【孫への生前贈与】教育資金の一括贈与を利用した非課税制度の活用等を解説【税制改正迫る】

公開日:2023年9月21日

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孫への生前贈与をお考えですね。通常、孫には相続権がないため、孫に財産を残すためには準備が欠かせません。1つの方法に生前贈与がありますが、制度を理解しないまま実行してしまうと、かえって高い税金がかかってしまう場合があります。本記事では、孫への生前贈与の活用方法から活用したい特例・非課税枠についてご紹介します。

孫への生前贈与は通常の贈与と何が違う?

孫への生前贈与には、通常の贈与と比べて非課税になる特例がたくさんあります。

通常の贈与であれば贈与税が発生したり、あとから相続税の対象になったりするケースがありますが、贈与の相手が孫であれば特例によって税金が発生しないケースが少なくありません。

そのため、孫への生前贈与を利用して相続税対策をする人もいます。ただし、近年法律の見直しが行われており、税金対策として活用をするのであれば早めが良いでしょう。

ここでは、通常の生前贈与と孫への生前贈与、それぞれの非課税枠についてご紹介します。

通常の生前贈与の非課税枠

通常の生前贈与の非課税枠は、課税方法によって異なります。課税方法は、以下の2種類です。

  • 暦年課税
  • 相続時精算課税制度

どちらの制度を選択すべきかは、財産状況や想定される法定相続人の数、贈与される人(受贈者)との続柄など、さまざまな要因を考慮して決定する必要があります。それぞれの課税方法について詳しく確認しましょう。

暦年課税

暦年課税とは、同年1月1日〜12月31日の1年間に贈与された財産に対して課税される課税方法です。暦年課税の贈与税の非課税枠は、1年あたり110万円までと設定されています。110万円の基礎控除を超えた額に対して、贈与税が発生します。

暦年課税を選ぶと、相続開始から遡って3年の間に生前贈与された財産が「もともと相続財産だったもの」として扱われて、相続税の課税対象として扱われる点に注意しなければなりません。さらに、令和5年度の税制改正によって、持ち戻しの期間が3年から7年に変更されることが決まっています。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、同一人物から贈与された財産が限界額に達するまで何度も控除できる課税方法です。2500万円までの贈与に対しては、贈与税が発生しません。2500万円を超えた部分に対して一律20%の贈与税が発生します。

原則的に60歳以上の両親または祖父母などから、18歳以上の子どもまたは孫に対して生前贈与する際にのみ選択できる制度です。

ただし、令和5年度の税制改正によって令和6年1月1日以降の贈与については、相続時精算課税制度を利用した際にも毎年110万円の基礎控除が設けられることが決定しています。

「生前贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

孫への生前贈与の非課税枠

孫へ生前贈与をする場合、上記で解説した基礎控除の非課税枠に加えて以下のような特例を利用できます。

特例非課税枠
住宅取得等資金の贈与最大1000万円(※令和4年以降)
結婚・子育て資金の贈与1000万円
教育資金の一括贈与1500万円

それぞれ条件や適用期間はあるものの、特例を利用すれば多額の非課税枠が使えます。そのため、相続税対策のために孫への生前贈与を活用することは珍しくありません。

わざわざ孫へ生前贈与するメリット

孫へ生前贈与するメリットは、主に4つあります。

  • 使える贈与税の特例が多い
  • 一世代分の相続税がお得になる
  • 3年〜7年以内の生前贈与加算が適用されない
  • 孫への生前贈与は特別受益にはならない

詳しく知って、節税対策の選択肢の1つとして孫への生前贈与を考えましょう。

使える贈与税の特例が多い

孫へ生前贈与する最大のメリットは、使える贈与税の特例がたくさんあるからです。たとえば、結婚・子育て資金を目的とした贈与であれば1000万円までを非課税で贈与できます。

非課税枠におさまる範囲であれば、孫に贈与税納税の義務は発生しません。お金をかけずにあなたの財産を孫へ移動させられます。

もちろん、特例を活用するにはさまざまな条件を満たしている必要があります。しかし、多くのケースで特例が適用させられるため心配はないでしょう。

一世代分の相続税がお得になる

孫へ生前贈与をしておけば、相続税を一世代分お得にできます。

通常、親から子ども、子どもから孫への財産を受け継ぎ、2回の相続税や贈与税が発生します。しかし、「親から子ども」の相続や贈与をスキップさせて、いきなり孫へ財産を引き継ぐと、1回しか税金が発生しません。

