きな足かせになってしまうため、相続登記は早めに完了させておくに越したことはありません。
「成年後見制度」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
5. 税金の減額対象から外れる
実家などを相続したにもかかわらず、不動産の名義変更をせずに何十年も放置し、管理を怠っていると「特定空き家」に指定されるリスクがあります。「特定空き家」とは、国土交通省が基本指針にしている安全面や衛生面を考慮した4項目のうち、いずれかに該当する空き家。
特定空き家に認定されて、自治体から勧告を受けると、本来適用される固定資産税の減額措置が適用されなくなります。さらに、命令に従わない場合は、最大で50万円以下の過料に処されることもあります。高額な税金と過料という重いペナルティがのしかかってしまうため、名義変更を忘れないように注意しましょう。
参考:政府広報オンライン「年々増え続ける空き家!空き家にしないためのポイントは?」
【ケース別】相続登記を自分ですべきか、専門家に依頼すべきか
相続登記は自分1人でも手続きすることができます。しかし、自分でやったが想定以上の手間がかかり、専門家に依頼すべきだったと後悔している方もいるようです。
それでは、相続登記を自分ですべきなのか、専門家に依頼すべきかの判断の手助けとなるような具体的なケースを解説します。
相続登記を自分で行うケース
相続登記を自分で行った方がよいケースは、以下のような人が該当します。
- 平日に手続きのために時間が確保できる
- 書類集めなどの作業が苦ではない
- 相続人が単純(配偶者と子どものみなど)である
- 死亡した人の本籍地が移動していない
相続登記は、市区町村役場や法務局が開いている平日の日中に行う必要があります。そのため、平日の日中に時間が作れる、または大変ではないと感じる余裕があることが前提だといえます。
市区町村役場に行き、戸籍謄本などの何種類もの必要書類を収集し、法務局に提出しなければなりません。こうした書類集めを面倒に感じず、最後まで自分1人でやり遂げられそうか確認しましょう。
さらに、相続人が配偶者と子どものみなど単純なパターンであるかどうかも、判断ポイントの1つ。そろえるべき必要書類がそこまで複雑ではないため、ミスする可能性も低くなるでしょう。
「死亡した人の出生から死亡までの戸籍」が、1つの自治体でそろいそうであれば自分で相続登記を行っても問題ないでしょう。もし、死亡した人の本籍地が移動したことがある場合、移動前の自治体に行き、死亡した人の戸籍を入手しなければならず、大変な手間が発生します。したがって、「死亡した人の本籍地が移動していない」のであれば、1つの自治体で済むため自分で行うのに適しているといえます。
自分で相続登記を行うケースでの最大のメリットは、費用を節約できること。専門家に相続登記を依頼する場合は、専門家に数十万円程度の報酬を支払わなければなりません。その分のコストカットが期待できます。法務局や市区町村役場への移動にかかる電車賃に至っては、車で移動すれば、さらに費用も削減できるでしょう。
相続登記を専門家に依頼すべきケース
相続登記を専門家に依頼した方がよいケースは、おおまかに「相続対象となった不動産の状態」「相続人の関係」などを考慮して判断します。
まず、相続した家・マンションなどの不動産の状態について、以下の項目に該当する人は専門家に依頼した方がよいでしょう。
- 不動産を長年放置していた
- 不動産の数が多い
- 不動産が遠方にある
上記に当てはまる場合、自分1人で相続登記をするのは手間暇がかかりミスしてしまう可能性もあるため、専門家に依頼した方がよいでしょう。遠方にある親の土地などの不動産を長年放置していたら、何代も前の先祖の名義のままだったというケースもゼロではないようです。法律的な知識がないと解決が難しい場合は専門家に依頼すべきでしょう。
次に、相続人の関係について、一例を挙げると以下のようなケースが考えられます
- 相続人同士の関係が悪い
- 相続人の人数が多い
- 兄弟姉妹の相続や代襲相続がある
- 相続人に行方不明者がいる
- 相続人に未成年者がいる
- 相続人に認知症などで判断能力が不十分な人がいる
- 死亡した人の前妻(前夫)との間に子どもがいる
相続人が多いと、当然ながら必要書類も多くなり、猫の手も借りたいと思うはずです。相続人同士の仲が険悪だと、協力や連携がスムーズに行かないことも想定されるため、専門家に相続人の間に入ってもらう形で、相続登記を行った方がよいと考えられます。
