単独相続とは?相続人1人が全て相続するときの遺産分割協議書の書き方

公開日:2024年9月6日

単独相続とは?相続人1人が全て相続するときの遺産分割協議書の書き方_サムネイル

単独相続とは、1人が被相続人の財産をすべて相続することです。日本では古くから「家の財産は長男が継ぐもの」と考えられており、家長が亡くなると長男1人に財産を相続させていました。ただし、現在では複数人が相続する共同相続が主流で、複数人の法定相続人がいる場合に単独相続をするとトラブルにつながる場合があります。本記事では、単独相続の基礎知識からメリット・デメリットを解説します。遺産分割協議書の書き方や注意点も解説しているため、ぜひ参考にしてください。

単独相続とは

まず、単独相続とはどのような相続方法なのか詳しく確認しましょう。この章では、これまでの歴史的背景や反対の意味を持つ共同相続についても詳しく解説します。

1人が被相続人の財産をすべて相続すること

単独相続とは、被相続人がのこしたすべての財産を1人の相続人が相続することです。法定相続人が1人である場合は自動的に単独相続となりますが、複数の法定相続人がいたとしても1人だけが相続するのであれば単独相続と呼びます。

そもそも単独相続とは、旧制の家督相続の考え方に基づいて行われてきました。家督相続とは、家長が亡くなったときに長男がすべての財産や権利を引き継ぐ相続方法です。配偶者や兄弟姉妹がいたとしても、長男のみに遺産を引き継ぐ権利がありました。

家督相続は明治31年から昭和22年までの間に施行されていた相続方法で、現在ではスタンダードな考え方ではありません。

現在の民法においては、「法定相続人全員が被相続人の遺産を引き継ぐ権利を持っている」ことが大原則です。これを共同相続と呼びます。被相続人が亡くなった時点で、遺産は法定相続人全員の共有財産となります。

もちろん、現代においても、法定相続人全員が納得していれば「家業を長男に継がせたい」「配偶者に満足な老後を送ってほしい」などの理由によって、誰か1人に遺産を単独相続させることに問題はありません。

単独相続になりやすいケース

法定相続人それぞれに相続できる権利があるため、近年単独相続になるケースは珍しいです。しかし、下記のようなケースでは単独相続が認められます。

  • 法定相続人がそもそも1人だけだった場合
  • 相続放棄や相続欠格、相続排除によってほかに法定相続人がいなくなった場合
  • 遺産分割協議を行なって1人がすべての財産を相続することに法定相続人全員が合意した場合
  • 特定の方に全財産を相続させる旨の遺言書が残されていて、その内容に法定相続人全員が合意した場合

複数の法定相続人がいるにもかかわらず単独相続する場合、遺産分割協議を開催しなければなりません。

ただし、相続放棄や相続欠格、相続排除などの理由によって、ほかに法定相続人がいなくなった場合や、もともと法定相続人が1人しかいなかった場合には遺産分割協議をせずに相続手続きを進めることが可能です。

単独相続のメリット・デメリット

ほかに法定相続人がいる場合、単独相続を選択すべきかどうか悩む方もいるでしょう。単独相続のメリットとデメリットについて、詳しく解説します。

単独相続のメリット

単独相続を選択するメリットは、以下の通りです。

  • 賃貸や売却などの意思決定が早い
  • 財産が細分化されない
  • 次の相続で権利関係が複雑にならない

3つのメリットについて、詳しく確認しましょう。

賃貸や売却などの意思決定が早い

単独相続をすると、財産の扱いに関わる意思決定スピードが早くなります。たとえば、不動産を1人で単独相続できれば賃貸に出したり売却したりしたい場合、早く決断できます。

一方、共同相続していれば、共有者全員と「今後どのように扱うか」を協議して1つの結論を出さなければなりません。自分は思い出の実家を残しておきたいと思っていても、ほかの相続人が売却したいと言うと、話し合いをして結論を出す必要があるでしょう。

財産が細分化されない

単独相続であれば、財産が細分化されずに1人に財産を集中させられます。

たとえば、下記のようなケースでは、特定の人に財産を集中させたほうが良いでしょう。

  • 収入源のない配偶者の生活に経済的心配がある
  • 家業を継いだ息子が農地や店舗などを自分の名義にしたい
  • 遺産のほとんどが自宅の不動産で、同居していた家族がそのまま住み続けたい

