株式の相続に必要な手続きや分割方法、評価額の計算方法を徹底解説

公開日:2024年10月15日

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株式が相続財産に含まれている場合、スピーディーにさまざまな手続きを終えなければなりません。本記事では、株式の相続に必要な手続きの流れや株式の分割方法、評価額の計算方法について詳しく解説します。売却したい方向けの注意点も解説しているため、ぜひ参考にしてください。これから相続手続きを進めようとしている方の助けになると幸いです。

株式を相続した際の相続手続きの流れ

被相続人の財産のなかに株式があった場合、相続財産の対象です。株式を相続する際の手続きの流れは、下記の通りです。

  1. 相続人・財産・遺言書の有無の調査
  2. 準確定申告
  3. 遺産分割協議
  4. 名義変更
  5. 相続税の申告・納付

順番に確認しましょう。

相続人・財産・遺言書の有無の調査

まず、相続が発生したら相続人や相続財産を確定する作業を行います。相続人は被相続人の戸籍をたどって調査を行い、財産は家に残されている預金通帳や固定資産税の納税通知書などから調査を行います。

また、遺言書が残されているかどうかの確認も必要です。遺言書があれば相続人や財産について記載されている可能性があります。自宅や貸金庫にないか、しっかり調査しましょう。

株式が相続財産に含まれているかどうかを確認するには、株式が上場か非上場かで探し方が異なります。

上場株式とは、証券取引所で売買される株式です。取引している証券会社があるはずですが、どの証券会社と取引していたか分からない場合は、証券保管振替機構に開示請求をすれば教えてもらえます。

一方、非上場株式は証券取引所で売買されていない株式です。証券会社経由で取引を行わないため、被相続人の記録や管理している書類が手がかりとなります。株式を保有していることが分かれば、その会社に問い合わせて持株数などを確認しましょう。

準確定申告

被相続人に所得があった場合、相続人が被相続人に代わって確定申告をする必要があります。これを準確定申告と呼びます。準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。

一定の所得がない場合や、勤めている会社が年末調整をしてくれる場合には準確定申告を行う必要はありません。

ただし、株式等による配当金も準確定申告が必要な所得に該当します。被相続人の生前に配当金を受け取っていた場合は、被相続人の所得として準確定申告しなければなりません。

一方、被相続人が亡くなる前に配当基準日が到来しているものの、生前に配当金を受け取っていない場合は受け取る権利が相続財産に含められます。つまり、準確定申告が必要な所得には該当しません。

遺産分割協議

遺言書が残されていなかった場合、相続人全員による遺産分割協議を行いましょう。遺産分割協議では、誰がどの財産をどのように相続するかを決定します。

株式が相続財産に含まれている場合、株式の分割方法は下記の3つの方法があります。

現物分割株式のまま取得する方法
代償分割1人が株式を取得して、他の相続人に対して相当の金銭を支払う方法
換価分割株式を売却して得た対価を相続人で分割する方法

株式は日々価格が変動しますが、遺産分割協議を行う際の株式の評価基準時は分割時です。相続発生日が評価基準時となる相続税申告における評価額と異なるため注意しましょう。

また、未受領の配当金がある場合は受取方法も決定しなければなりません。

遺産分割協議で決まった遺産分割の内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の署名押印をします。遺産分割協議書は株式の名義変更や他の相続手続きの際に提出を求められるため、早いうちに作成しておきましょう。

名義変更

遺産分割協議が終わったら、株式を相続する方が引き継ぐために名義変更する手続きを行います。

上場株式の場合、証券会社に問い合わせをして名義変更を行いましょう。所定の申込用紙を作成し、指定の必要書類を添付して提出します。名義変更に必要な書類は証券会社によって異なりますが、一例を挙げると下記の通りです。

  • 遺産分割協議書
  • 相続人の印鑑証明
  • 被相続人・相続人の戸籍謄本

すでに相続する方が証券口座を所有していれば名義変更するだけで手続きは完了します。しかし、証券口座を所有していないのであれば証券口座を開設したのちに名義変更の手続きを行わなければなりません。

一方、非上場株式の場合、発行元の企業と直接やりとりしながら名義変更の手続きを行います。必要書類については、企業ごとに異なるため指示に従ってください。手続き完了後は、かならず手続きした方の氏名が株主名簿に記載されているか確認しましょう。

