NISA口座を相続すると相続税はかかる?相続時の手続きや注意点と合わせて解説

公開日:2024年12月24日

「NISA口座を相続したけどどうすればいい?」NISAの利用人数増加にともない、相続財産にNISAが含まれるケースも増えています。しかし、NISAの相続は他の株式などとは少し異なるため、手続き方法や注意点を押さえておくことが大切です。この記事では、NISA相続の手続きや注意点について、わかりやすく解説します。

NISA口座は相続が発生したらどうなる?

NISAとは、国による投資の税制優遇措置です。通常、株式などの投資は利益に対して約20%の税金が課せられますが、NISA口座で株式・投資信託を運用した場合の利益は一定額が非課税となります。平成26年にスタートし令和6年3月末時点で口座開設数は約2322万と、国民の約5人に1人が利用している制度です。

多くの人が利用する制度であるため、相続時に故人がNISA口座を保有しているケースは珍しくないでしょう。さらに今後も増えることが予測されるため、相続時の対応を押さえておくことが大切です。

なお、NISAには令和6年からの「新NISA」、令和5年までの「NISA」(一般NISA・つみたてNISA)、「ジュニアNISA」の種類がありますが、基本的にどのNISAであっても相続時の取り扱いは同じです。

NISA口座で保有している株式等は相続税の課税対象に

NISA口座で運用されている有価証券(株式や投資信託)は、通常の有価証券や現預金と同じように相続財産に含まれ、相続税の対象です。「NISAは非課税」と思っている方も多いですが、非課税となるのは運用利益に対する所得税・住民税であり、相続税は非課税とならないので注意しましょう。

ただし、NISA口座があるからと言って必ず相続税が発生するわけではありません。相続税は、被相続人(亡くなった人)の相続財産の合計額が基礎控除額を超えた場合に発生します。そのため、NISA口座の資産を含めた相続財産額が基礎控除額を超えると相続税が課税されるのです。反対に、NISA口座があっても相続財産合計額が基礎控除額に収まれば相続税は発生しません。

取得日は引き継がれない

有価証券を相続した場合、評価額は相続税の対象です。そして、相続後に売却して利益が出た場合、利益は所得税・住民税の対象となります。

「売却の利益」とは、大まかに言えば、売却時の価格から取得日の価格(取得価額)を差し引いたときに出るプラス部分です。しかし、NISA口座とその他の有価証券の相続では「取得日」と「取得価額」が異なる点には注意しましょう。

通常、有価証券を相続した場合、取得日と取得価額は被相続人の取得日・取得価額を引き継ぎます。一方、NISA口座の有価証券は、被相続人が亡くなった人とその日の終値が引き継がれるのです。

たとえば、次のケースでみてみましょう。

  • 被相続人が取得した価格:100万円
  • 相続発生時の終値:200万円
  • 相続人が売却した時の価格:300万円

NISA以外の有価証券の場合、取得価額は100万円であり売却の利益は300万円-100万円=200万円となります。それに対し、NISA口座の有価証券は、取得価額が200万円となり、売却の利益は300万円-200万円=100万円となるのです。

このように、取得日と取得価額の捉え方が異なるので、売却時の利益計算は慎重に行う必要があります。

相続税の評価方法は他の株式と同様

有価証券を相続する場合は、有価証券の評価額で相続財産としてカウントされます。有価証券の評価方法はNISAも通常の有価証券も変わらず、以下の方法で求めます。

<上場株式>

以下の4つの評価額の中で一番低い価格

  • 相続発生日の終値
  • 相続発生日の属する月の毎日の終値の月平均額
  • 相続発生日の属する月の前月の毎日の終値の月平均額
  • 相続発生日の属する月の前々月の毎日の終値の月平均額

※相続発生日が取引所の休日の場合はその前後でもっとも近い日となり、もっとも近い日が2日ある場合はその平均値

<投資信託(一般投資信託)>

  • 1口あたりの基準価格×口数+源泉徴収税額-信託財産留保額および解約手数料

<投資信託(日々決算型)>

  • 1口あたりの基準価格×口数+再投資されていない未収分配金-信託財産留保額および解約手数料

上場株式は短期間で価格が大きく変動するので、上記のような評価方法を用いています。評価方法が複雑になりがちなので、不安な場合は専門家に相談するとよいでしょう。

「株式の相続」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続発生時点での含み益は非課税になる

含み益とは、今の価格のうち取得価額を上回っている部分(利益が出ている部分)のことです。実際は、まだ現金化していないため未確定の利益となります。

NISA口座の資産については、相続発生時点までの含み益は非課税という特徴があります。NISAは運用利益や配当金が非課税になる制度ですが、非課税は被相続人が死亡するまで続きます。そのため、相続発生時点までの含み益は非課税となるのです。

たとえば、以下のケースでみてみましょう。

  • 被相続人の取得価額:150万円
  • 相続発生時の価格:200万円
  • 時価:230万円

仮に、NISAではない有価証券を相続時に売却すると200万円-150万円=50万円に対して税金がかせられます。一方、NISA口座は相続発生時点の含み益は課税されないため、この時点で売却しても利益に対しての課税はありません。

