孫への遺産相続は可能?孫に相続させる方法とメリットとデメリットを解説します

公開日:2022年6月27日|更新日:2025年10月30日

孫に相続させる方法や、孫への相続における注意点について解説します_サムネイル

「孫に財産を相続させたい」と考えている方も多いでしょう。しかし、孫は本来「法定相続人」とならないため何もしなければ財産を残せません。安易に孫に相続させてしまうと相続税や相続トラブルなど、予期せぬ問題に孫が巻き込まれてしまう可能性もあるので注意が必要です。この記事では、孫に遺産を相続させる方法、トラブルについて解説します。

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孫には原則として相続権がない

祖父母が亡くなった際、孫も直系血族であるため相続権があるように思われがちですが、実際は孫に相続権はありません。民法では相続できる人の範囲と順位が明確に定められており、孫はその対象に含まれていないのです。

ただし、孫に財産を渡したいという想いがある方もいるでしょう。その場合、必要な手続きを行えば孫への財産承継は可能です。そこで、まずはなぜ孫には相続権がないのかについて具体的に解説します。

原則として相続権がない理由

孫に相続権がない理由は、法定相続人の範囲にあてはまらないためです。民法によって定められている法定相続人は、以下の通りです。

  • 第一順位:配偶者と子ども
  • 第二順位:配偶者と直系尊属(父母や祖父母)
  • 第三順位:配偶者と兄弟姉妹

まず、相続が起こると配偶者と子どもが優先され、子どもがいない場合に親世代、それもいない場合に兄弟姉妹へと引き継がれます。この中に孫は含まれません。

参照:民法900条│e-Gov 法令検索

孫に財産を残す手段は存在する

孫は法定相続人ではないので、原則として相続権がありませんが、実際には「孫に財産を残したい」と考える祖父母も多く存在します。そのため、法定相続人ではなくとも孫へ財産を残す法的な手段は存在します。

次章以降では、これらの具体的な方法や注意点などについて、詳しく解説します。

孫に相続させる方法

前章で説明した通り、孫は法定相続人ではないため原則として相続権がありません。しかし、法定相続以外の手段によって孫に財産を残すことは可能です。

祖父母が孫に財産を残したいと考える場合、いくつかの選択肢が存在しますが、その中でも特に一般的な方法として遺言による財産の承継について解説します。

遺言書を作成する

遺言書とは、被相続人の財産に関する意思表示について書かれた書面です。遺言による財産承継を遺贈といいますが、遺贈は法定相続分に優先するため、遺贈を行えば孫に財産を残すことができます。

例えば、「私が所有する不動産Aを孫Bに遺贈する」といった内容の遺言を行うことで、法定相続分がない孫にも不動産Aという特定の財産を承継できます。

作成する場合のポイント

遺言書には、以下の3つの種類があります。

  • 自筆証書遺言:遺言者が全文を自分で手書きする遺言書
  • 公正証書遺言:公証役場で公証人が作成する遺言書
  • 秘密証書遺言:存在のみを公証役場で証明してもらい、遺言の内容を秘密にして作成する遺言書

孫への遺贈を確実に実行するには、公正証書遺言の作成がおすすめです。なぜなら、公正証書遺言は公証人が関与するため法的不備が少なく、原本が公証役場に保管されるので紛失・改ざんのリスクも低いためです。

ただし、公正証書遺言の作成には費用がかかるため、費用を抑えたい場合は自筆証書遺言という選択肢もあります。自筆証書遺言は作成費用がかからないので、もっとも経済的な選択肢です。自筆証書遺言でも法務局での保管制度を利用すれば、紛失リスクも軽減できます。

遺言書は種類によって作成方法・保管方法が異なり、状況に応じて使い分けが必要なので、迷った際は司法書士・弁護士といった専門家への相談がおすすめです。

孫に相続できる場合

孫に相続できる場合のイメージ

前述の通り、孫には原則として相続権がありませんが、例外的に孫が相続権を得るケースもあります。それが、養子縁組と代襲相続です。

遺言書による場合、遺贈によって財産を承継することはできますが、孫が相続人になる訳ではありません。これに対し、養子縁組や代襲相続では、孫が法律上の相続人となります。