一世代先の孫へ生前贈与をすればお得に財産を引き継ぐことができ、その分の節税ができます。

3年〜7年以内の生前贈与加算が適用されない

原則、法定相続人ではない孫への生前贈与では、基本的に相続発生後3年以内の生前贈与加算が適用されません。

生前贈与加算とは、相続発生から遡って3年の間に生前贈与された財産を「相続財産であったもの」として持ち戻し、相続税の課税対象とすることです。もちろん、実際に財産を返す行為は必要ないものの、相続税の課税対象となるため節税効果はありません。

しかし、法定相続人以外の孫には「相続が発生しない」ため生前贈与加算は適用されず、相続税の心配が不要です。そのため、高齢になってからでも生前贈与加算を考慮する必要がありません。

ちなみに、令和5年度の税制改正によって生前贈与加算の持ち戻し期間が、3年から7年に変更されました。実際には、令和9年1月1日以降に発生した相続から生前贈与加算の対象期間が順番に延長されます。

また、場合によっては孫への生前贈与でも生前贈与加算の対象となるため、注意しましょう。

孫への生前贈与は特別受益にはならない

原則、法定相続人でない孫への生前贈与は特別受益にはなりません。特別受益とは、相続人のうちの一部の人が被相続人から遺贈や生前贈与によって特別な利益を受けていた場合の利益のことです。

特別受益があった場合、特別受益の持ち戻しをします。相続財産と特別受益を合算して遺産分割を行わなければなりません。

たとえば、長男・次男・長女の3人が相続人だった場合、長男にだけ「企業のための資金1000万円」を援助していたとしましょう。次男・長女が特別受益を主張すれば、1000万円も相続財産に合算して相続分を決定して公平に財産を分割する必要があります。

しかし、孫が生前贈与を受けていたとしても、法定相続人でないため特別受益には該当せず、遺産分割に影響を与えずに済みます。

孫への生前贈与は非課税枠を上手に利用しよう

孫への生前贈与は非課税枠活用するイメージ

孫へ生前贈与するのであれば、非課税枠を上手に利用して節税対策をしましょう。活用できる非課税枠は、基礎控除額に加えて以下の3つの特例ごとに設定されています。

  • 住宅取得等資金贈与における非課税の特例
  • 結婚・子育て資金における一括贈与の特例
  • 教育資金贈与における一括贈与の特例

それぞれの特例に条件や期限があるため、しっかり確認しましょう。

住宅取得等資金贈与における非課税の特例

住宅取得等資金の贈与の特例とは、成人以上の子どもや孫に対してマイホームの購入資金や増改築費用のための贈与に設けられている非課税限度枠を活用できる制度です。非課税枠は500〜1000万円までで設けられています。

受贈者の前年の合計所得金額が2000万円以下であることが条件です。(ただし、住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満のときは1000万円以下と定められています。)

非課税限度枠は、住宅性能や購入時期によって異なります。

<令和4年1月1日〜令和5年12月31日>

一般住宅省エネ等の住宅
500万円1000万円

住宅取得等資金の贈与の特例は、令和5年12月31日までの贈与に対して適用されます。令和5年度の税制改正では延長されなかったため、注意しましょう。

参照:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁

結婚・子育て資金における一括贈与の特例

結婚・子育て資金における一括贈与とは、子どもや孫に対して結婚・子育て資金を非課税限度枠1000万円まで非課税で贈与できる制度です。受贈者には、以下の条件が設けられています。

  • 18歳以上50歳未満(令和4年3月31日以前の贈与では20歳以上)
  • 前年の合計所得金額が1000万円以下である

結婚・子育て資金には、以下のような費用が含まれます。

  • 挙式費用や衣装代などの婚礼費用
  • 家賃・敷金などの転居費用や、引越し費用
  • 不妊治療・妊婦健診費用
  • 分べん費・産後ケア費用
  • 幼稚園・保育園などの保育料