相続税の申告・納付

最後に、相続税の申告・納付を行います。相続税の申告・納付期限は、相続発生を知った日の翌日から10か月以内です。

株式が相続財産に含まれている場合、相続税を算出するために評価額を計算しなければなりません。上場株式と非上場株式では算出方法が異なり、非上場株式の方が複雑です。

遺産分割協議や株式の名義変更、株式の評価額の計算など、相続税の申告・納付までにしなければならない手続きはたくさんあります。期限に間に合うよう、早くから計画的に準備を進めましょう。

株式の分割方法

複数人の相続人がいる場合、相続財産である株式を分割しなければならないケースがあるでしょう。株式の分割方法は、下記の通り3つあります。

  • 現物分割
  • 代償分割
  • 換価分割

具体的にどのように分割をするのか確認しましょう。

現物分割

現物分割とは、株式をそのまま引き継ぐ方法です。たとえば、下記のような方法が現物分割に該当します。

  • 相続財産の株式をすべて1人の相続人が引き継ぐ
  • 3種類の銘柄の株式を3人の相続人でそれぞれ引き継ぐ
  • 1000株ある株式を500株ずつ2人の相続人で分ける

株式は、不動産と違って平等に分割することが可能です。

このように、株式を換金したり代償金を支払ったりせずに株式のまま分割する方法を現物分割と呼びます。

代償分割

代償分割とは、1人の相続人が株式を相続して、他の相続人に代償金を支払って分割する方法です。

たとえば、配偶者・長男・次男の3人が相続人だったとしましょう。このとき、配偶者が評価額1000万円の株式を相続し、長男と次男に250万円ずつ代償金を支払えば相続分通りの分割が叶います。

このように代償金を支払ってそれぞれ相続によって利益を得る方法を代償分割と呼びます。

代償分割をする際は、支払った代償金が贈与とみなされ贈与税が課税される恐れがあるため、遺産分割協議書に誰が誰に代償金を支払うのかを記載するようにしましょう。

換価分割

換価分割とは、相続財産である株式を売却して、売却益を相続人で分割する方法です。金銭に変えてから分割することで、投資に興味のない相続人であっても相続しやすくなるでしょう。

売却によって得られた売却益は、法定相続通りに分割しても、遺産分割協議で他の分け方をしても問題ありません。

株式の相続税評価方法

株式の相続税評価方法のイメージ

株式の相続税評価方法は、上場株式か非上場株式かによって異なります。それぞれの評価方法について、詳しく確認しましょう。

なお、ここで解説する相続税評価方法と遺産分割時の評価方法は同様の計算式を使えますが、評価基準時が異なる点に留意してください。

上場株式の場合

上場株式の場合、相続発生日の終値が相続税評価額の基準となります。計算式は、下記の通りです。

相続税評価額=相続発生日の終値×株式数

たとえば、相続発生日の終値が1200円で2000株持っていたときの相続税評価額は、下記の通りです。

1200円×2000株=240万円

しかし、株式は市場で日々取引価格が変動し、急激な価格変動が起きる場合もあるでしょう。そのため、相続発生日の最終価格は、下記のうちもっとも低い金額を選択することができます。