また、配偶者や子どもと比較して、兄弟姉妹は死亡した人と関係を立証するために収集する書類が膨大になります。相続人の中に未成年者や認知症などで判断能力が不十分な人、そして行方不明者がいた場合、遺産分割協議が無効になってしまうため、手続きが煩雑になり、専門的な知識がないと対処が難しいでしょう。
前妻(前夫)などの離婚した配偶者との間に生まれた子どもは、死亡した人が再婚したとしても、その死亡した人の遺産に対する相続権をそのまま有します。
「法定相続人」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
したがって、相続人の人間関係が複雑であったり、人数が多い場合は専門家に依頼した方が相続登記がスムーズに進む可能性が高いです。
上記の相続対象となった「不動産の状態」「相続人の関係」以外では、以下のようなケースが考えられます。
- 早く売却したいなど手早く手続きしたい
- 特殊な遺産分割を行う
急にお金が必要になったなどの理由で、家やマンションといった不動産を早く売却したい場合もあると思います。その場合は、相続登記の手続きの経験が豊富な専門家に依頼した方が、自分で相続登記を行うよりも迅速に進むでしょう。
さらに、不動産の代償分割・換価分割などの特殊な遺産分割を行う際は、税務上の専門知識を踏まえた遺産分割協議書の作成が求められます。司法書士や弁護士などの専門家への依頼を検討することをオススメします。
相続登記で発生する費用
相続登記で発生する費用を解説します。
相続登記の手続きで、必ず発生する費用は「登録免許税」と「書類にかかる取得費用」。したがって、自分で相続登記を行うケースでは、この2種類の費用しか発生しません。
専門家に依頼するケースだと、この「登録免許税」と「書類にかかる取得費用」に加えて、「専門家への報酬」が発生します。発生する費用について「登録免許税」「書類にかかる取得費用」「専門家への報酬」の順番で触れていきます。
登録免許税
登録免許税とは、法務局にて登記簿に土地や建物の所有権を登録する際に、国に収める税金。
登録免許税の税率は登記の種類で異なります。相続により土地や建物を取得し、所有権の移転登記をする「相続登記」では、登録免許税の税率は0.4%です。以下のように計算して登録免許税の税額を求めます。
納税額=固定資産税評価額 × 0.4%
固定資産税評価額とは、家や土地といった固定資産に課される税金の基準となる評価額のこと。毎年、市区町村役場から通知される税金の明細書である「固定資産課税明細書」に「価格(評価額)」と表記されています。
ただし、登録免許税の計算では注意点が2つあります。固定資産税評価額の下3桁を切り捨てること。もう一つが、算出された納税額の下2桁を切り捨てることです。
登録免許税は、現金納付が原則。登録申請時に金融機関または税務署にて、登録免許税の納付用納付書を入手。必要事項を記入し、金融機関や税務署の窓口に納付します。手続きが完了すると領収証書が交付されるので、領収証書を登録免許税納付用台紙に貼り付けて法務局に提出します。なお、申請前に法務局が指定する口座に振り込む方法もあります。
現金納付以外だと、印紙納付・キャッシュレス納付も認められています。印紙納付の方法は、金融機関や法務局内の印紙売り場で収入印紙を購入し、それを申請書に貼り付けて提出。ただし、税額が3万円以下の場合などの条件があります。
キャッシュレス納付では、インターネットバンキング・金融機関のATMなどを利用して納付できます。
参考:法務局「登録免許税の計算」
書類にかかる取得費用
相続登記では、死亡した人と相続人の関係性が分かる戸籍謄本などの公的な証明書が必要です。市区町村役場にて発行してもらうための手数料(実費)が掛かります。書類1枚あたりの手数料は以下の通りです。
書類名 | 手数料 | 取得場所 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 450円 | 市区町村役場 |
除籍謄本 改製原戸籍 | 750円 | 市区町村役場 |
住民票の写し・ 住民票除票 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
固定資産評価証明書 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