1人に財産を集中させなければ安心した生活や安定した事業を続けられない場合に、単独相続は有効です。

次の相続で権利関係が複雑にならない

不動産を複数人で相続すると次の代での相続が発生したときに共有者が増えてしまい、権利関係が複雑になってしまいます。

たとえば、不動産を3人で3分の1ずつ共有していたときに共有者の1人が亡くなると、不動産の3分の1だけが相続財産の対象です。さらに複数の法定相続人が共有相続すると、不動産を共有している人の数がどんどん増えてしまうでしょう。

単独相続であれば物理的に分割できない財産が複数人で共有されないため、権利関係も単純明快です。

単独相続のデメリット

単独相続を選択する最大のデメリットは、相続トラブルに発展しやすい点です。単独相続が原因で起こりうるトラブルの例は、以下の通りです。

  • ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける
  • 遺産分割協議書の内容が不十分だとして争いに発展する
  • 遺産分割協議が長期化する
  • 新しい相続人が現れて遺産分割協議をやり直す

4つのデメリットについて、順番に確認しましょう。

ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける

遺言によって遺産を単独相続する場合、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺留分とは、民法で定められている法定相続人に保証された最低限の遺産の取り分です。

もし、長男・次男が法定相続人だった場合に「長男にすべての財産を譲る」という遺言書があったとしても、次男は長男に遺留分を請求することが可能です。遺留分侵害額請求を受けると、遺留分に相当する金銭を支払わなければなりません。

遺産分割協議書の内容が不十分だとして争いに発展する

遺産分割協議書で単独相続に合意していた法定相続人が「遺産分割協議書の内容が不十分だ」として争いに発展するおそれがあります。

たとえば「すべての遺産を配偶者が相続する」と記載されていたとしても、「どの財産が相続対象かが明確ではない」「タンス預金の存在を知らなかった」などと不満が出てくるかもしれません。

預貯金の解約や不動産登記に関しても、相続する財産の詳細が指定されていなければ手続きを断られる場合もあります。

遺産分割協議が長期化する

なかには法定相続人の間で「家業を継ぐ長男にすべて相続すべき」と主張する人と「自分にも相続する権利がある」と主張する人が対立することで合意が取れず、遺産分割協議が長期化する場合もあるでしょう。

遺産分割協議がまとまらなければ遺産はすべて法定相続人全員での共有物として扱わなければならず、相続の手続きができません。

もちろん、相続の手続きができないままだと預金を引き出すことができないため、被相続人の葬儀代や医療費・介護費などの支払いを相続人が肩代わりする必要が出てきます。

新しい相続人が現れて遺産分割協議をやり直す

稀ではあるものの戸籍調査が不十分だったために、あとから相続人が増えるケースもあります。

遺産分割協議書は法定相続人全員の合意がなければ作成できないため、遺産分割協議のやり直しが必要です。新たな相続人が取り分を主張すると、早急に返還しなければなりません。

このような相続トラブルを防ぐためには、早めに相続に強い弁護士に相談しましょう。相続人・財産調査はもちろん、遺産分割協議の立ち会いや遺産分割協議書の作成まで任せられます。

相続プラスでは、エリアや悩みごとから最適な専門家を検索できます。ぜひ、活用してください。

相続トラブルでお困りの方へ_専門家をさがす

遺産分割協議で1人がすべての財産を相続する場合の流れ

遺産分割協議で1人がすべての財産を相続する場合の流れのイメージ

遺産分割協議を行なって、1人の相続人が単独相続するときの流れは以下の通りです。

  1. 相続財産・法定相続人の調査を実施する
  2. 法定相続人全員で遺産分割協議を行う
  3. 遺産分割協議書を作成する
  4. 相続手続きを行う

ステップごとに行う内容について、詳しく確認しましょう。

1.相続財産・法定相続人の調査を実施する

まず、被相続人が残した財産の内容や法定相続人の調査を行いましょう。なぜなら、相続財産や法定相続人に漏れがあると遺産分割協議の前提が変わってしまうため、遺産分割協議のやり直しが必要となる場合があるためです。

