「相続税の申告期限はいつだろう」「期限を過ぎたらどうなるのだろう」とお悩みではありませんか。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。意外と短い期間にさまざまな手続きを終えなければなりません。本記事では、相続税の申告期限や期限延長ができるケースについて詳しく解説します。
目次
相続税の申告期限。いつどこに申告・納付する?
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。納付期限も申告期限と同じ日です。
相続税が発生する場合に知っておくべきポイントについて、下記の順番に確認しましょう。
- 相続税の申告期限
- 相続税の申告先
- 納付期限も申告期限と同様
詳しく解説します。
相続税の申告期限
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。家族や身近な親族であれば、通常は被相続人の死亡の日を「被相続人が死亡したことを知った日」と考えます。
たとえば、令和6年2月10日に被相続人が死亡して相続人が看取っていたのであれば、被相続人が死亡したことを知った日は令和6年2月10日です。このときの相続税の申告期限は、令和6年12月11日となります。
ただし、疎遠な関係や遠方のお住まいなどの理由で、被相続人が死亡した知らせを受けることが遅くなる場合もあるでしょう。令和6年2月10日に被相続人が死亡したとしても、海外に住んでいたなどの理由で知らせを受けた日が令和6年2月19日となったというケースもありえます。
このとき、起算日は通常は被相続人の死亡日ではなく、知らせを受けた日の翌日である令和6年2月20日となり、相続税の申告期限は令和6年12月20日です。
万が一、期限日が土日祝に該当する場合は、これらの日の次の平日が期限日となります。
そもそも、被相続人が死亡したことを知った日は「相続開始日」とも呼ばれます。相続開始日は「自分自身に相続があったことを知った日」であるため、一概に「被相続人が死亡したことを知った日」と同日ではありません。
被相続人に息子がいれば相続人は息子であると考えることが一般的です。しかし、息子が相続放棄した場合、その事実を知らない限り被相続人の両親や兄弟姉妹らは自分が相続人であることを認識できません。
順位の高い相続人が相続放棄をした場合には、「相続開始日」が「被相続人の死亡日」や「被相続人が死亡したことを知った日」とは異なる点に注意しましょう。
「相続開始日」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続税の申告先
相続税の申告先は、被相続人が死亡したときにおける住所地が日本国内である場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。相続人や受遺者など、財産を取得した方の住所地を所轄する税務署ではないため注意してください。
被相続人が海外に在住していた場合は、相続人の住所地によって下記のように異なります。
- 日本に住所地がある相続人の場合:相続人の住所地を管轄する税務署
- 日本に住所地がない相続人の場合:自ら納税地を定めて税務署を決める
日本に住所地がない相続人の場合であっても、ほかの相続人が日本を住所地としているのであれば、同様の税務署へ納税することが一般的です。
相続税の納付期限も申告期限と同様
相続税の納付も申告期限までにしなければなりません。税務署の窓口だけでなく、下記のような方法でも納付手続きができます。
- 電子納税
- クレジットカード納付
- 金融機関窓口での納付
ご自身に合う方法で期限内に納税を済ませましょう。
「相続税が払えないときの対処法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続税の申告期限は延長可能?