登記事項証明書 (登記簿謄本) | 480円~600円 | 法務局 |
印鑑登録証明書 | 200円~400円 | 市区町村役場 |
戸籍謄本などの公的書類にかかる発行手数料は全国一律の料金で決まっています。しかし、取得方法によっては安く抑えることができます。
自治体にもよりますが、コンビニエンスストアで交付(コンビニ交付)ができる書類だと窓口や郵送で請求するよりも、費用が安く済みます。たとえば、住民票の写し、印鑑登録証明書などはコンビニ交付が可能です。
他にも、「登記事項証明書」も同様です。オンライン請求を利用した上で郵送で受け取ると手数料は500円、最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターで受け取ると480円。登記所窓口で請求する場合の600円と比較すると、手数料が安くなります。
なお、名称こそ違いますが、「登記事項証明書」と「登記簿謄本」は同じ書類です。デジタル処理されていると「登記事項証明書」、紙のままのだと「登記簿謄本」と呼ばれます。
相続登記で書類を取得する際は、こうしたコンビニ交付やオンライン請求などをうまく活用することで節約につなげることができます。
戸籍謄本などは、死亡した人と相続人全員を合わせた人数分を用意します。合計した取得費用は、3000円~5000円程度になると見積もっておきましょう。
参考:東京都主税局「固定資産に関する証明書等の手数料について」、法務局「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」
専門家への報酬
相続登記を代行してもらえる専門家は、士業の中でも司法書士のみです。司法書士に支払う報酬は、相続登記に関する手続きをどこまで代行してもらうのかにより変動します。戸籍謄本等の書類収集や遺産分割協議書の作成などを含めると、その分報酬が高くなります。
それでは、どれくらいの報酬が発生するのか、日本司法書士連合会が実施した調査結果から一例を挙げて説明します。
司法書士が受注した以下の条件について、相続登記の代理業務・戸籍謄本等5通の交付請求・登記原因証明情報(遺産分割協議書および相続関係説明図)の作成といった業務を実施した場合を見ていきます。
<受注条件>
- 相続した不動産:土地1筆および建物1棟
- 固定資産評価額:合計で1000万円
- 相続人について:法定相続人は3名おり、その内の1名が単独相続
上記の場合、司法書士への報酬金額の関東地区を例に挙げると、全体の平均値は約6万6000円、報酬金額の幅は約3万9000円~10万3000円となっています。
登記する不動産が複数あったり、手続きする法務局が数か所にわたったり、相続人の数が多かったりする場合はその都度加算されます。そのため、事前に事務所に見積もりを取って確認しましょう。
出典:日本司法書士連合会「報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)」
相続登記の手続きの流れ。自分で行うか、専門家に依頼するか
相続登記する際の手続き全体の流れ、手順を解説します。
自分で相続登記を行う場合、当然ながら、その手続きすべてを自分で行わなければなりません。しかし、司法書士などの専門家に依頼すれば手続きのほとんどを任せられるため、時間の節約になるという大きなメリットがあります。
自分で行うときと専門家に依頼するときとで、具体的にどのくらいの手続きが変化するのか見ていきましょう。
自分で行う場合:煩雑で時間がかかってしまう
相続登記を自分で行う場合は、次の流れに沿って行います。
- 相続した不動産の調査
- 相続人の調査
- 必要書類の収集
- 遺産分割協議書の作成
- 登録免許税の計算
- 登記申請書の作成
- 完了書類の受け取り方の選択
- 原本還付の用意
- 管轄する法務局を調べて申請
上記の流れの中で、とくに解説が必要な手順について解説していきます。
(1)相続した不動産の調査
相続した不動産の情報は、税金の明細書である「固定資産納税通知書」を確認すれば、だいたいを把握できます。しかし、通知書を紛失したり、農地などの非課税の不動産のためそもそも通知されなかったりするケースも考えられます。
そのような困ったときに、活用できるのが「名寄帳(なよせちょう)」。名寄帳とは、市区町村役場が「固定資産税課税台帳」を所有者ごとにまとめている一覧表。個人名義の固定資産が対象で、私道・農地・山林などの非課税の不動産も含まれます。
