生活保護受給者は遺産相続できる?受給に与える影響や相続放棄の考え方を解説

公開日:2024年10月22日

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生活保護受給者も他の相続人と同じように遺産相続できます。しかし、遺産相続をしたことで生活保護が受けられなくなるケースがあることを理解しておかなければなりません。本記事では、遺産相続したときに生活保護の受給に与える影響や相続放棄の考え方について詳しく解説します。現在生活保護を受けている方で相続の予定がある場合は、ぜひ参考にしてください。

生活保護受給者が遺産を相続する場合

生活保護受給者だからといって、遺産を相続する権利が失われることはありません。しかし、遺産相続によって生活保護受給ができなくなるケースがあります。

ここでは、生活保護受給者が遺産を相続する場合に知っておきたいポイントを下記の順番に解説します。

  • 生活保護を受けていても遺産相続はできる
  • 遺産を相続したら生活保護は受給停止や廃止になる?
  • 相続財産が少額であれば生活保護には影響しない

詳しく確認しましょう。

生活保護を受けていても遺産相続はできる

生活保護を受けている方も、他の相続人と同様に遺産相続はできます。相続人になるための要件に、生活保護を受けているかどうかが含まれていないからです。

もちろん、生活保護を受けていない相続人と区別されることもなく、法定相続分に違いはありません。

遺産を相続したら生活保護は受給停止や廃止になる?

生活保護受給者が遺産を相続するときに注意すべき点は、相続によって生活保護の受給資格を満たさなくなる場合があることです。受給資格を満たさなくなった場合、受給の停止あるいは廃止となります。

生活保護法によって、受給資格は下記の通りに定められています。

保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。※引用:生活保護法|4条(保護の補足性)

さらに、保護の停止及び廃止についても、下記のように定められています。

保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。※引用:生活保護法|26条(保護の停止及び廃止)

もし、遺産相続によって最低限の生活を維持できるようになったのであれば、「被保護者が保護を必要としなくなつたとき」に該当するため、生活保護の受給ができなくなるでしょう。

受給自体はストップしなくても、受給額が減少する可能性は否定できません。

相続財産が少額であれば生活保護には影響しない

遺産を相続したとしても、最低限度の生活が維持できないほどの少額であれば、生活保護の需給に影響を受けません。

たとえば、1か月の受給額に満たないほどの少額だったり、売却しても二束三文の利益にしかならない土地・建物だったりすると、今まで通り生活保護の受給を続けられます。

なかには「どれくらいの金銭を相続すると生活保護に影響を受けるのか」気になる方もいるでしょう。

しかし、「いくら相続すると生活保護の受給ができなくなる」といった線引きは明確に設けられていません。100万円を相続したとしても、生活保護に影響があるかどうかは人によって異なります。

一般的に、相続した遺産を活用したとしても、6か月以内に保護が必要な状態になると予測される場合、「停止」される可能性が高いです。また、6か月以上に保護が必要な状態になることはないと予測される場合は、「廃止」となる場合があります。

仮に、1か月に受給している保護費が10万円だったとき、100万円の金銭を相続したのであれば6か月分の受給額を超えるため廃止される可能性があると考えておきましょう。

状況によって受給の判断が変わるため、担当のケースワーカーに相談することをおすすめします。

生活保護を受給していても相続放棄はできる?

生活保護を受給していても相続放棄はできる?のイメージ

遺産を相続することで生活保護を受けられなくなるのであれば、相続放棄をして生活保護を受給し続けたいと考える方もいるでしょう。

たしかに、生活保護受給者であるかどうかにかかわらず、相続人は家庭裁判所で相続放棄の手続きができます。「生活保護受給者である」という理由で相続放棄が認められないことはないでしょう。

ただし、相続放棄をすることによって生活保護の受給に影響を与える場合があります。下記の順番に、生活保護受給者の相続放棄について確認しましょう。

  • 相続放棄は可能
  • 相続放棄を検討した方がよいケース

詳しく確認しましょう。

相続放棄は可能

先述の通り、生活保護受給者にも相続放棄する権利はあります。しかし、生活保護受給者は、原則相続放棄できないと言われていることも事実です。

なぜなら、生活保護を受け続けることを目的に相続放棄することを認めてしまうと、生活保護を受給するための条件を満たしていない方に生活保護を受給させることになってしまうからです。

本来であれば遺産を相続すると最低限度の生活の維持できたはずだったにもかかわらず、自らの選択によってその機会を損失させたとも捉えられます。

しかし、相続放棄は身分行為です。生活保護受給者だからといって、相続放棄をする自由を奪うことはできないでしょう。

相続放棄を検討した方がよいケース

生活保護受給者が相続放棄を検討した方がよいケースは、下記の通りです。

  • 遺産にマイナスの財産が多い
  • 現金化が難しい土地・建物などが遺産の大部分を占めている
  • 相続税の負担が大きい

しかし、さまざまな観点から、相続放棄すべきかどうかを判断する必要があります。担当のケースワーカーや弁護士などに相談し、慎重に判断しましょう。

生活保護受給者が遺産相続する場合の注意点・知っておきたいこと

生活保護受給者が遺産を相続するときの注意点は、下記の通り5つあります。

  • 事前に専門家やケースワーカーに相談する
  • 福祉事務所に必ず届出を行う
  • 相続税が発生する場合は納税する
  • 正しく手続きを行わないと生活保護費の返還請求をされる可能性も
  • 打ち切られても改めて生活保護を受ける事もできる

