今後実家を相続することになる人や、すでに実家を相続することが決まった人のなかには、なにから手続きを始めるべきか悩んでいる人も多いでしょう。実家の相続が決まったら、相続税の申告や名義変更の手続きなどを進めなければなりません。本記事では、実家を相続するときの一般的な流れや相続後の活用方法、注意点について詳しく解説します。
実家を相続するときの一般的な流れ
実家を相続するとき、以下の5つのステップで手続きを進めることが一般的です。
- 相続財産の調査
- 相続人の調査
- 遺産分割協議の実施
- 相続税の申告・納税
- 相続登記による名義変更
ステップごとに実家を相続する流れを詳しく確認しましょう。
相続財産の調査
相続が発生したら、まず実家で遺言書を探しながら相続財産の調査を進めましょう。遺言書があれば、相続財産が一覧化されているため、比較的楽に相続財産の洗い出しができます。
しかし、遺言書がない場合、実家を含めた預金や不動産、土地などの財産をすべて調べなければなりません。相続の対象となる財産は、以下の通りです。
- 現金・預金
- 不動産(建物・土地)
- 株式
- 投資信託
- 有価証券
- 自動車
- 骨董品・貴金属など
- 知的財産権(商標権・著作権・特許権など)
さらに、借入金や未払金などのマイナスの財産も対象です。もちろん、実家のローンが残っている場合でも相続で引き継がなければなりません。
相続財産の見落としがあると、遺産分割協議をやり直したり相続税の申告・納税をし直さなければならず、時間と手間がかかってしまいます。できるだけ早めに相続財産の調査を終わらせましょう。
相続人の調査
相続財産を調査することと同時に進めるべきことは、相続人の調査です。遺言書があれば誰に相続財産を引き継ぐか指名されていますが、遺言書がない場合は民法で定められた法定相続人同士で話し合って相続財産を分けることとなります。
法定相続人は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得することで確認が可能です。
遺産分割協議の実施
相続財産と相続人が確定したら、遺産分割協議を行いましょう。遺産分割協議では、「だれがどの財産を相続するのか」を話し合って決めます。
実家を誰が相続するかはこのとき明確に決めることになります。亡くなった人と同居していた配偶者や子どもが相続することが一般的です。しかし、なかには一人暮らしをしていた家だったり、主が亡くなったことをきっかけに引っ越したりするケースもあり得ます。
誰も住まない実家を相続する場合、相続後どのようにするのかまで話し合った方がトラブルを回避できるためおすすめです。本来であれば実家を相続した人に貸出や売却などの権利がありますが、実家は遺された人たちにとって思い入れの強い場所です。
貸出や売却、取り壊しなどをする場合は、事前にどのように処分しようと思っているのかを伝え、同意を得ておきましょう。「一回忌の法事が終わるまでは残しておきたい」「思い出の場所だから最後に写真を撮りたい」など、それぞれ家族の思いを尊重することも大切です。
遺産分割協議で誰がどの財産を相続するのかが決まったら、遺産分割協議書を作成し全員の署名と捺印を行います。遺産分割協議書がなければ、実家の建物や土地の名義変更の手続きが進められないため、注意しましょう。
相続税の申告・納税
遺産分割協議書が作成できたら、相続税の申告・納税を行いましょう。相続税の申告・納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10か月以内です。
相続税の申告は、相続財産の総額が基礎控除額を下回っている場合にのみ必要です。基礎控除額は法定相続人の人数によって変わるため、自分の相続のケースに合わせて計算しましょう。
- 基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の人数)
基礎控除額を上回ったら相続税の申告書を作成し、期限内に税務署に提出しましょう。
相続登記による名義変更
実家を相続すると決まった人は、名義変更のために相続登記の手続きをしましょう。相続登記とは、相続によって建物や土地の所有者が変更したことを法務局に届け出る手続きです。
令和6年4月1日から相続登記が義務化されたため早急に手続きを完了させておきましょう。