名寄帳の閲覧や請求ができるのは原則、納税者本人のみですが、納税者が亡くなっている場合は、相続人にも取得する権利が与えられています。死亡した所有者との関係を確認する書類などをそろえて、手数料200~300円程度を支払えば閲覧できます。
ちなみに、取得した名寄帳の写し(コピー)は、相続登記を申請するときの必要書類としては使用できません。あくまでも、不動産の情報を調べるための書類と認識しておきましょう。
(2)相続人の調査
死亡した人の家系図などを確認して、誰が相続人になるのかを確定する作業。それによって、「(3)必要書類の収集」の内容も異なってきます。
(4)遺産分割協議書の作成
不動産の相続登記の手続きでは、「不動産の名義変更を誰にするのか」について遺産分割協議を行うのが一般的です。遺言書で内容が定められている場合、法定相続分に従って相続する場合、そして相続人が1人しかいない場合は不要です。
(5)登録免許税の計算
税額が算出できたタイミングで、収入印紙の購入をしてもよいでしょう。一定要件を満たせば、免税の対象になることもあるので確認してください。
(7)完了書類の受け取り方の選択
相続登記が完了すると、法務局から書類が発行されると同時に提出した戸籍等が返却されます。原則として、法務局の窓口へ受け取りに行くことになりますが、申請書に「郵送を希望する」と記載しておけば、郵送で返却してもらうことも可能です。
(8)原本還付の用意
「原本還付」とは、登記の申請時に提出した書類の原本を返却してもらうこと。
原本を返却してもらうには、切手を貼った状態の返信用封筒を用意し、相続登記の申請時に必要書類の原本とその写し(コピー)をセットで提出します。写しには「原本と相違ない」という旨を記し、申請人の記名押印をします。法務局に行けば、「右は原本に相違ありません」というゴム印が備えられているため、利用してもよいでしょう。
なお、返信用封筒は、郵送返却を希望する場合のみ必要。したがって、窓口で受け取る場合は返信用封筒は不要です。
相続登記の戸籍類・評価証明などの必要書類がコピーする対象です。相続登記以外の預金解約・相続税申告などにも必要になるため、原本還付をしてもらうと、取得費用の削減が期待できます。
(9)管轄する法務局を調べて申請
相続登記の申請先は、どこでも申請できるわけではありません。名義変更する不動産の所在地を管轄する法務局でなければならないため、管轄する法務局を特定してから、相続登記を申請しましょう。
申請後に受け取る書類は「登記識別情報通知書」「登記完了証」、そして「戸籍謄本などの原本一式の還付」。「登記識別情報通知書」は、相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりするときに使用する重要な書類ですので、安全な場所に保管しておきましょう。
法務局への相続登記の申請から完了までにかかる日数は、1週間から10日程度といわれています。自分で行う場合は、それに加えて必要書類の収集、作成などを行わなければなりません。
(1)から(8)までの手順にかかる日数は、およそ3~4週間。したがって、相続登記の準備から申請完了までは、2か月ぐらいかかると見込んでおきましょう。
ただし、慣れない作業でミスや書類の不備などで、これ以上の日数がかかることも十分に想定されます。安心できる専門家を前もって探しておき、専門家への依頼も視野に入れておくことをオススメします。
専門家に依頼する場合:ほぼ任せきりでOK
相続登記を専門家に依頼する場合、おおむね次のような流れです。
- 専門家への依頼
- 専門家と契約締結
- 委任状を作成する
- 必要書類への署名捺印
- 完了書類の受け取り
相続登記の手続きを代理申請できる専門家は、実質的に司法書士のみ。その職権により、必要書類の収集、遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請などができます。なお、弁護士も法律上、登記実務を行うことは可能ですが、実際に請け負うケースは非常にまれなようです。
依頼した人に発生する手続きは「(4)必要書類への署名捺印」。必要書類とは、遺産分割協議書・登記申請書などの作成や、その他必要な書類です。
このように、専門家に依頼すると手続きの数にも歴然とした差が生じます。専門家に依頼する範囲にもよりますが、自分で直接的に行う手続きがほぼなくなり、ほとんどを専門家に任せられるため、時間や手間の節約に大きく貢献するというメリットがあります。