ただし、相続発生後に値上がりした場合の含み益は税金の対象です。そのため、230万円で売却した場合230万円-200万円=30万円に税金がかせられます。

また、NISAは相続時の取得価額で計算するため、含み損が出た場合には注意が必要です。

  • 被相続人の取得価額:200万円
  • 相続発生時の価格:100万円
  • 時価:200万円

この場合、通常の有価証券であれば、相続時に売却しても損失が出ているので税金はかかりません。さらに、時価で売却した場合でも200万円-200万円=0円なので税金は課税されません。

しかし、NISAの場合、時価で売却すると200万円-100万円=100万円の利益がでてしまい、税金の対象です。このように時価と被相続人の取得価額が同じでも、相続時点の価格によっては税金が発生する恐れがあるので注意しましょう。

NISA口座の相続で必要な手続き

NISA口座の相続で必要な手続きのイメージ

NISA口座は被相続人から相続人にそのまま引き継ぐことはできません。被相続人のNISA口座から相続人の口座に引き継ぐという形になるので、手順を押さえておくようにしましょう。

大まかな手続きの流れは以下のとおりです。

  • 非課税口座開設者死亡届出書の提出
  • 相続上場株式等移管依頼書の提出

非課税口座開設者死亡届出書の提出

まずは、NISA口座のある金融機関に被相続人が亡くなったことを連絡し、非課税口座開設者死亡届出書を提出します。非課税口座開設死亡届出書は連絡後に金融機関から送付されるか窓口で取得できるのが一般的です。

非課税口座開設者死亡届出書提出時には、以下のような書類も必要です。

  • 被相続人の死亡を確認できる戸籍謄本
  • 法定相続人を確認できる戸籍謄本
  • 相続人の印鑑証明書
  • 本人確認書類

必要書類は金融機関によって異なります。遺言書や遺産分割協議書が必要なケースもあるので、金融機関に確認して揃えるようにしましょう。また、金融機関への連絡時には、評価額の計算のために有価証券の残高証明書を請求し、評価額などを確認します。

相続上場株式等移管依頼書の提出

NISA口座の資産を相続する人を決めたら、相続人の口座に移管する相続手続きを行います。移管手続きは「相続上場株式等移管依頼書」と添付書類を提出して行います。

主な添付書類は以下のとおりです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺言書や遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書

必要書類は事前に金融機関に確認するようにしましょう。

また、移管先は被相続人のNISA口座のある金融機関で、さらに相続人の特定口座または一般口座となります。

  • 一般口座:自分で利益の計算と確定申告が必要な口座
  • 特定口座(源泉徴収あり):金融機関が計算・源泉徴収し確定申告不要な口座
  • 特定口座(前線徴収なし):金融機関の計算をもとに確定申告が必要な口座

別の金融機関や同じ金融機関であっても相続人のNISA口座には移管できないので、口座がない場合は事前に用意しておくようにしましょう。

NISA口座の相続で知っておきたいこと・注意点

NISA口座を相続する際には、以下の点を押さえておくようにしましょう。

  • 相続人のNISA口座に移すことは出来ない
  • 故人のNISA口座と同じ金融機関に口座を持っておかないといけない
  • 相続に強い専門家に相談する

相続人のNISA口座に移すことは出来ない

NISAの非課税措置は被相続人の死亡時点で終了し、相続後は通常の有価証券と同様の扱いになります。相続人であってもNISA資産として受け取れないため、直接相続人のNISA口座に移管することは出来ないのです。これは、仮に被相続人と相続人が同じ金融機関でNISA口座を所有していた場合でも同様です。

故人のNISA口座と同じ金融機関に口座を持っておかないといけない

前述のとおり、被相続人のNISA口座の資産は同じ金融機関の口座でなければ移管できません。そのため、相続人は同一の金融機関に口座を持っていない場合、新たに口座の開設が必要です。

特定口座・一般口座の開設は必要書類も多く・時間がかかるケースもあります。口座を所有していない場合は、早めに手続きを進めるようにしましょう。

相続に強い専門家に相談する

口座を含め有価証券は評価額の計算が複雑になり、売却のタイミングによっては所得税や住民税が発生する可能性があります。売却金で相続税の支払いを検討している場合も、相続後10か月以内の売却が必要になってくるので早めに金融機関などに手続きする必要があります。

有価証券がある相続は手続きが複雑になり課税の恐れもあるので、専門家に相談して慎重に手続きを進めることをおすすめします。

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NISA口座の相続は専門家に相談を

被相続人がNISA口座で資産を保有している場合、NISA口座も相続税の対象となります。しかし、NISA口座だけで相続税の課税は判断できないため、有価証券を正しく評価し他の資産との合計を算出する必要があります。また、NISA口座の資産は通常の有価証券と取得日や取得価額の考えが異なり、相続手続きも複雑になる恐れがあるので、不安な方は専門家に相談するとよいでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年12月24日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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