参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)|法務省
相続によって所有権を持っていることを知ってから3年以内に相続登記しなければ10万円以下の過料が科せられます。「知らなかった」では済まないため、注意しましょう。
実家の相続登記は、以下の手順で進めます。
- 必要書類を収集する
- 固定資産評価証明書を取得する
- 相続登記の書類を作成する
- 法務局で登記申請・手続きをする
自分で手続きすることも可能ですが、時間のない人や不安のある人は司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
実家を相続する際に注意すべきこと
実家を相続する際には注意すべきことがあります。事前に確認しておかなければ、無駄なペナルティを支払ったり、相続人や隣人とのトラブルに発展しかねません。
スムーズに実家を相続するために、5つの注意点について確認しましょう。
放棄や限定承認は3か月以内に行う
実家を含め、亡くなった人の財産の相続を放棄するのであれば、相続が発生したことを知ってから3か月以内に手続きをしなければなりません。
相続放棄とは、相続する権利をすべて放棄することです。一方、限定承認とはプラスの財産の範囲のなかでマイナスの財産を相続することを指します。どちらも借入金が多いときなどに活用されますが、相続放棄をすると実家を相続することはできません。
また、限定承認をする場合でも実家の価値に値するマイナスの財産は引き継ぐ必要があります。実家を守るためには、自分の資産からマイナスの財産を引き継ぎ、亡くなった人の代わりに借入金などを返済しなければなりません。
マイナスの財産が多い場合は3か月以内に相続放棄や限定承認の判断をして手続きをしなければならないため、注意しましょう。
準確定申告は4か月以内に行う
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得税を相続人全員が共同で確定申告することです。相続が発生したことを知ってから4か月以内に手続きと所得税の納税をしなければなりません。
亡くなった人が生前に収入を得ていた場合にのみ必要です。具体的には、以下のようなケースにおいて申告義務があります。
- 自営業やフリーランスで事業収入があり、売上から経費を差し引いた所得が48万円以上だったとき
- 不動産所得や株取引などで48万円以上の所得があるとき
- 副業などで2か所以上から給与を得ていたとき
- 2000万円以上の給与所得があるとき
- 400万円以上の年金受給があったとき
- そのほか、医療費控除や寄付控除などをつかって還付をうけたいとき
状況によっては、準確定申告によって還付金を受け取れる場合があります。必要かどうか見極められない場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
相続税の申告・納税は10か月以内に行う
相続税の申告・納税は、相続が発生したことを知った日の翌日から10か月以内に行いましょう。相続税の申告義務があるケースは、基礎控除額を上回った場合のみです。
基礎控除額は法定相続人の人数によって変動し、以下のように計算します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の人数)
相続税の申告・納税の期限に遅延すると、以下のようなペナルティが課されます。
- 特例が使えなくなり、節税しづらくなる
- 延滞税や無申告加算税などが追加で課税される
とくに、実家を相続するときに大幅な節税が見込める「小規模宅地等の特例」の適用条件には、「申告期限内に申告すること」となっています。特例が使えないことによって大きく相続税額が上がる可能性が高いため、相続税の申告・納税の期限を守るよう手続きを進めましょう。
複数人で相続するとトラブルに発展しやすい
たしかに実家を物理的に分割することはできないため、複数の相続人の共同名義で登記することは可能です。しかし、理由なく共有分割することは以下のようなトラブルに発展する恐れがあります。
実家に対する思いはもちろん、経済的な余裕や不動産に対する考え方は人それぞれです。相続時には意見が一致していても、時間が経つにつれ考えが変わることもあります。
そこで、実家を相続するときは、以下のいずれかの方法がおすすめです。
現物分割 | 実家を一人で相続し、他の相続人はマンションと同じだけの価値の財産を相続する |
---|---|
代償分割 | 実家を一人で相続し、他の相続人に相続分相当の金額を渡す |
換価分割 | 実家を売却し、売却で得た利益を相続人同士で分割する |
一度共有名義にした場合でも話し合いをして、早めに共有を解消しましょう。
実家を放置することは絶対にしてはいけない
相続した実家を放置することは、絶対にやめましょう。なぜなら、空き家に指定されてしまうことで、以下のような大きなペナルティを課せられるからです。
- 固定資産税や都市計画税の軽減措置が受けられなくなる
- 自治体が強制的に取り壊すことができ、その分の費用を負担させられる
参考:平成二十六年法律第百二十七号空家等対策の推進に関する特別措置法
誰にも手入れをされていない空き家による問題は、以下のようなものが挙げられます。
- 老朽化による倒壊
- 放火による災害
- 雪や落雷による倒壊・火事
- 景観の悪化
どれも近隣住民に被害を与える可能性があり、大きな損害賠償を請求されることもあり得ます。「とりあえず置いておきたい」と放置せず、住まないのであれば賃貸や売却などの活用方法を検討しましょう。
実家を相続した場合の主な活用方法
実家を相続した場合、主な活用方法は4つあります。
- 相続して住む
- 相続して売却する
- 相続して賃貸経営をする
- 相続して土地活用をする
それぞれ具体的に確認し、活用方法についてよく検討しましょう。
相続して住む
実家を相続した人がそのまま住むことで、家や土地の管理をし続けられます。亡くなった人と一緒に住んでいたのであれば、そのまま住み続けることで手続きや手間が格段に減ります。
もし、亡くなった人が一人暮らししていた家だったとしても、実家は遺された人にとって思い出深い場所でしょう。時間をかけて遺品整理したい場合や、思い出の場所を守りたい場合には、相続した実家に住むことを検討しましょう。
また、建物を自分の家族向けの間取りに立て替える手段もあります。とくに、亡くなった人の配偶者が一人になることが心配で、息子家族が二世帯住宅に建て替えることは珍しくありません。
相続して住むにもさまざまな選択肢があるため、家族やほかの相続人とよく相談して決めましょう。
相続して売却する
相続して売却すると現金化できるため、ほかの相続人と財産を均等に分けやすくなります。実家に住む予定のない場合や、維持・管理が難しい場合に検討しましょう。
売却すれば維持費や固定資産税に悩まされることはなくなり、お金の面での心配はなくなります。ただし、売却すればその後実家は買い手によってどのように扱われるか分かりません。すぐに取り壊しとなる可能性もあるため、家族やほかの相続人の思いも汲み取る姿勢が大切です。
相続して3年10か月以内に実家を売却すれば相続財産を譲渡(売却)した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)に該当するため、納付した相続税の一部を取得費に加算できます。
譲渡所得が少なくなるため、譲渡による所得税も安くなるので、積極的に活用しましょう。
相続して賃貸経営をする
相続実家に誰も住まないのであれば、実家の建物をそのまま賃貸経営する選択肢もあります。いずれは誰かが実家に戻りたい場合や、家賃収入を得たい場合におすすめです。
もし、築年数が経っているとリフォームをしたり設備を買い換える必要はありますが、初期費用は少なく済みます。
賃貸経営を検討しているのであれば、不動産会社に相談し、どれくらいの家賃収入が得られるか見積もりを出してもらいましょう。
相続して土地活用をする
相続した実家の建物を取り壊し、土地を活用する選択肢もあります。建物はなくなっても、先祖代々の土地をこれからも守っていけることがメリットです。
具体的には、以下のような土地活用方法があります。
- 駐車場経営
- トランクルーム経営
- アパート、賃貸併用住宅などの賃貸経営
実家の土地を活用して収入が得られるようになるため、選択肢として検討する人は多いです。
土地活用をする場合、建物を取り壊すことになるため、ほかの相続人にも相談することを忘れないようにしましょう。亡くなった人とのそれぞれの思い出を踏みにじらないよう配慮が必要です。
実家の相続税評価額を計算する方法
実家の相続税評価額を計算する方法について紹介します。大前提として、不動産の相続税評価額は建物部分と土地部分に分けて計算します。
戸建とマンションに分けて計算方法を確認しましょう。
戸建実家の相続税評価額を計算する方法
戸建の場合、家屋と土地に分けて計算をします。家屋部分の相続税評価額は、固定資産税課税証明書の「価格」欄に書かれている固定資産税評価額と同額です。
一方、土地の評価は、路線価方式と倍率方式のいずれかによって計算します。
- 路線価方式…市街地に決められた1平方メートルあたりの評価額を使って評価する方法
- 倍率方式…路線価の定められていない土地を評価する方法
路線価や倍率は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」から確認できます。
マンション実家の相続税評価額を計算する方法
実家がマンションの場合も、建物部分と土地部分に分けて計算をします。
建物部分の相続税評価額は、固定資産評価額と同額です。一方、土地の相続税評価額は、マンション全体の土地面積を持分割合で按分(あんぶ)した金額を計算しなければなりません。
住戸・ベランダ部分の占有部分だけでなく、玄関のエントランスやエレベーター、階段などの共有部分も住民全員の財産とみなされるため共有対象です。そのため、持分割合には、専有部分と共用部分が含まれます。
マンション全体に対する持分割合は、マンションの売買契約書や登記簿(登記事項証明書)で確認できます。
実家の相続税について知っておきたいこと
実家を相続すると、相続税が発生する場合があります。相続税について知っておきたいことを確認しましょう。
小規模宅地等の特例や空き家の特例などを活用して節税をしよう
実家を相続するときや売却するときは、特例や控除を活用して賢く節税しましょう。
まず、相続税の節税に役立つ特例や控除は以下の通りです。
小規模宅地等の特例 | 要件を満たせば実家の土地部分の相続税評価額を減額できます。 自宅としての自己利用だけでなく、賃貸住宅にも適用できます。 自己利用していた住宅を相続した場合、要件を満たせば土地の相続雨勢評価額を80%も減額可能です。 |
---|---|
配偶者控除 | 亡くなった人の戸籍上の配偶者が相続した財産のうち、
のいずれかにあてはまる場合に相続税が0円になります。 |
また、一人暮らしの親の自宅を相続し、空き家となってしまった場合に売却することで譲渡所得の特例を受けられます。
空き家の譲渡所得の特例 | 相続時から譲渡時まで空き家であった場合、一定の要件を満たせば譲渡益から3000万円の特別控除の適用が受けられます。 |
---|
空き家を対策するための制度で、令和5年12月31日までに譲渡した場合にのみ適用されます。
相続税以外にも登録免許税が発生する
実家を相続する場合、相続税以外にも登録免許税が発生するため注意しましょう。登録免許税は、相続登記をするときに発生します。
登録免許税は、以下のように計算しましょう。
登録免許税=固定資産評価額×0.4%
相続登記の申請書に収入印紙を貼付します。あるいは、収入印紙の代わりに金融機関で登録免許税を納付し、その領収書を貼付することも認められています。
正しい相続税を計算するために専門家の力を借りよう
相続税の非課税枠を超えた相続が発生する場合、税の専門家である税理士の力を借りましょう。とくに実家の評価額の計算は、専門知識がないと正しく計算することは難しいです。また、要件の多い特例や控除を利用する場合にも、正しく適用させなければあとからペナルティが発生するかもしれません。
相続税の申告期限は10か月と短いため、専門家に頼りながらスムーズに手続きを進めましょう。
おわりに
実家の相続が発生したら、以下の流れで手続きを進めましょう。
- 相続財産の調査
- 相続人の調査
- 遺産分割協議の実施
- 相続税の申告・納税
- 相続登記による名義変更
相続したあと、どのように実家を活用していくのかも含めて相続人と話し合うことをおすすめします。誰も住まない場合にも空き家として放置することのないよう、売却や賃貸などの活用方法を検討すべきです。
実家の相続にはさまざまな手続きや注意点がありますが、亡くなった人の大切な財産を大切に引き継ぎましょう。