それぞれの仕組みについて詳しく見ていきましょう。

孫と養子縁組をする

養子縁組とは、法律上の親子関係にない者同士が親子関係を結ぶ制度です。

一般的に養子縁組は血縁関係のない者同士で行われる印象がありますが、血縁関係がある者同士で養子縁組することも可能です。祖父母と孫の間で養子縁組を行うと、両者の間に法律上の親子関係が成立し、孫は祖父母の「子ども」という身分を取得します。

そして、子どもは第一順位の法定相続人であるため、養子となった孫は祖父母の第一順位の法定相続人として相続権を取得します。

なお、法律上は養子と実子の間に相続分の区別はなく、養子も実子と同等の相続権があります。

参照:民法809条│e-Gov 法令検索

代襲相続が発生している場合

代襲相続とは、本来相続人となるべき人が被相続人より先に亡くなった場合などに、子どもがその人に代わって相続権を取得する制度です。例えば、祖父より先に父が亡くなった場合、父が本来受け取るはずだった相続分を孫が代襲相続します。

代襲相続は、相続人が被相続人より先に亡くなった場合のほか、相続欠格や相続廃除によって相続権を失った場合にも発生します。

そして、代襲相続が起きると孫は「子どもの代わり」として相続権を得るため、孫が第一順位の法定相続人になります。

なお、複数の孫がいる場合、それぞれ等しい割合で相続権を取得します。例えば、2人の孫が代襲相続した場合、それぞれの相続割合は2分の1ずつとなります。

贈与などにより孫に財産を承継する手段

これまで説明した遺言書や養子縁組、代襲相続以外にも、孫に財産を承継させる方法があります。特に、被相続人が生存中に財産を移転する「生前贈与」や、生命保険を活用した財産承継は、相続発生を待たずに孫への財産移転を実現できる有効な手段です。

また、これらの方法は相続税対策としても有効であり、各種の非課税制度を活用することで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。以下では、孫への財産承継で活用できる具体的な方法について詳しく解説します。

生前贈与として孫に贈与する

生前贈与とは、所有者が亡くなる前に他人へ無償で財産を譲り渡すことです。孫は法定相続人でないため相続はできませんが、生前贈与であれば相続発生前に財産を承継できます。

生前贈与の特徴は、贈与者の意思によって自由に財産を処分できることです。法定相続分は法律で割合が定められていますが、生前贈与にはそういった決まりがないため、贈与者が望む相手に望む財産を移転できます。

非課税枠での活用方法は事項を参照してください

生前贈与を行うと、課税価格に対して10~55%の贈与税が発生しますが、非課税枠を活用すれば税負担を抑えられます。

この非課税枠については、「生前贈与の非課税枠を活用して贈与する方法」で詳しく解説します。

生命保険の受取人に指定する

孫を生命保険の受取人に指定することで、祖父母の亡くなったときに孫が保険金を受け取れます。

生命保険金は被相続人の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われます。つまり、保険金請求権は遺産分割協議の対象にはならないので、ほかの相続人に権利を侵害される心配もありません。

この点は、過去の判例でも「保険金請求権は受取人である相続人が有する」との判断が示されています。

孫に財産を残したい場合、預貯金や不動産といった資産だけでなく、このように生命保険金を活用する方法もあります。

参照: 最判昭和40年2月2日│裁判所

 

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生前贈与の非課税枠を活用して贈与する方法

生前贈与は祖父母が孫に直接財産を渡すことができる有効な手段です。しかし、生前贈与には贈与税が課税されるため、税負担を軽減するために各種非課税制度を活用することが重要です。

ただし、非課税制度は複数あり、それぞれ適用要件や非課税限度額が異なるため、孫の年齢や状況、贈与する財産の種類に応じて最適な制度を選択することが大切です。

以下では、孫への贈与で活用できる主要な非課税制度について詳しく解説します。

暦年課税の基礎控除

暦年課税制度は、贈与税を算定する際に1年間(1月1日~12月31日)を基準とする税制であり、年間110万円の基礎控除が適用される課税制度です。つまり、贈与額の合計が年間110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

