特別縁故者とは?認められる条件や手続きの流れ、相続税の扱いを徹底解説

公開日:2024年9月11日

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被相続人と特別な関係にあった方であっても、法定相続人がいなければ遺産を相続できる可能性があります。これを特別縁故者制度と呼びます。特別縁故者として認められるには、家庭裁判所での手続きが必要です。本記事では、特別縁故者制度の概要や認められる条件、手続きの流れについて詳しく解説します。

特別縁故者とは

特別縁故者とは、被相続人に配偶者や子どもなどの法定相続人がいない場合に特別に相続できる人のことです。

通常、法定相続人がいない方が亡くなった場合、遺産はすべて国庫に帰属されます。しかし、特別縁故者と認められると被相続人の遺産を引き継ぐことが可能です。

特別縁故者として被相続人の遺産を引き継ぐには、生前に家庭裁判所から認められなければなりません。

より特別縁故者についての理解を深めるために、下記の順番に確認していきましょう。

  • 法定相続人がいない場合に遺産を取得できる人
  • あくまで相続人が居ない場合に限られる
  • 相続人が誰もいなければ財産は国庫に入る

順番に解説します。

法定相続人がいない場合に遺産を取得できる人

特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、特別に相続できる人のことです。

民法第958条の2では、下記のように定められています。

被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。※引用:民法|民法第958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)

つまり、被相続人との関係が親密だった方のみが特別縁故者として、遺産を引き継ぐことができます。

あくまで相続人が居ない場合に限られる

特別縁故者として遺産を引き継ぐには、被相続人に配偶者や子ども、両親、兄弟姉妹などの法定相続人が誰1人いないことが第1の条件です。

たとえば、独り身だと思っていた被相続人にも絶縁や音信不通などによって親戚がいる場合もあります。法定相続人がいるかどうかは被相続人の出生から死亡までの戸籍を辿る必要があります。

仮に、現在は連絡を断っている子どもであっても、子どもがいるのであれば法定相続人は存在しているため、特別縁故者になることはできません。

相続人が誰もいなければ財産は国庫に入る

独り身・子なしであったり、法定相続人がすでに全員亡くなっていたりするなど、相続人がいない場合、被相続人の遺産は通常すべて国庫に帰属されます。つまり、国の財産となります。

しかし、同居して生計をともにしてきた方や介護をしてきた方にとって、「法定相続人がいない」「遺言書がない」といった理由だけで、被相続人の預貯金や不動産を国に取られてしまうことに納得できないのではないでしょうか。

このような「遺産を分配する人が法定相続人以外にもいるのではないか」という考えから、特別縁故者の財産分与制度が始まりました。

特別縁故者として認められる方の一例

特別縁故者として認められる方は、下記のような人物です。

  • 被相続人と生計を同じとしていた者
  • 被相続人の療養看護に努めた者
  • その他被相続人と特別の縁故があった者

また、学校法人や公益法人などの法人・団体が特別縁故者として認められるケースもあります。

それぞれ詳しい内容を確認しましょう。

被相続人と生計を同じとしていた者

戸籍上のつながりはないものの、夫婦関係と同等の生活を過ごしていた内縁関係の方や事実上の養子関係にあたる方は、被相続人と生計を同じとしていた者に該当します。

過去には、すでに亡くなっている息子の嫁が、息子の父親(嫁にとっての義父)の特別縁故者として認められたケースがあります。

被相続人の療養看護に努めた者

被相続人の生前に献身的に看護・介護をした方が、被相続人の療養看護に努めた者に該当します。無償で看護・介護を行っていた場合に限られるため注意しましょう。

親戚でなくても、友人・知人などであっても貢献度によって認められます。また、自宅での介護だけでなく、介護施設や老人ホームに通って看護・介護をしていた場合でも認められる場合があります。

ただし、報酬を得ながら業務として看護・介護を行っていた介護士や看護師、家政婦、付き添い人などは対象外です。

その他被相続人と特別の縁故があった者

たとえば、下記のような方であれば特別縁故者として認められる場合があります。

  • 被相続人の後見人や身元引受人
  • 実の親子のように被相続人に長年仕送りを行ってきた方や被相続人から金銭的援助を受けてきた方

また、愛人は公序良俗に反するとして特別縁故者になれないという考えもあります。しかし、もともと愛人から始まった関係であったものの、法律婚を解消して事実婚といえる関係に発展していれば特別縁故者になれる可能性はゼロではありません。

法人も認められた例もある

過去には、被相続人が深く関わった法人が特別縁故者として認められた例もあります。たとえば、被相続人が私財を投じて経営してきた法人や、経営者として組織の発展に関わった法人などが挙げられます。

法人以外にも、下記のような団体が過去に認められました。

  • 地方公共団体
  • 福祉法人
  • 学校法人
  • 公益法人
  • 宗教法人

被相続人と法人・団体がどれほどの関係性だったかによって家庭裁判所が判断します。

特別縁故者が財産分与を受けるための手続き

特別縁故者が被相続人の遺産の財産分与を受けるために必要な手続きの流れは、下記の通りです。

  1. 特別縁故者の申し立て方法を確認する
  2. 相続財産管理人の選任の申し立てをする
  3. 相続人の捜索が行われる
  4. 特別縁故者の申し立てをする
  5. 特別縁故者の認定を受ける