相続税の申告期限を延長することは、原則できません。ただし、特殊な事由がある場合に限って、税務署へ延長の申請をすれば2か月の範囲内で申告期限を延長できます。
申告期限を延長したい場合に知っておきたいポイントについて、下記の順番に確認しましょう。
- 申告期限の延長が認められる可能性があるケース
- 申告期限延長の申請方法
詳しく解説します。
申告期限の延長が認められる可能性があるケース
下記のような特殊な事由がある場合に限って、税務署へ延長の申請をすれば2か月の範囲内で申告期限を延長できる可能性があります。
- 遺贈にかかわる遺言書が新たに発見されたときや遺贈放棄があったとき
- すでに生まれたとみなされる胎児が生まれたとき
- 相続人の認知・排除によって相続人の数に変化があったとき
- 災害その他やむを得ない理由があるとき
「災害その他やむを得ない理由があるとき」とは、近年では下記のようなケースが挙げられます。
- 平成30年「豪雨における国税の申告期限等の延長」
- 令和2年「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長」
- 令和6年「能登半島地震による申告・納付期限延長」
通常、延長を申し出る際には申請書が必要です。しかし、被害の大きさを鑑みて自動延長されるケースもあります。近年では能登半島地震の被害が大きかったことから、被相続人の最後の住所地が石川県と富山県であった場合、手続き不要で相続税の申告・納付期限が自動で延長されました。
このように、特殊な事由が税務署で認められて2か月の範囲内で申告期限が延長された場合、迅速にそれぞれの相続人が納める相続税の金額を計算し直し、すみやかな申告・納付が求められます。
相続税に強い税理士に相談し、期限の延期や申告書の作成をサポートしてもらいましょう。
申告期限延長の申請方法
相続税の申告期限の延長を申請するには、申告者が管轄の税務署に対して「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出します。税務署の窓口に直接提出しても、e-Taxを利用して提出しても、どちらの提出方法でも可能です。
申請書の提出期限は、やむを得ない理由がやんだ後相当の期間内と定められています。つまり、本来の相続税申告期限を過ぎたあとでもよく、手続きができるようになってから早めに申請すれば問題ありません。
参照:C1-15、H1-16 災害による申告、納付等の期限延長申請|国税庁
相続税の申告期限に関して知っておきたいこと
相続税の申告期限に関して知っておきたいことについて、下記のようなQ&A形式で解説します。
- 相続税が払えないとどうなる?
- 税理士に依頼した方がいい?
- トラブルなどで遺産分割がまとまらない場合の対処法は?
順番に確認しましょう。
相続税が払えないとどうなる?
期限までに相続税の全額が払えないと、下記のような加算税や延滞税などのペナルティが課される恐れがあります。
税金の種類 | 内容 |
---|---|
無申告課税 | 正当な理由なしに期限内の申告をしなかった場合に課される |
過少申告課税 | 期限内に申告をしていた場合でも、自覚なしに本来の相続税額よりも少なく申告していた場合に課される |
重加算税 | 自覚がありながらも、虚偽の申告・遺産の隠ぺいをおこなった場合に課される |
延滞税 | 期限内に納税を行わなかった場合に課される |
上記のペナルティが課されると本来の相続税の金額よりも多くの税金を納めなければならず、かえって経済的負担が大きくなってしまいます。
相続税を納付しないまま滞納を続けると、国税庁から財産が差し押さえられる事態を招くことも否定できません。原則、不動産が差し押さえられますが、場合によっては動産も差し押さえられて競売にかけられてしまいます。
また、相続税には連帯納付義務があるため、同じ相続によって遺産を引き継いだ相続人や受遺者全員に対して相続税を納める義務が生じます。1人でも滞納する納税義務者がいると、他の人が立て替えなければなりません。
このような事態を招かないよう、相続税を期限内に支払えないときは早めに対処するようにしましょう。
「相続税が払えないときの対処法」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
税理士に依頼した方がいい?
相続税の申告が必要な場合、基本的には税理士への依頼をおすすめします。なぜなら、相続税が発生する時点で相続財産が膨大であり、細かな計算が多く発生するからです。
相続税の申告期限は10か月と短いため、スムーズに財産評価や税額計算をしなければなりません。税理士がサポートしていない申告書にはミスが発生しやすく、税務調査の対象になりやすいとされています。そのため、時間的な余裕がある場合や相続人が1人で税計算が単純な場合以外は、税理士に依頼するようにしましょう。
また、控除や特例を活用することで節税につながるケースも多くあります。適切な節税対策をおこなうためにも、税の専門家である税理士のサポートを受けることをおすすめします。
「相続税と税理士」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
トラブルなどで遺産分割がまとまらない場合の対処法は?
