先祖代々のお墓が大切なものであることは理解していても、お墓を引き継ぎたくないと考える方は少なくありません。自分1人の問題ではないからこそ、頭を悩ませることでしょう。本記事では、お墓を引き継ぎたくないときの対処法やお墓を引き継ぐ人の決め方について詳しく解説します。墓じまいやお墓の移転などのさまざまな選択肢を知って、最善の対処法を見つけましょう。
目次
お墓は誰が引き継ぐべきなのか
さまざまな理由からお墓を引き継ぎたくないと感じている方は、自分がお墓を引き継がなければならないのかと不安に感じているかもしれません。現在あるお墓を誰が引き継ぐのかは、原則祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)と決まっています。
まずは、お墓を引き継ぐ祭祀承継者について以下のポイントごとに詳しく理解を深めましょう。
- お墓を引き継ぐのは祭祀承継者
- 祭祀承継者になったときに負担するもの
- 祭祀承継者の決め方
順番に解説します。
お墓を引き継ぐのは祭祀承継者
お墓を引き継ぐ人のことを祭祀承継者と呼びます。祭祀承継者とは、お墓や仏壇などを引き継ぐ人のことです。
そもそも、お墓は法律によって祭祀財産であると定められています。祭祀財産とは、先祖を祀るための財産の総称です。お墓のほかに、仏壇や位牌、家系図なども祭祀財産に含まれます。祭祀財産は分割できるものではなく、誰か1人が引き継いで管理していかなければなりません。
下記のように、民法第897条で祭祀財産の承継について定められています。
1系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。※引用:民法|第897条(祭祀に関する権利の承継)
つまり、「慣習にならって家庭内で引き継ぐ人を決めるべきで、亡くなった方の指定がある場合はその人が引き継ぐこととなる。それでも決まらなければ家庭裁判所が引き継ぐ人を決定する」と記載されています。
法的効力の観点から見ると、慣習にならって決められた人よりも、亡くなった方が指定した人の方が優先度が高い点に注意しましょう。
たとえば、日本では「先祖代々の家のものは長男が継ぐもの」という習わしがまだ残っています。話し合いで長男が継ぐと決まったとしても、亡くなった方が遺言書で次男を指定していたのであれば次男が祭祀承継者としてお墓や仏壇を引き継ぐこととなります。
祭祀承継者になったときに負担するもの
祭祀承継者となった場合、先祖代々守られてきた財産を引き継がなければならず、さまざまな負担が生じると想定されます。そのため、負担するものがある事実を理解したうえで祭祀承継者になるかどうかを決める必要があるでしょう。
祭祀承継者になったときに負担するものの例は、下記の通りです。
- 祭祀財産の維持管理:墓石や仏具の掃除や管理費の支払いを行う
- 法要:節目の周忌に親族を集めて法要を行う
- 檀家としての付き合い:檀家としての行事の参加や寺の修繕費の負担を行う
- お墓・遺骨の処分:管理ができなくなった場合の処分を行う
このように、先祖から引き継いだお墓や仏壇を守っていくためには、責任が発生します。
これらに「時間が割けない」「経済的に厳しい」と負担に感じる場合は、祭祀承継者にならない方がよいでしょう。
祭祀承継者の決め方
祭祀承継者の決め方は、効力が強い順番に並べると下記の通りです。
- 亡くなった方による遺言で指定された人
- 慣習にならって決まった人や親族で話し合って決まった人
- 家庭裁判所が定める人
亡くなった方が遺言で指定した人がいれば、その人が祭祀承継者です。遺言がなかった場合は、残された親族同士で話し合いを行って祭祀承継者を決めます。
しかし、話し合いができない状況や、話し合いをしても決まらなかった場合は、家庭裁判所に祭祀承継者を指定してもらいます。家庭裁判所から指定された人は拒否することができないため、できるだけ裁判に至る前に祭祀承継者を決めるようにしましょう。
お墓を引き継ぎたくない場合の対処法
お墓を引き継ぎたくない場合、下記のような方法で対処する選択肢があります。