相続財産は、現金や預貯金、不動産だけでなく、自動車や株券など換金性のあるものも対象です。もちろん、借金や税金などの支払いについても相続財産に含まれます。

また、法定相続人は、被相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せて確認できます。戸籍謄本を取り寄せてはじめて「前妻との子どもがいた」と発覚するケースは珍しくありません。法定相続人は自分達だけだろうと思い込まず、かならず戸籍謄本を取り寄せて確認しましょう。

ちなみに、被相続人の配偶者はかならず法定相続人となり、血族相続人には続柄によって相続順位がつけられています。

  • 第1順位:直系卑属(子・孫など)
  • 第2順位:直系尊属(父母・祖父母など)
  • 第3順位:傍系血族(兄弟姉妹や甥姪など)

被相続人に子どもがいない場合や子ども全員が相続放棄した場合は、次順位の父母が法定相続人となります。

2.法定相続人全員で遺産分割協議を行う

相続の対象となる財産や法定相続人が確定したら、法定相続人全員で遺産分割協議を行いましょう。1人でも欠ける遺産分割協議で決めたことは無効となり、遺産分割協議をやり直さなければなりません。

ただし、1箇所に集まって話し合いをしなければならないわけではなく、メールや手紙などで合意が得られるのであれば遺産分割協議は成立します。

このとき「言った」「言っていない」と揉めないよう、単独相続する人以外の法定相続人には相続分の放棄をしてもらうとよいでしょう。「相続は相続しない」と宣言する書類を作成するだけで相続分の放棄ができます。

また、あとから揉めないように、単独相続する人以外の法定相続人全員が家庭裁判所で相続放棄をするケースも珍しくありません。裁判所で相続放棄が認められれば、残された1人がすべての遺産を相続できます。この場合、相続放棄した人はもとから法定相続人ではなかったとして扱われるため、遺産分割協議を行う必要はありません。

3.遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議で単独相続することが決まったら、単独相続に合意している証として遺産分割協議書を作成しましょう。

遺産分割協議書には、誰がどの財産をどれだけ相続するかを記載し、法定相続人全員の署名と押印が必要です。銀行口座の解約手続きや不動産の相続登記にも遺産分割協議書の提出が求められます。

4.相続手続きを行う

最後に、単独相続をするために具体的な相続手続きを行います。預貯金であれば金融機関、不動産であれば相続登記のために法務局で手続きを進めます。相続手続きを終え、払い戻しや名義変更が完了すれば、所有権が移転して相続手続きは完了です。

遺産分割協議で1人がすべての財産を相続する場合の遺産分割協議書の書式・フォーマット

遺産分割協議によって単独相続することが決まった場合、特定の相続人が遺産をすべて取得する旨を遺産分割協議書に記載する必要があります。このときの遺産分割協議書の書式・フォーマットをご紹介します。

遺産分割協議書

被相続人    〇〇 〇〇(昭和〇年〇月〇日生まれ)
死亡日     令和〇年〇月〇日
本籍地     東京都××区△△〇丁目〇番地〇
最後の住所地  東京都××区△△〇丁目〇番地〇

被相続人〇〇 〇〇(以下「被相続人」という)の遺産相続について、被相続人の長男〇〇 〇〇(以下「甲」という)、被相続人の配偶者〇〇 〇〇(以下「乙」という)、被相続人の長女〇〇 〇〇(以下「丙」という)の法定相続人全員が遺産分割協議を行い、下記のとおりに遺産分割の協議が成立した。

1.被相続人の財産は、甲が相続する。

(1)土地
所在:東京都××区△△〇丁目
地番:〇番地〇
地目:宅地
地積:〇〇平方メートル

(2)建物
建物:
所在:東京都××区△△〇丁目〇番地〇
家屋番号:〇〇
種類:居宅
構造:〇〇
床面積:1階部分 〇〇平方メートル 2階部分 〇〇平方メートル)

(3)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
預金種目:〇〇
口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
口座名義人:〇〇 〇〇

(4)車両
名義人:〇〇 〇〇
自動車登録番号:世田谷〇〇〇あ〇〇ー〇〇
車体番号:第〇〇〇〇号

(5)有価証券
〇〇証券〇〇支店(口座番号〇〇〇〇)保護預かりの以下の有価証券

△△株式会社  株式〇〇株
〇〇株式会社  株式〇〇株

2.本遺産分割協議書に記載のない遺産、および本遺産分割のあとに判明した遺産についても甲が単独相続する。

3.甲が相続する遺産には、被相続人のすべての債務が含まれる。甲は、被相続人の債務の弁済について、乙および丙に求償しない。

4.被相続人の葬式・火葬にかかる費用について、すべて甲が負担する。

以上のとおり、当事者全員による遺産分割協議が成立した証として、本書を3通作成し、署名・押印のうえ、各自1通ずつ保有する。

令和〇年〇月〇日(作成日)