ステップごとに手続きの内容を詳しく確認しましょう。

1.特別縁故者の申し立て方法を確認する

まずは、特別縁故者の申し立て方法について詳しく確認しましょう。

申し立てができる人

特別縁故者の申し立てができる人は、下記に当てはまる方です。

  • 被相続人と生計を同じくしていた人
  • 被相続人の療養看護に努めた人
  • その他被相続人と特別の縁故があった人

当てはまらない場合は、申し立てできないため注意しましょう。

申し立て先

特別縁故者の申し立て先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。ほかの家庭裁判所では受け付けてもらえないため注意しましょう。

家庭裁判所の管轄区域は、家庭裁判所の公式サイトに掲載されている「裁判所の管轄区域」のページから確認できます。

申し立てのできる期間

特別縁故者の申し立てができる期間は、相続人の不在が確定してから3か月以内です。期限を過ぎると、申し立てができなくなるため早急に準備を進めましょう。

2.相続財産管理人の選任の申し立てをする

被相続人が亡くなり、法定相続人がいない場合や法定相続人の存在の有無が分からない場合、家庭裁判所で相続財産管理人の選任をしなければなりません。

相続財産管理人とは、相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合などに被相続人の遺産を管理・清算するための人です。相続財産管理人がいなければ、特別縁故者に対して財産分与の手続きをしてもらうことができません。

相続財産管理人の選任の申し立て先は、被相続人が最後に所在した管轄の家庭裁判所です。

3.相続人の捜索が行われる

相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人によって相続人の捜索が行われます。

もし、相続人が出現した場合、被相続人の遺産は相続人が引き継ぐこととなります。特別縁故者の申し立てはできなくなるため注意しましょう。

一方、相続人が不在だと確定した場合、相続財産管理人が遺産の管理や清算を行います。

4.特別縁故者の申し立てをする

相続人が不在だと確定した場合、確定から3か月以内に特別縁故者の申し立てを行って、財産分与請求を行いましょう。確定から3か月以上が経過すると、特別縁故者として財産分与を受けることはできません。

ちなみに、相続人の捜索から相続人不在の確定までの期間は、相続開始から10か月程度です。そのため、被相続人が亡くなってから1年程度で特別縁故者の申し立てを行う必要があります。

5.特別縁故者の認定を受ける

家庭裁判所から特別縁故者として認定を受ければ、被相続人の遺産から財産分与を受けられます。

万が一、特別縁故者として認定されなければ、相続人は不在となって被相続人の遺産はすべて国庫へ帰属されます。

申し立てにかかる費用・必要書類

申し立てにかかる費用・必要書類のイメージ

手続きの流れでもご説明したように、特別縁故者として財産分与を受けるには下記の2つの申し立てが必要です。

  • 特別縁故者の申し立て
  • 相続財産管理人の選任の申し立て

それぞれの申し立てにかかる費用や必要書類について詳しく解説します。

特別縁故者の申し立て

特別縁故者の申し立てには、数千円かかります。内訳は、下記の通りです。

  • 申し立て手数料として収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手代金

連絡用の郵便切手に必要な費用は申し立て先の家庭裁判所によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。

また、必要書類は下記の通りです。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本(法人の場合は資格証明書など)
  • 被相続人の戸籍(除籍)謄本
  • 特別縁故者であることを証明する資料
  • 相続財産目録
  • 親族関係図(親族が申し立てる場合)

申立書や相続財産目録、親族関係図は自分で作成するか、弁護士などの専門家に依頼して作成する必要があります。

参照:特別縁故者に対する相続財産分与|裁判所

相続財産管理人の選任の申し立て

だれも相続財産管理人の選任の申し立てをしていない場合、特別縁故者を主張するためには自分で申し立てをしなければなりません。

申し立てに必要な費用の目安は、8000円程度です。内訳は、下記の通りです。

  • 申し立て手数料として収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手代
  • 官報公告費用4000円程度

連絡用の郵便切手に必要な費用は、申し立て先の家庭裁判所によって異なるため、事前に確認しておきましょう。

また、必要書類は下記の通りです。

  • 申立書
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票又は戸籍附票
  • 遺産内容を証明する資料(登記事項証明書や通帳の写しなど)
  • 申立人と被相続人の利害関係を証する資料(利害関係者からの申し立ての場合)
  • 相続財産管理人の候補者の住民票または戸籍附票(候補者がいる場合)

親族の死亡状況によって、追加で書類の提出が求められる場合があります。裁判所や弁護士に必要書類が揃っているか確認してもらうと安心です。

参照:相続財産清算人の選任|裁判所

特別縁故者が財産を取得した場合の相続税

特別縁故者が被相続人の遺産を取得した場合、遺贈扱いとなるため、法定相続人が相続したときよりも2割加算されます。また、法定相続人がいないため、基礎控除額は3000万円と定められています。法定相続人の数×600万円は加算されません。