  • 相続発生日の終値
  • 相続が発生した月の終値の平均額
  • 相続が発生した月の前月の終値の平均額
  • 相続が発生した月の前々月の終値の平均額

これらの価格は、取引先の証券会社に残高証明書を発行してもらうと確認できます。

銘柄ごとに確認し、相続税評価額を算出しましょう。

参照:No.4632 上場株式の評価|国税庁

非上場株式の場合

非上場株式の場合、公開市場で取引されていないため上場企業のように時価を参考にすることはできません。

非上場株式の相続税評価額は、以下のいずれかの方法で算出します。

  • 原則的評価方式:会社の規模や業種に応じて評価する方法
  • 配当還元方式:配当金を元に評価する方法

いずれの方法も計算式が複雑で、調べなければならないデータも多くあります。

間違った評価額で相続税を算出してしまうと虚偽申告とみなされ、ペナルティを受けるかもしれません。できるだけ専門家に相談して正確な評価額を算出してもらいましょう。

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株式を売却する場合の注意点

もし、相続した株式を売却しようと考えているのであれば、あらかじめ注意点を知っておきましょう。

株式を売却する場合の注意点は、下記の通り3つあります。

  • 売却のタイミングを見計らう
  • 売却益には税金がかかる
  • 非上場株式を売却する方法

詳しく確認しましょう。

売却のタイミングを見計らう

株式の取引価格は日々変動します。値動きの大きい銘柄も数多くあり、売却が1日異なるだけでも得られる利益が大きく異なるケースがあります。

直近の値動きをしっかり確認して売却のタイミングを決めましょう。

売却益には税金がかかる

株式を売却すると、売却益に対して譲渡所得税が発生します。これは相続税とは異なり、譲渡所得として課税されるため、確定申告で譲渡所得税を申告しなければなりません。

譲渡所得税は、一律20.315%です。譲渡所得は、売却代金から取得費と手数料を差し引いて計算します。譲渡益が発生しなかった場合は申告・納税の義務はありません。

万が一、被相続人が取得した金額が分からない場合、売却代金の5%を取得費として計算することが可能です。また、相続税の申告期限から3年以内に売却すると、売却した株式にかかった相続税額を取得費として差し引くこともできます。

非上場株式を売却する方法

非上場株式は証券取引所で売買されていないため、自分で買い手を見つける必要があります。

多くの非上場株式は、経営基盤を安定させるために譲渡制限付き株式となっています。つまり、自由に売却することができません。

非上場株式を売却する場合、まずは発行元の企業に譲渡制限付きでないかを確認しましょう。なかには、発行元の企業が買い取るケースもあります。

株式を相続する場合に知っておきたいこと

相続財産に株式が含まれている場合、下記の3つのポイントをおさえておきましょう。

  • 配当金は相続手続きが終わっていなくてももらえる
  • 相続税には時効がある(あとから株式が見つかった場合)
  • 未受領の配当金には時効がある(あとから配当金領収証が見つかった場合)

順番に確認しましょう。

配当金は相続手続きが終わっていなくてももらえる

被相続人が亡くなったあと、相続手続きが終わっていなくても配当金を受け取れます。

配当金がある場合、被相続人宛に通知書が郵送されます。通知書や領収書などを郵便局に持っていって手続きすれば、そのまま配当金を受け取ることが可能です。

相続手続きが終わっていない状態における相続財産は、相続人全員の準共有物として扱います。つまり、準共有物の株式によって得られた利益である配当金は、相続人全員のものです。配当金を受け取るたびに、相続人同士で分配しなければなりません。

早めに相続手続きを終わらせ、余分な手間から解放されましょう。

相続税には時効がある(あとから株式が見つかった場合)

遺産分割協議や相続手続きが終わったあとに、被相続人名義の株式が見つかるケースは珍しくありません。

株式の相続自体はできるものの、相続税額が変わることに注意しましょう。相続税の時効は、申告期限から原則5年と定められています。そのため、申告期限から5年以上経過してから株式が見つかった場合は、修正申告をする必要はありません。

申告期限から5年が経過する前に株式が見つかった場合、相続税の修正申告を行いましょう。税務調査で指摘を受けてしまうと、過少申告加算税の対象となるため早めに対応することをおすすめします。

また、平成21年より上場株式は電子化されて証券保管振替機構で管理されています。電子化されないままの株券は信託銀行の特別口座で管理されているため、名義変更は証券会社でできません。株式発行元の企業に問い合わせ、特別口座のある信託銀行から手続きを行いましょう。

未受領の配当金には時効がある(あとから配当金領収証が見つかった場合)

相続した株式に未受領の配当金がある場合、時効があるため早めに手続きをしましょう。

配当金の受領の時効は発行元企業の定款で定められており、3年や5年などと短く設定されているケースが多いです。期限を過ぎると配当金を請求できなくなるため、注意しましょう。

期限を迎えていない場合は、株主名簿管理人である信託銀行などの指示に従って手続きをすれば配当金を受け取れます。

株式を相続するときは計画的に手続きを進めよう

株式は、相続するにあたって評価額算定や名義変更、準確定申告などの手続きをしなければなりません。証券会社や発行元企業とのやりとりに時間をかけてしまうと、準確定申告や相続税の申告期限に間に合わない可能性が出てきます。

そのため、相続財産に株式が含まれていると分かったら、計画的に手続きを進めていきましょう。

株式の相続に不安を覚えるのであれば、相続に詳しい専門家に頼ることをおすすめします。複雑な手続きや分割方法の相談など、さまざまな角度から最適なアドバイスがもらえます。

積極的に専門家の知恵を借り、スムーズに株式の相続手続きを進めましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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