住所     東京都××区△△〇丁目〇番地〇
生年月日         昭和〇年〇月〇日
相続人甲(長男)  〇〇 〇〇 (実印)

住所     東京都××区△△〇丁目〇番地〇
生年月日       昭和〇年〇月〇日
相続人乙(妻)   〇〇 〇〇 (実印)

住所    神奈川県××市△△〇丁目〇番地〇
生年月日       昭和〇年〇月〇日
相続人丙(長女)  〇〇 〇〇 (実印)

遺産分割協議書の書き方における注意点について、次の章で詳しく解説します。

遺産分割協議で1人がすべての財産を相続する場合の遺産分割協議書の書き方と注意点

遺産分割協議によって単独相続をする場合、共同相続をするときと比べて注意点が多くあります。遺産分割協議を作成する際、以下のポイントをしっかりおさえましょう。

  • 相続財産の内容を1つずつ記載する
  • ほかに遺産が見つかったときに備えた内容にする
  • 債務について相続する人を明記する
  • 葬式・火葬費用を負担する人を明記する

トラブルを回避するために、4つのポイントについて詳しく確認しましょう。

相続財産の内容を1つずつ記載する

相続財産の内容は、1つずつ詳細に記載しましょう。単純に「すべての財産を〇〇が取得する」と記載するだけでは、「遺産内容を十分に把握していなかったために遺産分割内容に合意した」と主張されるおそれがあるからです。

ポイントは、どの財産であるかが第三者でも分かる記載方法をすることです。たとえば、不動産であれば「自宅の土地・建物」だけでなく、住所や地積、不動産の種類などを詳細に記載しましょう。預金であれば、金融機関名はもちろん、支店名・口座番号や金額まで記載します。

遺産の内容をできるだけ詳しく記載しておくと、トラブルに備えられます。

ほかに遺産が見つかったときに備えた内容にする

しっかり財産調査をしたつもりでも、あとからタンス預金や貸金庫などが見つかって新たな財産が発見されるケースは珍しくありません。このような場合に備えて、遺産分割協議書に記載した財産以外のものが見つかった場合の対応についても記載しておくと安心です。

具体的には、「本遺産分割協議書に記載のない遺産、および本遺産分割のあとに判明した遺産についても〇〇が単独相続する」と記載しておきましょう。

債務について相続する人を明記する

被相続人が残した借金やローンなどの債務についても、誰がどれだけ負担するか明記しておくようにしましょう。

一般的に、負債は相続した割合に合わせて各相続人が負担します。1人が単独相続する場合においても、ほかの法定相続人は全額単独相続する相続人が負担すべきだと考えられてもおかしくありません。

その旨を記載しておくと、ほかの相続人は安心できるでしょう。

葬式・火葬費用を負担する人を明記する

葬式や火葬費用は、一般的に被相続人の財産から支払いを行います。1人の相続人が単独相続するのであれば、すべての遺産を相続した人に葬式・火葬費用を出してほしいと考えるでしょう。

あとになって葬式・火葬費用の負担について家族同士で揉めないように、遺産分割協議書に明記しておくことをおすすめします。

単独相続はトラブルの原因になりやすい

単独相続は、1人の相続人が被相続人のすべての財産を引き継ぐ相続方法です。もともと法定相続人が1人であればトラブルは起きづらいですが、法定相続人が複数人いるなかで単独相続をする場合にはトラブルに発展しやすいためさまざまな配慮が求められます。

そもそも現代において、単独相続は一般的ではありません。そのため、単独相続を快く思わない家族や親族がいても当然のことです。

もし、円滑に単独相続を進めたいと考えているのであれば、早い段階から相続に強い弁護士に相談しましょう。無理に手続きを進めようとすると、かえってほかの相続人から強い反発を受けてしまい、相続手続きが遅れたり、親族関係に亀裂が入ってしまったりする可能性があります。

積極的に専門家の力を借りて、スムーズに相続手続きを進めましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年9月6日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする