二世帯住宅における相続手続きや相続税の考え方は、通常の不動産と違いは基本的にありません。二世帯住宅を相続する場合には、大きな節税につながる小規模宅地等の特例が使えるかどうかを確認すべきです。本記事では、二世帯住宅における小規模宅地等の特例の要件や注意点について詳しく解説します。すでに相続が発生している方はもちろん、将来発生する相続に備えたい方もぜひ参考にしてください。
二世帯住宅の相続税について
基本的に、二世帯住宅だからといって特別な相続手続きは必要なく、通常の土地・住宅と同様に相続手続きを進められます。
相続税については、税額を算出する際に必要な土地評価額を下げることのできる小規模宅地等の特例が使える可能性があります。ただし、適用させるには細かな要件を満たす必要があるため、注意しましょう。
そもそも、相続税は、二世帯住宅を含めた相続財産の総額が基礎控除額を超えたときにだけ発生します。相続財産総額が基礎控除額を超えないときには、相続税の申告も必要ありません。
相続税の基礎控除額は、下記の計算式で導きます。
- 相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が配偶者・長男・次男・長女の4人だった場合、基礎控除額を導き出す計算式は、下記の通りです。
- 相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×4人)=5400万円
このとき、次男・長女は別居で被相続人・配偶者・長男夫婦が住んでいた二世帯住宅と土地の評価額が6500万円だったと仮定すると、基礎控除額を超えているため相続税の申告・納税義務が発生します。他に相続財産がない場合には、6500万円から基礎控除額5400万円を差し引いた1100万円に対して課税されることとなります。
ただし、先に述べたように小規模宅地等の特例が適用できれば、大きな節税につながるかもしれません。二世帯住宅にお住まいの方は、小規模宅地等の特例の適用要件や注意点について詳しく理解しておくとよいでしょう。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすことで自宅のある敷地などの評価額を最大80%引き下げられる制度です。土地を相続する場合に活用すると、大きな税金削減効果が感じられます。
ここでは、小規模宅地等の特例について知っておきたい下記のポイントについて詳しく解説します。
- 小規模宅地等の特例の概要
- 小規模宅地等の特例の適用要件
- 小規模宅地等の特例の活用例
二世帯住宅の方の場合、要件に当てはまる可能性があるため、詳しくチェックしましょう。
小規模宅地等の特例の概要
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たす土地であれば、評価額を最大50〜80%引き下げられる制度です。相続・遺贈によって取得した宅地等について、居住用・事業用・賃貸用などの種類に応じて、一定要件を満たしていれば適用されます。
制度の目的は、高額な相続税を相続人が負担することで自宅を手放さなければならない事態を回避し、配偶者や同居家族などが自宅に住み続けられるようにすることです。
また、小規模宅地等の特例は、自宅に限らず被相続人が行っていた事業で使用していた土地や貸し出していた土地も対象となるため、家族による事業承継の負担も軽減されます。
下記のように、土地の種類によって上限面積や減額割合が定められています。
土地の種類 | 上限面積 | 限度割合 |
---|---|---|
・特定居住用宅地 亡くなった方が居住用にしていた宅地 | 330㎡ | 80% |
・特定事業用宅地※ 亡くなった方が事業用にしていた宅地 | 400㎡ | 80% |
・特定同族会社事業用宅地※ 特定同族会社の事業用にしていた宅地 | 400㎡ | 80% |
・貸付事業用宅地 亡くなった方が貸付事業用(不動産貸付)にしていた宅地 | 200㎡ | 50% |
※貸付事業をのぞく
このように、更地や別荘、畑などの土地には特例を適用させられません。
亡くなった方が住んでいた二世帯住宅であれば、特定居住用宅地に該当します。ただし、適用のためには細かな要件を満たす必要があります。
小規模宅地等の特例の適用要件
小規模宅地等の特例の適用要件は、土地の種類ごとに細かく定められています。ここでは、二世帯住宅が該当する特定居住用宅地に小規模宅地等の特例を適用させたいときに確認すべき要件について、詳しく解説します。
下記の条件ごとに詳しい要件を確認しましょう。
- 亡くなった方が住んでいた土地の場合の要件
- 亡くなった方と生計を一緒にしている親族が住んでいた土地の場合の要件
- 二世帯住宅の場合に注意すべき要件
順番に解説します。
亡くなった方が住んでいた土地の場合の要件
二世帯住宅の場合は、「亡くなった方が住んでいた土地」に該当するケースが多いのではないでしょうか。亡くなった方が住んでいた土地の場合、土地を取得する人が誰なのかによって定められている要件が異なります。
<1:亡くなった方の配偶者>
- 要件はなく、無条件で適用が受けられる