順番に確認しましょう。

事前に専門家やケースワーカーに相談する

相続が発生したら、相続をどうすべきか専門家や担当のケースワーカーに相談しましょう。相続した場合に生活保護の支給にどのように影響するかを知ったうえで、他の相続人と遺産分割協議をおこなったほうがスムーズに相続手続きができるからです。

また、相続放棄の期限は、相続発生を知ってから3か月以内です。相続放棄を検討している場合は、早期に的確なアドバイスをもらって判断するための材料を揃えましょう。

どこに相談すべきか分からない場合は、法テラスの活用がおすすめです。法テラスとは、経済的にお困りの方でも弁護士に相談できる国が設立した機関です。

無料で法律相談に乗ってもらえる可能性があるため、積極的に活用しましょう。

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福祉事務所に必ず届出を行う

遺産を相続したら、必ず福祉事務所へ届出を行いましょう。

生活保護法では下記のように、収入・支出や生計状況に変動があった際に福祉事務所長へ届出をしなければならないと定められています。

被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。※引用:生活保護法|61条(届出の義務)

遺産によって資産が増えた場合にも、届出が必要です。バレないだろうと思って届出を怠ると、不正受給とみなされかねません。不正受給をすると、ペナルティとして不正に受け取った受給額に最大40%上乗せして返還する必要があります。

不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。※引用:生活保護法|78条(費用等の徴収)

不正受給にならないよう、早めに遺産相続した事実を福祉事務所へ届出をしましょう。

相続税が発生する場合は納税する

相続税が発生する場合、生活保護受給者であっても相続税の納税義務があります。生活保護受給者だからといって免除されることはありません。

ただし、相続税の申告・納税の義務は、遺産総額が基礎控除額を超えたときに限ります。基礎控除額は、下記のように算出します。

基礎控除額=3000万円+(600万円×相続人の数)

基礎控除額を超える場合でも小規模宅地等の特例や配偶者控除などの活用によって、実際に納める相続税額が低くなるケースはたくさんあります。

相続税が基礎控除額を超える場合、早期に専門家である税理士に相談しましょう。無料相談を受け付けている税理士事務所も多いため、ぜひ活用してください。

正しく手続きを行わないと生活保護費の返還請求をされる可能性も

遺産相続をする際、正しく手続きを行わなければ生活保護費の返還請求をされる可能性があるため注意しましょう。

不正受給が発覚すると、受給した生活保護費にペナルティを加算して返還する必要があります。最悪の場合は、刑事責任も問われるでしょう。

生活保護費の不正受給だとみなされる可能性のあるケースは、下記の通りです。

  • 福祉事務所に遺産相続の事実を故意に隠す
  • 財産を取得したにもかかわらず生活保護の受給を申請する
  • 生活保護を継続するために本来受け取れた遺産を受け取らない

生活保護は、最低限度の生活を送るために必要な収入がない方に向けた支援制度です。遺産相続によって資産が増えたにもかかわらず、それを隠して生活保護を受けると不正受給に該当します。

また、合理的な理由なしに、生活保護を受ける目的で相続する財産を少なくする行為も禁止されています。意図的に収入や資産を減らす行為は、本来の生活保護制度の主旨から外れるためです。

このような不正行為・不正受給を行うと、生活保護費の返還はもちろん、詐欺罪に問われて刑事罰を受ける場合があります。生活保護を受給しているときに相続が発生する場合は、早めに専門家やケースワーカーに相談して正しい手続きを行いましょう。

打ち切られても改めて生活保護を受ける事もできる

遺産相続をしたことで生活保護が停止もしくは廃止になったとしても、再び受給の要件を満たせば生活保護を受けることが可能です。

相続した財産でしばらくは生活できたとしても、いつかはなくなってしまうでしょう。相続財産がなくなってしまい、生活が立ち行かなくなった場合にはあらためて生活保護を再申請しましょう。

ただし、生活保護は、あくまでも自分で収入を得ることができない方のためにある救済制度です。相続した財産がなくなるまえに、安定した生活が送れるよう就業先や住居を見つける努力をすることが大切です。

生活保護受給中に遺産相続する場合は適切な手続きを行おう

生活保護の受給の有無によって、遺産相続に影響を与えることはありません。他の相続人と同様に相続する権利を持っています。

しかし、相続する財産の内容によっては、生活保護が停止または廃止となる可能性があります。状況によってどのような対応になるかが異なるため、早めに担当のケースワーカーや専門家に相談するようにしましょう。

また、生活保護を続けるために遺産相続の事実を隠したり、相続する財産を減らしたりする行為は、不正行為・不正受給とみなされる恐れがあります。遺産相続後は早急に福祉事務所へ届出を行い、今後の受給について説明を受けましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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