離婚後も不動産の共有名義を解消しないとどうなる?相続への影響とあわせて解説

公開日:2025年4月21日

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離婚後も不動産の共有名義を解消せずにいると、売却や活用がしにくくなる・ローン延滞が発生するリスクがある・相続時に権利関係が複雑になるなど、トラブルが起きやすくなります。離婚後もどちらかが住み続けるなら共有名義の解消を検討することが大切です。この記事では、共有名義を解消しないデメリットや共有名義の解消方法・共有名義の不動産のある離婚の注意点をわかりやすく解説します。

共有名義の不動産とは

不動産を所有すると、登記簿に所有者としての名前(名義)が記載されます。その記載された名義が1人か複数人かで、単独名義と共有名義に分類されます。

単独名義とは、ひとつの不動産に1人の名義人がいる状態です。一方、ひとつの不動産に対し2人以上の名義人がいる状態を「共有名義」といい、その不動産は「共有名義の不動産」となります。また、共有名義の不動産の所有者は「共有者」と呼ばれ、それぞれの所有権は「共有持分」、その割合は「共有割合」と呼ばれます。これらの用語もあわせて覚えておくとよいでしょう。

不動産が共有名義になる主な理由には、以下が挙げられます。

  • 複数の相続人で相続した
  • 共同出資して不動産を購入した

相続財産に不動産が含まれる場合、不動産を相続する人は遺言書や遺産分割協議で決まります。相続人が複数人いるケースで、遺産分割協議で不動産所有者について意見がまとまらない・不動産しか遺産がなく分割できないといった事情があると、相続人全員で不動産を共有するということが起こりうります。この場合、共有割合は法定相続分または遺産分割協議で決められた割合になります。

相続以外では、購入時に共有名義になるケースが一般的です。共同で出資するケースでは、出資した人全員が名義人となり共有名義になります。

代表的な例が、住宅ローンを夫婦で組んで家を購入するケースです。近年は、ペアローンや収入合算により夫婦で住宅ローンを組むケースが増えており、この場合の名義人は住宅ローンの契約者である夫と妻両方となります。夫婦間だけでなく、親子で二世帯住宅を購入する・友人と不動産を購入するケースも出資者全員が名義人です。なお、出資して購入するケースでは出資額に応じて共有割合が決まることが一般的です。

夫婦で不動産を共有している場合、離婚にともない共有名義を継続するか解消するかの選択を迫られます。しかし、共有名義のままではさまざまなデメリットが生じるため、一般的には、共有名義を解消したほうがトラブルを避けやすいといえるでしょう。

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離婚による共有名義状態を解消しないデメリット

離婚時に共有名義を解消しないと以下のようなデメリットがあります。

  • 離婚相手の同意がないと不動産の処分・活用ができない
  • 相続が発生すると権利関係が複雑になる
  • 調停や訴訟に発展するリスクがある
  • ローンの支払いが滞る可能性がある
  • 維持費が発生し続ける

それぞれ見ていきましょう。

離婚相手の同意がないと不動産の処分・活用ができない

共有名義の不動産では、以下の行為は共有者全員の合意が必要です。

  • 売却
  • 増改築
  • 長期の賃貸借契約
  • 抵当権設定

離婚後に不動産を売却しようとしても、共有名義では共有者の同意がなければ売却できません。また、長期の賃貸借契約や不動産を担保に借入といった活用も単独ではできないため、活用の選択肢が狭まり、結果として活用が進まない可能性もあります。

同意を得られれば売却や活用ができるとはいえ、離婚後の相手に連絡を取るのがストレスという方もいるでしょう。関係性によっては相手から連絡を拒否される・同意を得られない可能性も十分あり得ます。

なお、リフォームや短期の賃貸借契約といった管理行為も共有者の過半数の同意が必要です。相手の共有持分が多いと、リフォームですら制限がかかるので注意しましょう。

相続が発生すると権利関係が複雑になる

離婚後の共有状態からさらに相手に相続が発生すると、その持分は相手側の相続人(法定相続人や遺言で指定された人)が相続します。たとえば、離婚した夫が再婚し再婚相手との間に子どもがいると、持分の法定相続人は再婚相手とその子どもです。

仮に、自分との間に子どもがいても、再婚相手やその子どもも法定相続人となる点は変わりません。この場合、売却や活用しようと思ったら、再婚相手と連絡を取る必要が出てくるのです。とはいえ、その状態を放置していると、相手側がさらに相続になる・自分の持分も相続が発生するというように権利関係はより複雑になります。

離婚に限らず共有不動産は相続で権利関係が複雑になりやすいので、注意しましょう。

調停や訴訟に発展するリスクがある

共有者が売却に応じてくれないなど共有不動産でトラブルになり、話し合いでの解決が難しい場合、裁判所での手続きで解決する必要が出てきます。代表的なケースが、共有物分割調停・共有物分割訴訟です。

共有物分割調停とは、共有状態の解消について裁判所に間に入ってもらい話し合いを行う手続きを言います。共有物分割調停で話し合いがまとまらない際は、訴訟を提起し裁判所に判断してもらうことになるのです。

裁判所の判断としては、売却してお金で分割か、どちらかが相手方にお金を支払って持分を取得するケースが多いでしょう。

訴訟まで発展すると、手間や費用・時間がかかり大きな負担となります。さらに、住み続けたいと考えていても、裁判の結果として売却せざるを得なくなる可能性もあるため、注意が必要です。

ローンの支払いが滞る可能性がある

離婚時に住宅ローンが残っており共有名義を続けると、双方に返済の義務が残ります。この場合は離婚後も返済が続くことになりますが、滞納リスクが高くなる点に注意が必要です。

離婚により経済状況が悪化し支払いが難しくなるケースや、住まない方が支払いを渋るといったケースがあるでしょう。住宅ローンを夫婦で組む際には基本的にお互いが連帯保証人になっているため、どちらかの返済が滞ればもう片方に返済が請求され、大きな負担となりかねません。もし、返済できないとなれば、金融機関に不動産が差し押さえられるリスクもあるので注意しましょう。

離婚後にローンの支払いが続くときは、滞納リスクに備えて離婚時に支払いについて話し合い、その内容を公正証書にしておくことをおすすめします。

維持費が発生し続ける

不動産は所有し続ける限り、固定資産税や都市計画税、修繕費用などの維持費がかかります。修繕費は家に住む側が負担するのでそれほどトラブルになりませんが、固定資産税・都市計画税は共有者全員に納税義務があるのでトラブルにつながる可能性があります。

住んでいない共有者が納税に応じない場合には、1人で全額負担することになるので気を付けましょう。

共有名義を解消する方法

共有名義を解消する方法のイメージ

離婚時に共有名義を解消すれば、前述のようなリスクを避けられるだけでなく離婚後に共有名義があることを理由に相手との関係を続けなければならないこともなくなります。共有名義を解消する方法は、単独名義にするか売却するかのいずれかです。以下で、それぞれの方法を詳しくみていきましょう。

どちらかの単独名義にする

共有名義からどちらかの単独名義にすれば、名義人は自由に売却や活用ができるようになります。

離婚後にどちらかが住み続けるなら、単独名義にすると後々のトラブルを避けやすくなるでしょう。単独名義にする方法としては、財産分与として相手の名義をもらう・相手の名義を買い取る方法があります。

財産分与の割合は合意で決められるので、合意があれば無償で単独名義に変更することも可能です。ただし、財産分与とは異なるタイミングで無償譲渡や著しく安価な譲渡を行うと、贈与税の課税対象となる可能性があるので注意しましょう。

また、住宅ローンが残っているかによっても名義変更方法が異なります。住宅ローンがなければ、離婚届提出後に夫婦共同で名義変更するだけで手続きは完了です。

一方、住宅ローンが残っている場合、名義変更には金融機関の了承が必要となり、そのために債務者の変更や住宅ローン完済・借り換えを行わなければなりません。債務者変更や借り換えでは審査が行われるため、収入状況によっては認められない可能性があります。

共有相手と協力して売却する

離婚後にどちらも住まないのであれば、所有し続けるよりも売却を検討する方が現実的です。売却すれば売却金を財産分与で分けられるだけでなく、離婚後に不動産に関して相手と連絡を取る必要もなくなります。夫婦連名で売却を進める必要はありますが、離婚前後であれば合意形成を得やすいケースも多いでしょう。

なお、住宅ローンが残っていると住宅ローンを完済できるかでも売却の可否が変わってきます。自己資金で住宅ローンを完済できるなら、問題なく売却を進めることが可能です。一方、自己資金だけでは完済できないケースでは、アンダーローンかオーバーローンかで対応が異なります。

  • アンダーローン:住宅ローン残債よりも売却額が大きい
  • オーバーローン:売却額より住宅ローン残債が大きい

売却金で住宅ローンが完済できるなら売却に問題はなく、住宅ローン完済後に残ったお金は財産分与で分けることも可能です。しかし、売却金だけで完済できないオーバーローンでは、完済できない分を自己資金や援助などで賄う必要があります。

どうしても完済できず売却できない場合、金融機関の同意を経て不動産を売却する任意売却を検討することになるでしょう。

共有名義の不動産を所有して離婚する際の注意点

共有名義の不動産を所有し離婚になると、さまざまなトラブルが発生しやすいため注意点を押さえておくことが重要です。ここでは、共有名義の不動産がある離婚の注意点を紹介します。

持分の割合と財産分与の割合は一致しない

共有持分は、基本的に購入時の資金負担割合に応じて決められます。

たとえば、5000万円の家を夫3000万円・妻2000万円出資して購入した場合、夫の持分は5分の3、妻の持分は5分の2です。

しかし、財産分与の割合は持分割合とは異なります。財産分与は原則として2分の1ずつの分配となり、夫婦間の収入の差は影響しません。そのため、家の持分割合が均等でなくても、財産分与では夫婦2分の1ずつに分けることになるのです。

ただし、財産分与の割合は夫婦の合意で決められるため、合意があれば2分の1とは異なる割合での分与もできます。共有持分のある財産分与は複雑になりやすいため、悩む場合は専門家への相談をおすすめします。

財産分与の場合は共有名義解消にかかる税金が軽減される

不動産の持分を取得すると、通常不動産取得税がかかり、さらに、贈与により持分を取得すれば贈与税の対象となります。しかし、財産分与による譲渡・取得に対しては、贈与税・不動産取得税は基本的にかかりません。ただし、名義変更が実質的に財産分与と認められる必要があり、形式のみの名義変更や離婚と無関係な譲渡と見なされると課税される可能性があります。

ただし、持分を取得する側は名義変更する際には、登記手続きに対してかかる登録免許税が発生するので注意しましょう。また、持分を相手に売却する場合、売却利益に対して譲渡所得税が課税されます。なお、譲渡所得税は一定の要件を満たすことで居住用不動産の3000万円特別控除を適用できるため、適用要件を満たすことができれば、課税されないか大幅に節税できるケースが多いでしょう。

共有持分のみを売却することも可能

共有名義の不動産は共有者全員の合意がなければ不動産全体の売却ができませんが、自分の持分だけであれば他の共有者の合意なしで売却が可能です。共有を解消したいけど相手が同意しないケースでは、持分のみ売却して手放すのもよいでしょう。

しかし、共有持分は購入しても制限があり活用が難しいので、買い手がつきにくい点に注意が必要です。どうしても買い手が見つからない場合は、持分のみといった訳あり不動産を専門的に取り扱う業者への相談を視野に入れるとスムーズな売却が期待できます。

なお、離婚前に共有持分のみを売却するとトラブルになりがちです。婚姻後に購入した不動産(夫婦で築いた財産が原資の場合)は財産分与の対象となるので、財産分与確定前に売却することで清算を求められたり損害賠償請求を受けるリスクがあります。

仮に、売却できても財産分与の対象となるので、持分が多いと売却により損する恐れがあるでしょう。持分のみの売却を検討するなら、財産分与が確定した離婚後が適しています。

相続で権利関係が複雑になることは生前に対策できる

共有持分は相続により所有者がさらに細分化され権利関係が複雑になりがちです。この問題に対しては、所有者が生前中に対策していくことで解決できる可能性があります。生前にできる対策としては以下が挙げられます。

  • 持分を生前贈与する
  • 遺言で特定の相続人に指定する
  • 家族信託で持分を特定の人に信託する
  • 生前のうちに売却する

ただし、それぞれの方法にもデメリットや注意点はあり、またどの方法が適切かは相続状況によっても異なります。共有不動産の生前対策でトラブルを避けたいなら、相続・離婚問題に強い弁護士への相談をおすすめします。

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共有名義の不動産がある離婚や相続は専門家に相談を

ここまで、不動産の共有状態を離婚後に解消しないデメリットや解消方法をお伝えしました。共有名義の不動産を所有したまま離婚すると、ローンの支払いや活用などでトラブルが生じるリスクがあるため、できる限り離婚時に共有状態を解消することをおすすめします。

離婚後も家を所有することになるなら、単独名義にする・売却するといった方法を検討するとよいでしょう。持分売却は買い手がつきにくいため訳あり不動産買取業者への相談をおすすめします。

また、共有名義の不動産で相続になると権利関係が複雑になるので、遺言や生前贈与といった生前対策を検討しておくことが大切です。相続と離婚に強い弁護士であれば、適切な生前対策から相続までサポートしてくれるので相談するとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2025年4月21日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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