<2:亡くなった方と同居していた親族>
- 被相続人と同じ家に住んでいたこと
- 相続税の申告期限※までその家に住み、保有し続けること
<3:1・2以外の親族(家なき子)>
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 被相続人と同居している法定相続人がいないこと
- 相続開始前の3年間、宅地等を相続した親族本人やその配偶者・3親等以内の親族等が所有する国内の家屋に住んでいなかったこと
- 相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいる家屋を過去に所有していないこと
- 相続税の申告期限※までその宅地を保有し続けること
※被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月後
それぞれ、すべての要件を満たさなければ適用を受けることができません。
亡くなった方と生計を一緒にしている親族が住んでいた土地の場合の要件
亡くなった方と生計を一緒にしている親族が住んでいた土地の場合、下記の要件のいずれかを満たす必要があります。
- 亡くなった方の配偶者が取得すること
- 亡くなった方と生計を一緒にしている親族が取得し、相続税の申告期限※まで住み、保有し続けること
※被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月後
二世帯住宅の場合に注意すべき要件
二世帯住宅に小規模宅地等の特例を適用させるには、下記の要件に注意しましょう。
- 1つの建物に親子が住んでいること
- 建物の敷地の名義が亡くなった方で、子どもは親に家賃を払っていないこと
同じ敷地内に別棟を建てて、親世帯と子ども世帯が別の建物に住んでいる場合は同居とならないため原則適用されません。ただし、親と子どもが生計を同じとしている場合は、子居住部分の敷地が特例の適用対象となります。
一方、同じ建物内であれば完全分離型の二世帯住宅は原則特例の適用対象です。ただし、同じ建物に住んでいた場合でも、子どもが親に家賃を払っていると適用が受けられないため注意が必要です。
参照:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
小規模宅地等の特例の活用例
二世帯住宅を相続した場合の小規模宅地等の特例の活用例を見てみましょう。
二世帯住宅が建っている土地(320㎡)の評価額が6500万円だったとき、特例の適用なし・ありでは課税価格に下記のような違いがあります。
- 特例の適用なしの課税価格:6500万円
- 特例の適用ありの課税価格:1300万円【6500万円×(100%-80%)】
仮に、他の相続財産の総額が3000万円だったとしましょう。相続人が配偶者・長男・次男の3人だった場合、基礎控除額は4800万円です。
特例の適用なしであれば、課税価格は、6500万円+3000万円-基礎控除額4800万円=4700万円です。
一方、特例の適用ありであれば課税価格は、1300万円+3000万円-基礎控除額4800万円で0円を下回ります。つまり、相続税額は0円となり、大きな節税につながることがわかります。
二世帯住宅における小規模宅地等の特例の注意点
相続税の大きな節税効果をもたらす小規模宅地等の特例ですが、二世帯住宅だからといって必ずしも適用されるわけではありません。また、同居していた相続人以外にも相続人がいる場合には、トラブルに発展しやすいことも事実です。
ここでは、二世帯住宅で小規模宅地等の特例を活用する際の注意点について解説します。
- 区分所有の二世帯住宅には適用できない
- 適用には相続税申告書の提出が必要
- 相続税申告期限まで保有する必要がある
- 二世帯住宅の間取りは影響しないが別々の建物は適用外
- トラブルが発生しやすい
- 二次相続の際に相続税が高くなる可能性がある
詳しく確認していきましょう。
区分所有の二世帯住宅には適用できない
二世帯住宅で親世帯と子ども世帯が同じ建物に住んでいる場合でも、同居とみなされずに小規模宅地等の特例が適用されない場合があります。
特に、区分所有登記には注意が必要です。区分所有登記とは、1つの建物内に複数の部屋が区切られていて、独立して利用できる部屋の所有権を登記する制度です。
二世帯住宅であれば、1階部分は父親名義、2階部分は息子名義にしているケースは珍しくありません。この場合、息子名義にしている子ども世帯の居住用部分について、小規模宅地等の特例の適用ができません。
あくまでも適用の対象は親世帯の区分所有登記に対応する敷地のみとなります。また、2階に住んでいる子どもが相続する場合、親と同居していないとみなされるため要件から外れてしまい、土地のすべてが特例の対象から外れることとなるため注意しましょう。
ただし、区分所有登記をしているものの、親世帯側に配偶者と長女が住んでいるのであれば同居とみなされます。配偶者や長女が親世帯の区分所有登記に対応している敷地を相続する場合には、小規模宅地等の特例の対象となります。
適用には相続税申告書の提出が必要