さらに、控除・特例も使えないため、税負担が大きくなる点に注意しましょう。

より理解を深めるため、下記の順番に特別縁故者が財産を取得した場合の相続税について詳しく解説します。

  • 相続税の算出方法
  • 適用されない控除・特例
  • 相続税の申告期限が通常と異なる

順番に確認しましょう。

相続税の算出方法

相続税には基礎控除額が設定されていますが、特別縁故者が取得する場合の基礎控除額は一律3000万円です。本来であれば「3000万円+600万円×法定相続人の数」が基礎控除額ですが、法定相続人がいないため「人数×600万円」の金額の控除は受けられません。

また、特別縁故者が被相続人の遺産を取得すると、相続ではなく遺贈として扱われます。そのため、法定相続人が遺産を取得した場合よりも2割加算した金額となります。

仮に、遺産総額が3800万円だったときに特別縁故者が納税する相続税額を計算してみましょう。

課税額は、3800万円から基礎控除額3000万円を差し引いた800万円です。

1000万円以下の相続税率は10%のため、法定相続人が相続したときの相続税額は800万円×10%=80万円です。しかし、特別縁故者には2割加算されるため、相続税額は80万円+(80万円×20%)=96万円となります。

適用されない控除・特例

相続税には、要件を満たすことで利用できる控除や特例があります。具体的には、以下のような控除や特例が定められています。

  • 配偶者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 小規模宅地等の特例

しかし、これらの控除や特例は、法定相続人にのみ利用できる制度です。特別縁故者は法定相続人でないため利用できません。

これらの控除や特例を適用させたいのであれば、被相続人の生前に婚姻関係や養子縁組を結ぶなど、戸籍上のつながりを持っておく必要があります。

相続税の申告期限が通常と異なる

特別縁故者が財産分与を受けたときの相続税の申告期限は、財産分与の審判が確定した翌日から10か月以内です。一般的な相続税の申告期限である「被相続人が亡くなった事実を知った日の翌日から10か月以内」とは異なるため注意が必要です。

ただし、相続財産の評価額については、相続開始時点における評価額となる点もあわせて覚えておきましょう。

申し立ての前に知っておきたいこと

特別縁故者の申し立てをする前に知っておきたいことは、下記のケース別にご紹介します。

  • 財産に共有物件がある場合
  • 行方不明の相続人がいる可能性がある場合
  • 法定相続人全員が相続放棄する場合

順番に確認しましょう。

財産に共有物件がある場合

被相続人の遺産のなかに、他人と共有している土地や建物などの共有物件が含まれるとき、相続人や特別縁故者がいなければ他の共有者に所有権が移ります。

また、特別縁故者がいる場合であっても、特別縁故者に分配されなければ他の共有者の所有物となります。

行方不明の相続人がいる可能性がある場合

行方不明となっている法定相続人がいる場合、特別縁故者の申し立てはできません。

なぜなら、連絡が取れないことと、法定相続人がいないことは同義でないからです。相続人がいると特別縁故者の申し立てはできないため、財産分与を受けることもできません。

法定相続人が行方不明となっている場合、不在者財産管理人の選任や失踪宣言の手続きが必要です。

「連絡の取れない相続人がいるときの対処法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

法定相続人全員が相続放棄する場合

法定相続人全員が相続放棄をして法定相続人としての立場を放棄した場合、「もともと法定相続人はいなかった」とみなされるため特別縁故者の申し立てによって財産分与を受けられる可能性があります。

同様に、相続欠格・相続廃除などによって法定相続人がいなくなった場合でも、法定相続人不存在として特別縁故者の申し立てが可能です。

全員が相続欠格や相続廃除となるケースは稀ですが、被相続人が大きな借金を抱えている場合には全員が相続放棄する場合があります。

そのため、特別縁故者の申し立てはできるものの、引き継ぐ財産が負債ばかりでマイナスになってしまう場合もあるため、財産分与の請求をするかどうかは慎重に判断しましょう。

特別縁故者として財産分与を主張するなら専門家へ相談しよう

被相続人の遺産を引き継ぐ権利がなく、遺言が残されていない場合でも、特別縁故者だと家庭裁判所に認めてもらえれば遺産を引き継ぐことが可能です。

しかし、特別縁故者の申し立てをするためには複数の書類を作成したり、複雑な家庭裁判所での手続きをしたりと労力がかかります。そもそも相続財産管理人の選任の申し立てから始めなければならないケースがほとんどで、相続人の捜索には半年以上もの月日がかかります。

このように時間と労力をかけても、必ず特別縁故者の申し立てによって財産分与を受けられるとは限りません。

特別縁故者の申し立てには期限が設けられているため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士であれば必要書類の収集から書類作成、申し立て手続きなどのすべてをお任せできます。

大切な家族が亡くなって大変なときにこそ、相続に強い弁護士を頼っていち早く日常生活を取り戻しましょう。

相続プラスでは、相続を専門とする弁護士をエリア別・悩み別に検索できます。あなたを支えてくれる心強いパートナーを見つけてくださいね。

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記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年9月11日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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