相続登記で必要な書類
相続登記に必要となる書類は、死亡した人の住民票・固定資産評価証明書・申請書など基本的な書類は共通していますが、相続方法によって若干異なります。
相続方法は「法定相続・遺言書・遺産分割協議書」の3種類があり、それぞれ順番に必要書類を解説していきます。
法定相続に従う場合
法定相続に従って相続する場合は、以下の書類が必要です。
<基本となる書類>
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 固定資産評価証明書
- 死亡した人の住民票除票(または戸籍の除附票)
+
<必要書類>
- 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票(または戸籍の除附票)
+
<専門家や代理人に依頼する場合>
- 委任状(代理権限証書)
「相続関係説明図」とは、死亡した人を中心に、相続人の人数や関係が一覧にまとまっている家系図のような図表。書式などに決まりがなく、住所・死亡日・氏名などの必要事項を記載し、自分で作成できますし、司法書士などの専門家に作成依頼も可能です。
死亡した人の戸籍謄本などに関しては、死亡した人が生まれてから亡くなるまでの戸籍が連続して分かるものが必要です。戸籍謄本以外に、除籍・改製原戸籍が必要となることがあります。また、相続人全員の住民票が必要となるのが、法定相続分に従って相続するケースでの特徴の一つともいえます。
遺言どおりに相続する場合
死亡した人が遺言書を遺しており、その遺言内容に従って相続する場合は、以下の書類が必要です。
<基本となる書類>
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 固定資産評価証明書
- 死亡した人の住民票除票(または戸籍の除附票)
+
<必要書類>
- 遺言書
- 死亡した人の死亡の記載がある戸籍謄本(または除籍謄本)
- 不動産を相続する人の戸籍謄本
- 不動産を相続する人の住民票(または戸籍の除附票)
+
<専門家や代理人に依頼する場合>
- 委任状(代理権限証書)
遺言書は、遺言書の形式によって家庭裁判所での検認が必要となることがあります。死亡した人の戸籍謄本は死亡の記載があるものだけで問題ありません。
「遺言」について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺産分割協議で相続する場合
相続人全員で、遺産分割について話し合う「遺産分割協議」で相続内容を決定する場合、以下の書類が必要です。
<基本となる書類>
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 固定資産評価証明書
- 死亡した人の住民票除票(または戸籍の除附票)
+
<必要書類>
- 遺産分割協議書
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を相続する人の住民票(または戸籍の除附票)
+
<専門家や代理人に依頼する場合>
- 委任状(代理権限証書)
死亡した人の戸籍謄本などに関しては、法定相続のときと同様。死亡した人が生まれてから亡くなるまでの戸籍が連続して分かるもので、除籍・改製原戸籍が必要となることがあります。
なお、遺産分割協議では、相続人全員分の印鑑証明書も必要になります。
相続登記は、今後避けて通れない手続きになる
令和6年4月から相続登記は義務化されるため、今後、相続人にとって避けて通れない相続手続きになる可能性が高いです。死亡した親などが所有していた遠方にある土地や実家といった不動産を、子どもが引き継ぐことは十分に考えられます。
「相続登記とは何か」という基礎を理解できたら、次は、司法書士などの専門家に依頼すべきかを検討しましょう。それによって、手続きの全体の流れや相続人自身が負担する業務量が変化するためです。
「手間暇かけず、確実に相続登記を済ませたい」のであれば、相続対策も踏まえて司法書士などの専門家に依頼することをオススメします。
「実家の相続」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
「田舎の土地の相続」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。