遺産分割がまとまらないことを理由に、相続税の申告・納付の期限が延長されることはありません。
そのため、遺産分割が成立していないときは、法定相続分通りに遺産分割を行ったと仮定して申告・納税をする未分割申告を行います。
未分割申告をしたあと、正式に遺産分割が成立してから実際に分割した財産の額に応じて修正申告や更正の請求ができます。
修正申告とは、未分割申告で申告した税額よりも実際の分割によって税額が多くなる場合に行う申告です。改めて不足している相続税を納めることとなります。
一方、更正の請求とは、未分割申告で申告した税額よりも実際の分割によって税額が少なくなる場合に行う請求です。払い過ぎていた分を返還してもらうことが可能です。更正の請求は、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内に行わなければなりません。
トラブルによって遺産分割がまとまらないときに活用される未分割申告ですが、下記のようなデメリットがあるため注意しましょう。
- 配偶者の税額軽減が適用できなくなる
- 小規模宅地等の特例で宅地の評価減ができなくなる
- 農地等の納税猶予が適用できなくなる
- 非上場株式等の納税猶予・免除が適用できなくなる
- 相続した財産での物納ができなくなる
ただし、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は「申告期限後3年以内の分割見込書」を未分割申告時に提出したうえで、本来の申告期限から3年以内に遺産分割できれば適用が認められます。
申告期限後3年以内の分割見込書には、分割されていない理由や分割の見込みの詳細、適用を受けたい特例などについて記載します。
未分割申告を検討している際は、適切な対応ができるようにあらかじめ税理士に相談するようにしましょう。また、早期にトラブルが解決できるよう、相続に強い弁護士に相談することもおすすめします。
相続税申告以外にも押さえておきたい手続きの期限
相続が発生した場合、相続税の申告・納付以外にも重要な手続き期限があります。事前に知っておきたい相続に関連する手続きの期限は、下記の通りです。
手続き内容 | 期限 |
---|---|
相続放棄・限定承認 | 相続開始から3か月間以内 |
準確定申告 | 亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内 |
相続登記 | 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内 |
手続きの内容と期限について詳しく確認しましょう。
相続放棄・限定承認
相続が発生したら、まず相続人は相続方法を決めなければなりません。
相続方法は、下記の通り3つあります。
- 単純承認
- 相続放棄
- 限定承認
単純承認とは、通常の相続のことで、被相続人の遺産についてプラス・マイナス問わずに無条件に相続することです。単純承認を選ぶ場合、特別な手続きは必要ありません。
一方、相続放棄とは、プラスの遺産もマイナスの遺産もすべての財産を引き継がないことです。相続放棄をすると、もとから相続人ではなかったとみなされます。
また、限定承認とは、プラスの財産の範囲でマイナス財産を相続することです。
相続放棄や限定承認をするには、相続開始から3か月間の熟慮期間に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。ただし、財産調査のために時間が必要な場合には熟慮期間の伸長が認められる場合があります。
熟慮期間内に相続放棄や限定承認の手続きをしなかった場合や、熟慮期間であっても遺産を処分する行為があった場合などには、単純承認をしたとみなされるため注意しましょう。
「相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
準確定申告
準確定申告とは、本来被相続人がしなければならなかった確定申告を相続人が代理で行う手続きです。申告期限は、原則亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内と定められています。
ただし、準確定申告は、相続が発生したからといって必ずしも行わなければならない手続きではありません。通常の確定申告と同様に、事業所得があった方や2000万円以上の給与所得があった方、不動産売却によって譲渡所得を得た方などが対象です。
準確定申告が必要かどうかがわからない場合は、税理士に確認することをおすすめします。
「準確定申告」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続登記
相続登記とは、相続によって引き継いだ土地や建物などの不動産の名義を変更する手続きです。以前までは任意だった相続登記ですが、令和6年4月1日から相続登記の義務化が始まりました。
相続登記の期限は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内です。正当な理由なく、相続登記の手続きをしなかった場合には10万円以下の過料の対象となる恐れがあるため注意しましょう。
期限を見ると猶予があるように思いますが、相続登記をしないままだと不動産の売却や担保融資ができない、利権関係が複雑化するなどのリスクが発生します。
期限にかかわらず、早めに相続登記の手続きを完了させましょう。
「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続税の申告期限・納付期限は意外と早い
相続税の申告期限・納付期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限までに財産調査・評価や遺産分割、税計算などを終えなければならず、短い期間でやらなければならない作業がたくさんあります。
期限に余裕を持って相続税の申告・納付をするためには、早期から準備を始めることが重要です。早めに遺産の内容を確認し、遺産分割協議を行う必要があります。
また、正しい申告をするためにも税理士のサポートは欠かせません。控除・特例を活用すれば、大きな節税につながるケースもあります。
少しでも相続税に対して不安がある場合は、相続税に強い税理士に相談して負担を少しでも減らしましょう。