- 他の人に祭祀承継者になってもらう
- 墓じまいする
- お墓を移転する
選択肢を理解して、最適な対処法を選びましょう。
他の人に祭祀承継者になってもらう
まずは、他の人に祭祀承継者になってもらえないか親族間で話し合いの場を設けることから検討しましょう。
万が一、祭祀承継者が決まらずに裁判まで発展してしまい、祭祀承継者として指定されると拒否できなくなります。そのため、裁判になる前に話し合いで祭祀承継者を決めることが重要です。
法律では、親族から祭祀承継者を選ばなければならないといった決まりはなく、仲良くしている近所の方や信頼できる友人にお墓を引き継いでもよいとされています。
ただし、霊園や寺院によっては親戚以外が祭祀承継者になることを禁止している場合があります。あらかじめ墓地管理者に問い合わせるようにしましょう。
墓じまいする
お墓の管理・維持にかかる負担から解放されたい場合は、墓じまいを検討しましょう。墓じまいとは、お墓を撤去して更地にし、霊園や寺院などの管理者に墓地を返すことです。
墓じまいをするには、墓地管理者との交渉や行政の手続き、石材業社への撤去依頼など、さまざまな作業が発生します。撤去にかかる費用に20〜50万円程度かかると考えておきましょう。
お墓を撤去する際には遺骨を取り出すため、その後どのように供養するかも同時に考える必要があります。
考えられる供養の方法と費用相場は、下記の通りです。
供養の方法 | 費用相場 | |
---|---|---|
永代供養 | 合祀墓(遺骨を他の人のものと混ぜて納骨して記念碑を建てる供養方法) | 5万〜30万円程度 |
納骨堂(ロッカー型や仏壇型の納骨堂に遺骨を納める供養方法) | 20万〜180万円程度+年間管理費 | |
樹木葬(墓石の代わりに樹木をシンボルに遺骨を埋葬する供養方法) | 5万〜150万円程度 | |
散骨(海洋や山などに遺骨を撒く供養方法) | 3万〜50万円程度 | |
手元供養(自宅や身近な場所に遺骨を保管する供養方法) | 0円 |
墓じまいや供養の方法に関しては、親族や墓地管理者との話し合いが必要不可欠です。
合意を得られないまま無理に墓じまいを進めようとするとトラブルの元になりかねないため、注意しましょう。
お墓を移転する
お墓が遠方であることが原因で引き継ぎたくないと考えるのであれば、管理しやすい場所へお墓を移転させる選択肢もあります。
核家族化や少子化といった社会の変容や都市部へ転居する方の増加などによって、お墓の移転を検討するケースは少なくありません。お墓を移転することでお墓の管理・維持の負担が減るのであれば、前向きに検討しましょう。
ただし、お墓を移転させるには、今あるお墓の撤去と新しいお墓に一定の費用がかかります。費用の目安は、100万〜250万円程度と考えておきましょう。撤去するお墓の大きさや新しいお墓によって費用に大きな幅があります。
お墓を引き継がずに放置するとどうなるのか
お墓を引き継がずにそのまま放置していると、お墓は強制的に撤去されます。本来、霊園や寺院に対して年間管理費を納めなければなりません。しかし、規定は管理側によってさまざまですが、目安として5年間未納状態が続くと霊園や寺院側の判断でお墓が撤去されます。
撤去されたお墓から遺骨が取り出されますが、無縁仏となって合祀されることとなります。たくさんのご先祖さまが眠っているお墓だと、心苦しいと感じられるのではないでしょうか。
もちろん未納状態が続くと、お墓を放置している霊園や寺院に多大な迷惑がかかります。祭祀継承者には催促状が届き、官報に氏名が掲載される場合もあります。
お墓の面倒が見れなくなる前に、自分の代で墓じまいすることを検討しましょう。
お墓を引き継ぐ方法と墓じまいの方法
ここではお墓を引き継ぐ方法と墓じまいの方法について詳しく解説します。
お墓を引き継ぐ方法
今あるお墓を引き継ぐときの流れは、下記の通りです。
- 墓地管理者に連絡をする
- 必要書類を提出する
- 名義変更手続きを行う