例えば、孫の誕生日や入学祝い、お年玉などを含めて年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の負担なく財産を移転できます。また、毎年継続的に110万円ずつ贈与することで、長期間にわたって孫へ財産を承継させることも可能です。

なお、贈与税は該当年度内に贈与により取得した全財産の合計額を算出し、基礎控除を差し引いたうえで税額を計算します。税率は以下の通りです。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
200~300万円15%10万円
300~400万円20%25万円
400~600万円30%65万円
600~1000万円40%125万円
1000~1500万円45%175万円
1500~3000万円50%250万円
3000万円超55%400万円

例えば、贈与財産の価額が600万円の場合、以下のように相続税額を計算します。

  • 基礎控除適用後の課税対象額:600万円-110万円=490万円
  • 贈与税の算出:490万円×20%-25万円=73万円

参照:No.4408贈与税の計算と税率(暦年課税)│国税庁

教育資金の贈与税の非課税措置

教育資金の贈与税の非課税措置とは、教育資金に充てるために直系尊属から取得した資金については贈与税が非課税になる制度です。限度額は1500万円であり、贈与を受ける人は30歳未満でなければなりません。対象期間は平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間です。

孫の大学進学費用や留学資金、習い事の費用などをまとめて贈与したい場合、特に有効な制度となります。例えば、孫が高校生のうちに大学4年間分の学費1000万円を一括で贈与した場合、この制度を活用すれば贈与税なしで財産を移転できます。

参照:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし│国税庁

結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置

結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置とは、結婚・子育て資金に充てるために直系尊属から取得した資金について、贈与税が非課税になる制度です。

本制度は、孫の結婚が決まった際の結婚式費用や新居の準備費用、孫に子どもが生まれたときの出産費用や育児費用などに活用できます。限度額は1000万円であり、結婚に際して支払う金銭については300万円が限度額です。

適用を受けられるのは18歳以上50歳未満の方への贈与に限られ、対象期間は平成27年4月1日から令和9年3月31日までの間です。

参照:No.4511直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税│国税庁

住宅取得等資金の贈与税の非課税措置

住宅取得等資金の贈与税の非課税措置とは、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、一定の条件の下で贈与税が非課税となる制度です。孫がマイホームを購入する際の頭金や、孫夫婦の新居購入資金として活用できます。

対象期間は令和6年1月1日から令和8年12月31日までであり、非課税限度額は省エネ等住宅の場合1000万円、それ以外の住宅の場合500万円です。

適用を受けるための主な条件は以下の通りです。

  • 受贈者が18歳以上で、贈与者の直系卑属であること
  • 合計所得金額が2000万円以下(住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1000万円以下)であること
  • 贈与を受けた翌年3月15日までに住宅の新築・取得・増改築等をし、居住すること
  • 住宅の床面積が40㎡以上240㎡以下で、その2分の1以上が居住用であること

参照:No.4508直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税│国税庁

特定障害者等に対する贈与税の非課税制度

特定障害者等に対する贈与税の非課税制度とは、特定障害者の生活費などに充てるため、契約に基づいて財産を信託した場合、一定の金額まで贈与税が非課税となる制度です。

非課税限度額は、特別障害者の場合は6000万円、特別障害者以外の特定障害者の場合は3000万円であり、対象者は以下の通りです。

  • 特別障害者
  • 特別障害者以外の障害者のうち、精神に障害がある方

特別障害者とそれ以外の特定障害者の主な該当者は、以下の通りです。

 

特別障害者

  • 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方
  • 重度の知的障害者と判定された方
  • 精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級の方
  • 身体障害者手帳の障害の程度が1級又は2級の方

    特別障害者以外の特定障害者

    • 軽度・中度の知的障害者と判定された方
    • 精神障害者保健福祉手帳の障害等級が2級・3級の方
    • 身体障害者手帳の障害の程度が3級以下の方

    参照:障害者と税│国税庁

    制度活用の相談は専門家へ

    生前贈与の非課税枠を活用するには、信託契約の設定や税務署への届出など専門的な手続きが必要です。非課税限度額の適用についても複雑な要件があるため、制度の活用を検討される際は税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