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書を提出しなければなりません。
そもそも相続財産の総額が相続税の基礎控除額を上回っていなければ相続税の申告は不要です。しかし、特例を適用した結果、相続財産の総額が基礎控除額内におさまった場合には相続税申告書の提出が必要です。
期限までに提出しなければ特例の適用は受けられず、特例なしの評価額で相続税の課税額が算出されます。
相続財産の総額が相続税の基礎控除額を上回っているのであれば、相続税が発生しなくても相続税の申告を忘れないようにしましょう。
相続税申告期限まで保有する必要がある
二世帯住宅に一緒に住んでいる親の相続において、小規模宅地等の特例を適用させるには相続税の申告期限まで引き続き住み続け、保有し続ける必要があります。
つまり、親がいなくなって家が広くなったからといって賃貸物件として貸し出したり、売却したりすることができないため注意しましょう。
なお、亡くなった方の配偶者が二世帯住宅を相続する場合には「相続税の申告期限まで保有する」という要件はありません。あくまでも、配偶者以外の親族が取得した場合に設定されている要件です。
二世帯住宅の間取りは影響しないが別々の建物は適用外
二世帯住宅には、完全同居型や玄関や浴室などの一部を共有する部分共有型、玄関からキッチン、浴室などの住空間を完全に分ける完全分離型などがあります。
このように1つの建物であっても、二世帯住宅にはさまざまな間取りが存在します。「完全分離だけど同居とみなされるのか」と心配されるかもしれません。しかし、区分所有登記していない同じ建物に住んでいれば同居とみなされます。
一方、同じ敷地に住んでいたとしても建物が独立していると親子は別々に生活しているとみなされ、同居の条件に該当しないため注意しましょう。
トラブルが発生しやすい
別居している相続人がいる場合にトラブルに発展する可能性があります。
たとえば、長男夫婦が両親と二世帯住宅で同居しており、別居している次男がいたとしましょう。父親が亡くなると、二世帯住宅は母親・長男・次男の3人で遺産分割する財産の対象となります。
一次相続のときにはトラブルに発展しなかったとしても、母親が亡くなる二次相続で問題が表面化するケースは少なくありません。
相続人が長男・次男の2人きりで土地や建物以外の財産が残されていなかった場合、土地と建物の権利は同居・別居にかかわらず相続する権利は同等にあります。
しかし、現実には二世帯住宅に住んでいない次男が同居している長男に権利を渡す羽目になり、不満を抱いてしまうでしょう。長男が金銭で同等の金額を次男に支払うことができれば問題ありませんが、経済的な負担が大きく現実的ではありません。
共有名義にしたとしても、実際には次男が長男と同居することはなく、次男に利益はないといえます。もし、次男が長男に対して共有物分割の請求を行うと、土地や建物を売却して利益を等分しなければならず、長男は住居を失うことになりかねません。
このような兄弟姉妹におけるトラブルを避けるためにも、あらかじめ相続や生前対策に強い専門家へ相談することもおすすめします。家庭の事情や過去の事例を踏まえて、円滑な遺産分割ができるようアドバイスしてくれるでしょう。
二次相続の際に相続税が高くなる可能性がある
二次相続が発生した際に、相続税が多額にならないよう考慮して遺産分割を行いましょう。
子ども目線で見ると、相続は父親・母親がそれぞれ亡くなる2回発生します。2度目の相続である二次相続時には法定相続人の数が減っていて、基礎控除が減ってしまいます。
また、一次相続で適用できた配偶者控除も利用できません。そのため、二次相続のときのほうが納税金額が高まるケースがあります。
一次相続では大きな節税につながる配偶者控除があるため、二世帯住宅の取得を配偶者にしようと考える方は少なくありません。しかし、配偶者以外が小規模宅地等の特例を使って相続した方が、結果的に税負担が軽くなる場合があります。
もちろん特例の要件や相続人の状況などはさまざまです。そのため、どのように相続すると負担が軽くなるのか、早い段階で相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
二世帯住宅の相続時には小規模宅地等の特例を適用させよう
二世帯住宅で一緒に住んでいた親が亡くなったとき、相続する場合は小規模宅地等の特例を活用すると節税効果が高いため適用できるか検討しましょう。
小規模宅地等の特例の要件に該当すれば、土地の評価額を最大80%引き下げることができます。大きな節税につながるため、今後の生活における負担を軽減させられます。
ただし、二世帯住宅で同居している場合であっても、区分所有登記をしている場合や同じ敷地内で別の建物に住んでいる場合には「同居」とみなされないため注意が必要です。ほかにも特例を活用するためには要件があるため、正しい知識のもと相続税対策を行いましょう。
また、二世帯住宅の相続では他の相続人とのトラブル対策や二次相続まで考慮して遺産分割をすることが重要です。相続に強い弁護士や税理士などの専門家の知恵を借り、スムーズに相続手続きができるよう早めに準備を始めるようにしましょう。