祭祀承継者が決まったら、墓地管理者に連絡をして名義変更をしたい旨を伝えましょう。名義変更に必要な書類を伝えられるため、必要書類の収集を行います。
一般的に提出を求められる必要書類は、下記の通りです。
- 墓地使用権を取得したときに発行された書類(墓地使用許可証や永代使用承諾証など)
- 承継の理由がわかる書類(亡くなった方の戸籍謄本や除籍謄本など)
- 祭祀承継者の戸籍謄本
- 祭祀承継者の実印と印鑑証明書
墓地使用権を取得した時期が何世代も前だった場合、取得時に発行された書類が家の中から見つからない可能性があります。事情を墓地管理者に伝えておくとスムーズに名義変更の手続きができるでしょう。
名義変更には手数料として1500〜5000円程度の費用がかかります。墓地管理者に金額と支払い方法について確認しておきましょう。
また、寺院墓地の場合、檀家としての立場も引き継ぐこととなるため、お布施を包むケースもあります。お布施の額は寺院との付き合いによって異なります。迷った場合には、直接寺院に問い合わせておくと今後も円満な関係が築けるでしょう。
墓じまいをする方法
お墓が引き継げない場合は放置せずに、墓地管理者に迷惑がかからないよう墓じまいをしましょう。墓じまいをするときの流れは、下記の通りです。
- 遺骨の受け入れ先を決定する
- 墓地使用契約を解約する
- 改葬手続きをする
- 墓石を撤去する
ステップごとに具体的な手続き内容を解説します。
1.遺骨の受け入れ先を決定する
まずは、遺骨の受け入れ先を決める必要があります。受け入れ先としては、永代供養や樹木葬などの選択肢があります。
以前は「遺骨はお墓に眠らせるもの」という考えが一般的でした。しかし、現代ではライフスタイルや価値観の変化によって、さまざまな供養の選択肢があります。
遺骨の受け入れ先が決まらなければ次の手続きを進められないため、墓じまいを考えるときには1番に検討を進めましょう。
2.墓地使用契約を解約する
つづいて、墓地使用契約の解約手続きを進めます。墓石は性根抜きを行わなければ解体はできません。性根抜きとは、墓石のなかに眠っている仏様の性根を抜くことです。魂抜きや閉眼、遷仏、発遣などと呼ばれるケースもあります。
もし、寺院の境内にお墓がある場合、工事の段取りに関しても打ち合わせして決めていかなければなりません。また、墓じまいによって檀家をやめること(離檀)を検討しているのであれば、その話し合いも必要です。
墓地管理者には「墓地使用契約の解約を検討している」と問い合わせ、方針を決めるための時間を改めて作ってもらいましょう。
3.改葬手続きをする
今あるお墓から遺骨を移して別の場所へ供養することを改葬と呼びます。
改葬をする際、「墓地、埋葬等に関する法律」の第5条で定められている通り、お墓のある自治体の市区町村長から許可を取らなければなりません。
手続きの流れは、下記の通りです。
- 今の墓地管理者に納骨証明書を発行してもらう
- 改葬先の墓地管理者に受入証明書を発行してもらう
- 今のお墓がある市区町村役場に納骨証明書と受入証明書を提出して改葬許可証を発行してもらう
- 改葬先の墓地管理者に改葬許可証を提出し、納骨する
新しい供養方法に散骨や手元供養を選ぶ場合には、改葬許可証を取得する必要はありません。
4.墓石を撤去する
最後に、今ある墓石の撤去を行います。撤去作業を依頼する石材店は、墓地管理者が指定するケースと、自分で探すケースがあります。あらかじめ墓地管理者に確認しておきましょう。
自分で石材店を探す場合は、複数の業者から見積もりを取って比較したうえで依頼先を決定すれば費用を抑えられる可能性が高まります。
お墓の相続に関する注意点と知っておきたいこと
お墓の相続に関する注意点と知っておきたいことについて、こちらの章でまとめました。
- 祭祀承継者はお墓の相続を拒否できない
- お墓の管理・墓じまいの費用を考慮して相続する
- お墓の管理を代行してくれるサービスがある
- 一族のお墓から1人だけ移る選択肢もある
最後まで確認し、お墓の相続についての疑問を解消しましょう。
祭祀承継者はお墓の相続を拒否できない
亡くなった方からの指定や親族間での話し合い、家庭裁判所からの指名など、いずれかの方法によって祭祀承継者に選出されると、相続放棄をしたとしてもお墓の引き継ぎを拒否することができません。
そもそもお墓は祭祀財産の1つであり、相続財産に含まれない財産です。たしかに相続放棄をすれば相続人としての地位を失い、相続財産を相続できなくなります。
しかし、相続放棄をしても祭祀承継者としての地位からは逃れられず、相続財産に含まれていないお墓や仏壇を引き継ぐ必要があります。
なお、お墓は相続税の課税対象ではありません。お墓を引き継ぐからといって相続税が高くなることはないため、安心してください。
お墓の管理・墓じまいの費用を考慮して相続する
祭祀承継者になると、墓地の管理費の支払いや法要の執り行い、檀家として発生する費用など、経済的な負担が伴います。基本的には祭祀承継者が1人で負担することとなりますが、祭祀承継者になることを理由に他の相続人に対して費用を請求できるわけではありません。
また、祭祀承継者であることを理由に相続財産の取り分を多くもらえるといった決まりもありません。ただ、祭祀承継者として将来的に負担するであろう費用を考慮して、遺産分割協議で有利になるよう主張することは可能です。
さらに、相続放棄をしてしまうと財産を相続できなくなるので経済的負担が重くなってしまいます。相続財産があるのであれば相続放棄せずに財産を受け取り、お墓を守っていくために必要な費用を賄えるようにしましょう。
お墓の管理を代行してくれるサービスがある
お墓の管理が負担に感じる場合、お墓の管理代行サービスを利用することも検討しましょう。代行サービスを利用する方の理由は、下記のようにさまざまです。
- 仕事が忙しくてお墓参りに行けない
- お墓が遠方にあってお墓の掃除ができない
- 高齢になって出かけることができない
このように、お墓を引き継ぐ気持ちがあるものの、お墓の管理や掃除ができない場合はぜひ検討しましょう。墓参りの代行だけでなく、掃除やお供えのサービスもあります。
代行サービスの費用は、1回あたり2万〜3万円程度です。お墓の大きさや状態によっても変わるため、見積もりを取るところから始めましょう。
一族のお墓から1人だけ移る選択肢もある
先祖代々のお墓があったとしても、かならずしもそのお墓に入らなければならないわけではありません。
たとえば、「1人だけのお墓に移りたい」「婚家のお墓に入らずに実家のお墓に入りたい」という場合、叶える方法は下記のようにたくさんあります。
- 個人墓や夫婦墓を建てる
- 永代供養にする
- 散骨・樹木葬などで供養する
ただし、新しくお墓を建てると膨大な費用がかかったり、配偶者や子どもが入るお墓に悩んだりと問題が出てくる場合もあります。
あらかじめ家族や親族に独立したお墓に入りたいことを相談し、理解を得たうえで先祖代々からのお墓に入らないことを決めましょう。
お墓を引き継ぎたくないときは親族と相談しよう
お墓を引き継ぎたくないと考えている場合、親族との話し合いをしておきましょう。祭祀承継者は指名されると拒否できないため、現在の祭祀承継者がいるうちに次の祭祀承継者を決めておき、遺言書で指名してもらうと確実です。
しかし、なかには仕方なく祭祀承継者になる場合もあるでしょう。お墓は亡くなった方が平穏に眠る場所であり、家族や親族をつなげてくれる大事な場所のため、勝手に墓じまいをしたり管理を放棄したりすると、親族との関係悪化につながりかねません。
祭祀承継者になったものの負担が大きく、自分の手に負えないと感じたときは真っ先に家族や親族に相談をしましょう。また、第三者を含めた話し合いの場を設け、客観的な意見をもらうこともおすすめします。
「お墓を誰が引き継ぐべきか」と同時に他の相続についても一緒に専門家へ相談すると、的確なアドバイスがもらえます。遺言書作成や生前贈与なども含め、生前対策をしておくと親族全員が安心できるでしょう。
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