    そのほか、契約書作成や登記手続きでは司法書士、法的なトラブル予防では弁護士など、それぞれの専門家を使い分けるとよいでしょう。

    孫への相続で注意すべきこと

    孫への相続には、法的・税務的に注意すべき重要なポイントがあります。事前に対策を講じることでトラブルを回避し、より有効な相続を実現できます。

    ほかの相続人とのトラブル

    孫への相続や遺贈を行う際は、ほかの相続人とトラブルになるリスクがあります。なぜなら、孫が相続人に加われば必然的に法定相続人の取り分が減少するからです。特に多額の財産が孫に承継されたケースほど、法定相続人からは反感を受けやすいでしょう。

    また、孫が複数いる場合、遺産を相続した孫とそうでない孫との関係が悪化する可能性もあります。

    以上のことから、孫への相続を行う際はほかの相続人への配慮を怠らず、親族間の調和を維持するための細心の注意が求められます。場合によっては遺留分侵害額請求など法的トラブルに発展するリスクもあるため、不安があれば弁護士などの専門家に相談するのもおすすめです。

    非課税枠を活用できず相続税が高くなってしまう可能性

    孫が遺産を相続する際、相続税が2割加算される場合があります。

    2割加算とは、被相続人の配偶者や一親等の血族以外の親族が相続すると、相続税額が2割増しになるという仕組みです。一親等の血族には子どもや両親が該当しますが、孫はこれに含まれないため2割加算の対象となります。

    また、相続税には、以下のように一定の基礎控除があり、基礎控除額を上回っている部分にのみ税率がかかりますが、孫が相続しても基礎控除は変わりません。

    基礎控除:3000万円+(600万円×法定相続人の人数)

    上記の通り、基礎控除の算定基準は「法定相続人」であるため、孫が相続しても相続税の負担は変わらないことがわかります。

    参照:No.4157相続税額の2割加算│国税庁

    参照:No.4152相続税の計算│国税庁

    本項の悩み相談は専門家へ

    孫への相続では、ほかの相続人とのトラブルや相続税の2割加算など複雑な問題が生じる可能性があります。また、遺留分侵害額請求のリスクや最適な贈与方法の選択など、法的・税務的な判断が必要な場面が多いため、事前に専門家に相談することが重要です。

    税務については税理士、法的トラブルの予防については弁護士、手続き関連は司法書士など、それぞれの専門分野に応じて相談先を選択しましょう。

    孫への財産承継は専門家のアドバイスが有効

    孫には原則として相続権がありませんが、遺言書の作成や養子縁組、代襲相続といった方法によって財産を承継させることが可能です。また、生前贈与や生命保険の活用など、相続以外の手段も有効な選択肢となります。

    特に生前贈与については、教育資金や住宅取得資金などの非課税制度を活用し、税負担を大幅に軽減できる場合があります。ただし、孫への財産承継にはほかの相続人とのトラブルや相続税の2割加算といったリスクも伴うため、慎重な検討が必要です。

    孫への財産承継は複雑な法的・税務的な判断を要するので、具体的な手続きを進める前に税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。適切な方法を選択し、ご家族の意向に沿った円滑な財産承継を実現しましょう。

     

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    記事の著者紹介

    金田直也(ライター)

    【プロフィール】

    法律×マーケティングの専門家。司法試験予備試験一次合格後、二次試験最終順位は受験者総数の上位約5%。法律ライター歴5年、執筆記事1,000本以上、弁護士への取材100件以上の豊富な実績を持つ。東証マザーズ上場企業(売上高約20億円)、業界トップクラスの大手弁護士ポータルサイト運営企業をはじめ、多様なクライアントと3年以上の長期継続契約を維持。法律知識×弁護士実務への理解×コピーライティングスキルの総合力で、弁護士事務所をはじめ士業の集客・受任数増加に貢献。

    【資格】

    司法試験予備試験一次合格

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    本記事の内容は、記事執筆日(2022年6月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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