受贈者が50歳に達した時点における残額は、贈与税の課税対象となるため注意しましょう。

なお、令和5年度の税制改正によって適用期間が令和7年3月31日まで延長されています。

参照:No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

教育資金贈与における一括贈与の特例

教育資金の一括贈与の特例とは、30歳未満の子どもや孫に対して教育資金を非課税限度枠1500万円まで非課税で贈与できる制度です。受贈者の前年の合計所得金額が1000万円以下であることが条件です。

そもそも、都度発生する教育資金に関しては贈与税の対象ではありません。たとえば、孫の入学金や授業料を負担したとしても、それは扶養義務の範囲内と考えられるためです。

教育資金の一括贈与の特例では、一括で贈与する教育資金に対して非課税枠が設けられています。教育資金とは、以下のようなことにかかる費用です。

<学校への支払い>

  • 入学金
  • 授業料
  • 入学受験料
  • 制服や教科書、体操着などの学校で必要なものの購入費用
  • 修学旅行費や校外学習費などの学校教育費用
  • 通学交通費
  • 留学費用

<学校以外への支払い>

  • 学習塾
  • 英会話教室スイミングスクール

学校以外への支払いは、500万円までしか認められておらず、受贈者の年齢が23歳以上となると非課税の対象外となります。

また、30歳になった時点で教育資金を使い切っておらず、残額が出る場合もあるでしょう。このとき、贈与税が課せられるため、注意しなければなりません。

なお、令和5年度の税制改正によって適用期間が令和8年3月31日まで延長されています。

参照:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

生前贈与以外にできる孫による相続税対策の方法

生前贈与以外にも、孫による相続税対策をするための方法があります。

  • 生命保険を利用する方法
  • 孫を養子にする方法

2つの方法を確認し、特例や制度をうまく活用しましょう。

生命保険を利用する方法

孫に生命保険をかけると相続税対策になります。孫の生命保険にかかる保険料を祖父母が支払いをしている場合、解約返戻金の金額が相続評価額となるからです。

解約返戻金とは、生命保険を解約した時に払い戻されるお金のことです。解約返戻金の金額は、今まで支払った額に応じて変動します。

また、金額の低い保険だと解約返戻金がなく、相続評価額は0円です。そのため、相続税を発生させずに生命保険を残すことが可能です。

たとえば、100万円×10年満期で保険料1000万円の解約保険料なしの生命保険に加入していると仮定します。万が一、8年目まで支払いをしていた祖父が亡くなると、孫は自分自身で9年目10年目の保険料200万円を支払う必要があります。しかし、相続税の支払いなしに、保険金1000万円を受け取ることが可能です。

孫を養子にする方法

孫を自分の養子にすれば、相続税対策になります。養子にすれば法定相続人の人数が増え、相続税の基礎控除額が増えるからです。

基礎控除額は法定相続人の人数によって変動し、以下のように計算します。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

つまり、法定相続人が1人増えるたびに、600万円の基礎控除が増えます。

また、自分から子ども、子どもから孫、と相続を一世代スキップさせられるため、2度起きる相続税の納税を1回に抑えられます。

孫への生前贈与を実施するときの注意点

孫への生前贈与を実施する前に、以下の5つの注意点について理解しておきましょう。

  • 生前贈与加算や特別受益の持ち戻しが適用されるケースがある
  • 定期贈与とみなされないよう対策をする
  • 未成年者への贈与は親権者と契約を結ばなければならない
  • 贈与目的以外の使い方ができない
  • 一括贈与は使い残しに贈与税が発生する

注意点を知っておかなければ、「節税したはずだったのに意味がなかった」「かえって税金が高くなった」といった事態が起きかねません。思惑通りに節税対策できるよう、しっかり確認しましょう。

生前贈与加算や特別受益の持ち戻しが適用されるケースがある

法定相続人ではない孫に対して生前贈与した財産は、一般的に生前贈与加算や特別受益の持ち戻しは適用されません。しかし、なかには適用されるケースがあるため注意しましょう。

具体的には、以下のようなケースに生前贈与加算や特別受益の持ち戻しが適用されます。

法定相続人である場合・相続前に養子縁組をした
・相続前に子どもが亡くなっており、孫が代襲相続をした
遺贈を受けている場合・遺言書に孫に対して財産を相続させると記載があった
みなし相続財産を受けとっている場合・生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産を受けとった

以上のような場合、法定相続人と同等の扱いになるため、生前贈与加算や特別受益の持ち戻しが適用されてしまいます。適用されると、相続税の課税対象となったり、遺産分割の内容に影響が出たりするため、あらかじめ理解しておきましょう。

定期贈与とみなされないよう対策をする

定期贈与とみなされないよう対策をしましょう。定期贈与とは、一定期間一定の財産を贈与する契約です。たとえば10年間100万円贈与するといった内容で契約を交わすことが該当します。

このとき注意すべきポイントは、1年間に贈与する額である100万円に課税されるわけでなく、契約をした1000万円に対して贈与税が課税されることです。

たしかに、暦年課税を採用すれば毎年110万円までの基礎控除を使えます。毎年基礎控除に収まる範囲で贈与することには法的に問題ありません。

しかし、税務調査によって定期贈与だと指摘されると、遡って1000万円に対する贈与税を納める必要があります。延滞税や過少申告課税も課せられ、余分な支払いをしなければなりません。

定期贈与とみなされないためには、以下のような対策を実践することをおすすめします。

  • 贈与するたびに贈与契約書を作る
  • 毎年同じ時期に贈与しない
  • 毎年同じ額の贈与をしない

以上のように定期贈与とみなされない対策をして、基礎控除を活用しましょう。

未成年者への贈与は親権者と契約を結ばなければならない

孫が18歳未満の未成年者である場合、孫の親権者である父・母と贈与契約を締結しなければなりません。そもそも、生前贈与は片方の意志では成り立たず、双方の合意をもって成立する法的行為です。しかし、未成年者には判断できないため、親権者と契約を交わします。

契約書がなくても生前贈与は成立しますが、税務署から「本当に贈与が行われていたのか」と疑われるリスクを回避するために書面を交わすことをおすすめします。なかでも、名義預金を疑われると、契約書なしに贈与の事実を証明することは困難です。

万が一、贈与でないと判断されてしまうと、相続税が余分に発生する恐れがあるため注意しましょう。

贈与目的以外の使い方ができない

特例を使って生前贈与した場合、目的以外の使い方ができません。なぜなら、特例を適用させる場合、財産の使用用途が限定されているからです。

たとえば、結婚・子育て資金の贈与の特例を活用して生前贈与をするのであれば、結婚・子育て資金の贈与のための口座を開設しなければなりません。使用の際には、結婚・子育てのための資金に使うと証明するための領収書やレシートを金融機関に提出する必要があります。

結婚・子育て資金の贈与の特例において、結婚式費用は対象ですが、披露宴に向けた美容エステや新婚旅行にかかった費用は対象外です。特例ごとに、どのような資金であれば使えるのかを理解した上で、特例を活用しましょう。

一括贈与の使い残しには贈与税が発生する

特例を使って一括贈与をする場合、使い残した分に対して贈与税が発生するため注意しましょう。

結婚・子育て資金における一括贈与の特例は、受贈者が50歳未満であることが要件となっています。教育資金贈与における一括贈与の特例においては、受贈者が30歳未満まで(学校以外への支払いは23歳まで)であることが要件です。規定された年齢に達した時点で、契約は終了します。

たとえば、1000万円の結婚・子育て資金における一括贈与を受けたとき、「50歳になった時点で200万円残金がある」といったことは珍しくありません。このとき200万円の残金に対して贈与税が発生します。

ただし、教育資金贈与における一括贈与を受けて30歳を迎えたとしても、まだ在学中・教育訓練受講中であれば贈与税は発生しません。在学・受講が終わった年の年末、または40歳になったときの残金に対して贈与税が発生します。

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孫に生前贈与するなら専門家に相談することも検討しよう

孫に生前贈与をすることで、節税対策につながるケースはたくさんあります。しかし、現在、税制改正が進められている真っ只中です。適用期間や要件、非課税枠が変更されている今、節税対策をしたいなら専門家へ相談することをおすすめします。

税制改正前に早く孫へ生前贈与した方がメリットを享受できる可能性は否定できません。しかし、人によっては他の方法で節税した方がお得な場合があるので、税制改正の内容に合わせて生前贈与を検討しましょう。

生前贈与をすべきかどうか、いくら生前贈与をすべきかといった細かな部分は、財産状況やご家庭の状況によって判断が異なります。贈与税・相続税に詳しい専門家に相談し、最適なアドバイスをもらいましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年9月21日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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